報告:第223回(14‐09月)済生会新潟第二病院眼科勉強会 「地域連携」
2014年10月2日

「地域連携って何?-済生会新潟第二病院の連携室を通じて-」
  斎川克之(済生会新潟第二病院 地域医療連携室長)
   期日:平成26年9月10日(水)16:30~18:00
   場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 



【講演要約】
はじめに
 当院は、新潟市西部にある425床の地域医療支援病院です。当院がある新潟市内は、高度急性期や専門性の高い医療を担う医療機関が集中している地区です。その中にあり、当院の医療連携に対する姿勢は、保健医療福祉をトータルに合わせ持つ済生会病院の使命として、自院のみならず地域の連携体制構築に力を注いできました。その取り組みは、医師会との登録医制度を基盤として、病院機能を開放するオープンシステム稼働、開放型病院の認可、そして新潟県内初となる地域医療支援病院の承認など、医療連携の重要性が認識されるかなり早い段階から「連携」を強みとしてきた歴史があります(注1)。

診療報酬改定とこれからの地域連携とは
 4月の診療報酬改定(注2)での重点課題は、まさに一点「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実」、連携が主役であるという色が大きく出されたものとなりました。いわゆる地域包括ケア概念のもと、入院、外来共に医療機関の役割分担の推進が今まで以上に大きく謳われました。今回の改定は、2年に一度の通常の改定の意味合いだけではなく、今秋と謂われる病床機能報告制度へつながる重要な位置づけとなる改定であることを認識すべきだと思います。これも全ては超高齢社会を迎える2025年に向けたロードマップの一連の施策です(注3)。先の「社会保障・税一体改革」で示された2025年の姿までもう間近、連携実務担当者はどう業務を行っていくべきなのか真摯に受け止めたいところです。連携室が設置されてから約10年、その業務は複雑、多岐に及び大きな変化と変遷を辿ってきました。

 連携室自体この10年を振り返ると、事務職員が中心となり予約システムを構築し、地域から紹介患者を獲得することに力を注いできたフェーズから、MSWや看護師が職種間の連携により入退院調整を深化させてきたフェーズへ移行、そして現在の地域包括ケアの時代に入りました。これからは、もう一段階ステップアップし、院内外での地域連携の役割の重要性を経営層に的確に伝えていくことが病院運営に必要な時代に突入しました。地域連携、地域包括ケアシステムの推進が謳われている状況においては、地域における自院の立ち位置の理解と、実際に地域のかかりつけ医や病院との医療連携をいかに上手く展開できるかが経営に直結することとなります。

地域の連携が強まるように
 他の医療機関から、いかにスムーズに紹介患者を受け、またその後に地域に帰すか、そこには地域からの強い信頼関係を基盤とした連携の仕組みがあればこそであり、院内だけの取り組みだけでは不十分です。自院だけでなく「地域力」をいかに高めることができるか、地域の全体最適を考える必要があります。地域の各医療機関が持つ医療資源やマンパワーを合わせて、最大限に個々のパフォーマンスを発揮できるようにするための「接着剤」が連携実務担当者の役割だと考えます(注4)。

 数年前から新潟市では、市内8区に在宅における多職種間の地域連携ネットワークを構築することに力を入れてきました。当院も新潟市と連携しながら、市内に「多職種連携の会」を立ち上げています。そこでは、かかりつけ医間の連携強化、顔を合わせお互いを知る場と学ぶ場作り、情報共有と相談の場(メーリングリスト)の提供などを行っています。また、当院は2014年度から新潟県在宅医療連携モデル事業の一つとして承認を受け、当院のある西区を中心に在宅医療での連携ツールとしてIT活用や、当院がこれまで培ってきた連携を推進・強化するための企画や運営を展開していく予定です。当院は、かねてから新潟市保健所や新潟市医師会と日常の業務において連携を密に活動してきました(注5)。 

 地域医療支援病院として、地域の連携システム構築は使命です。国の示す地域包括ケアシステムには、市町村が積極的に関係機関との調整を行い整備していくべきと謳われています。連携実務担当者として、今こそ現場の連携の声・実態を行政・医師会に伝え、共に問題解決に向かい地域力を高める活動につなげていくことが重要です。 

まとめ
 先にも述べてきたように、今回の診療報酬の改定は、高度急性期・急性期・亜急性期をより明確に区分していく意思表示がはっきり見えており、自院のこれから先を見据えた重要なタイミングとなっています。その地域の患者動態、急性期病床数と亜急性期病床数などの的確なデータ把握と分析が連携室から出され、それらを基に院内で活発に議論がなされ、これからの病院の方向性を定める。そうしたストーリーが、病院一丸となった自院の総合力の強化につながります。我々は、そうした場作りをするためにも、常日頃から連携実務担当者としての「ブレない」姿勢を持ち業務に望み、自院のみならず地域の実態を含めた情報提供と問題提起をすること、また院内にその議論の土壌を作ることが使命となります。
 

(注1)済生会の歴史
 明治44年2月11日、明治天皇は時の内閣総理大臣桂太郎を召されて「医療を受けることができないで困っている人たちに施薬救療の途を講ずるように」というご趣旨の『済生勅語』に添えてその基金として御手元金150万円を下賜されました。これをもとに伏見宮貞愛親王を総裁とし、桂総理が会長となって同年5月30日、恩賜財団済生会を創立。それ以来、社会経済情勢の変化に伴い紆余曲折を経ながらも創立の精神を引き継ぎ、保健・医療・福祉の増進・向上に必要な諸事業を行ってきました。
http://www.ngt.saiseikai.or.jp/04/gaiyou.html#05


(注2)平成26年度診療報酬改定の概要 – 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000039891.pdf#search=’%E8%A8%BA%E7%99%82%E5%A0%B1%E9%85%AC%E6%94%B9%E5%AE%9A+2014


(注3)2025年の超高齢社会
 平成27(2015)年には「ベビーブーム世代」が前期高齢者(65~74歳)に到達し、その10年後(平成37(2025)年)には高齢者人口は(約3,500万人)に達すると推計される
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0927-8e.pdf#search=’2025%E5%B9%B4%E5%95%8F%E9%A1%8C


(注4)済生会新潟第二病院の取り組んでいる地域医療連携
http://www.ngt.saiseikai.or.jp/04/chiikirenkei.html


(注5)新潟県在宅医療連携モデル事業
http://smc-kanwa.jp/images/download/model_gaiyo.pdf#search=’%E5%A4%9A%E8%81%B7%E7%A8%AE%E9%80%A3%E6%90%BA%E3%81%AE%E4%BC%9A++%E6%96%B0%E6%BD%9F%E5%B8%82

 

【略 歴】 斎川 克之(さいかわ かつゆき)
  社会福祉法人恩賜財団済生会 済生会新潟第二病院
  地域医療連携室長 兼 医事課長
  職種:ソーシャルワーカー、社会福祉士
 昭和46年/新潟県新潟市に生まれる
 平成 7年/東北福祉大学・社会福祉学部・社会福祉学科卒業
 平成 7年/新潟県厚生連・在宅介護支援センター栃尾郷病院SWとして就職
 平成 9年/済生会新潟第二病院に医療社会事業課MSWとして就職
 平成22年/地域医療連携室 室長
 平成25年/地域医療連携室長 兼 医事課長
 新潟医療連携実務者ネットワーク代表世話人
 新潟市医療計画新潟市地域医療推進会議在宅医療部会委員 
 新潟市在宅医療連携拠点整備運営委員会委員 

【後記】
 
斎川さんとは何度もお会いしていますが、恥ずかしながら今回のようなお話をお聞きしたのは初めてでした。高齢化社会の実情と今後の経緯、国の政策、それに準じた地域・病院での対策と連係の構築、、、素晴らしい講演でした。現場の医療者は眼の前のことで手が、そして頭がいっぱいになってしまいますが、こうして全体像を把握し、やるべきこと、進むべきことを示して頂きスッキリしました。
 「地域の各医療機関が持つ医療資源やマンパワーを合わせて、最大限に個々のパフォーマンスを発揮できるようにするための「接着剤」が連携実務担当者の役割だと考えます」、、、そうだったんですね。院内での多職種との連携の必要性も感じました。
 斎川さんはじめ、地域医療連携室の皆様の仕事を理解する機会を持てたことを嬉しく思います。斎川さん・連係室の皆様、今後とも宜しくお願い致します。
 

【次回以降の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成26年10月8日(水)17:00 ~ 18:30 
【目の愛護デー記念講演会 2014】 
(兼 第224回(14‐10月)済生会新潟第二病院眼科勉強会)
  講師:若倉雅登 (井上眼科病院 名誉院長)
  演題:「視力では語れない眼と視覚の愛護」
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 
 @開始時間が17時です 

平成26年11月5日(水)16:30~18:00
 第225回(14‐11月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「世界一過酷な卒業旅行から学んだ、小さな一歩の大切さ」
 岡田果純(新潟大学大学院自然科学研究科専攻修士課程1年)
 @第1水曜日です 

平成26年12月10日(水)16:30~18:00
 第226回(14‐12月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害児者の福祉・労働・文化活動への貢献 ~盲学校が果たした役割~」
 小西 明(新潟県立新潟盲学校 校長) 

平成27年1月14日(水)16:30~18:00
 第227回(15‐01月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障がい者としての歩み ~自分と向き合いながら、社会と向き合いながら~」
 青木 学(新潟市市会議員) 

平成27年2月4日(水)16:30~18:00
 第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害者の化粧技法について~ブラインドメイク・プログラム~」
 大石華法(日本ケアメイク協会)
 

平成27年3月11日(水)16:30~18:00
 第229回(15‐03月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害者の求めた“豊かな自己実現”―その基盤となった教育―」
 岸 博実(京都府立盲学校教諭・日本盲教育史研究会事務局長)