報告:『新潟ロービジョン研究会2011』~高次脳機能と視覚の重複障害を考える 2
2011年2月9日

報告:『新潟ロービジョン研究会2011』高次脳機能と視覚の重複障害を考える2
教育講演 
1)「高次脳機能障害とは?」
   仲泊 聡 (国立障害者リハビリセンター病院;眼科医)
2)「高次脳機能障害と視覚障害を重複した方へのリハビリテーション」
   野崎 正和 (京都ライトハウス鳥居寮;リハビリテーション指導員)
3)「前頭葉機能不全 その先の戦略
    ~Rusk脳損傷通院プログラムと神経心理ピラミッド ~」
   立神粧子 (フェリス女学院大学)
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講演抄録】
1)「高次脳機能障害とは?」
   仲泊 聡 (国立障害者リハビリセンター病院;眼科医) 

 1. 高次脳機能障害の定義
 学術用語としての高次脳機能障害は、脳損傷で生じる認知・行動・情動障害全般を指し、記憶障害・社会的行動障害・遂行機能障害・注意障害という高頻度で生活へ影響が特に大きい主要症状の他に半側空間無視・失語症・失行症・失認症などがある。その特徴の一つとして病識の欠如があり、これがさらに社会生活復帰への支障を大きくしている。一方、行政用語としての高次脳機能障害は、学術用語で挙げた症状に以下の条件がつく。
 1) 実際に日常生活または社会生活に制約がある
 2) 脳損傷の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている
 3) 先天疾患・周産期における脳損傷・発達障害・進行性疾患を原因とするものは除外
 4) 身体障害として認定可能な症状を有するが主要症状を欠く者は除外(たとえば、失語症だけでは、音声・言語・咀嚼機能障害に入るため除外される)
 高次脳機能障害者支援の手引き(改訂第2版)には診断基準が記されている。これは国リハのホームページから申込書ダウンロードが可能だ。
 (http://www.rehab.go.jp/ri/brain_fukyu/kunrenprogram.html 

 2. 主要症状
 1) 記憶障害
 ・物を置いた場所を忘れたり同じことを何回も質問するなど、新しいことを学習し、覚えることがむずかしくなる
 ・社会生活へ復帰する際の大きなハードルとなってしまうことが少なくない
 2) 社会的行動障害
 ・すぐに他人を頼るような素振りをしたり子供っぽくなったりする
 ・我慢ができず、何でも無制限に欲しがる
 ・場違いの場面で怒ったり笑ったりする
 ・一つのものごとにこだわって、施行中の行為を容易に変えられず、いつまでも同じことを続ける
 3) 遂行機能障害
 ・行き当たりばったりの行動をする
 ・指示がないと動けない
  これは、目標決定、行動計画、実施という一連の作業が困難になることで、すなわち、見通しの欠如、アイデアの欠如、計画性・効率性の欠如ということができる。
 4) 注意障害
 ・気が散りやすい
 ・ 一つのことに集中することが難しい
  そもそも注意とは何か。これは「意識内容を鮮明にするはたらき」と説明されている。対象を選択する。選んだ対象に注意を持続する。対象以外へ注意を拡大する。対象を切り替える。複数の対象へ注意を配分するなどが注意のはたらきだ。注意障害の患者を眼科で診るときは、以下の配慮を要する。
 ・ほとんどの眼科検査で集中力が不足して十分な検査ができないことが多い
 ・視力検査は短時間で一回の検査を終え、日を替えて続きを行なうのがよい
 ・視野検査では眼疾患が存在しなくても全体的な沈下をきたすことがある 

 3. 他の高次脳機能障害の症状
 1) 半側空間無視
 ・自分が見ている空間の片側を見落としてしまう障害
 ・食事で片側のものを残したり片側にあるものにぶつかったりする
 ・線分二等分試験や模写課題などで検査される
 2) 失語症(行政用語としては高次脳機能障害に入らない)
 ・うまく会話することができない
 ・その中には、単に話すことができなくなることだけでなく、人の話が理解できない、字が読めない、書けないなどの障害も含まれている
 ・音声・言語・咀嚼機能障害の3級または4級に入る
 3) 失行症
 ・動作がぎこちなく、道具がうまく使えないなど、手足は動くのに、意図した動作や指示された動作ができない
 ・マッチを擦って煙草に火をつけるといったような系列を有する行為を意図的に行うことができなくなる
 4) 失認症
 ・視覚失認…物全般がわからない
 ・純粋失読…文字がわからない
 ・相貌失認…顔がわからない
  失認症は、症状が視覚に関わることが多いため、患者自らが眼科を受診する。いわば、視覚の高次脳機能障害ということもでき、ロービジョンの範疇に入るものと思われる。しかし、その対策は一筋縄ではいかない。まして、高次脳機能障害の主要症状に視覚障害が重なったら、その対応はさらに困難であるということは明らかである。今後の検討が望まれている。 

【略歴】
 1989年3月 東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業
 1991年4月 同大学眼科学講座助手
 1995年7月 神奈川リハビリテーション病院眼科診療医員
 2003年8月 東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座講師
 2004年1月 Stanford大学留学
 2007年1月 東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座准教授
 2008年2月 国立身体障害者リハビリテーションセンター病院第三機能回復訓練部長
 2010年4月 国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部長 

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2)「高次脳機能障害と視覚障害を重複したB氏のリハビリテーション」
   野崎 正和 (京都ライトハウス鳥居寮;リハビリテーション指導員) 

 B氏の4年間に及ぶリハビリテーション期間の内、前期(2007年8月~2008年3月の9か月)の取り組みについて報告した。
 Ⅰ B氏のプロフィール
  1.基本情報  40代男性、S市在住、妻・娘と同居。
  2.生活歴・職業歴 教師として20数年間勤務。野球部の監督や同和教育・生徒指導の担当者として活躍していた。
  3.疾病・診断名  脳梗塞(2006年10月)・全盲・軽度の高次脳機能障害。前頭葉・右側頭葉・両後頭葉・脳梁に広範囲の損傷。
  4.高次脳機能障害の症状  易疲労性、集中力の低下、注意障害、記憶障害(前向健忘)、空間認知障害、遂行機能障害などがあった。
  5.訓練開始時点での強み  孤立感、孤独感が強く精神的に混乱しているが、真面目で前向きな性格や、知性や判断力が健在であることを感じさせる言動も見られた。家族の支援もしっかりしていた。

 Ⅱ B氏のリハビリテーションの経過
 『前期の課題』安心できる環境とゆっくりした時間の流れの中で、適度で適量な刺激を提供すること。全盲+記憶障害+空間認知障害は非常に厳しい条件だが、何とかして日常生活でのADL自立をめざす。 
 『前期の状況』B氏も奥さんも、切羽詰まった状態でわらをもすがる思いで鳥居寮に来られた。本人の孤立感・孤独感は非常に強いと思われる。現状は世界も能力も縮小した状態にあるが、潜在的能力はあり、徐々に拡大していく可能性は大きい。この段階での行動上の困難は大きいが、指導員との関係が中心であり比較的環境調整が容易なため、歩行訓練士でも対応が可能だったと考えられる。 

 『前期の支援方針』
 毎日朝夕に職員の打ち合わせをして、状況の確認と対応の統一を図る。初期には易疲労性に留意し休憩を多く取り、また注意障害を考慮して伝えることは一度にひとつかふたつに留める。感情と結びついた記憶は残りやすいため、出来れば楽しい記憶にするように務める。予定した訓練をこなすことより、B氏の語りをゆっくり聴き、受け止めることのほうが重要であるという視点をもつ。 

 『B氏に対して実施した、主に認知にかかわる訓練技法』
 ・エラーレスラーニング:迷う前にタイミングよくB氏にとって分かりやすい話し方で正しい答えを提示する。
 ・構造化:日課や家具の配置、移動ルートなど、さまざまなことをわかりやすくシンプルにすること。
 ・環境調整:施設での人間関係や家族に対する支援などもふくめて、B氏が落ち着けるような環境を作ること。
 ・スモールステップ&シェイピング(段階的行動形成):行動をわかりやすい小さな単位に分けて考える、それをもとに、行動を作り上げていくこと。逆シェイピングという技法もある。
 ・過剰学習:確実に誤りがなくなり自信がつくまで繰り返し練習すること。
 ・手掛かりの活用:触覚的なわかりやすい手掛かりを設置することで、手続き記憶の強化を図る。
 ・記憶の強制は避ける:自然な形で記憶力を使うようにしていく。
 ・ポジティブ・フィードバック:良いところを見つけて伝える。少しずつでも自分で出来ることが増えると、自己効力感・自己肯定感を高めることにつながる。
 ・散歩の活用:季節の風を感じること。感覚入力の豊かさが脳に対する良い刺激になる。
 ・般化:鳥居寮で出来るようになったことが、自宅でも出来ることを目指す。 

 Ⅲ まとめ
 高次脳機能障害と視覚障害を重複した方のリハビリテーションを進めるために、また当事者や支援者を孤立させないために、多くの人たちが経験や意見を交流できるネットワーク作りが必要ではないだろうか。

【略歴】
 1950年生まれ。岡山県津山市出身
 
    立命館大学文学部卒業。
 1979年京都ライトハウスに歩行訓練士として入職(日本ライトハウス養成9期)
    以来歩行訓練士として31年間同じ職場に勤務。
 (2011年3月末定年 その後は嘱託で仕事を続る予定) 

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3)「前頭葉機能不全 その先の戦略
    ~Rusk脳損傷通院プログラムと神経心理ピラミッド~」
   立神 粧子 (フェリス女学院大学音楽学部および大学院音楽研究科教授) 

 2001年秋、夫が仕事中に突然解離性くも膜下出血で倒れ、後遺症として高次脳機能障害が残った。2年ほど大きな改善は見られず悶々としていたなか、2004年大学からのサバティカルの1年を利用して、NewYork大学リハビリテーション医学Rusk研究所の通院プログラムに参加した。Y.Ben-Yishay博士が率いるRusk研究所は脳損傷通院プログラムの世界最高峰と言われている。 

 Ruskの訓練は、神経心理ピラミッドを用いたホリスティックなアプローチである。Ruskでは器質性による前頭葉機能不全を前提としている。認知機能を9つの階層に分け、ピラミッドの下が症状の土台であり、その基本的な問題点が改善されていなければ、ピラミッドのそれより上の問題点の解決は効果的になされないとする考え方で、ピラミッドの下から訓練は行われる。9つの階層とその説明は下から以下のとおりである。 

Ⅰ.「訓練に参加する自主的な意欲」 自分に前頭葉の機能不全があることに気づき、その問題に立ち向かうために自らの意思で参加するという強い思い。

Ⅱ.「神経疲労Neurofatigue」 「覚醒」「警戒態勢」「心的エネルギー」に関する欠損。脳損傷による脳細胞の欠損のために、日常生活のすべてが以前より困難となり、脳損傷者は常に神経が疲労しやすくなっている。

Ⅲ.(1)「無気力症Adynamia」 心的エネルギーが過少であることによる問題。基本的に「自分から~をする」ことができない。
  1:自分から何かをする発動性の欠如、
  2:発想の欠如、思いの連鎖がない、
  3:自発性の欠如、無表情、無感動。
  
(2)「抑制困難症Disinhibition」 心的エネルギーが過度であることによる欠損。自分で次の諸症状を意識し、抑制することができない。
  1:衝動症、2:感情の調整不良症、3:フラストレーション耐性低下症、4:イライラ症、5:激怒症、気性爆発症、6:多動症、7:感情と認知の洪水症。

Ⅳ.「注意力と集中力Attention & Concentration」 選択的注意とその注意力を維持する集中力に関する問題。

Ⅴ.「コミュニケーション力と情報処理Communications & Information Processing」 情報のスピードについてゆくことと情報を正確に受信し、人にわかるように発信することに関する問題。

Ⅵ.「記憶Memory」出来事を習得したり覚えておくことができなくなる記憶の問題と、自分に欠損があるということの気づきが途切れる問題。記憶断続症。

Ⅶ.(1)「論理的思考力Reasoning」
  1:言われたことや書かれたことをまとめたり、同類に分類できる力である「収束的思考力、まとめ力」の問題と、2:異なる発想を思いついたり臨機応変に対応できる力である「拡散的思考力、多様な発想力」の問題。
  
(2)「遂行機能Executive Functions」  日常生活における以下の能力に関する問題。
  1:ゴール設定、2:オーガナイズ(分類整理)する、3:優先順位をつける、4:計画を立てる、5:計画通りに実行する、6:自己モニターする、7:トラブルシュート(問題解決)する。

Ⅷ.「受容Acceptance」 自分に機能不全があり人生に制限がついたという事実を認識して受容できること。真の受容には下位の階層のそれぞれの症状に対する戦略を自ら使い、自己を高める努力が伴う。そういうことの必要性を真に理解すること。

Ⅸ.「自己同一性Ego-identity」 脳損傷を得ても、「自分が好きな自分」でいるために、以下の過去・現在・未来の自分を再統合し、障害を得た新しい自己を再構築すること。
 1:発症前に何かを達成できた自分、
 2:障害を得た自分に必要な訓練や努力に現在進行形で取り組んでいる自分、
 3:機能不全による限界を認識しつつ将来こうなりたいと思う自分。 

 神経心理ピラミッドの働きの大まかな説明は以上である。Ruskではこれらすべての階層の問題のひとつひとつに戦略(対処法)がある。月曜日から木曜日までの朝10時から午後3時まで、対人コミュニケーションや個別の認知訓練、カウンセリングまでをも含む構造化された時間割の中でシステマティックな訓練が行われる。こうした訓練と戦略のおかげで、絶望的だった夫との生活は奇跡的に改善され、希望が持てる人生を歩みだすことができた。

【略歴】
 1981年 東京芸術大学音楽学部卒業
 1984年 国際ロータリー財団の奨学生として、シカゴ大学大学院に留学
 1988年 シカゴ大学大学院にて音楽学で修士号取得、博士課程のコースワーク修了
 1988年 南カリフォルニア大学大学院へ特待入学
 1991年 南カリフォルニア大学大学院にてピアノ演奏(共演ピアノ)で音楽芸術博士号取得
 1993年 帰国後、フェリス女学院大学音楽学部および大学院音楽研究科の専任講師
 ~現在 フェリス女学院大学音楽学部および大学院音楽研究科教授、音楽芸術博士
 http://www.ferris.ac.jp/music/bio/m-04.html
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 1985年 シカゴ・コンチェルト・コンペティション優勝
 1988~91年 コルドフスキー賞、最優秀演奏家賞受賞
 1992年~現在 ベルリン・フィル、ロンドン響、バイエルン放送響、フィレンツェ歌劇場、MET歌劇場などの欧米の主要オーケストラの首席奏者や歌手たちと国内外で共演。世界各地でリサイタル多数。
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 ご主人の小澤富士夫氏は、東京芸術大学のトランペット科を卒業後、プロの演奏家として活躍。その後ヤマハで新製品の研究開発業務に携わり、ヤマハ・フランクフルト・アトリエの室長として長年ヨーロッパに赴任。
 帰国後の2001年、仕事中にくも膜下出血を発症、後遺症として高次脳機能障害(記憶障害、無気力症、認知の諸問題)が残る。
 高次脳機能障害を治すためサバティカルを利用して、1年間ご主人とともに米国に滞在し、ニューヨーク大学Rusk研究所「脳損傷通院プログラム」に通う。ご主人は奇跡的に回復し、一人で大阪に出張できるほどになった。

 

「ニューヨークRusk研究所の神経心理ピラミッド理論」
 2006年 『総合リハビリテーション』(医学書院)4月、5月、10月、11月号に、「NY大学・Rusk研究所における脳損傷者通院プログラム」を治療体験記として発表。以来Rusk研究所の通院プログラム、神経心理ピラミッド、機能回復訓練などに関する講演を行う。

 2010年11月『前頭葉機能不全 その先の戦略:Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド』
 医学書院より出版。医学書院のHPに以下のように紹介されている。「高次脳機能障害の機能回復訓練プログラムであるニューヨーク大学の『Rusk研究所脳損傷通院プログラム』。全人的アプローチを旨とする本プログラムは世界的に著名だが、これまで訓練の詳細は不透明なままであった。本書はプログラムを実体験し、劇的に症状が改善した脳損傷者の家族による治療体験を余すことなく紹介。脳損傷リハビリテーション医療に携わる全関係者必読の書」。http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=62912

 

【印象記】
永井博子 (神経内科医:押木内科神経内科医院)
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 教育講演の仲泊聡先生
 眼科医でこれだけ深く高次脳機能障害に係っている方がいらっしゃるということがまず驚きでした。高次脳機能障害といっても沢山の症候があり、理解するのも大変なのですが、広い範囲に渡って平易にお話ししていただきました。今なら佐藤先生を受け入れられたかもしれない、というお言葉が印象的でした。今後の視覚の高次脳機能障害への取り組みの発展に期待を持ちました。 

 教育講演の野崎正和先生
 私は勉強不足で、視覚障害者専用の訓練施設があることを知らなかったので、非常に新鮮でした。歩行訓練士という職業も初めて知りました。中途視覚障害者ということで、病気の受容からして、大変なことと思いますが、出来ることをやっていく、楽しくやる、将来への希望をもつ、など佐藤先生のお話と共通しますし、視覚障害者や、高次脳機能障害者だけでなく、リハビリをやるすべての方へのメッセージだと感じました。 

 教育講演の立神粧子先生
 あらかじめ安藤先生から御紹介していただいて、本を読み、お話をお聞きできることを非常に期待していました。医療とは全く関係ない分野にいらっしゃるのに、専門的なことをすべて理解していらっしゃることに驚きかつ感銘いたしました。とても実践的な訓練なので、これを日本で、日本語で受けることができたら、と思いました。
 

野崎正和 (京都ライトハウス鳥居寮;歩行訓練士)
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 懇親会の音楽会はとても楽しいものでした。残念なことは、私が演歌人間で、ジャズなどを聞いてもよくわからないという点です。それで何が楽しいのかといえば、演奏している皆さんが、長くされているすごく上手な方から、それほど長くない方までとても楽しそうに演奏しておられたことです。楽器を演奏できるのはいいなーと思いました。 

 仲泊先生には、先生が取り組んでおられる視覚障害リハビリテーションの今後を左右するようなプロジェクトについて教えていただきました。もし、協力させて頂けるようでしたら、安藤先生から学んだ「自分に出来ることを精一杯楽しんでやる」精神で取り組みたいと思います。 

 立神先生のお話は、本当にサプライズでした。先生の著書の「前頭葉機能不全 その先の戦略」を、あとで購入して拝読いたしました。現場でリハビリテーションに関わっている立場としては本当に参考になることばかりでした。常に神経心理ピラミッドを念頭に置いて考えたいと思いますが、全体として自分の職場でどう活かすかと言う点では、バックグラウンドが違いすぎて、どうしたらよいかまだわからない状態です。 

 私は、高次脳機能障害で全盲のB氏のリハビリテーションについて発表させていただきました。つたない発表のため、高次脳機能障害の代償手段がほとんど使用できない全盲という条件の厳しさや、このような方が地域で安心して生活しながら社会参加していくための支援システムをみんなで考えて欲しいということなどを十分お伝えできなくて申しわけありませんでした。これからも少しずつ勉強していきたいと思います。 雪の新潟はとても温かでした。

 

立神粧子(フェリス女学院大学教授)
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 講演の時間が延びてしまい、学会の最後でお疲れの皆様を「神経疲労」にさせてしまいました。でも、神経心理ピラミッドの説明なしではRuskの概念は理解できないので、あれはあれで仕方なかったと思っています。講演の機会を与えて下さり有難うございます。 

 仲泊先生は、非常にコンパクトにわかりやすく高次脳機能障害を説明されました。安藤先生のご指摘にもありますように、佐藤先生の入院当時のことを正直に話されたことも共感を持ってお聞きしました。10年ほど前は、日本の高次脳機能障害者とその家族にとっては、まだまだ希望が見えない医療やアドバイスだったと記憶しています。 

 野崎先生のお話しは、現実の問題に即した実践的な視点で有意義なものだったと思います。
 講演後に、永井先生からもお声をかけていただきました。よろしくお伝えくださいませ。
 

新潟市 リハビリ医
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 仲泊聡先生の講演
 特に興味深かったのは、半側空間無視と半盲の視野検査所見の違いです。固視点を変えると半盲の場合は、見えない部分が固視点の変化について行くのに対し、半側空間無視では変化しないというものでした。半側空間無視は、リハビリテーション分野で失語症と同様頻度の高い障害ですが、眼科的な視点からのお話は初めてでしたので興味深いものでした。視覚に関係した高次脳機能障害のリハビリテーションの実際も機会があればお聞きしたいと思いました。 

 野崎正和先生の講演
 対応が困難な高次脳機能障害を併せ持った視覚障害者のリハビリテーションに積極的に取り組んでいらっしゃる様子が良くわかりました。具体的なことは時間がなくあまり聞けませんでしたが。リハビリテーション医療との連携(高次脳機能の検査の結果やそれに基づいた方針や対応の仕方などの情報伝達)についてもう少し、お聞きしたかったです。 

 立神粧子先生の講演
 早速、書籍は注文しました(今日来ました)。神経心理ピラミッドは、高次脳機能障害者の障害を理解するのに役立ちそうですね。同じ図を、慈恵医大リハビリテーション科の橋本圭司先生の教育講演で目にしました。橋本先生は、高次脳機能障害者のグループセラピーを展開している方です。Ruskのプログラムの内容を知るには読んでみるしかないですね。  

 質疑で出された意見について
 リハビリテーションは必要ないのではというのは極端だと思いますが、リハビリテーション医療が高次脳機能障害に対応できていないのは事実だと思います。障害の評価も難しい上、検査の結果から活動(生活、仕事、自動車運転など)の制限を説明しにくいこと、さらに、職業リハビリテーションと医療が連携していないことなど問題点が多いのが現状です。今後の課題と受け止めます。

 最後に、医療者、障害者が一同に会して勉強するという貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。

 

新潟市 病院ソーシャルワーカー
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 この度はシンポジウムに参加させていただきてありがとうございました。とても実りのある会だったと思います。

 仲泊先生も眼科医として高次脳機能障害について深く関わって下さる事にとても感謝しております。新潟県の場合は、高次脳機能障害者に対する支援があまり充実しておらず、又、神経内科・脳外科・リハビリ科・精神科などの先生が各個人で様々苦悩なさっている状況の中、眼科の先生からもご意見いただく事ができれば今後の支援も発展することでしょう。実際に、当院では眼科の細かい検査などは出来ないため、わざわざ別の医療機関に受診してもらい、患者さんの負担も大きいです。障害が重複している患者さんも多くいらっしゃいますが、当院の診療体制では全ての障害に望むような医療サービスが受けられるわけではありません。 

 野崎先生のご講演もとても勉強になりました。私は病院のソーシャルワーカーであり、患者さんが地域でどのように生活しているか全て把握しているわけではありませんが、あの方のようなリハビリ指導員がいらっしゃる施設があるとこちらとしても自信を持ってご紹介できます。新潟でももっと開拓していただきたい位です。 

 勉強不足で立神先生の名前を知らなかったのですが、実際にアメリカでプログラムを受けられて、誰よりも高次脳機能障害の難しさをご理解なさっている方だと思います。その中で、ご主人と一緒に新潟まで足を運んでくださったり、ピアニストとして、教育者として研究者としてご主人の障害と共に人生を歩んでいる姿が素晴らしかったです。 

 最後に質問して下さった小林さんという方、彼も若くして障害を負い、今も苦労して生活なさっている場面も多いと思います。その中で障害を理解して欲しいと訴える姿と、障害の受容、リハビリテーションとは何かについてを答えて下さった佐藤先生に感動しました。 

 簡単ですが、私の感想を書かせていただきました。
 今回安藤先生が1人事務局でご準備から最後の後片付け、懇親会までセッティング・調整をして下さって大変ご苦労なさったと思います。ありがとうございました。私はソーシャルワーカーであり、診療したり、リハビリしたりすることはできませんが、患者さんが地域でより質の高い生活ができるように今後も支援していきたいと思います。