報告:第220回(14‐06月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会:「生きていてよかった!」
2014年7月7日

報告:第220回(14‐06月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「生きていてよかった!」
 講師:上林 洋子(社福:新潟県視覚障害者福祉協会副理事長 同女性部長)
  日時:平成26年6月11日(水)16:30 ~ 18:00 
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来



【講演要旨】
 「命を断とう」と思ったことがあるからこそ「生きていてよかった!」と思えるのです。
 体操が苦手、音楽も苦手、人の前で話すことなど全くダメ…幼いころの私でした。中学の科学の実験の時に、キラッと光ったビーカーの周りに虹が見えたので、「きれいな虹」と言ったら友達に笑われました。多分これが緑内障の初期だったと思います。

 中学卒業した年に、緑内障の手術を受け、看護婦の夢を断たれ、親に有無なく新潟盲学校に入学させられたのでした。ここでの5年間が、消極的だった私の生き方を、変えてくれたのだと思います。視力があるということで、買い物や、学校行事、生徒会でも役が与えられ、人のためになれる喜びを実感することにより、自分に対しても自信が持てるようになりました。

 社会人になって間もなく再発。手術を繰り返すたびに「手術は成功しました」と医師に言われるのですが、私としては「見えにくく」なる一方でした。こんな折、手術の前夜に夫から「見える眼と結婚するのではない」と言われ、共に歩むことを決意しました。出産後も手術を繰り返しながら視力は下がるばかりでした。

 39歳、激しい眼痛に耐えられず入院した私に、夫は眼球摘出を勧めたのです。眼科主治医・両家の家族が集まり、治療法について相談会を持ちましたが「健康が第一」と言う夫に従い両眼摘出の手術を受けました。この時「死ぬ」ということを決めていたのです。眼は心の窓、目は顔の中心、その目がなくなるなんて・・・そして、患者から一視覚障碍者になることのむなしさ…。

 2~3カ月後、この日こそ最後だと決め、台所の掃除をしていました。「飯はまだか?」と言った夫に力いっぱい雑巾を投げつけました。「いつまでばかやっているんだ」とかえってきた静かな声。この一言が私を新たなスタートに立たせてくれたのでした。「そうだ!命ある限り生き抜かねば」と。

 それからは夫の力を借りながらいろいろなことに挑戦しました。例えば、あきらめていた点字の読み書き、小、中学校で視覚障害についてのお話し会、点字ワープロの会得、喜怒哀楽を三十一文字に託す短歌…。そして、盲導犬との出会いにより広がった世界。山登りの楽しさ、などなど。どれをあげても苦労の後には「喜び」が待っています。この達成感を味わったときに、決まって「生きていてよかった!」と心の中で叫ばずにはいられないのです。

 
 かちゃかちゃと義眼の触れ合う音のして吾の眼(まなこ)の選ばれている
 「年相応な眼にしてくださいね、でも、ちょっぴりかわいく…」
 

 半世紀近くも営業してきた治療院をこの春に閉じ、これからは第3の人生を夫と盲導犬と楽しみながら、ゆったりと、そして「可能性」を忘れずに暮らして参りたいと思っております。


 子と嫁は一つのスマホを見詰めつつ生れくる男の子(おのこ)の名を語りいる
 「お母さん、ちょっと見て」そっとお腹に、確かに大きなお腹。新しい命をそっと撫でてあげました。


【略歴】
 京ヶ瀬小学校、京ヶ瀬中学校卒(阿賀野市)
 神奈川県内の准看護婦養成所を緑内障発病にて中退
 昭和42年、新潟盲学校専攻科卒
 昭和44年、鍼灸マッサージ治療院を開業している先輩と結婚
 二児出産後、数回の手術の後、四十歳には完全に失明
 このころから音声ワープロをマスターし、短歌を詠む楽しさを覚える
 平成7年、北海道盲導犬協会に入所し盲動犬ユーザーとなり現在に至っている

【後記】
 上林さんの優しい語り口調に吸い込まれ、心地良い感覚でお聞きしました。
 「生きていてよかった」ここに、上林さんの人生が集約されているのが、講演を拝聴してよく理解することが出来ました。幾多の苦難を乗り越えて、自らの精一杯の努力と、本気でぶつかり合いながらで築き上げた、多くの理解と愛情の中で、今を生き抜いている。。。。。
 今後は、上林さんの知識と経験、そして、エネルギーを多くの方々に伝え広めていただきたいと期待しています。
 益々の活躍を祈念しております。


【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成26年7月9日(水)16:30~17:30
 第221回(14‐07月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「新潟盲学校弁論大会 イン 済生会」
 1)「中学部に入学して」 中学部1年
 2)「歌」 高等部普通科3年 
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
 http://andonoburo.net/on/2825
 @いつもより終了時間が30分早くなります。
 @ネットでの実況中継配信はありません。

平成26年8月6日(水)16:30~18:00
 第222回(14‐08月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害によって希望を失わないために」
  竹下 義樹(社会福祉法人日本盲人会連合会長、弁護士)
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
 @第1水曜日です
 @事前登録制です

平成26年9月10日(水)16:30~18:00
 第223回(14‐09月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「地域連携って何?-済生会新潟第二病院の連携室を通じて-」
  斎川克之(済生会新潟第二病院 地域医療連携室長)
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来

平成26年年9月27日(土) 開場13:30 研究会14:00~18:40
【新潟ロービジョン研究会2014】
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
  テーマ:「我が国のロービジョンケア 過去・現在・未来」
  http://andonoburo.net/on/2682
 主催:済生会新潟第二病院眼科  
  要:事前登録
14:00 開会の挨拶 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
14:05~16:20
 1)特別講演 (各講演40分)
  1.座長  山田幸男(新潟オアシス;内科医)
   日本におけるロービジョンケアの流れ1:
    日本ロービジョン学会の設立前
     田淵昭雄 (川崎医療福祉大学感覚矯正学科)
    http://andonoburo.net/on/2714
 2.座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
   日本におけるロービジョンケアの流れ2:
     ロービジョンケアからロービジョンリハビリテーションへ
     -平成24年度診療報酬改定の意味するところ-
     高橋 広(北九州市立総合療育センター)
    http://andonoburo.net/on/2780
 3.座長 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
   本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望
     加藤 聡(東京大学眼科准教授)
    http://andonoburo.net/on/2799
16:20~16:40
  コーヒーブレイク
16:40~18:20
2)シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
 座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
    安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
 シンポジスト (各講演20分)
  吉野由美子(視覚障害リハビリテーション協会)
  八子恵子(ワーク福島県ロービジョンネットワーク)
  山田幸男(新潟オアシス;内科医)
 コメンテーター
  田淵昭雄(初代ロービジョン学会理事長)
  高橋 広(第2代ロービジョン学会理事長)
  加藤 聡(第3代ロービジョン学会理事長)
 18:20~18:40 adjourn アジャーン
  (参加者全員で)会場整理
  参加者同志の意見交換
18:40 解散 


平成26年10月8日(水)17:00 ~ 18:30 
【目の愛護デー記念講演会 2014】 
 (兼 第224回(14‐10月)済生会新潟第二病院眼科勉強会)
  講師:若倉雅登 (井上眼科病院 名誉院長)
  演題:「視力では語れない眼と視覚の愛護」
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 
 @開始時間が17時です

平成26年11月5日(水)16:30~18:00
 第225回(14‐11月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 演題:「世界一過酷な卒業旅行から学んだ、小さな一歩の大切さ」
 岡田果純(新潟大学大学院自然科学研究科専攻修士課程1年)
    @第1水曜日です

平成26年12月10日(水)16:30~18:00
 第226回(14‐12月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 演題未定
 小西 明(新潟県立新潟盲学校)