演題:「楽しい外出をサポートします 〜『同行援護』その効果とは〜」
講師:奥村 京子 (社会福祉法人新潟市社会福祉協議会)
日時:平成25年8月7(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要約】
初めに、筝によるミニコンサートが行われました。
〜ミニコンサート・プログラム〜
1. 六段の調べ・・・・・・・・・・・・八橋検校作曲
2. 『天空の城ラピュタ』君をのせて・・久石譲作曲
3. 見上げてごらん夜空の星を・・・・・いづみたく作曲
さて、「どうして同行援護の講演の前に筝(こと)の演奏を??」と、思われるかもしれませんが・・・実は、日本の伝統音楽・伝統楽器(琵琶、筝(こと)、三味線等々)と視覚障害者は密接な関係があります。
琵琶・筝・三味線・浄瑠璃の演奏、鍼灸按摩等の職業は江戸時代まで視覚障害者が独占しており、晴眼者はこれらの職業に就くことはできませんでした。中世のころから存在した当道座(男性盲人の自治的組織・職能団体)は幕府の保護のもとに享受された様々な特権がありました。(官位、演奏場所の提供、治外法権的な裁判等々)これぞ、中世の福祉制度と言えるでしょう。
そのような時代背景の中で日本の伝統音楽、鍼灸医学の発展が促進されたと言われています。我が国最上級の文化遺産の「平家物語」をはじめとする日本の伝統音楽や鍼灸按摩の技術の伝播に視覚障害者が大きく関わっていたことは今更ながら驚きです。明治維新以降、当道座は廃止となり、日本の伝統楽器の演奏は一般化して晴眼者も演奏されるようになりました。
◆障がい福祉サービスの歴史
昭和37年(1962) 老人家庭奉仕員派遣制度スタート(在宅高齢)
42年(1967) 身体障害も対象に
45年(1970) 心身障害者(児)も対象に
49年(1974) 盲人ガイドヘルパー派遣事業スタート
56年(1981) 脳性マヒ者等ガイドヘルパー派遣事業スタート
63年(1988) 視覚障害者生活介補員派遣事業スタート
平成13年(2001) 知的障害者ガイドヘルパー派遣事業スタート
15年(2003) 支援費制度スタート(措置から契約へ)
18年(2006) 障がい者自立支援法スタート
23年(2011) 10月から視覚障害者ガイドヘルプが「同行援護」へ移行
25年(2013) 障害者総合支援法スタート
◆同行援護サービスの内容
1.移動時及びそれに伴う外出先において必要な視覚的情報の支援(代筆・代読を含む)
2.移動時及びそれに伴う外出先において必要な移動の援護
3.排泄・食事等の介護その他外出する際に必要となる援助
◆情報支援と情報提供
1.移動中の情報提供は見えるものすべてを言葉にして伝えます。
ただし、利用者が望まない場合は、必要に応じた情報提供を行います。
2.外出から帰宅までは様々なことに遭遇したり、状況の変化があったりします。同行援護従事者はそれらの状況を、的確にわかりやすい言葉で伝えなくてはなりません。
3.視覚障害者にとっての一番大切な情報は、全然に移動するために必要な情報です。二番目に大切な情報は、移動中の周囲の状況を伝えることで視覚障害者のメンタルマップ作りの手助けになるような情報です。
4.状況説明と一口に言っても、一朝一夕で出来るわけではありません。日頃から、様々な同行援護場面を想定して、状況説明の練習をしておくとよいでしょう。
◆視覚障害者にとってのリハビリって?
・中途視覚障害の人にとっては、以前の生活を取り戻すこと?
・先天性視覚障害の人にとっては、見えない不自由さを感じないで生活すること?
~同行援護サービスでは、上記の中でも外出に関することをサポートします~
◆同行援護の利用によりQOL向上の事例
Aさん 75歳 男性 中途失明
網膜色素変性症により40歳頃から視力が衰え始める。見えにくいながらも、何とか一人で歩行出来ていたため、よくカラオケなどに行っていた。70歳になり完全に失明し、まったくどこへも出掛けなくなってしまった。歩く機会が減ったため足腰の筋力が衰えてきた。
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保健センターから同行援護を勧められて、ガイドヘルパーと出かけるようになった。カラオケには二度と行けないと思っていたが、行けるようになった。ガイドヘルパーは歌詞も読んでくれるため、見えなくても歌うことが出来る。定期的に出かけるようになったら、足腰の筋力も付いてきて歩くことが楽しくなってきた。
Bさん 45歳 女性 中途失明
3年前に網膜色素変性症と診断され、あっという間に見えなくなってしまった。まさか自分が視力を失うとは夢にも思わなかった。気分も塞ぎがちになり外出する気にもなれず家事もおろそかになってきた。
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知り合いから同行援護という制度があることを聞き区役所を通じて申し込みしてみた。初めは気乗りしなかったが、ガイドヘルパーと歩いてみたら意外と楽しかった。自分で買物ができることが何より嬉しい。洋服を買いに行く時はおしゃれして行こうという気持ちになったし、食べたいものを沢山の商品の中から選ぶことが出来る(情報支援)
Cさん 61歳 女性 先天性視覚障害
生まれつき見えないため、歩行訓練により慣れたところは白杖をつかって移動することが出来る。しかし、洋服や食品など買物の時は視覚的情報がないために、商品を選ぶのに不便。
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マッサージの仕事や、サークル活動などへ行く時は一人で行っている。買い物等は母親と行っていたが母親も高齢のため付添は難しくなってきたためガイドヘルパーを利用することにした。誘導だけでなく情報支援や代読・代筆などのとき助かっている。
◆おわりに
QOL(生活の質)の向上例はたくさんあります。外出によってもたらされる様々な効果は、どんなリハビリよりQOL向上に繋がっているのではないかと思います。視覚障害の皆様に、「ガイドヘルパーを利用して良かった!」と言っていただけることが、私たちガイドヘルパーにとって最高の喜びです。これからも、「安心」「安全」「楽しい」ガイドヘルプを心がけ、サービス向上に努力し、外出をサポートしていきたいと思います。 ありがとうございました
【略歴】
平成 9年7月 (財)新潟市福祉公社にホームヘルパーとして入職
平成17年4月 合併により新潟市社会福祉協議会に所属変更
障がい者訪問介護センター センター長
移動支援事業、ガイドヘルプコーディネートを担当。同行援護・移動支援従事者養成研修の開催、事業所内の移動支援実技研修講師等を担当。
介護福祉士、介護支援専門員、移動支援従事者指導員、福祉住環境コーディネーター新潟市社会福祉協議会に勤務する傍ら、筝(こと)による演奏活動、福祉施設でのボランティア演奏等を行っている。
「ボランティア演奏、お気軽にお声掛けください。どこでも演奏に伺います!」
【後記】
視覚障害者の外出保障は40年以上の歴史をもって継続され、ガイドヘルパー事業として徐々に改善されてきました。そして、2011年10月より同行援護事業として障害者自立支援法の個別給付と位置づけられました。これまで外出時の代筆や代読などの情報処理ないしコミュニケーション支援がガイドヘルパー事業に含まれるのか否かが問題となっていましたが、同行援護事業ではこれらがサービス内容の本質であることが明確になりました。個別給付として全国一律の制度となり、地域生活支援事業で問題となっていた地域によるばらつきが解消されるものと期待されていました。
しかし実際には、厚生労働省が示した事業内容が市町村において徹底されるには至っておらず、統一されるべき基準が市町村によって異なる事態が発生しており、一部では混乱も生じています。
このシステムを充分に活用し、視覚障害者の移動を保証するためには、制度のより一層の改善も必要でしょうが、利用者の上手な活用法のスキルアップもキーポイントかなと、奥村先生のお話をお伺いし感じました。
そして何より、こうした重要なことを担っているヘルパーさんの存在の大きさを改めて感じました。
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【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成25年9月11日(水)16:30 ~ 18:00
「言葉 ~伝える道具~」
多和田 悟 (公益財団法人日本盲導犬協会 訓練技術担当理事)
平成25年10月9日(水)16:30 ~ 18:00
「眼科医として私だからできること」
西田 朋美 (国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部 眼科医長)
平成25年11月13日(水)16:30~18:00
「夢について」
櫻井 浩治 (精神科医、新潟市)
平成25年12月11日(水)16:30~18:00
演題未定
稲垣 吉彦 (有限会社アットイーズ;東京都新宿区)
平成26年01月8日(水)16:30~18:00
未定
平成26年02月12日(水)16:30~18:00
演題未定
関 恒子 (松本市)