報告:『新潟ロービジョン研究会2015』  (6)多和田 悟
2015年9月4日

 新潟ロービジョン研究会2015は、「ロービジョンケアに携わる人達」をテーマに、8月1日(土)済生会新潟第二病院で行いました。 「報告:『新潟ロービジョン研究会2015』」と題して、研究会での講演を順に報告しています。今回、多和田 悟 (日本盲導犬協会)さんの講演要約をご紹介します。

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報告:『新潟ロービジョン研究会2015』  (6)多和田 悟
 演題:盲導犬とローヴィジョン
 講師:多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)

【講演要約】
 今回の研究会では医療、教育、リハなど様々な分野からの発表があった。ロービジョン(以下LVと略す)に関わる人がこのように多岐にわたるのはそれだけの必要があるからである。私がお話をさせていただいたLVと盲導犬は機能で語ればリハの中でも移動に関する限られた分野であるが当日発表をされたすべての方々のベースに横たわる共通の課題を含んでいることを改めて認識した。

 一人の人が病気や事故など様々な理由により見えにくくなった時、それまで自分が築いてきた人生におけるそれぞれの方法を変えざるを得なくなる事は当事者を含めLVのリハに関わる全ての人の認識である。それは正しい認識であることは当事者も分かっているが分かっていてもそのように出来ない、若しくはしたくないと思うのも当事者なのであろう。

 白杖を自らの歩行補助具として選ぶときの覚悟は白杖の機能の一つである自らの見えにくさを社会に公表することによって周りにいる人間の援助や配慮を求める、これを是とするかどうかであろう。

 盲導犬を自らの歩行補助具として選ぶときには加えて、生き物である犬と暮らす覚悟も求められる。多数の人が自らの視覚機能を使って情報を得て判断することで生活を機能させている中で触覚や聴覚による情報で判断をすることを受け入れるには自らの視覚機能の状態を理解し今までと違う方法で行うことを納得しない限り能動的に自分の人生に自らの責任で関与することは出来ない。

 白杖が触覚的な情報を歩行者が受け取り環境の音を含めた総合的な情報によって歩行するのに対して盲導犬は犬の視覚情報をハーネスを通して触覚の情報として歩行者に伝えて自らの判断で歩行を行うものである。

 白杖歩行はすべての責任が自らにある。盲導犬の歩行は犬に訓練されたパフォーマンスをいつでも、どこでもコンスタントに発揮させるためのメインテナンスが使用者に求められる。以前は(今でも?)良く訓練された優秀な盲導犬を信じてついていけば安全に歩ける、と言われてきた。その為に自らの視覚機能を使えるLVの方は犬のパフォーマンスを邪魔する、犬を信じきれないから盲導犬との関係も築けないから盲導犬歩行の対象にはならない。と言われて来た。

 日本盲導犬協会では盲導犬歩行を歩行に必要な角、段差、(昇降共に)、障害物(地上、頭上、動く)を情報としてコンスタントに歩行者に伝えその判断によって安全な歩行を作っていくものと考えている。犬自身を信じるのではなく、犬が提供する歩行に必要な情報を分析し判断できる自らの能力を信じるように、自らの能力の向上も常に求める。

 盲導犬使用者には犬にコンスタントに情報を提供させるようにメインテナンスすることと生き物としての犬の日常の世話をしなければならない。この要件を受け入れて自らの歩行補助に盲導犬を使いたいと思われる方はどのような方でも盲導犬歩行の対象者になり得る。

 私を人ごみの中で見つけて声をかけることが出来るくらいの盲導犬使用者がいた。彼は見える家族の中では見えない人であった。子供も若く自らの将来に対して視覚機能の低下による失明への恐れ、経済的な自立など多くの不安を持っていた。彼が盲導犬を持とうと思ったのは夕方暗くなるまでに帰らないと見えなくなるために夜も歩けるようにとの思いからであった。ところが共同訓練(盲導犬候補犬を使って歩行指導を行いその期間に犬の世話、盲導犬歩行の原則などを学ぶ)の後半、夜間歩行を科目に入れると途端に足がすくんでしまって歩けなくなってしまった。それまで盲導犬の作業を自らの視覚機能の補助として使っていいたのだが次の日から彼はハーネス(犬に装着された胴輪から出ているハンドル)を触覚的に読むという作業に取り組み数日後の夜間歩行で見えなくても歩けることを実感した。

 彼はLVになって彼が求めた完全な視覚機能と、見えていた自分が正しい自分でこのように見えにくい自分は自分ではないという考え方は、それ以後徐々に変わってきた。彼の妻は私に「彼は犬とあることでSelf-Esteem(セルフエスティーム)を回復した」と伝えてくれた。それまで私はリハのゴールは人の手を借りないで自らが以前のように出来るようになる事(自立)、と考えていたが、その彼との出会い以降、リハのゴールは自らを大切な存在として肯定しその状態のままでも幸せを求めて生きること、と思うようになった。Self-Esteemを回復する手伝いが出来ればリハに関わるものとして喜びである。見えない、見えにくいために歩くことに困っている人はすべて対象者である。
我々を相談を待っています。

【略 歴】
 1974年      青山学院文学部神学科中退
       財団法人日本盲導犬協会の小金井訓練センターに入る。
       (その後、同協会北陸盲導犬訓練所勤務。)
 1982年       財団法人関西盲導犬協会設立時に訓練部長として参加。
 1994年      国際盲導犬連盟のアセッサー(査察員)に任命される。
              日本人では唯一(現在に至る)
 1995年      オーストラリアのクイーンズランド盲導犬協会に
              シニア・コーディネーターとして招聘される。
 2001年      オーストラリアより帰国 
              財団法人関西盲導犬協会のシニア・コーディネーターに就任
             (2004年2月)勇退。
 2004年3月  財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校の教務長に就任。
     4月  財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校 開校
 2008年4月  財団法人日本盲導犬協会訓練事業部ゼネラルマネージャーを兼務
 2012年6月  盲導犬訓練士学校を休止 
             公益財団法人日本盲導犬協会訓練技術・職員養成担当常勤理事就任
 2015年4月 公益財団法人日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事


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『新潟ロービジョン研究会2015』
  日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
  主催:済生会新潟第二病院眼科
  テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
   http://andonoburo.net/on/3843

15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
    http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
    http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
   http://andonoburo.net/on/3982

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)
   http://andonoburo.net/on/3990

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 
  
http://andonoburo.net/on/3999

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア

    橋本 伸子(石川県;看護師)

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)