報告:第225回(14‐11月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会  岡田果純
2014年12月5日

演題:「世界一過酷な卒業旅行から学んだ、小さな一歩の大切さ」
講師:岡田果純(新潟大学大学院自然科学研究科専攻修士課程2年) 
 日時:平成26年11月5日(水)16:30 ~ 18:00 
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来  

【講演要約】
 私は1999年6月、小学校3年生の時に1型糖尿病を発症し、以来15年間毎日インスリン注射をしています。1型糖尿病とは、体内からインスリンというホルモンが分泌されなくなり、エネルギーが作られなくなる病気です。そのため、食事の前などに注射をして自分でインスリンを補う必要があります。このインスリンの調整が非常に難しい病気ですが、発症当時の主治医が「インスリン注射をしていれば、なんでもできるよ」と言う言葉をくれました。その言葉通り、病気とうまく付き合いながらバスケ、スキー、マラソンと様々なことに挑戦してきました。そして、病気になったおかげでたくさんの仲間ができました。特に同じ病気の仲間は大切な存在です。 

 新潟小児糖尿病キャンプという、1型糖尿病の子供が集まるキャンプに参加した時、そこでできた友達が「私は給食の前に教室で注射をしているよ」と話してくれました。それまで人前で注射をすることができず、自分の病気を友達に話すなんて考えられなかった私にとっては、衝撃的でした。この話を家に帰って両親に話し、両親が学校にも伝えてくれたおかげで、私も教室で注射をすることになりました。クラスの友達に自分の病気を話した後、友達から言われたのは、「話してくれてありがとう」という感謝の言葉でした。自分が協力をお願いしたのに感謝されるとは思いませんでした。驚いたのと同時に嬉しかったです。それが、私が最初に病気を人に話したときでした。このおかげで友人や両親の温かさに気付くことができました。 

 大学では、アルバイトに旅に、新しい世界を知ることが楽しくなっていきました。そんな時、世界一過酷と言われる砂漠マラソンに挑戦するという先輩の話を聞きました。アタカマ砂漠は南米のチリにあり、平均標高2000m、世界で最も乾燥している地域、昼夜の気温差は40度という環境。そんなところを、食料など自分の荷物は自分で背負い、テント泊をしながら7日間かけて250km走るのがアタカマ砂漠マラソンです。これを聞いた瞬間、「面白そう!」と思い、挑戦を決めました。 

 挑戦を決めてから本番まで、様々な準備と対策を講じました。あのときはがむしゃらでしたが、今考えると「人に話す」「自分にできることをやる」ということを繰り返していました。 

 特に私は1型糖尿病を持っているため、病気のない人よりも多くの準備をしました。具体的には、インスリンの保冷、血糖値変動の細かい観察、食べ物の準備です。インスリンの保冷はアウトドアメーカーの方に相談してタンブラーを用いる保冷方法を考えてもらい、それを薬科大学の教授に相談して温度変化を検証してもらいました。血糖値変動の細かい観察は、新潟大学病院の小児科の先生に相談して、CGMという機械を借りました。これは、5分おきに血糖値を自動で測る装置です。走っているときや、夜中の血糖値の変動も観察できます。これによって走った日の血糖値の変動とそれに対するインスリン量の調整の対策をとりました。食事については、砂漠マラソン経験者や同じ病気のランナーからアドバイスをもらってそれを参考にしました。 

 繰り返しになりますが、こうして挑戦を決めてから本番を迎えるまでは、とにかく「人に話す」「自分にできることをやる」という、小さなことを繰り返しやり、一つ一つ解決しながら進んで行きました。 

 そうして迎えた本番も、小さな1歩の積み重ね、30cm足を前に出すことの繰り返しでした。過酷なマラソンなだけに体験したこともない巨大な足のまめや、重たい荷物を背負うことで生じた肩の痛みとの戦いでもありました。しかし、辛いことだけではなく心が震えるような感動もたくさんありました。目の前に広がる景色は、今まで見たことがないものばかりで、どこまでも続く山脈に巨大な砂丘に突き抜けるような青い空。そして同じゴールを目指す世界中のランナーとの交流も楽しかったし、多くの勇気をもらったおかげで前に進むことができました。諦めず、ただひたすら一歩一歩足を前に出す。その繰り返しで、250kmを完走することができました。 

 このマラソンから学んだこと、それは自分を信じることの大切さと大変さです。人から何を言われても、自分を信じ、ポジティブに考えることで、強い気持ちを持つことができました。しかし、ひとりでは決してこれを続けることができず、応援してくれる人多くの人の支えによって頑張ることができました。自分は1人じゃないということがどれだけ心強いことか、実感しました。 

 「ちょっと言ってみよう」、と人に話して、協力してもらう。「ちょっとやってみよう」、とできそうなことから始めてみる。全て小さな一歩の積み重ねでした。そして何よりも、「病気という難が有ることは、私にとって有難いことだ」と気付き、何事にも感謝の気持ちを持とうと思うようになりました。

 【略 歴】
 1990年 長野県生まれ 新潟県妙高市育ち
 1999年 1型糖尿病発症
 2009年 新潟県立高田高校卒業
 2013年 アタカマ砂漠マラソン(Atacama Crossing 2013)完走
      新潟大学卒業
 2014年現在 新潟大学大学院修士課程2年 

[参 考]
社会人になったら、もっといっぱいレースに出たい!
 http://runport.jp/runner_okada-998.html
アタカマ・マラソン ムービー
 https://www.facebook.com/video.php?v=678209355558261&set=vb.409871089058757&type=2&theater
糖尿病でも何でもできるっていうのは本当にそうだと思います Ⅰ型ひろば
 http://www.dm-town.com/iddmpark/voice6.html 

【後 記】
 メモを取る手が忙しい講演、キーワード満載でした。
  逆境が機会である。ネガティブにとらえるのではなく、ポジティブに置き換えると、自分自身の大きな力となってくる。
  出来ない理由もたくさんある。出来る理由もたくさんあるはず。
  ちょっと言ってみよう。ちょっとやってみよう。
  非日常の中でも、やっていることは日常の繰り返し。
  走れない時は歩け、歩けない時は笑え。
  難が有ることは、有難いこと。
  いつも感謝の気持ちを忘れずに。。。。。 

 いつも感じることがあります。何かを成し遂げる人は元気(覇気)がある。周りの人も明るくする。岡田さんを見ていると正にそのような人だなと思います。もちろん彼女の人生はこれで終わりでなく、これからなのですが。
 来年は、いよいよ社会人。岡田果純さんの今後の活躍を祈念しております。 

================================= 

【次回以降の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成26年12月10日(水)16:30~18:00
 第226回(14‐12月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害児者の福祉・労働・文化活動への貢献 ~盲学校が果たした役割~」
 小西 明(新潟県立新潟盲学校 校長) 

平成27年1月14日(水)16:30~18:00
 第227回(15‐01月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障がい者としての歩み~自分と向き合いながら、社会と向き合いながら」
 青木 学(新潟市市会議員) 

平成27年2月4日(水)16:30~18:00
 第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害者の化粧技法について~ブラインドメイク・プログラム~」
 大石華法(日本ケアメイク協会) 

平成27年2月28日(土)15時開場 15:30~17:00
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室(予定)
 『済生会新潟第二病院眼科「細井順講演会」』
 演題:生きるとは…「いのち」にであうこと
     ~死にゆく人から教わる「いのち」を語る~
 講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス希望館長;滋賀県近江市) 

平成27年3月11日(水)16:30~18:00
 第229回(15‐03月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「視覚障害者の求めた“豊かな自己実現”―その基盤となった教育―」
 岸 博実(京都府立盲学校教諭・日本盲教育史研究会事務局長) 

平成27年4月8日(水)16:30~18:00
 第230回(15‐04月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「知る・学ぶ、そしてユーモアを忘れずに挑戦していくことの大切さ
  ―『慢性眼科患者』の経験から私が学んだこと」
 阿部直子(アイサポート仙台 主任相談員(社会福祉士))