糖尿病は洋の東西を問わず太古からあり、死に至る病である。1921年のインスリン発見(BantingとBest)により治療は大きく進展したが、それでも多くの合併症に脅かされる病であった。
大森安恵先生が東京女子医大を卒業して、中山光重教授の教室(糖尿病)に入局したのは1956年。当時は我が国において糖尿病患者が増加し始めた時期である。1957年日本糖尿病学会設立、1961年メトホルミン発売、1965年スルホニルウレア(SU)発売と糖尿病治療の夜明けの時代であった。以来、先生は治療・教育・研究に邁進し、糖尿病治療のど真ん中で60年活躍している。
血糖が高いと言われてすぐ病院を受診中断することなくコントロールを守り続ければ、糖尿病があっても合併症に苦しむことはない。そしてこと糖尿病に関しては、『知らなかった』『無知であった』ということは、悲しみを通り越して恐ろしいものである。
「糖尿病でも母子ともに健康な出産ができる」-を日本の常識にした取組みは、特筆すべき業績だ。人間の魅力溢れる大森先生が、豊富な経験の引き出しから最良の治療を実践するべく奮闘し続ける日々の中、医師としての心意気、そして患者さん・医療者への提言を綴った本書はお勧めだ。
【目 次】
1 患者さんとともに(教えることと教わること/名木 有馬のハルニレ/糖尿病に関する間違いだらけの常識 ほか)/
2 医療者として(カッパドキアへの思い/すべての分野が専門家の集団ー糖尿病センター/心を耕すことは、頭脳を耕すより尊い ほか)/
3 桜によせて(ひょうたん桜と糖尿病センター/「初波奈」の桜とおかみさん/神子の山桜と全国済生会糖尿病セミナー)
【著者略歴】 大森安惠(オオモリヤスエ)
1956年東京女子医科大学卒業。翌年、同大学第二内科入局。1974年同第二内科助教授。カナダのマクギル大学留学。1975年同糖尿病センター助教授。1977年にスイスのジュネーヴ大学留学。1981年同糖尿病センター教授。1991年より同センター所長兼主任教授。1997年定年退職。名誉教授。1998年国際糖尿病・妊娠学会(IADPSG)日本代表。2002年東日本循環器病院(現・海老名総合病院)糖尿病センター長
「糖尿病と向き合う 女性医師六〇年の軌跡」
発売日: 2016年05月28日
出版社: 時空出版
サイズ: 単行本
ページ数: 261p
定 価: 2,268円(税込)2,100円(税抜)