報告 第214回(13‐12月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
日時:平成25年12月11日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「見えない・見えにくいという現実とのつきあい方」
講師:稲垣吉彦(有限会社アットイーズ 取締役社長;東京)
【講演要旨】
私は、ぶどう膜炎原田病および続発性緑内障を患った視覚障害者です。原田病の発症から21年、緑内障を併発し視覚障害者手帳を手にしてから今年で18年の歳月が過ぎ去ろうとしています。
このような私ですが、視覚障害を持った一人の患者であると同時に、同じ障害を持つ患者さんとお話をさせていただく機会をいただいている、いわゆるピアカウンセラーでもあります。
今回の講演では、見えないあるいは見えづらいという現実と、どのようにつきあったら少しでも快適に生活を送れるのかというテーマに対して、私自身の最近の出来事と、ピアカンでのエピソードをご紹介しつつ、私が今思う一つの方向性をご提示してみたいと考えました。
●30年ぶりの同窓会
今年の9月の終わりに高校の同窓会が開催されました。見えなくなって20年近い歳月を過ごしてきた私でも、見えているときの自分しか知らない旧友たちに、あえて見えなくなった姿をさらすべきかどうか、参加に際してかなり悩みました。
白杖を持っていたことで私が見えなくなったことを知った級友たちは、初めは見えなくなったことに関して質問していいものかどうか躊躇している感もありましたが、話が進むにつれ、ごく自然に話題は私の目の話題へ移り、見えなくなるきっかけとなった病気のこと、見えなくなってからの生活、現在の見え方など、聞かれるがままに話し続けました。
たまたま私の場合は見えなくなったことがみんなの関心を呼んでしまいましたが、ある人は高校時代よりかなり太ったとか、髪の毛が薄くなったとか、女性陣はしわがどうのとか、子供がどうのとか、様々な話題で盛り上がりました。
逆に言うと、見えなくなったことは必ずしも特別なことでなく、高校の同窓生と離れて生活していた30年間に起こった出来事のひとつでしかなかったのです。
●ピアカウンセリングより
私と同じぶどう膜炎の患者さんから、「風邪をひいたりすると、どうも目の炎症が強まる気がするのですが、稲垣さんはそんなことを感じたことはありませんか?」との質問を受けました。
もう10年以上前に私も同じように感じたことがあったので、私はある眼科医に尋ねたことがあります。その先生は、風邪はのどの炎症だし、たとえば手や足をどこかにぶつけてけがをすれば、すり傷や切り傷を含めそれも炎症、身体のどこかに炎症が出れば、その炎症がもともと炎症のある目に影響を及ぼすことも少なくはないと教えてくれました。
ところが、別の眼科医の診察時に、たまたま少し風邪気味だった私は、「風邪のせいで目にも炎症が出ちゃってますか?」と質問したことがあります。するとその先生は、「そんなことは関係ない、目の炎症と風邪に因果関係がある証拠は存在しない。」と、これまた医学的にはそうなのかもしれないと思える説明をされました。
医学的な知識があるわけではない患者としては、ある意味正反対の見解ではあるものの、どちらの話もそれなりに納得がいく話でした。納得ができてしまうだけに正反対の話を聞いた患者としては悩む方もいらっしゃるかと思いますが、どちらも一理あると考えれば、患者としては自分の都合や気分に応じて、ある時は前者を、またあるときは後者の意見を信じればいいのだと思います。
いずれの出来事も、共通している点は自分の病気についてある程度分かっていなければ話にならないということです。
眼科医の先生に違う見解を述べられたとしても、病気に関するある程度の知識があり、かつその病気とつきあってきた経験がある程度あれば、先生がどういおうと、医学的にどうであろうと、自分の経験上それが正しいと思えるかどうかの判断は可能です。
健常者とともに働くにせよ、職業訓練や生活訓練を受けるにせよ、補償機器を選定する場合でも、自分の病気や見え方について、きちんとした知識があるのとないのとでは大きな違いが出てしまいます。
とすると、「自分の病気をきちんと知る」ということが、見えない、見えづらい現実とつきあっていくうえで、一つのポイントになるのではないでしょうか。
それでは、自分の病気をきちんと知るためにどうしたらいいのでしょう? 私は今回の講演で、10年近く前からしたためている「慢性疾患恋愛論」の考え方の一部をご紹介しました。
現代医学で治せない病気、当面一緒につきあって行かなければいけない慢性疾患を持った患者の場合、とことんその病気を好きになりましょうという考え方です。どんなに嫌でもつきあわざるを得ない病気だとしたら、嫌がっているよりも好きになった方が、理解が深まり、少しでも楽しく生活できるのではないでしょうか。
現代医学の進歩により、その慢性疾患と発展的に別れられる日を夢見つつ、今はその病気といがみ合うのではなく、もっと理解が深まるように恋愛を楽しみましょう。
【略歴】
1964年 千葉県出身
1988年 明治大学政治経済学部経済学科卒業
同年 株式会社京葉銀行入行
1996年 ぶどう膜炎(原田氏病)および続発性緑内障により視覚障害2級となり同行を退職
同年 筑波技術短期大学情報処理学科入学
1999年 同学を卒業し、株式会社ラビット入社
2005年 会社都合により、同社退職
2006年 有限会社アットイーズ設立
同年 9月 著書『見えなくなってはじめに読む本』を出版
2010年 国立大学法人 筑波技術大学 保健科学部情報システム学科非常勤講師
現在に至る
【後記】
本音トーク全開でした。
「受容なんてできない。娘の顔がもう一度見たい!」
「当初は、治ることを信じていた。不安で不安で、どうしようもなかった」
「当時は病気のこと(原田病・続発性緑内障)を分からなかった」
「人に説明できなかった。分からないから怖かった」
「前の視力に戻ることが叶わないと悟った時から、苦しみが始まった」
「逃げ出したいと思った。逃げていても苦しみは増幅されるのみだった」
「ある時フッと、もう少し病のことを知りたいと思えるようになった」
「この病気と向き合おう。自分の中での納得が必要だ。この病を好きになろう」
「主治医といい関係を作ることは大事。人間関係、合う合わないはつきもの」
「せめて診察時間(3分でも)内に、一言二言会話をするように心がけた」
「治らなくても、病気を知ることで理解し好きになることはできる。これを『慢性疾患恋愛論』と命名したい」
稲垣さんらしいトークでした。患者さんの目線で疾患との対処の仕方を語って頂きました。「慢性疾患恋愛論」良かったです。
視覚障害者のためのサポートをお仕事にしている傍ら、患者さんのピアカウンセリング(電話相談)を行っている稲垣さんの益々の活躍を祈念しております。
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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。話題は眼科のことに限らず、何でもありです。参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。
眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があります。
日時:毎月第2水曜日16:30~18:00(原則として)
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
1)ホームページ「すずらん」
新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している音声パソコン教室ホームページ
http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html
2)済生会新潟第二病院 ホームページ
http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html
3)安藤 伸朗 ホームページ
http://andonoburo.net/
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【次回以降の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成26年02月12日(水)16:30~18:00
「黄斑変性患者になって18年ー私の心の変遷」
関 恒子 (松本市)
平成26年03月12(水)16:30 ~ 18:00
「私はなぜ“健康ファイル”を勧めるのか」
吉嶺 文俊( 新潟大学大学院 医歯学総合研究科
総合地域医療学講座 特任准教授)
平成26年4月9日(水)16:30~18:00
「視覚障害とゲームとQOLと…」
前田 義信 (新潟大学工学部福祉人間工学科)
平成26年5月14日(水)16:30~18:00
視覚障がい者支援センター「ひかりの森」の過去・現在・未来
~地域生活支援の拠点として~
松田和子(視覚障がい者支援センター・ひかりの森 理事長)
平成26年 6月11日(水)16:30~18:00
演題未定
上林洋子(新潟市)
平成26年7月
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会