『精神的サポートも「ロービジョンケア」 !』
安藤伸朗 (済生会新潟第二病院)
シンポジウム「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
2013年10月12日 第14回 日本ロービジョン学会学術総会(倉敷)
【講演要旨】
1.ロービジョンケアのイメージ
ロービジョンケアというと、どんなものを思い浮かべるだろうか?ロービジョンケアに対するイメージを、全国の眼科医143名に問い合わせた(安藤伸朗、白木邦彦、川瀬和彦、仲泊 聡、西田朋美、鶴岡三恵子;2010年1月眼科手術学会)。結果は以下の通りであった(複数回答可)。1位:拡大鏡・拡大読書器処方(133名)93%、2位:日常生活用具の紹介(111名)78%、3位:遮光眼鏡の処方(109名)76%、、、、予想通りの結果であった。
しかし意外だったのは、眼科医が行うべきものが、それに続いていたことだ。4位: ニーズを聞く(106名)74%、5位:情報の提供(104名)73%、6位:身体障害者手帳(102名)71%、8位:心のケア(86名)60%、、、、すなわち眼科医にとってロービジョンケアはかなり身近なものである。眼科医が行うべきロービジョンケアとは、1)治療、2)病状説明・術前/術後の説明、3)精神的ケア、4)診断書作成、5)情報の提供、、であるが、これは特別なことではなく、殆ど日常的に行っている眼科診療の仕事である。
2.眼科医は、何故ロービジョンケアをやらないのか?
眼科医の評価は、「治してなんぼ」である。的確な診断と綺麗な手術で、より良い視力を提供できる医師が最も価値があり、尊敬もされる。 医師は疾患治療のプロであると認識している。このような状況では、ロービジョンケアは、敗戦処理というイメージが生まれることもありうる。しかし、そうではないことをこれから述べたい。
3.患者は困って来院する
何か困ったことを抱えて来院した患者に対し、医師は要望に応えるべく活躍する。一般的に医師が行うことは、1)治療、2)患者の訴えを聞く、3)患者への病状説明、4)情報の提供である。
一方、患者が期待することは、治してもらうことである。しかし、iPSが臨床に使えるようになった現代でも、全ての病が治るわけではない。治らない患者と対峙した時、医師は如何に向き合うべきか?が問われる。
4.病状説明が大事
医師は患者に対して、説明義務がある。「ヒポクラテスの誓い」は、今でも医師の倫理的規範であり、そこには、「患者に危害や不正を加えないで自分の医術(技芸)の最善を尽くし、差別をせず、生命を尊重する」など、今日でも大いに参考になる医師の倫理が述べられている。しかし現代医療の場で必要とされる倫理的規範はヒポクラテスとは、少し異なる。ヒポクラテスは「医師」が主語であるが、現在、必要とされるものは「患者」が主語である。患者の「自己責任」「自己決定」に繋げるインフォームド・コンセントが求められている。
5.医師に求められているインフォームド・コンセント
患者が自分の病気を受け入れ、病気と闘うためには、正しい知識が必要である。治療法を選択したのが患者自身であるという認識があれば、治療の結果を「自己の責任」であると思うことは可能である。充分な情報と熟慮の末の「自己決定」であったと信じることができれば結果の如何に関わらず、その治療を受けたことを後悔しない。
6.医療の原点
ヒポクラテスの時代より、医療の原点は、「Science 科学・ Art 技術・ Humanity人間」である。世界の外科医である中山恒明は、「病気を治すんじゃない。病気の人を治すんだ」と、常に弟子たちに説いていたという。
7.医師の仕事
メスを身体に使用して訴えられないのは医師の特権である。なぜならば医師は、科学的な根拠を以って技術を施し、病と対処するからである。しかし病気ばかりでなく、患者の背景にあるもの(病人)も意識して医療に当たることは、さらに重要である。立派な論文や名人芸のメスだけで患者を治すことはできない。丁寧な病状説明や精神的ケア(これもロービジョンケアと考えている)が、医師に求められるのである。
【略歴】 安藤 伸朗(あんどう のぶろう)
1977年3月 新潟大学医学部卒業
1979年1月 浜松聖隷病院勤務(1年6ヶ月)
1987年2月 新潟大学医学部講師
1991年7月 米国Duke大学留学(1年間)
1992年7月 新潟大学医学部講師(復職)
1996年2月 済生会新潟第二病院眼科部長
2004年4月 済生会新潟第二病院第4診療部長
現在に至る
2011年12月 第17回日本糖尿病眼学会総会(東京国際フォーラム) 会長
2013年 6月 第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会(新潟) 大会長
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第14回日本ロービジョン学会学術総会
シンポジウム2「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
日時:10月12日(土)16:20~17:50
会場:第1会場(倉敷市芸文館 メインホール)
オーガナイザー:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
佐藤 美保(浜松医科大学)
演者:門之園 一明(横浜市大医療センター)
佐藤 美保(浜松医科大学)
若倉 雅登(井上眼科)
根岸 一乃(慶応義塾大学)
栗本 康夫(神戸市立医療センター中央市民病院)
安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
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