報告:『新潟ロービジョン研究会2015』  (7)橋本 伸子
2015年9月6日

 新潟ロービジョン研究会2015は、「ロービジョンケアに携わる人達」をテーマに、8月1日(土)済生会新潟第二病院で行いました。 「報告:『新潟ロービジョン研究会2015』」と題して、研究会での講演を順に報告しています。今回、橋本 伸子(看護師)さんの講演要約をご紹介します。

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報告:『新潟ロービジョン研究会2015』  (7)橋本 伸子
 演題:後悔からはじまった看護師によるロービジョンケア
 講師:橋本 伸子 (看護師;しらお眼科、石川県)

【講演要約】
 なぜ、看護師がロービジョンケアを?これまで何度も聞かれてきた質問である。それは、20年前にさかのぼるが、見えなくなったらどうしようと、頻回に通院していた方が、見えなくなった途端に通院をやめた事がきっかけである。不安への傾聴以外に、自分に、できることがあったのではないだろうかと後悔したからである。傾聴だけでは、その人の明日は変わらない。何ができたのだろうか。

 当時、私は、リハビリテーション施設が整った病院に勤めていたので、見えなくなっても、自分の病院で歩行訓練を受け日常に戻っていけるものだと思っていた。ところが、PT(理学療法士)もOT(作業療法士)も中途失明者の歩行訓練は、行っていないことを知った。それは、驚愕であった。え?では、見えなくなった人たちはどこで歩行訓練を受けられるのだろう?どうやって日常に戻っていくのだろう?ここからの探究がロービジョンケアの入口であった。

 人生半ばにして視覚障害者になる方に、接する位置にいる私たちは、社会資源と繋ぐ窓口になる必要があると強く感じた。それは、病院の会計で高額医療費の説明ができる事と同じように、対象と接する者が知識を持っているべきであると。それが、福祉難民を予防する事にもなるのではないかと。そして、石川県視覚障害者情報文化センターにたどりついた。実際に訪問し、歩行訓練や家事訓練、音声図書の貸し出し、生活相談など事業内容と利用方法について知った。

 私には傾聴以外に、この情報を伝える必要があったのだ。社会資源に、早く繋がるということは、自立への近道となるということである。もし、我々、看護師が地域の社会資源に繋がる情報を持ったならば、眼科通院をやめたかたにも情報を拡散できるルートとなる。それは、大変重要なことである。どれだけ熱心な眼科医がいても、どれだけ優秀な視能訓練士がいても、眼科通院をやめたかたに繋がることは難しい。

 私たち看護師の分布は保健所、市町村、病院、診療所 助産所、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、訪問看護ステーション、社会福祉施設、居宅サービス、事業所、研究機関、看護師養成所と多岐にわたる。

 眼科以外に存在する事が、最大の強みである。風邪をひけば内科を受診するし、腰が痛ければ整形外科には受診するということである。しかし、我々、看護師に向けてロービジョンケアや視覚リハビリテーションについての啓発はあまり行われていない。

 看護師は眼科に従事する職種の中で、職業人口自体が圧倒的に多い。看護師1,571,647人(2014年看護協会)、眼科医13,724人(2010年日本眼科医会)、視能訓練士9,351人(2010年日本視能訓練士協会)である。そんな私たちに向けて、ロービジョンケアや視覚リハビリテーションの教育や啓発を行わない手はない。情報拡散の大きなマンパワーとなるだろう。

 また、私たち看護師は、このように社会資源と繋ぐコーディネーター役も重要であるが、ノウハウを共有するメッセンジャー役にもなる。それは、多くの患者さんから学ぶ事ができるポジションであることを生かし、ベテランの見えにくい方複数から、生活の中の知恵や多くの工夫を学び、そのノウハウを今、その情報を必要としている方に、共有し伝えていくことである。

 私のこれまでの経験では、自分のノウハウを、出し惜しみする人は、一人もいない。例えば、小銭の見分けがつかなくなって困っている。特に10円玉と100円玉がわかりにくい。→横のギザギザを触れば有無で区別できる。または、小銭財布は、1円と5円。10円と50円。100円と500円。と3つに仕分けできるものが便利。という具合に、複数のノウハウを知り情報提供をすることができる。

 さらに、私たちが関わることで期待するのは、ケア自体の発展である。私たちは、排泄にも関われるケアのプロである。これまでは、歩行や移動、文字の見えにくさ、情報障害、教育支援、就労支援について議論されることが多かったが、私たち看護師が多く関わることで、これまで取り上げられることがなかった、清潔の保持や栄養や排泄など基本的な欲求にたいしてのケアの発展が最も期待される。それを実現していくために、今後、看護師を対象にしたロービジョンケアや、視覚リハビリテーションに対しての積極的な教育や啓発が必要である。


【略 歴】
 1991年〜1996年 リハビリテーション加賀八幡温泉病院 外来勤務
              (現在の名称は、やわたメディカルセンター)
 1997年〜2015年 2月 眼科わじま医院勤務
 2015年3月〜   しらお眼科勤務
 「視覚障害者ITサポート友の会」のメンバーでもあり、3人の子供を持つ母でもある。


 
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『新潟ロービジョン研究会2015』
  日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
  主催:済生会新潟第二病院眼科
  テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
   http://andonoburo.net/on/3843

15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
    http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
    http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
   http://andonoburo.net/on/3982

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)
   http://andonoburo.net/on/3990

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)
  http://andonoburo.net/on/3999

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)
  http://andonoburo.net/on/4007

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)