特別講演3
「本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望」
加藤 聡(東京大学眼科准教授;日本ロービジョン学会第3代理事長)
【講演要約】
日本ロービジョン学会が設立され、田淵前々理事長、高橋前理事長の功績により、ロービジョンケアが眼科医にも認識されるようになり、昨年には保険点数も付くようになった。しかし、本邦におけるロービジョンケアを取り巻く問題点の多さに未だ愕然とする思いがある。本講演では、はじめに日本ロービジョン学会について説明し、次にロービジョンケアを取り巻く課題と解決法、そして最後にロービジョンケアの将来についてお話しする。
1.日本ロービジョン学会
日本眼科学会のその関連学会23学会の一つであり、2000年に発足し、毎年学術総会を開催しており、その総会長は眼科医のみならず、ロービジョンケアにたずさわる多くの関係者が行っている。学会員の総数は現在約720名で、その三分の一ずつが眼科医と視能訓練士で、残りの三分の一をその他の医療関係者、教育関係、福祉関係の方々で構成されている。
2.現在のロービジョンケアを取り巻く6つの問題
①眼科医療に携わる者(眼科医、視能訓練士)に対して、ロービジョンケアに関して系統だった教育法が確立されていない
②補助具の眼科診療室内での整備が難しい
③保険点数が認められたものの未だ、請求しづらい点がある
④視覚障害による身体障害者等級の線引きの妥当性の検証が未だ不十分なこと、
⑤関連団体との情報の共有性が充分なされていないこと、
⑥本邦内でのロービジョンケアの地域間格差があることである。
①では、眼科医療の携わる指導者がロービジョンケアの教育を受けていないことが現状では問題であり、指導者層のロービジョンケアへの関心の向上が必要である。①の影響もあり、一通りの治療が済んだ失明者が眼科医を受診した時に、眼科医そのものが戸惑ってしまうこともある。②では、眼科内では補助具の販売ができず、そのために充分なトライアルセットが完備されていない現状がある。安価で正確なトライアルセットの出現が待たれる。③では、未だロービジョンケアに携わる眼科医が非常勤の場合に算定できないことがある。④では、身体障害者等級決定には科学的に裏打ちされた日常生活の不自由度によるものが理想だが、請求の簡便性とは相容れない物があり、その妥協点を見つけることが必要である。⑤では、ロービジョンケアを実施している施設の取りまとめが、各団体により異なり、視覚障害者に必ずしも正しい情報を提供しているとは言い難いのが現状である。⑥では県によってはロービジョンケアを行っている施設が充足されているのか疑問のところがある。全てにおいて解決策を示すことはできないが、そのような問題点があることをロービジョンケアに携わる者が知っておくことは意義があると考える。
3.今後の展望として
私が最も期待していることは、再生医療やiPS細胞などの最新治療により得られることになるであろう今まで経験したことのない新たな視機能に対するロービジョンケアの研究である。本来、それらの研究は、最新医療の研究と並行して行われていかなければ、最新治療により受けられる患者の恩恵は最小限のものになってしまう危険性がある。
それに各県単位であるが、スマートサイトのようなネットワークができ始めていることが、ロービジョンケアの充実に不可欠であることを説明する。また、将来のロービジョンケアの中で今後、重要視すべきことは、視覚障害者の就労の問題である。JAMA Ophthalmolという雑誌の最新号に視力障害者には無職者が多いことが証明されており、この問題が重要性がわかる。
最後に、私自身が考える本邦でのロービジョンケアのあり方についていくつか提言したい。それらは、
①ロービジョンケアにおいては眼科医のみならずあらゆる職種に協力を仰ぐこと、
②眼鏡店のロービジョンケアへのさらなる介入と全国展開への期待、
③補助具関連企業の世界的標準化、
④特殊支援学校や視覚障害者団体との情報の共有化、
⑤ロービジョンケアに関する研究の推進である。
どれもすぐに実現できるものではないが、私自身はその実現に向けて努力を惜しまない考えである。
【略歴】 加藤 聡 (カトウ サトシ)
1987年 新潟大学医学部医学科卒業
東京大学医学部附属病院眼科入局
1990年 東京逓信病院眼科
1996年 東京女子医科大学糖尿病センター眼科講師
1999年 東京大学医学部附属病院分院眼科講師
2000年 King’s College London, St. Thomas’ Hospital研究員
2001年 東京大学医学部眼科講師
2007年 東京大学医学部眼科准教授
2013年 日本ロービジョン学会理事長
2014年 東大病院眼科科長兼任
現在に至る
【後記】
穏やかな表情ではあったが、思いや熱意のこもった講演でした。 〜 本当の治療はケアも含む。ケアができなければ専門家とは言えない。再生医療等の最新医療の研究と並行して行われていかなければ、最新治療により受けられる患者の恩恵は最小限のものになってしまう危険性がある。医療の変革に伴い、ロービジョンケアそのものの改革も必要となる。そうした事態にも備えていかねばならない。。。。