報告『新潟ロービジョン研究会2016』 1)橋本伸子
2016年11月24日

報告『新潟ロービジョン研究会2016』 1)橋本伸子
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 

 新潟ロービジョン研究会2016は、10月23日(日)有壬記念館(新潟大学医学部)で行いました。研究会での講演を順次報告致します。今回は、橋本伸子さんの講演要約です。 

演題:『看護師が関わるとこんなに変わるロービジョンケア』
講師:橋本 伸子(看護師;石川県 しらお眼科)

【講演要約】
Ⅰ.はじめに
 多くの方は、ロービジョンケアというと、眼科医や視能訓練士が中心となると考えていることと思う。しかし、実は多くの職種の方がさまざまに関わる事ができる。そしておのおのの立場でケアに加わることで、広く深いケアになる。 

Ⅱ.看護師が関わると何が変わるの?
1)ケアの視点
 看護師はケアのプロである。かつ、患者さんの意見や不満を、よく聞く立場にあることを強く意識している。それは、ロービジョンケアの領域でも同様だ。私達看護師が関わったなら、まず最初に出てくるのは、見えにくくなってからの排泄の自立、栄養や清潔の保持など生活の自立についてだ。

 なぜなら、私達には、初めから自立支援のための援助が叩き込まれている。残存機能を活用して、地域でいかに自分らしく自立して生活していけるか。それは、私達が他科で経験している脳血管障害の後遺症で麻痺が残った方への援助や、脊髄損傷で車椅子で生活をするための援助と全く同じ考え方なのだ。 

2)羞恥心を伴う排泄ケアにも踏み込む
 私達が、まず最初に考えるのは、もっとも人に頼みたくない排泄の自立だろう。こういう羞恥心を伴う問題にも当然のニーズとして踏み込める。皆さんは、自分の勤務する職場や駅などでトイレに使いにくさがないか考えた事があるだろうか?トイレの流し方に戸惑った経験はないだろうか?

 従来のスタンダードなタンク横のカランが付いてるタイプ以外に、手動及び自動センサー、あるいは壁にパネル式のボタンがあったりと、流し方が多様化している。なぜなら、JIS企画では、触知記号の位置や意味が決まっていない。決まっているのは、起点になるボタンにマークを使用するとの方針のみだ。そのため、触知記号をどのボタンに採用するかはメーカー独自の対応となっている。

 これでは、慣れた場所のトイレ以外は使いにくい。トイレの不安があると外出が億劫になる。そのため、活動が低下している場合に、要因の1つとして排泄に対する不安が無いか、真剣に考えなくてはいけない。 

3)視機能だけではなく、その人全体を総合的に捉える
 見えにくくなったという訴えがあり、視機能に変化はない時、私たちは、生活のリズムや質に変化がないだろうかと考える。睡眠はとれているだろうか?食事はとれているだろうか?体重減少はないだろうか?他の基礎疾患の有無、コントロール状態はどうだろうか?と考える。

 食事についても、クロック式の配膳ということばかりでなく健康に必要な栄養が取れているかという視点で考える。生活背景や環境、生活習慣、家族での役割、経験値などを含めた視点で考える。 

Ⅲ.私が行っているロービジョンケア
 私が多く関わるのは、見えにくさを訴えられる成人のケアだ。大切にしているモットーは『人にお願いする事が1つでも減るためのケア』であり、自立を妨げる支援にならないように注意している。

 具体的にどんな事をしているの?と問われると特別なことはない。例えば、皆さんは、ご存知だろうか、目の前にいる患者さんが、どうやって通院しているか?朝、起きてから病院に到着するまでの生活を?

 私達看護師は、患者さんのニーズを良く知っている。気軽に話せる関係性を日常から築いている。何か私にできる支援はないか?というスタンスではない。逆である。こちらが学ぶ姿勢である。彼らがやってのけている日常生活から知恵と工夫を拝借する。それは、今、不便を感じているかたのニーズと合致する事が多い。そのコツをメッセンジャーとして伝授していく。そこで、また一緒に考え、新しい工夫が生まれる事を共に楽しみながら行っていく。例えば、ルーペの固定が上手く出来ない時は、ルーペの達人の技から学んだり、手の癖を見てコツ要らずの小道具を作成したり、小銭の仕分けの工夫や、毎日買い物には行けなくても困らない作り置きメニューの工夫、学校や町内会の役員のこなし方や、雨の日に白杖と傘で両手が塞がる時の工夫などと学ぶことは多い。現場だからこそ得られる情報である。つまりは、教えるケアではなく、教わるケアなのである。 

Ⅳ.おわりに
 看護師の行うケアとは、目の前の人が何か困っていないか、どうしたら良いかを毎日毎日気に掛け、解決法を一緒に考えて他人(先輩)から学ぶことの繰り返しである。

 看護師が関わると視点が変わるように、他(多)職種が関わる事で、より細やかなロービジョンケアが行えるようになり、ロービジョンケアは発展し拡散することができる。今回タイトルを『看護師が関わると』としたが、これは、例えば『栄養士が関わると』や、『内科医が関わると』『〇〇が関わると』と何でもありである。自分に出来ることに置き換えてると、多くの細やかなロービジョンケアが生まれる。その(他)多職種連携と拡散こそが大事であり、これから必要になってくると考えている。 

 

【プロフィール】 橋本 伸子(看護師;石川県 しらお眼科)
 1991年〜1996年 リハビリテーション加賀八幡温泉病院 外来勤務
          (現在の名称は、やわたメディカルセンター)
 1997年〜2015年 2月 眼科わじま医院勤務
 2015年3月〜  しらお眼科勤務
・3人の子供を持つ母
・「視覚障害者ITサポート友の会」メンバー
・平成25年度石川県バリアフリー社会推進賞福祉用具部門 優秀賞(iPadコロコロ号)
・2016年 i see Working Awards 就労アイデア『価値変換賞』
 ロービジョンケアは、いつもお世話なってる地域の皆様への恩返しであり、町医者に勤務する私にできる地域還元だと考えてる。 

【橋本伸子先生の紹介】
 看護師はケアの専門家。橋本さんによると、「ロービジョンケアがケアであるなら、看護師の力は必要なはず。しもの世話でも何でもやります。看護師は、健康維持、栄養や排泄、清潔保持さらにはセルフケア支援を行うことが出来ます。すなわち視機能だけでなく、全体として捉え残存機能を最大限にいかすことが出来るのです。」
 私は、いままでこんなことを言った看護師を見たことがありません。正論を堂々と言える人。開業医の看護師であり、かつ地元でiPad活用教室を主催する。ご本人は意識していないが、Think globally, act locallyを地道に実践中。
 彼女が将来の日本のロービジョンケアを変える一人であることを確信しています。ご注目ください。

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新潟ロービジョン研究会 2016
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 

0.はじめに
   安藤 伸朗(済生会新潟第二病院;眼科医)
1.【第1部 連携を求めて】
 1)看護師が関わると、こんなに変わるロービジョンケア
   橋本 伸子(しらお眼科;石川県白山市、看護師)
 2)情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア
   三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)
 3)視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室
   ○山田 幸男 田村 瑞穂 嶋田 美恵子  久保 尚人
   (新潟県視覚障害者のリハビリテーションを推進する会;NPOオアシス)
2.【第2部 眼科医療と視覚リハビリ】
 1)最大のロービジョン対策は予防と治療:私の緑内障との闘い
   岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科;岐阜県多治見市、眼科医)
 2)新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医
   小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)
 3)我が国初の眼科リハビリテーションクリニック(順天堂大学)
   ー開設当時を振り返ってー
   佐渡 一成(さど眼科;仙台市、眼科医)
 4)眼科医・原田政美の障害者福祉理念と功績
   香川 スミ子(元 浦和大学)
3. 【第3部 熊本地震を考える】
  「熊本地震と災害時視覚障害者支援」
   出田 隆一 (出田眼科院長;熊本)
4. おわりに  
   仲泊 聡(神戸理化学研究所;眼科医)