『白内障・屈折のロービジョンケア』 根岸 一乃 (慶應義塾大学)
2013年10月24日

『白内障・屈折のロービジョンケア』
 根岸 一乃 (慶應義塾大学医学部眼科学教室)
  シンポジウム「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
  2013年10月12日 第14回 日本ロービジョン学会学術総会(倉敷)

【講演要旨】
 一般に白内障および屈折矯正手術は、視力の改善が期待できるものに行われ、それ以外は適応外であるとされる。ロービジョン患者に関しては、患者が手術を希望しても「適応なし」として放置される場合もしばしばである。これは「視力予後」という観点から見れば正しい判断だといえる。一方で、ロービジョンの白内障患者において、術後矯正視力が0.1未満であってもQuality of Life(QOL)が大きく改善する症例をしばしば経験する。

 近年、白内障および屈折矯正手術は患者のQOLに大きく関与することがわかってきている(文献1-5)。我々は、両眼または片眼で、点眼麻酔下でPEA+IOL(SN60WF, Alcon)を挿入した連続症例155例を対象として術前および術後2か月・7か月の視覚関連QOLの質問票NEI-VFQ25(日本語版version 1.4,コンポ7)、睡眠の質を示すピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、および歩行速度(m/sec)を検討し、白内障術後はNEI-VFQ25が改善し、術前に睡眠障害があった患者のPSQIや術後2か月で有意に改善すること、術前に歩行速度が0.8m/sec(寿命予後不良の基準値)未満の症例の歩行速度が大部分改善することを報告した(文献5)。

 今回は上記の155例の中から、術後矯正視力が0.6以下と不良であった4例(視力不良群)について全症例の平均値と比較したところ、4例中3例において視力の改善度は全症例の平均値より大きく、NEI-VFQ25は大きく改善し、全例においてPSQIは改善していた。寿命との関連が指摘されている歩行速度は4例中2例で改善した。また、白内障手術による屈折変化から4例中2例において眼鏡依存度が軽減した。

 以上より、術後矯正視力の期待できないロービジョン患者においても、白内障手術によって術後にQOLが改善する可能性があることから、白内障手術の適応は視力予後ばかりでなく、QOLへの影響を考慮して総合的に判断すべきであることが示唆された。

【文献】
 1) Ishii K, Kabata T, Oshika T. The impact of cataract surgery on cognitive impairment and depressive mental status in elderly patients. Am J Ophthalmol 2008;146:404–409.
 2) Tanaka M, Hosoe K, Hamada T, Morita T. Change in sleep state of the elderly before and after cataract surgery. J Physiol Anthropol 2010;29:219–224.
 3) Harwood RH, Foss AJE, Osborn F, Gregson RM, Zaman A, Masud T. Falls and health status in elderly woman following first eye cataract surgery: A randomized controlled trial. Br J Ophthalmol 2005;89:53–59.
 4) Yamada M, Mizuno Y, Miyake Y; Cataract Survey Group of the National Hospital Organization of Japan. A multicenter study on the health-related quality of life of cataract patients: Baseline data. Jpn J Ophthalmol 2009;53:470–476.
 5) Ayaki M, Muramatsu M, Negishi K, Tsubota K. Improvements in sleep quality and gait speed after cataract surgery. Rejuvenation Res. 2013 Feb;16(1):35-42.

 

【略歴】 根岸 一乃(ねぎし かずの)
 1988年 慶應義塾大学医学部卒業・同眼科学教室入局
 1995年 国立埼玉病院眼科医長
 1998年 東京電力病院眼科科長
 1999年 慶應義塾大学眼科学教室講師(兼任)
 2001年 慶應義塾大学眼科学教室専任講師
 2007年 慶應義塾大学眼科学教室准教授
     現在に至る。

 2011年9月 第47回日本眼光学学会総会(東京) 会長
 2015年 6月 第30回 日本白内障屈折手術学術学会(東京)会長(予定)

 


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第14回日本ロービジョン学会学術総会
 シンポジウム2「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
 日時:2013年10月12日(土)16:20~17:50
 会場:第1会場(倉敷市芸文館 メインホール)
 オーガナイザー:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院) 
         佐藤 美保(浜松医科大学)

 演者:門之園 一明(横浜市大医療センター)
    佐藤 美保(浜松医科大学)
    若倉 雅登(井上眼科)
    根岸 一乃(慶応義塾大学)
    栗本 康夫(神戸市立医療センター中央市民病院)
    安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
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