報告【新潟ロービジョン研究会2017】 2)清水朋美先生
2017年11月26日

報告【新潟ロービジョン研究会2017】 2)清水朋美先生
  日時:2017年09月02日(土)
   会場:新潟大学医学部 有壬記念館 2階会議室 

 「新潟ロービジョン研究会2017」から、清水朋美先生の講演要約をアップします。 

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演題:眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える
講師:清水朋美(国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二診療部長)
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【講演要約】
  眼科医の仕事は今も昔も眼の病気を治すことである。私の眼科医像はこの点だけは一貫して変わらない。しかし、私のこれまでの半生を「プレ眼科医期」、「眼科医前半期」、「眼科医後半期」に分けて考えてみると、「見えにくい人の最大理解者!目の専門家!」→「見えにくい人のこと、わかっている???」→「見えにくい人のこと、わかってない眼科医が多すぎ!!!」と各期とともに私の眼科医像は変遷してきた。変遷してきた最大の理由は父にある。 

  私の父は、ベーチェット病が原因で30歳の時に失明した。私が生まれる前にすでに父は失明していたので、父は私を見たことはない。「プレ眼科医期」の私は、父が見えていないことを自然と理解することができた。就学前の幼少時に、どうして見えないのだろう?と不思議に思い、母に尋ねた。この時に母からベーチェット病のことを聞いた。遠い昔の出来事だが、今もこの時のことは鮮明に覚えている。その時、眼科医になればすべて解決できると幼いながらも強く思った。何しろ、眼科医は「見えにくい人の最大理解者!目の専門家!」だと信じていたからだ。 

  そのまま医学部に進学し、更に運よくベーチェット病研究の第一人者である大野重昭教授(北海道大学眼科名誉教授)と出会い、当時先生がおられた横浜市立大学眼科の大学院生になり、留学の機会も与えられた。このように、私の「眼科医前半期」が始まった。研究テーマはもちろんベーチェット病で、この頃の私は、これでようやく長年の敵と向かい合えるという心境だった。しかし、臨床経験を積むにつれ、私には不思議に思うことが増えてきた。医学部時代から眼科医になっても、福祉制度、障害者、診断書等の書き方、患者さんへの病状説明の仕方について全く学ばないし、手帳がとれそうなのに取っていない患者さんが多いこと等々の疑問は膨らむばかりだった。更には、患者さんと眼科医の視覚障害についての知識が乏しく、患者さんは「見えなくなったら何もできない、死んだ方がマシ…」といった内容に終始し、眼科医も「見えなくなったらミゼラブル、大変、えらいこと…そこまで考えなくていい…」といった応答に止まっていた。幼少時から視覚障害者との接点が多かった私にはとても違和感があった。私には視覚障害者は暗いというイメージはなく、明るく楽しく過ごしている視覚障害者を沢山知っていたので、余計に不思議だった。眼科医は「見えにくい人のこと、わかっている???」という思いが経験を積むにつれ、強くなっていった。 

  縁あって2009年から今の職場である国立障害者リハビリテーションセンター病院で勤務しているが、まさに「眼科医後半期」に入り、「見えにくい人のこと、わかってない眼科医が多すぎ!!!」という思いを確信している。以前よりはロービジョンケアに関心を持つ眼科医は増えてきたとは思う。それは、平成24年度からロービジョン検査判断料が保険点数化され、私の職場で開催される「視覚障害者用補装具適合判定医師研修会」に参加希望の眼科医が右肩上がりに増えていることを見ても明白だ。しかし、まだ多くの眼科医にとってロービジョンケアは異質なものに見えてしまっていることが残念だと思う。 

  一般の眼科医にとってロービジョンケアが常識となるには、制度、道具、連携に力を入れた王道のロービジョンケアではなく、すべての眼科医が取り組める「クイックロービジョンケア」を推進していくことがこれからの時代には必要ではないだろうか。つまり、ロービジョンケアマインドを持って、見えにくい患者さんにちょっとしたことをアドバイスできる力を身につけることだ。それを実現するには、医学生のうちから福祉的なことも学び、視覚障害の体験をするのもよいだろう。眼科専門医受験資格に視覚障害の体験や研修会を盛り込めるとなおいい。 

  一定の経験ある眼科医には、ロービジョン患者さんの最大の困り事である「読み書きと移動」の2点を最低でも患者さんに確認するシステムを構築するのも一案だろう。異質でわかりにくいからロービジョンケアはやらないというのではなく、サインガイドひとつでいいのでちょっとしたことを見え方で困っている患者さんに教えていけるようにすれば、より多くのロービジョンの患者が救われるだろう。これこそが眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアだと思う。この体制を日本の眼科医に根付かせることが出来れば、日本のロービジョンケアは大きく変わると信じている。そのために、私の稀有な半生で得た経験が少しでも役立つのであれば、なお本望である。 

【参考URL】
 第9回オンキョー点字作文コンクール 国内の部 成人の部 佳作
 「忘れることのできない母の言葉」横浜市 西田 稔
 http://www.jp.onkyo.com/tenji/2011/jp03.htm

【略 歴】
 1991年 愛媛大学医学部 卒業
 1995年 横浜市立大学大学院医学研究科 修了
 1996年 ハーバード大学医学部スケペンス眼研究所 留学
 2001年 横浜市立大学医学部眼科学講座 助手
 2005年 聖隷横浜病院眼科 主任医長
 2009年 国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科医長
 2017年 国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部長
 現在に至る 

 

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【新潟ロービジョン研究会2017】
 日 時:2017年09月02日(土)
     開場:13時半  研究会:14時~17時50分
  会 場:新潟大学医学部 有壬記念館 2階会議室
     住所:〒951-8510 新潟市旭町通1-757
 主 催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
 1)司会進行
   加藤 聡(東京大学眼科)
   仲泊 聡(理化学研究所)
   安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
  特別コメンテーター
   中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
   大島光芳(新潟県上越市)
2)プログラム
 14時00分~
   開会のあいさつ  安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
 14時05分~
  「眼科医40年 患者さんに学んだケアマインド」
     安藤 伸朗
     (済生会新潟第二病院眼科)
 14時40分~
  「私と視覚障害リハビリテーション」
     山田 幸男
     (県保健衛生センタ/信楽園病院/NPO「オアシス」)
休憩(10分)
 15時25分~
  「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」
     清水 朋美
     (国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科)
 16時00分~
  「ロービジョンケアとの出会い」 
     高橋 政代
     (理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
  http://andonoburo.net/on/6221
休憩(10分)
 16時45分~全体討論
 17時40分~討論総括   仲泊聡(理化学研究所)
 17時45分~閉会の挨拶  加藤聡(東京大学眼科)
 17時50分 終了