報告 公開講座2011 「高次脳機能と視覚の重複障害を考える~済生会新潟シンポジウム」 佐藤正純
2011年2月5日

 真冬の新潟に全国11都府県から120名が集い、外の寒さを吹き飛ばすような熱気に包まれ、公開講座「高次脳機能と視覚の重複障害を考える~済生会新潟シンポジウム」を、盛況のうちに終了することが出来ました。この度、講師の先生に講演要旨をしたためて頂きましたので、ここに報告させて頂きます。

特別講演   座長:永井 博子(神経内科医;押木内科神経内科医院)
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 演題:「重複障害を負った脳外科医 心のリハビリを楽しみながら生きる」
 講師:佐藤 正純 
    (もと脳神経外科専門医;横浜市立大学付属病院

     医療相談員:介護付有料老人ホーム「はなことば新横浜2号館」)

【講演要旨】
 障害を負うまでの私は概ね順調な人生を送ってはいましたが、それでも秀才揃いの受験校に入学して自身の限界を見せ付けられた挫折、国立大学医学部に入学するまでの1年間の浪人生活、その在学中の父の早世など、若いうちに抗えない運命に立ち向かうための心の鍛錬をする機会があったのは幸せだったのかもしれません。

 横浜市大救命救急センターに医局長として勤務して、多くの患者さんの生死に立ち会ったことから、医療の限界と医のあずかり知らぬところで神に支配されている人の生死を実感したことは、私の死生感にも大きな影響を与えました。

 脳挫傷による1か月の昏睡から覚醒した時、友人はおろか家族の顔も確認できないほど視覚は失われ、太陽が東から昇ることも1年が365日であることも忘れているほど記憶は失われていたのに、ピアノの前では指が自然に動いてジャズのスタンダードナンバーが弾けたことは残存能力の証明となり、心の支えにもなりました。

 視覚と高次脳機能の重複障害への適切な対応がされないまま社会復帰は不可能と判断されてリハビリセンターを退院しましたが、「これ以上、何をお望みですか?」と言われて、それを挑戦状と感じて自らのリハビリプログラムを立て始めたことが自立に繋がったようです。

 私にとってのリハビリテーション、すなわち全人間的復権の根本は、働き盛りの37歳で障害を負った自分がこのままで社会復帰もできずに人生を終えたくはないという人生の哲学、そして、自身のそれまでの技術と人脈を生かすとすれば、医学知識と臨床経験を生かした教育職で社会復帰を目指すべきではないかという目的。最後にその目的を達成する手段として音声読み上げソフトと通勤のための独立歩行の技術が必要と気づいてその訓練の場所を探したことが社会復帰に繋がりました。特にパソコンに記憶された情報を読み直す反復訓練は脳の可塑性をもたらして記憶障害の克服に役立ちました。

 受傷6年後に教壇に上がって最初の講義を終えた時、生きていて本当によかったと思えた自分は、そこでリハビリテーション(人間的復権)の一段階を達成して初めて障害受容もできたのだと思っています。

 私が今まで精神的な支えとしてきたことは、諦めるのではなく明らめる(障害を負った今の自分の可能性を明らかにする)こと。リハビリの内容を音楽や鉄道マニアといった自分の趣味などの楽しみに結びつけ、小さな結果の達成を喜んでリハビリを楽しむように心がけたこと。過去の自分を捨てて新しい自分を構築するのではなく、過去の経験と現在の可能性を重ね着して豊かな人生(重ね着人生)を築けば良いと思ったこと。瀕死の重傷から神様の導きで生かされた自らを『Challenged』(挑戦するよう神から運命づけられた人)と信じて、自分に与えられた仕事は神様から選ばれて与えられた試練と考えて決して諦めないと誓ったこと、などです。

 これからも医師は一生勉強、障害者は一生リハビリと唱えて、常に楽しみと結びつけ、達成感も確認して心のリハビリを楽しみながら、より高い復権を目指した人生を進んで行きたいと思っています。

【佐藤正純先生の紹介】
 1996年2月、横浜市立大病院の脳神経外科医だった佐藤正純先生(当時;37歳)は、医者仲間と北海道へスキー旅行に行った。スノーボードで滑っていて転倒、頭部を強打し意識不明、ヘリで救急病院に運ばれた。頭部外傷事故で大手術の末、1ヶ月後に奇跡的に意識を取り戻した。しかし、待っていたのは、皮質盲(視覚障害)、記憶障害(高次脳機能障害)、歩行困難(マヒ)という三重苦であった。

 趣味の音楽を手始めに懸命なリハビリを続け、6年後の2002年、三重苦を乗り越え医師免許を活かして、医療専門学校の非常勤講師として再出発した。今でもリハビリを重ねながら講師以外に、重度障害を負った障害者のリハビリ体験について語る講演活動を行い、さらには横浜伊勢佐木町のジャズハウス「first」で健常者に交じってジャムセッションのピアニストとして参加している。

 「障害を負ったからといって人生観を変える必要はありません。昔の自分に新しい自分を重ね着すればいい。1粒で2度美味しい人生を送れて幸せです。」と佐藤先生は語る。 
 参考:http://www.yuki-enishi.com/challenger-d/challenger-d19.html

【略歴】
 佐藤正純 (さとう まさずみ)
 1958年 6月 神奈川県横浜市生まれ
 1984年 3月  群馬大学医学部医学科卒業、
    4月  横浜市立大学付属病院研修医
 1986年 6月 横浜市立大学医学部脳神経外科学教室に入局
       神奈川県立こども医療センター、横浜南共済病院、
       神奈川県立足柄上病院の脳神経外科勤務を経て
 1992年 6月 横浜市立大学救命救急センターに医局長として2年間勤務
 1996年 2月 横浜市立大学医学部付属病院脳神経外科在職中にスポーツ事故で重度障害
 1999年12月 横浜市立大学医学部退職
 2002年 4月 湘南医療福祉専門学校東洋療法科・介護福祉科非常勤講師として社会復帰
 2007年 4月 介護付有料老人ホームはなことば新横浜2号館医療相談員として復職
       湘南医療福祉専門学校救急救命科 専任講師
     筑波大学附属視覚特別支援学校 高等部専攻科理学療法科 非常勤講師
     神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 リハビリ学科ゲスト講師
   などを兼任して現在に至る。
 ・視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)副代表
   http://www.yuimaal.org/
  杉並区障害者福祉会館障害者バンド「ハローミュージック」バンドマスター


公開講座「高次脳機能と視覚の重複障害を考える~済生会新潟シンポジウム」
 日時:2011年2月5日(土)15時~終了18:00
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室

【公開講座プログラム】
 14:30 開場  機器展示 
 15:00~特別講演  
           座長:永井 博子(神経内科医;押木内科神経内科医院)
  演題:「重複障害を負った脳外科医 心のリハビリを楽しみながら生きる」
  講師:佐藤 正純 
     (もと脳神経外科専門医;横浜市立大学付属病院
      医療相談員:介護付有料老人ホーム「はなことば新横浜2号館」)

 16:10~教育講演  
  座長:安藤 伸朗 (眼科医;眼科医済生会新潟第二病院)
  1)演題:高次脳機能障害とは? 
    講師:仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院;眼科医)
  2)演題:「高次脳機能障害と視覚障害を重複した方へのリハビリテーション」
    講師:野崎正和(京都ライトハウス鳥居寮;リハビリテーション指導員)
  3)演題:「前頭葉機能不全 その先の戦略
        ~Rusk脳損傷通院プログラムと神経心理ピラミッド~
    講師:立神粧子 (フェリス女学院大学)
 17:30 討論
 18:00 終了 参加者全員で会場の後片付け