報告【新潟ロービジョン研究会2017】 1)高橋政代先生
2017年11月24日

報告【新潟ロービジョン研究会2017】 1)高橋政代先生
  日時:2017年09月02日(土)
   会場:新潟大学医学部 有壬記念館 2階会議室

 済生会新潟第二病院眼科で2001年開始(2001年は2回開催)、17回継続した「新潟ロービジョン研究会」は、新潟から眼科医療そして視覚リハビリテーションの情報を発信して参りましたが、今回の第18回が最後となります。ここまで続けてこれたのは、皆様のご支援のお蔭です。改めて感謝申し上げます。
 今回の研究会で行った4つの講演から、高橋政代先生の講演要約をアップします。


演題:ロービジョンケアとの出会い   
講師:高橋政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)

【講演要約】
 iPS細胞を用いた網膜の再生医療は他家移植という第2のステージに進み、標準治療としての可能性を追求している。期待はますます高まっているが、正常に戻るというような視機能回復を望めない初期の再生医療では、患者ケアや術後のリハビリテーション(ロービジョンケア)が必要である。

 このような考えに至った背景には、アメリカのソーク研究所留学を終えて帰国後再生医療の対象となる網膜色素変性の専門外来を担当したからである。それまで詳しくは知らなかったこの病気の診療に大きな問題があることにすぐ気付いた。その当時網膜色素変性は、診断されると「遺伝病です。失明します。治療法がありません。」それだけを伝えられることが多かった。

 患者さんはどうしたら良いのかもわからず大きな不安を抱えて、ただただビタミン剤をもらいに病院に通うだけであることを知ったのである。紹介患者がほとんどの大学病院の外来では、「必ずしも失明するわけではありませんよ」というだけでほっとされて泣かれる方がとても多かった。

 これはおかしいと思った。患者に幸せと安心を届けるべき医療から間違った情報が伝わり余計な精神的ストレスを生み出している。正しい情報や有用な情報を何とか伝えたい。私にとってロービジョンケアは補装具ではなく、精神的ケアが入り口であった。 

 1年ぐらいどうしようかと困っている時に患者さんの中の森田茂樹さんが京大で拡大読書器の紹介をさせて欲しいと申し出てくれた。これは渡りに船。時間と知識があるけれど場所と対象患者を持たない森田さんとその逆の私。かくして当事者とロービジョンケアの素人が行うロービジョンケア外来が京大病院眼科で始まった。

 業界の方々はヒヤヒヤしてみていたであろう。しかし、私には森田さんから患者側から見たロービジョンケアをたっぷり学んだ貴重な経験であった。違う角度から入ったことでよかった点もあるのかもしれない。その後、京都視力障害者協会の協力も得て、視能訓練士の方も熱心に参画して徐々に形ができた。 

 その頃から安藤先生に新潟に呼んでいただいて、いろんな人に出会った。今一緒に外来をやってくれているカウンセラの田中桂子さん、iPadでデジタルロービジョンケアを広めている三宅琢先生、そしてアイセンター設立に向けて合流してくださったロービジョンケア総本山の仲泊聡先生、神戸のロービジョンケアの土台は新潟の会で培った人脈から生まれている。 

 本年12月に研究と臨床、そしてロービジョンケアや福祉がワンストップで受けられる神戸アイセンターが開院となる。入り口のフロアは公益法人NEXT VISIONのフロアである。バリアフリーならぬ段差だらけの「バリアアリー」であるが、そこに見えにくい人もそうでない人も安心して楽しめるユートピアを作りたい。

 さだまさしの小説「解夏」にもあるように、外来で出会う患者さん方の中では視覚障害が重篤になってからよりも視機能が低下していく途中の苦悩や不安が強いように感じる。まだ生活に不自由もないようなその時期の不安や悩みは極力少なくし、自由な心で将来の生活を思い描けるようになってほしい。 

 日本は旧来重度視覚障害に対する福祉は整えられていたが、そのもっと前、軽度障害の頃からのケアが重要であると感じる。網膜剥離の手術でも同じであるが、早期の治療が有効で、一度固まってしまうとそこから治療することは難しい。ロービジョンケアも視機能の低下によって自分で活動を制限してしまってからその生活を変化させるのは非常に難しい。早期のロービジョンケアが重要であるが、眼科医にはその必要性の認識が薄いし、当事者も勧めてもなかなかロービジョンケアや福祉を利用することに抵抗がある。それは軽度の視覚障害が世間に認知されていないために晴眼者と重度視覚障害と別世界であるような意識があり、障害者への自分の中の差別、向こうの世界に行きたくないという抵抗である。

 どんな障害でも軽度から重度までスペクトラムで存在しておりここから障害という境界線はない。ところが軽度障害の当事者が世間に認知されていないことにより視覚障害は身近にいない別世界の人になってしまっている。それが病気の進行の途中、まだ見えている時の苦悩であり、眼科医療、ビジネス、福祉すべての問題点である。 

 遺伝子診断をしているとわかる。あらゆる人が疾患遺伝子を持ち、性格も含めれば誰もが何らかの障害を持っているとも言える。今後、一般社会の中で活躍している視覚障害者が何の不安もなくカミングアウトできて障害者との壁が崩れ健常者も障害者もお互い助け合いながら不自由をデバイスで補って仕事を続けられる。そういうユートピアを目指して、NEXT VISIONはiSee!運動を展開していく。 

【略 歴】
 1986 京都大学医学部卒業
 1986 京都大学医学部附属病院 眼科
 1992 京都大学大学院医学研究科博士課程修了
 1995 アメリカ ソーク研究所 研究員
 2001 京都大学医学部附属病院 助教授
 2006 理化学研究所 チームリーダー
 2012 理化学研究所 プロジェクトリーダー
  現在に至る


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【新潟ロービジョン研究会2017】
 日 時:2017年09月02日(土)
     開場:13時半  研究会:14時~17時50分
  会 場:新潟大学医学部 有壬記念館 2階会議室
     住所:〒951-8510 新潟市旭町通1-757
 主 催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「私と視覚リハビリテーション」 

 1)司会進行
   加藤 聡(東京大学眼科)
   仲泊 聡(理化学研究所)
   安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
  特別コメンテーター
   中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
   大島光芳(新潟県上越市)
2)プログラム
 14時00分~
   開会のあいさつ  安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
 14時05分~
  「眼科医40年 患者さんに学んだケアマインド」
     安藤 伸朗
     (済生会新潟第二病院眼科)
 14時40分~
  「私と視覚障害リハビリテーション」
     山田 幸男
     (県保健衛生センタ/信楽園病院/NPO「オアシス」)
休憩(10分)
 15時25分~
  「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」
     清水 朋美
     (国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科)
 16時00分~
  「ロービジョンケアとの出会い」 
     高橋 政代
     (理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
休憩(10分)
 16時45分~全体討論
 17時40分~討論総括   仲泊聡(理化学研究所)
 17時45分~閉会の挨拶  加藤聡(東大眼科)
 17時50分 終了