「生きる」を変える,携帯端末と視覚リハ事情
2013年9月23日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
    ランチョンセミナー(共催:新潟ロービジョン研究会)講演要旨
「生きる」を変える,携帯端末と視覚リハ事情
 三宅 琢(Gift Hands)、氏間 和仁(広島大学) 
   平成25年6月22日 新潟大学駅南キャンパス「ときめいと」 

【講演要旨:第一部(三宅)】
 iPadやiPhoneは触知可能なホームボタンに代表される、視覚障害者の使用を考慮した構造的なユニバーサルデザインを標準装備したデバイスである。またこれらのデバイスは障害者補助機能であるアクセシビリティが充実している。本講演ではアクセシビリティ機能のうちズーム機能や白黒反転機能がどのようなシーンで活用され、ホームボタンへのショートカット機能を有効にする事でより実践的に活用できる機能となる事を解説した。 

 次にアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)の重要性について解説した。タブレット端末では購入後にアプリを購入する事で、多くのエイドをアプリとして一つの端末内で持ち歩ことが出来る。代表的なアプリである電子書籍リーダーでは書籍の文字サイズやフォント、背景色等が患者各人に合わせて設定可能であり、この事は紙ベースの書籍を拡大して閲覧する行為とは根本的に読書の意味を変える。その他、カメラアプリを利用した簡易式の携帯型拡大読書器としての活用をはじめとした活用事例を紹介し、患者の生活がどのように変化したかについて報告した。 

 携帯端末を用いたロービジョンケアとはデバイス自体の機能説明ではなく、その先にあるアイデアの紹介である。視覚障害者たちの日々の生活の中で生まれたニーズと、それを解決するアプリの選定および紹介こそがロービジョンケアであり、その普及にはアクセシビリティ機能等に対する正しい理解が必要である。またエイドとしての導入前に家族や仲間と間に絆が存在した症例では、一般機器であるため導入後には一層彼らの絆が強まっていくのを日々の外来で実感する事が出来る。今後はいかにこれらの絆を構築するかが、エイドとして導入できるかの条件になる事と考えられる。 

【講演要旨:第2部(氏間)】
 はじめに実際に高校の授業でiPadを利用している愛媛県在住の高校生とFaceTimeを用いて,利用の様子を話してもらった。教科書や資料をPDFにしてiPadに保存し,授業中に活用している様子が紹介された。 

 現在,iPadの視覚障害教育での利用は着実に広まっている。私どもの研究では,ロービジョンの視機能に応じた表示を手軽に作り出す,HTMLビューアを完成させ,授業での利用をはじめたのが2000年であった。それ以来,WindowsCEを搭載した携帯情報端末や,WindowsXPを搭載したタブレット端末を利用したロービジョン者の読書環境の向上に関する研究と実践を続けてきた。そういった立場からすると,これまでの夢が実現する機械がようやく登場したといった感覚である。前半の3分の1はこのような内容を紹介した。 

 視覚補償法には,相対サイズ拡大の拡大教科書等,相対距離拡大の拡大鏡,相対角度拡大の単眼鏡,電子的拡大の拡大読書器や拡大パソコン等をあげることができる。iPadはこれらの視覚補償法では実現できないニーズを叶えてくれる。例えば,読書中にルビを大きくしたいときにピンチアウトで大きくできる,大きな視界で大きくして見ることができる,起動したいと思ったら1秒以内に起動できる,機能を追加できるといったニーズをこの1台が叶えてくれる。しかし,iPadを手にすれば,これまでの視覚補償法が不要になるわけではない。これまで視覚補償法とiPadを,目的に応じて使い分けたり,併用したりする目的志向のアプローチが重要である。また,世の中にはタブレット端末は多く存在するが,拡大したいところを即座に大きくしたり,倍率を変えたり,まぶしいと感じたら配色を反転したり,設定するだけで,音声読み上げできたりできるのは,現在のところ,iPad等のiDevicesである。中盤の3分の1では,このようなengagingとaccessibilityのコンセプトで開発された機械の魅力を紹介した。 

 例えば,カメラアプリを使うと,細かな目盛りを大きくして見ることができたり,顕微鏡の接眼レンズの視界を画面全体に拡大して見ることができたり,コントラストが低い映像のコントラストを大きくして映したり,実に様々な応用が可能である。ロービジョンの人たちと広島平和公園を,iPadを持って見学した際,窓ガラスの向こうの展示物をその場で確認できたり,コントラストの小さい影のコントラストを大きくして見ることができた。参加者からは,「これまで,スルーするのが当たり前だった博物館で,見る喜びを感じた。」といったポジティブな感想が寄せられた。終盤の3分の1では,授業や生活の中に浸透し,「見える」ことに喜びにつながっているケースを紹介した。 

 多機能機であるiPadを有効に利用するためには,使用目的を明確にすることが大切のようだ。当事者の見え方から生じるニーズを見極め,これまでの視覚補償法と合わせて,iPadも選択肢に加えて,検討することが大切であると考えられる。 

【略歴】
三宅 琢  日本眼科学会眼科専門医、認定産業医、Gift Hands代表
 2005(平成17)3月 東京医科大学卒業
       同年3月 東京医科大学八王子医療センター 研修
 2007(平成19)4月 東京医大眼科学教室入局
 2012(平成24)1月 東京医科大学 眼科 兼任助教
     永田眼科クリニック 眼科 勤務医(名古屋) Gift Hands 代表
       同年3月 東京医科大学大学院卒業
 2013(平成25)1月 三井ホーム株式会社 産業医 

氏間 和仁 広島大学大学院教育学研究科准教授
 1994(平成6)3月 筑波大学理療科教員養成施設卒業
        同年4月 愛媛県立松山盲学校教諭
 2005(平成17)   3月 明星大学大学院人文学研究科教育学専攻修了
 2006(平成18)  4月 福岡教育大学教育学部講師
 2008(平成20)10月 福岡教育大学教育学部准教授
 2011(平成23) 4月 広島大学大学院教育学研究科准教授 

 2002(平成14) 第10回上月情報教育賞優良賞受賞
 2003(平成15) 第13回特殊教育ソフトウェアコンクール
         特殊教育研究財団理事長奨励賞受賞