演題:『歩行訓練士は何を教えるのかー
自分の歩行訓練プログラムを考えるために』
講師:清水美知子(歩行訓練士;埼玉県)
日時:平成20年1月9日(水) 16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要旨】
はじめに今回は中途視覚障害者を対象とした話です、と前置きがあった.
「見えない人が安全に街を歩けるのか?」という命題から話し始めた.現実には、車輛交通の増加、スピードや移動形態の異なる歩行者の混在、低い縁石など、街がますます歩きにくくなっている.加えて、歩行者(視覚障害者)の高齢化、実働する歩行訓練士の地域格差(都市部には多いが、地方は少ない)という状況がある.これらの問題の突破口をどこに求めるのか?何よりも視覚障害者自身が「歩行訓練」が何かを、理解して批判できるようにならなくてはならない.
「歩行訓練」は「街を歩く訓練」である.「街を歩く」ことは、 単純化すると以下のようになる.1)単路(街区の辺)を歩く、2)角を見つける、3)角を曲がる、4)道路を渡る、5)方向を定位する(単路と「平行」、横断する道路と「垂直」)、6)杖の技術(物と身体の接触、段の踏み外しを寸前で阻止しする) これらが歩行訓練で習得する基本技能である.
目的地へ行き着くためには、「ランドマーク」を辿る.ランドマークを知る方法としては、現地調査、人に聞く、地図などがある.よく視覚障害者は「メンタルマップ」を持つべきと言われるが、観念的すぎる場合がある.実際には、メンタルマップを意識するよりも、具体的なランドマークを記憶する方がわかりやすいのではないか?ランドマークは人により様々に異なる.自分に合ったランドマークの選別も歩行訓練の重要な課題である.
「歩行訓練士が少ない」「訓練施設が遠い」場合は、自分の生活圏で街歩きの基本技能を練習すると良い.しかし屋外の歩行の場合、転倒、物との衝突、車輛との接触の危険があるので、家族・友人・ガイドヘルパー・ホームヘルパーといった身近な人に練習の見守りを依頼する.練習を始めるにあたっては、歩行訓練士と、練習の課題・場所・頻度・想定される危険等を話し合い、その後定期的(週一回あるいは月一回程度)に観察評価を頼む.この形態であれば、歩行訓練士が少ない地域でも歩行訓練は可能である.
毎日の生活に、一人歩きの練習時間が組み込めないかを考える.例えば、家族やガイドヘルパーとの買い物あるいは散歩ルートの中に、10メートルでも一人で歩ける所がないかを検討する.一足飛びに都心の雑踏を歩くことを考えず、まず、自分の生活圏で「歩く場所」を作り、一人歩きの楽しさを感じ、自分の歩行能力を確認してほしい.
【略 歴】
歩行訓練士として、
1979年~2002年 視覚障害者更生訓練施設に勤務、
その後在宅の視覚障害者の訪問訓練事業に関わっている。
1988年~新潟市社会事業協会「信楽園病院」にて
視覚障害リハビリテーション外来担当。
2003年~「耳原老松診療所」視覚障害外来担当。
2004年~特定非営利活動法人 Tokyo Lighthouse 理事
視覚障害リハビリテーション協会 理事
http://www.ne.jp/asahi/michiko/visionrehab/profile.htm
【後 記】
清水さんがお話される時は、いつも多くの方が参加されます。今回は、なんと遠く鹿児島、長崎、仙台からの参加者があり、最初から寒さも吹き飛ばすような熱気の中で始まりました。
講演のあとの、参加者が皆で感想を語り合います。異口同音に「『歩く』ことを、こんなに深く洞察した話を聞くのは初めて」と述べていました。今回の清水さんのお話を聞いていると、「歩くこと」とは「生きること」と同じように聞こえてきました。いつも清水さんは「当事者の声が大事です。何か困ったことがあったら声を出して下さい」とよく言います。主体性を大事にします。
歩行訓練士は、ただ歩く技術を教えるのではなく、如何にして思い通りに歩くことが出来るか、当事者自身に考えさせることが大切と説きます。結局「教える」ということは、「考えさせる」ことと思い知らされます。これは学校の先生も、医者も同じかなと感じました。 いつものように、いや、いつも以上に考えさせられた一時間半でした。