報告『新潟ロービジョン研究会2012』 (4)基調講演2「明日へつながる告知」

この記事は、2012年6月24日配信。

 基調講演2「明日へつながる告知」では、小児科医で福岡市立肢体不自由児通園施設あゆみ学園園長の小川弓子先生による告知とは何か、事実を受け入れ、かつ、病や障害と折り合いながら生きるための告知とはどういうものか、どうすればよい告知になるのかを、ダウン症患者アンケートや福岡市における障害告知の状況を示しながら、小川先生ご自身の経験も交えてご講演いただきました。 講演要旨と参加者から寄せられた感想を記します。

 基調講演2   座長:張替 涼子 (新潟大学)
  演題:「明日へつながる告知」
  講師:小川 弓子 (小児科医;福岡市立肢体不自由児施設あゆみ学園 園長)

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【講演要旨】

1)はじめに

 病名または障害名の告知は、患者にとっても医師にとっても、辛いものである。そもそも疾患や障害には、1)苦痛や経済、社会的不利益 2)将来像の変更と未知の今後への不安 3)潜在する偏見や拒否感などが内在し、告知はその現実に向き合わせる事でもある。告知アンケート調査などでも「とても絶望させられた」「受け入れられない」など悲観的な感想が並ぶ。また、重大な説明も充分に時間がかけられず行われている事実もある。この状況の中で半数以上の患者が告知に対する不満をもっている。しかし、その不満の大部分は配慮不足、説明不足、差別的態度等であり、私たち医療従事者の伝え方を振り返ってみる必要がある。一方、気持ちが立ち直るきっかけをみると、親の会を含む当事者同士の支え合いが大部分をしめる。こういった事実から、明日につながる告知とは、単に病状や障害の現状の理解をすすめるだけでなく、寄り添う気持ちや福祉情報など幅広い視点が必要と思われる。

2)福岡市の取り組み

 福岡市では小児神経科、新生児科、保健福祉センターなどとのネットワークの元に、療育センターで最終的な障害の認定、療育の提供、家族支援を実施。小児科医と臨床心理士、ケースワーカーなど多職種のカンファレンスのもとに障害告知を行っている。そこでは、家族の精神的不安やサポート体制などに考慮しながら説明し、あわせて患者の会をはじめとする情報提供を実施している。また、より正確な告知によって適切な教育への選択につなげるために、障害児施設の巡回小児科診察会を実施している。そこで私が心がけていることは、①診断を伝える際にはなるべくご家族で来ていただく②家庭環境や精神的状況を把握しておく③伝える場面ではわかりやすい説明につとめ根拠となる検査も示す④診断が確定していない場合でも、考えられる可能性を伝える⑤一度で多くを伝えるのではなく、困難な場合には数回に分けて伝える⑥今後に向けての実際的な情報(合併症や起こうるトラブル、当事者や親の会などの情報)もあわせて伝える⑥本人、家族の心情にも心を配る事などである。患者の立場からも、「的確に伝えて欲しい」「将来の見通しや具体的情報が欲しい」との要望もあり、これらは医師の役割と考えている。

3)伝えたいメッセージ

 私自身22年前、息子が3歳の時に視力障害の事実を病院で告知された。そのときは家族の今後の生活、息子の将来への不安、悲しみなど様々な感情が入り交じり、涙をこらえることができなかった。視界不良のまま運転し、息子を助手席に載せたまま、追突事故を起こしてしまった。告知のもたらす衝撃は覚悟してはいたものの、想像以上に大きかった。しかし、その後訓練を開始し、支えてくれる人、優しい人、困難を乗り越えた人々と多くの出会いがあり、人生を豊かにする歌や書籍があった。告知が新たな人生の扉を開けたのだと思う。そういった経験をした一人の人間として、かつ一人の専門的な職業の人間として、また目の前にいる人の困難な局面に、偶然にも出会った人として、伝えたいメッセージを添えるようにしている。それは、「病気や障害があっても、そこに一つの人生があり、意味がある。今の一つ一つの積み重ねは、次につながっていき、困難に応じた成長がある。そして決して一人ではないということ、新たな出会いがきっとあるということ」である。これは、私が一人の視覚障害児を育てた中で経験した事柄でもあり、現在の仕事を通じて、当初弱々しく立ち直れるか心配された保護者が、時間を重ね逞しく幅広い価値観をもった親へと変化していくことを目の当たりにしている実感から得たものでもある。そして、告知をスタートに、この困難を越えていってくれることを心から願っている。

4)最後に

 私が勤務しているあゆみ学園では、ご家族に向けて少しでも心の支えとなるものを発信したいと思い、心温まるエピソードや励まされる歌詞や文章を綴り、「ゆいゆい(結い結い)メッセージ」としてお届けしている。その中から私が強く感銘を受け、利用者に紹介している二つの詩をご紹介したい。

 「サフラン~悲しみの意味  冬があり夏があり、昼と夜があり、晴れた日と雨の日があって一つの花が咲くように 悲しみも苦しみもあって私がわたしになっていく ―星野 富弘―」

 「つよさ  つよいってことはまけないことじゃない つよいってことはなかないことじゃない つよいってことはまけてもあきらめないこと つよいってことはないてもまたわらえること ―濵津 息吹-」

 「告知」は診断や症状、今後の見通しなどの情報の伝達である。そこから一歩進んだ「明日につながる告知」とは、「目前の人が現実を直視し、新たな夢や希望を紡ぎ、着実な明日への一歩を刻んでいってくれることを心から願う気持ち」から自ずと生まれるものかもしれない。

 

【略歴】

 1983年 島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
      九州大学病院 小児科勤務
 1984年 福岡市立こども病院勤務
 1985年 東国東地域広域国保総合病院 小児科勤務
 1986年 福岡市立子ども病院勤務
 1987年 長男(視覚障害児)出産を機に育児・療育に専念
 1994年 福岡市立心身障害福祉センター 小児科に復職
 2002年 福岡市立肢体不自由児通園施設あゆみ学園 園長就任

児童精神神経学会認定医、小児科医会認定「こどものこころの相談医」、福岡市児童発達支援センター指導医、福岡市就学相談委員、福岡市特別支援教育サポーター委員、特別支援教育放課後対策支援事業相談委員

 

【参加者からの感想】到着順
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(眼科医;大学勤務、東京)
 感動して思わず涙が出そうであった。眼科医が涙してては仕方ないものの、告知の方法の基調講演としてこれほど適切なものはないでしょう。

 (当事者;自営業、新潟県)
 小川先生の講演は、先生ご自身も障害児の親という社会的な体験をされたことで、施設で子供さんとのかかわりだけではない、親の心情も分かち合うかかわりを大切にして、お仕事をされていることが印象的でした。哲学者ディルタイの言葉通り、障害児施設の施設長というお仕事は、小川先生の天職なのだろうと思いました。そして、かつて障害児の母として何度も泣いたであろう我が母に、たまには優しくしようと思いました。

 (当事者;会社経営、千葉県)
 今回の研究会では、小川先生のお話が最も印象に残りました。「告知」という難しいテーマに対しても、やはり実際の経験・体験から生まれる小川先生の言葉には、深く感銘を受けました。一人の患者として、小川先生のような先生に巡り合えたら、きっともっと幸せを感じることができるような気がしました。

 (教育者;大学勤務、関東)
 告知の問題は,視覚障害に限らず,医療従事者にとって大変重い課題であることがよく理解できました。医療機関によっては「3時間待ちの3分間診療」にならざるを得ない中,丁寧な説明とフォローをされている先生方もいらっしゃるんですね。小川先生の考え方・取り組みに感動しました。

(薬品メーカー、新潟市)
 生まれてきておめでとう!という言葉・写真に対し、涙をこらえるのに必死でした。小川先生のお子さんの告知を受けた後で交通事故を引き起こしてしまったということに対して想像もできないほどつらい思いをされていたのだと思うと居た堪れません。受容するのに時間を有すると聞きましたが、人間は一人ではない、必ずどこかに仲間がいると思うと楽になれるような気がします。

(薬品メーカー、新潟市)
 アンケートで「告知に不満を感じた」と回答した方が過半数を超えていることに驚きと告知をする難しさを感じました。告知を受けると、患者様・家族の方・治療者様に「偏見」「拒否感」が出てしまうと仰っていましたが、立ち直ったきっかけの一番多いことが「同じ障害を持つ親」と知った時は、人のつながりが大事だと感じました。治療者様側は告知の環境も大事ですが、告知後の「情報」をしっかり伝えることが大事であり、患者様側は時間はかかるかもしれませんが、しっかりと受け止めることが大事であると私は思いました。

(当事者、長野県)
 小川先生はご子息のことや現在の活動を紹介しながらお話してくださったので、とても説得力がありました。告知については、先生方が大きな問題として捉え、苦悩されていることが伝わり、患者の一人として嬉しく思いました。

(眼科医;病院勤務、東北)
 どの科に限らず、病気があり、診断をされることは重いことなのだとよくわかりました。特に自分の病気ではなく、子供の病気となると受け入れまで10倍は時間のかかることだと思います。答えはない問題だとは思いますが、その分医療者側も口に出す前に十分検討しないといけないと思いました。

(当事者;自営業、新潟県)
 告知というと「がん告知」に代表されるように、患者さんご本人に対しての告知が、告知を考える上でスタンダードであると思いますが、今回は障害を持って生まれてきた子供が対象であるため、本人にではなく親に対しての告知を前提に告知の問題を考えています。特筆すべきは小川先生ご自身も、視覚障害児の母親として告知される側を経験されていることです。なので医師という立場で告知の問題を語られてはいますが、告知される母親の心情を誰よりも分かっているなと思わせるところが随所にあり、重いテーマであるにもかかわらず、なぜか暖かな気持ちになる講演でした。

(工学研究者;大学勤務、新潟市)
 小川先生は、ご自身が告知を受けた側でもあり、告知する側でもあることから、この主題の基調講演に最適な人選といえる。ご自信の経験と臨床に基づいた講演は説得力があった。が、同時に難しさ、奥の深さを実感させられた。個人の障害の受容プロセスは、社会の価値観などの環境要因、および教育レベル、家族状況などの個人要因にも大きく影響されるため、単純化されたモデルではとても語れないように思う。

(眼科医;大学勤務、中国地方)
 小川先生のご講演は、いつもながら先生や親御さんたちの本音を聞けて、とてもよい勉強になりました。先生が親御さんたちを支える言葉を大切になさる姿勢に共感いたします。

(眼科医:病院勤務、新潟市)
 「告知が新しいスタートになるように」、これですね!! 患者の不満の一つは、医療者の態度です。反省もありますが、医者は打たれ強いことも必要かもしれません。告知した後のケアが大事、未受容の期間は長い、前向き・現実的対応を、家族を支える、「はっきり、素直に、曖昧でなく」、説明は同情や気休めでなく、「あなたは、大切な一人の人、決して一人でない、どんな人生にも価値がある」、「生まれてきて、おめでとう!!」。経験から発した言葉には、重みがありました。

 

 



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