演題:知る・学ぶ、そしてユーモアを忘れずに挑戦していくことの大切さ
―「慢性眼科患者」の経験から私が学んだこと―
講師:阿部直子(アイサポート仙台 主任相談員/社会福祉士)
日時:平成27年4月8日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
【講演要約】
両目のまぶたに先天的な症状を持って生まれた私は、生後まもなくの頃から眼科とのおつきあいが始まりました。以来、40数年経った今も年数回の眼科受診を続けながら日常生活を送っています。
紆余曲折の末に辿り着いた大学院教育学研究科で学んだことが活かせる職種の職員募集が仙台市の市政だよりに載っていることを私に教えてくれた教官のおかげで、大学院修了後はさまざまな障害を持つ方の生活相談支援を担う部署に相談員として就職しました。人よりけっこう遅い「社会人1年生」のスタートを切ったことになります。
そして、たまたま同じ時期に始まった仙台市の地域リハビリテーションモデル事業で視覚障害者支援に関するプロジェクトのいわば「現場スタッフ」の仕事も担当させていただくことになりました。このモデル事業が基盤となって仙台市中途視覚障害者支援センターが仙台市単独事業として2005年に始まりました。今年(2015年)の春でちょうど10周年です。
支援センターでのもっとも中心となる業務は相談です。視覚障害を持つ方やその家族などから寄せられる相談に応じ、情報提供したり、福祉サービスの利用を円滑に受けられるようにするために福祉事務所等での手続きを支援したり、あるいは経済的な基盤を確保するために障害年金の請求手続きに必要な書類集めのサポートをしたり、病気や症状への適応の過程で生じる心理的葛藤につきあったり、見えない・見えにくい状況で生活する上でのちょっとした工夫(感覚の活用、道具の活用など)を助言したり……と、その内容はさまざまです。
市民(視覚障害を持つ人ご本人や家族)から直接連絡をいただく以外にも、例えば病院の眼科や糖尿病内科などに勤務する医師や看護師から入院中の患者さんのことで支援協力の依頼が入り、病棟を訪問して本人・家族とお会いし、退院して後の自宅での生活再開に向けて必要な情報を提供したり手続きを支援したりすることもおこなっています。
また、お互いになかなか出会う機会がなく、それゆえ、ともすると孤立しがちな中途視覚障害者やその家族を主な対象とした「目の不自由な方と家族の交流会」を毎月1回開催しています。さらに、支援者どうしが分野や組織の枠を超えて交流し、お互いの専門分野を話題提供して学びあったり人脈づくりをしたりすることを目的として2000年の夏に始まった「仙台ロービジョン勉強会」の事務局役割を2006年から引き受け、こちらも毎月1回開催しています。
このようにさまざまな視覚障害者の生活設計・生活再建、あるいは眼科の患者さんやその家族が直面する心の動揺や葛藤を整理していく過程にソーシャルワーカーとして直接・間接にかかわる現在の業務を個人的なライフヒストリーを交えながら振り返ってみた時、「自分の体験だけでモノゴトのすべてを考えてはいけない」と思いつつも、ものごころつく頃からの眼科での患児・患者としての経験から得たこと、社会全体からみればマイノリティ(少数者)であるロービジョンの状態で育ち生活してきた体験から学んだことが今の私に少なからぬ影響を与えていると気づかされます。
私の場合、「低い視機能(ロービジョン)のために生じる『見える・見えないを行ったり来たり』とどうつきあうか?」という要素と、「義眼の管理や人工涙液の頻回点眼、痛みや疲れの軽減対策など、いわば『目の内部障害』とどうつきあうか?」という要素に整理されるのではないか、と自分の状況をとらえています。そして、「症状の変化(進行)に対して、心理的に、あるいは具体的な行動技術や道具の活用の工夫などによってどのように適応していくか?」を考えなければいけない場面に直面した時、しんどかったりつらかったりすることがないわけではない、というのが正直な状況です。
しかし、小児眼科(こども病院)時代に患児として眺めた医師をはじめとする多様なかかわり手どうしの連携と役割分担の姿や、国際障害者年(1981年)の1年間にテレビや映画で接した、国内・海外に暮らすさまざまな障害者が自身の障害とつきあいながらも社会の中でいきいきとその人・その人の役割を果たしている/果たそうとしている姿から学んだことは現在、私にとって「思考の基本・お手本」としてとくに強い影響を与えているように思います。
そんな慢性眼科患者としての生活過程を振り返ってみて、疾患(やそのために生じる機能低下・喪失)とよりよくつきあいながら暮らしていくうえで重要なことを考えてみました。
(1)「私もあんなふうになりたい」「なれるかも…」と思えるような良き手本となる人の行動・生きざまに触れることによって気持ちの上で強くなれるように思います。
(2)世界の多様な多民族・多文化事情やマイノリティ事情、弱さに起因する社会問題を知ることによって、疾患や障害のために直面する課題を客観的・相対的にとらえる視点を育むことができるように思います。
(3)失敗や挫折、困難や苦労を「何事も経験」ととらえ直すことによって、心の余裕が生まれるように思います。
(4)教育の力・笑いの力は困難な状況をのりきっていくうえで重要ではないでしょうか。
【略 歴】
兵庫県出身。関西と関東を行き来しながら子ども時代を過ごす。
1995年 同志社大学文学部文化史学専攻卒業
2001年 東北大学大学院教育学研究科教育心理学専攻修士課程修了
2001年 (財)仙台市身体障害者福祉協会に仙台市太白障害者生活支援センター相談員として入職
この間、仙台市地域リハビリテーションモデル事業運営協議会ワーキンググループ委員(2002年~2004年)、中途視覚障害者への地域リハビリテーションシステム研究事業ワーキンググループ委員(2004年~2005年)を経験。
2005年 視覚障害者を支援する会(現在のNPO法人アイサポート仙台)に仙台市中途視覚障害者支援センター相談員として入職
@NPO法人アイサポート仙台
http://www15.plala.or.jp/isupport/
【後 記】
阿部直子さんは、魅力いっぱいな素敵な女性でした。アイサポート仙台は、相談も患者さんのみでなく、医師や医療関係者が訪れるというのはビックリでした。
行政と対決するのでなく、味方につけての活動は、時として制約もあろうかと思いますが、ことをなす王道です。今年創立10周年を迎えたということですが、色々な職種の方々が集ってここまで続けてこられたのは素晴らしいものです。「中途視覚障害者交流会」(毎月)、「仙台ロービジョン勉強会」(毎月)も充実しているようです。
「慢性眼科患者」としてのライフヒストリーでは、ご自身の障害のことをカミングアウトして頂きました。医師は病気の診断と治療を行いますが、生活上のご苦労はあまり知りません。貴重なお話を伺いました。
最後に強調された、知る・学ぶ、ユーモアを忘れずに挑戦していくというくだりは、納得して聞くことが出来ました。阿部先生のお話をお聞きして、改めて魅力をいくつも発見しました。参加者から「軽い語りかけで救われる」という感想もありましたが、明るい語り口は魅力です。ご両親の愛情をたっぷりと受けて育ったのだろうと感じました。
蛇足になりますが、我が国におけるロービジョンケアの先駆者として、弱視学級設立に尽力した小柳美三東北大眼科教授(初代)が、日本眼科学会創立100周年記念誌に紹介されています。「1929年に小柳美三東北大眼科教授がLV児の特殊教育の必要性を訴え、1933年に南山尋常小学校(東京麻布)に全国初の弱視学級が開設された。」 加えて、東大眼科の原田政美先生が、1965年に東北大学教育学部教育心理学科の視覚欠陥学講座に教授として赴任し、視覚障害リハビリテーションに尽力されています。
こうしたことから「仙台が日本のロービジョンケア発祥の地なのでは?」という思いを強くしています。このような背景を知ると、阿部先生が作り上げてきたアイサポート仙台は、偶然ではないという思いがします。創立10年を迎え、これからますます飛躍の時だと思います。今後の活躍を祈念しています。
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成27年5月13日(水)16:30~18:00
第231回(15‐05月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「(仮称)障がいのある人もない人も一人ひとりが大切にされいかされる新潟市づくり条例検討会に参加して」
遁所 直樹 (社会福祉法人 自立生活福祉会事務局長)
http://andonoburo.net/on/3555
平成27年6月3日(水)16:30~18:00
第232回(15‐06月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「我が国の視覚障害者のリハビリテーションの歴史」
吉野由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)
平成27年7月
第233回(15‐07月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
平成27年8月1日(土) 午後
新潟ロービジョン研究会2015
会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
主催:済生会新潟第二病院眼科
要:事前登録
主催:済生会新潟第二病院眼科
テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」
特別講演
1.世界各国と比べた日本のロービジョンケア(仮題)
仲泊聡(国立障害者リハビリセンター病院 眼科部長)
2.眼科医が行うロービジョンケア(仮題)
加藤聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
3.NPOオアシスで行ってきたこと、行っていること(仮題)
山田幸男(新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
パネルディスカッション ~ 「ロービジョンケアに携わる人達」(予定)
司会:安藤伸朗 (済生会新潟第二病院)
1)視能訓練士
西脇 友紀(国立障害者リハビリセンター病院)
2)盲学校
小西 明 (済生会新潟第二病院;前新潟県立盲学校)
3)盲導犬
多和田 悟(盲導犬訓練士)
4)看護師
橋本伸子(看護師/石川県)
5)患者さんから
大島光芳(上越市)
コメンテーター
仲泊聡(国立障害者リハビリセンター病院)
加藤聡(日本ロービジョン学会理事長)
山田幸男(新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
平成27年8月5日(水)16:30~18:00
第234回(15‐08月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「人生いろいろ、コーチングもいろいろ 高次脳機能障害と向き合うこと、ピアノを教えること」
立神粧子 (フェリス女学院大学教授)
-------------------------
参考:新潟ロービジョン研究会2011~2011年2月5日(土)
『前頭葉機能不全 その先の戦略』立神粧子
http://andonoburo.net/on/3495
平成27年9月9日(水)16:30~18:00
第235回(15-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題:街歩きを通して考える社会の視覚障害者観と当事者の心理
講師:清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
平成27年10月10日(土)午後
済生会新潟第二病院 眼科公開講座2015
会場:済生会新潟第二病院10階会議室
テーマ:「治療とリハビリ」
要:事前登録
講演予定者
五味文(住友病院)
高橋政代(理化学研究所)
立神粧子(フェリス女学院大学教授)
平成27年10月14日(水)16:30~18:00
【目の愛護デー記念講演会 2015】
(第236回(15-10)済生会新潟第二病院 眼科勉強会)
演題未定
藤井 青 (ふじい眼科)