報告:第209回(13‐07月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
2013年7月26日

 「新潟盲学校弁論大会 イン 済生会」  
 (1)「自分を信じて」 中学部 3年   
 (2)「一冊から得られること」 高等部 普通科 2年 

    日時:平成25年7月10(水)16:30 ~ 17:30 
    場所:済生会新潟第二病院 眼科外来  

 

【講演要旨】
(1)「自分を信じて」新潟県立新潟盲学校 中学部3年  

 自分はできない。あきらめようか。そう思ったことはありませんか?
 僕も今までの人生でそう思ったことは何回もあります。その中でも一番大きな挫折感を味わったのは、4歳から6歳に挑戦した、自転車に乗ることです。僕は小さい頃から目が見えません。当時の僕はそんなことを気にしてはいませんでした。兄が自転車に乗っているので、「自分も乗ってみたいな」と思い、父と母にその気持ちを伝えると、僕の誕生日に自転車を買ってくれました。 

 最初は補助輪をつけて、乗り方を父と母に教えてもらい、何回も練習しているうちに、乗れるようになりました。その時、胸は喜びで一杯になりました。次に補助輪を外して練習しました。補助輪の支えが無くなった僕は、今までのように乗れなくなりました。サドルにまたがっただけで転びました。自分で自転車を起こし、サドルには乗ることができましたが、今度はこぐ練習です。たくさん転んで擦り傷が絶えませんでした。それでも僕はくじけずに頑張りました。でも、あるとき転んだ拍子に身体を下水の蓋に打ち付け、七転八倒しました。その時僕は、「自分にはできない。あきらめようかな。」という沈んだ気持ちになりました。それから一年くらいは自転車から離れていました。

 あるとき「少し乗ってみるか」という軽い気持ちで乗ってみました。案の定僕は乗った瞬間に転んでしまいました。それを見ていた友達のお母さんが、「地面を足で蹴って、自転車が止まる前にペダルに足を乗せ、ペダルをこげば乗れるんじゃない」と、丁寧にアドバイスしてくれました。僕は、「よし!やってみよう。」と思いました。最初はうまく乗ることはできませんでしたが、2回・3回と乗っているうちに、いつの間にか乗れるようになっていました。その時は、「やった!」という満足感と、「乗れたぞ」という喜びでいっぱいになりました。 

 改めて自分を振り返ってみても、「あきらめない」という思いも、「乗れたぞ」という満足感や達成感につながったのではないかと思います。これからの人生、いろいろな障害にぶつかり、立ち止まることも多々あると思いますが、「あきらめなければ何かが見えるはず」という思いを胸に頑張っていきたいと思います。 

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(2)「一冊から得られること」新潟県立新潟盲学校 高等部 普通科2年 

 皆さんは、自分にとって最高の一冊と呼べる本がありますか?
 私は本を読んで良かったと感じたことを紹介し、皆さんに読書の良さを知ってもらいたいと思います。まず一つめは読書を共通の趣味として、周囲の人との関係を築くことができるということです。中学校に進学して間もなくの頃、私の席の近くで読書をしているクラスメートに、彼が読んでいる本について尋ねました。すると、その質問から少しずつ発展して、色々なことを話していくうちに、互いの趣味や性格、相手がどのように接して欲しいのかなどお互いに理解できるようになりました。たった一冊の本でも、「親友」と呼べる仲間を作ることができるのだな、と思いました。 

 二つめは、読書を通して難しい漢字や表現方法を無理なく覚えることができることです。さらに覚えることができるだけでなく、そこで覚えた知識を文章を書くときに利用できることです。中学校で意見文の課題が出された際、行き詰ったので、休憩しようと小説を読み始めました。その本の内容は意見文の内容と全く関係ありませんでした。しかし、読み始めて少しすると、行き詰っていたのが嘘のようにアイディアが浮かんできました。次回の意見文を書くときにも、同じように本を開いてみようと思いました。

 皆さんの中には、難しい本を読むのは疲れると思う方もいらっしゃると思います。しかし、初めから分厚い本を読まなくてはならないわけではありません。気負わず読み続ければ良いのだと思います。一方で、もっと本を読みたいのに時間がないという方もいらっしゃると思います。しかし、少しずつ読み進めても十分に楽しむことが可能なのです。疲れる、時間がないなどの理由で読書をすることを諦めず、簡単な本からでも少しずつでも本を読んでいただきたいと思います。

 最後に、今一度お尋ねします。皆さんには、自分にとって最高の一冊と呼べるものがありますか?私はそれを見つけることができて良かったと今でも思っています。そして、皆さんにも最高の一冊を見つけるためにたくさん本を読んでいただきたいと思います。

 

【後記】
 新潟盲学校の生徒の弁論大会を当院で行うようになって10年経ちます。今回も視覚に障がいを持つ中学生と高校生が、精一杯に病院で弁論を行いました。

 最初の弁論では、自転車が出来るようになるまでの苦労と、出来た時の達成感を語ってくれました。思えば自転車乗りと鉄棒の逆上がりは、多くの人にとって人生で最初の試練ではないでしょうか?この自転車乗りの試練を乗り超えることができた体験を堂々と発表してくれました。「諦めないこと」「自分を信じること」の大切さを、一生懸命に訴える中学3年生の弁士の姿に感動しました。

 2番目の弁論では、最初に「あなたにとって最高の一冊と言える本はありますか?」と皆に問いました。正直、なかなか素直に答えることが出来た人はあまりいませんでした。一冊の本を読んだことから、共通の友人を得たこと、文章表現を学んだこと等々、感動したことを訴えてくれました。この高校2年生がこのまま素直に成長してくれることを願いました。

 今年も爽やかな感動をもらいました。

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【全国盲学校弁論大会】
 大会への参加資格は、盲学校に在籍する中学部以上の生徒。高等部には、はり、きゅう、あんま、マッサージの資格取得を目指す科があり、再起をかけて入学する中高年の中途視覚障害者も多い。7分という制限時間内で日ごろ胸に秘めた思いや夢が語られる。今年で82回を迎えた。

【全国盲学校弁論大会:関東・甲信越大会】
平成25年6月21日 茨城県立盲学校(水戸市袴塚)
http://mainichi.jp/area/niigata/news/20130622ddlk15040059000c.html
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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
 1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。話題は眼科のことに限らず、何でもありです。
 参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。
 眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があります。

   日時:毎月第2水曜日16:30~18:00(原則として)
   場所:済生会新潟第二病院眼科外来 

*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
 1)ホームページ「すずらん」
  新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している  音声パソコン教室ホームページ
  http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html

 2)済生会新潟第二病院 ホームページ
  http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html

 3)安藤 伸朗 ホームページ
  http://andonoburo.net/

 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
 平成25年8月7日(水)16:30 ~ 18:00 
  「楽しい外出をサポートします! ~『同行援護』その効果とは!?~」
     奥村 京子 (社会福祉法人新潟市社会福祉協議会)

 平成25年9月11日(水)16:30 ~ 18:00
  「言葉 ~伝える道具~」
     多和田 悟 (公益財団法人日本盲導犬協会 訓練技術担当理事)

  平成25年10月9日(水)16:30 ~ 18:00
  「眼科医として私だからできること」
     西田 朋美 
    (国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部 眼科医長)

 平成25年11月13日(水)16:30~18:00
   演題未定
     櫻井 浩治 (精神科医、新潟市)