日時:平成24年12月12日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「障がい者が、働くことを成功するために大切なこととは?」
講師:星野 恵美子 (新潟医療福祉大学 社会福祉学科)
【講演要旨】
1 なぜ、就労支援なのか=働くことの意味とは
一定の年齢になれば障害の有無にかかわらず「自分の力で働く」ことが大切です。障がい者にとっては働くことは、リハビリテーションの最終目的であると同時に経済的な自立を助けます。また、自分自身が価値があり必要な存在だと認められ、自尊心の向上や社会的な孤立感を防ぐ基礎ともなります。
2 障害者就労の現状(全国、新潟県)
日本では、事業主に一定の割合で障害者を雇用することが義務づけられています(障害者の法定雇用率)。障害者就労の現状を現すこの雇用率は、法定雇用率1.8%のところ、全国平均1.69%で、新潟県1.59%で全国41位であり、不十分な状況であり、障害者就労の改善が必要です。企業規模別の雇用率では従業員数が1000人以上の大企業は1.9%と雇用率を満たしています。企業規模が大きいほど障害者雇用率は高い傾向にあります。それは大企業では仕事が多様で、障がい者の働くための仕事を算出しやすいことと、障害者雇用納付金(1人当たり5万円/月)の負担が大きいため、障害者雇用に積極的になると考えられます。
3 働く現状、どんな仕事に、従業員の姿
仕事のマッチングが障害者雇用では、重要です。障害別の仕事の実際としては以下の通りです。
・身体障害=事務的な作業。移動が多い営業職や大工、庭師等の外作業は負担が大。
・精神障害=特に制限なし、通院時間を確保する。負荷が高まらないように配慮する
・発達障害=手順や業務内容を視覚化する等の環境設定が重要。
・知的障害=清掃、管理業務補助、継続する作業等、いったん覚えるときちんと正確にこなせて信頼度が高い。
仕事とのマッチングは大切ですが、これが障害者用の仕事というものはありません。業務と環境の改善と適切な配慮と人間関係を良くしていくことが必要です。星野ゼミでは、新潟市とともに、障害者雇用企業を訪問しインタビューを行いました。訪問企業~パワーズフジミ、大谷印章、コジマ電気、間食品、DeNA等 事業主側の理解と障害特性への配慮や工夫がなされており、障害を持つ従業員の方々が生き生きと働いておられたことが印象的でした。
4 視覚障がい者の就労状況(実際の就職事例から)
ハローワーク新潟の今野統括指導官のとりまとめた平成19年ごろの3年間の鍼・灸・マッサージは除く就職事例です。21例の状況からは、三療職以外でも非常にバラエティーが多くの職種で就労されている。中でも事務職が電話交換も含めると10名と5割近い。そのほか調理や看護等の補助業務や、製造業務等幅広い就労状況です。また、障害程度も幅広く2級の方もおられます。このあたりは、支援機関としてのハローワークの努力も大きいと思われます。
5 働くために大切なことは何でしょう? 社会生活力です。
社会性活力とは? 人間関係力(挨拶、言葉使い、報告)や生活をコントロールする力=朝起床し、3食を食べて、健康に配慮して、元気よく毎日通える体力、勤務時間5時まで毎日働けることや金銭管理をする力等です。これは、自分の生活の基礎をつくり、日々社会参加しながら自分らしく生きるためにとても大切です。買い物、掃除や安全な生活や男女交際、コミュニケーション、人間関係などは、誰でも生きていくために必要な当たり前のことですが、社会参加や仕事をするうえでの基本的なことで、生活しながら体験的に身に付けていくことです。就職がすぐできなくて何回もチャレンジすることは、障害の有無にかかわらず、大変なことです。大きな心の試練にもなります。
このような時、懸命に努力する力は、小さい時の親子関係やしっかりと愛された実感が土台となって育まれてまいります。人への信頼感や安心感が大切なベースとなります。
6 就労支援の法制度 「障害者の雇用の促進等に関する法律」
障害者雇用促進と職業の安定を図るため、①障害者雇用率制度、②障害者雇用納付金制度、③職業リハビリテーションの推進等が定められています。 障害者の雇用の推進機関としては、以下の3機関があります。
1)ハローワーク:公共職業安定所:求職登録の上、職業紹介や職業相談等。
事業主へ障害者求人の相談や指導、各種助成金の紹介等を行います
2)地域障害者職業センター:職業評価、職業指導、職業準備訓練及び職場適応援助等、雇用管理上の専門的な助言を行います
3)障害者就業・生活支援センター:障害者の職業的自立のため、地域で就職面と生活面の支援を一体的に行います。
このような専門機関を活用すると、良いでしょう。
【略歴】
新潟医療福祉大学 社会福祉学科
新潟県の福祉専門職として児童相談所等の各種の相談機関や障がい者の支援施設病院等に勤める。
2005年から現職で社会福祉士の育成にあたる。
現在、社会福祉を学ぶ星野ゼミの学生たちと、新潟市の方とともに、障がい者雇用企業に訪問して、働く人たちの声や社長達の思いをインタビューを行い、学びを深めている。
【後記】
今回は、障がいを持つ方の就労について勉強しました。
ある視覚障がいの方は、リハビリの目標の一つに働いて税金を納めることといったのを覚えています。その時、税金が高いと文句を言っていた自分を恥じました。「働くこと、税金を納めることは国民の義務」 ともすると権利ばかり主張していて、義務を顧みない自分に気づかされました。
でも障害を持つ方が就職するのは現実的には如何なんでしょうか?障がい者の方から、「障がいを持つ者にとって、結婚と就職は同じくらい大事で難しいことなんです」といことをお聞きしたことがあります。今回のお話を拝聴しても、そんなに簡単でないこと判りました。
でもこのような実態を知ることから解決の第一歩が始まるのだと思います。福祉の根本を例えて、以下の様なエピソードがあります。高いところにあるものを取れない人がいた時、取ってあげるのではなく、足の踏み台を出してあげること。。やってあげるのではなく、やることをお手伝いする。人の尊厳を尊重しつつ、如何にその人らしく暮らせるようにするかを考える。そんなことを考えながら、今回のお話を拝聴しました。
星野先生の益々の活躍を期待したいと思います。