勉強会報告

2013年6月26日

平成25年6月21日(金)午後から23日(日)13時半まで、チサンホテル新潟と新潟大学駅南キャンパス「ときめいと」で視覚リハ大会を行いました。

過去最大の一般演題数(81演題)、抄録作成支援委員会による全抄録の査読、想定外と言ってもいいほどの参加者数(500名超)、過去最大数の総会出席者数(100名超)、過去最大数の懇親会出席者数(200名超)、大会が行ったランチョンセミナー(2会場共に150名超)、招待講演を市民公開講座として誰でも参加できたこと+TV中継にて別会場で視聴+ユーストリームを介して全国への配信(講演会場350名+TV中継会場100名+ネット配信視聴400名 合計850名)。

会場が狭くて立ち見が出たり、ランチョンセミナーのお弁当が足りなかったり、懇親会では食べるものがすぐになくなってしまったりと最後まで皆様にはご迷惑をお掛けしてしまいました。

至らぬことの多い大会長でしたが、これをカバーして下さった実行委員の皆様やバイトや労務提供の皆様、そして何よりも大会参加者のご協力により、無事に終了できましたことを感謝致します。

 

  第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
                 大会長 安藤伸朗

 

【主催】
  視覚障害リハビリテーション協会 

【主管】
  第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会実行委員会 

【事務局】
  第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会実行委員会事務局
   〒950-2181 新潟市西区五十嵐2の町8050番地
   新潟大学 工学部 福祉人間工学科 渡辺研究室内
  E-mail : jarvi2013info@eng.niigata-u.ac.jp
  FAX:025-262-7198 

【実行委員会】
 大   会   長:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院 眼科)
 実行委員長 :渡辺 哲也(新潟大学工学部福祉人間工学科)
 副 委 員 長: 松永 秀夫(新潟県視覚障害者福祉協会)
 委       員:伊佐 清   (トプコンメディカル新潟)
          石井 雅子 (新潟医療福祉大学医療技術学部) 
          小島 紀代子(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
          小西 明  (新潟県立新潟盲学校)
          中野 真範 (株式会社 新潟眼鏡院)
          張替 涼子 (新潟大学医学部 眼科)
          星野 恵美子(新潟医療福祉大学社会福祉学部)
          山口 俊光 (新潟市障がい者ITサポートセンター)
          山田 幸男 (信楽園病院内科 新潟県保健衛生センター)

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『視覚障害リハビリテーション協会』 とは?

 視覚障害日常生活訓練研究会(1972年)、日本視覚障害歩行訓練士協会(1977年)、日本視覚障害リハビリテーション協会(1987年)、ロービジョン研究会(1988年)が統合して、1992年2月15日に設立されました。  

  本会は、視覚障害者に対する、福祉・教育・職業・医療等の分野におけるリハビリテーションに関心をもつ者の相互の学際的交流を図り、理解を深めるととも に、指導技術の向上を図る活動を通して、視覚障害者のリハビリテーションの発展・普及に寄与することを目的としています。様々な業種の方が、専門の枠を乗 り越えて討論できるのが魅力です。

 視覚障害リハビリテーション協会
 http://www.jarvi.org/

2013年6月12日

『新潟ロービジョン研究会2013』 2)山本修一先生
 「網膜色素変性、治療への最前線」
   山本修一 (千葉大学大学院医学研究院教授 眼科学)
    2013 年6月23日(日)10時〜11時
    チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間 

【講演要旨】
 網膜色素変性は長らく「不治の病」とされてきたが、この数年で研究が急速に進み、多くの研究が動物実験から実際の患者を対象とした臨床試験に発展し、網膜色素変性の治療が現実のものとなりつつある。 

 網膜色素変性の原因は網膜の視細胞の遺伝子異常であり、この遺伝子がコードするタンパク質の異常が生じる。そして視細胞の変性から細胞死(アポトーシスまたはネクローシス)に至り、最終的には視細胞が消失して完全な網膜変性に至る。このような病気の各段階に応じて治療戦略が考えられている。すなわち、①原因となる遺伝子異常に対する「遺伝子治療」、②視細胞の変性から細胞死に至る過程を抑える「網膜神経保護」、③消滅した網膜視機能を再建する「人工網膜」と、④「網膜の再生および移植」に大別される。このうちの遺伝子治療、網膜神経保護、人工網膜について、実際に臨床試験が行われているものに限って紹介する。 

 遺伝子治療は、網膜色素変性の特殊型であるレーベル先天盲における成功が、世界的に華々しく報じられた。同じRPE65遺伝子異常を持つイヌに対する治療の成功を受けて臨床試験が行われ、RPE65遺伝子を網膜下に注入したすべての患者で視機能の改善が得られた。これは画期的な成果ではあるが、残念ながら直ちにすべての色素変性に応用可能なわけではない。まず原因遺伝子の特定が必要だが、色素変性の遺伝子は多岐に渡り、未だに新しい遺伝子の発見が続いている。また原因遺伝子を特定可能なのは、日本人患者では30%程度と推測されている。さらに原因遺伝子が特定されても、それぞれの遺伝子について治療の安全性や効果の検証が必要となるだろう。 

 神経保護では、米国における毛様体神経栄養因子(CNTF)の臨床試験が進行中であり、視機能の維持、視細胞数の減少抑制が確認されている。ヒトの網膜色素上皮細胞にCNTF遺伝子を導入して持続的にCNTFを産生するように改良し、この細胞を特殊なカプセルに詰めて、カプセルを眼内に埋植する。カプセルに守られた細胞は免疫系の攻撃に晒されることなく、長期にわたってCNTFを眼内に放出し続ける。網膜色素変性のみならず萎縮型加齢黄斑変性も臨床試験の対象となっているが、日本で臨床試験が行われる目途はたっていない。 

 0.15%ウノプロストン(オキュセバR)点眼液による神経保護の試みは、日本オリジナルのものである。本来は緑内障治療薬として開発された薬剤であるが、神経保護効果も併せ持つことが見出され、網膜色素変性を対象に臨床試験が行われた。当初は視機能悪化の抑止が期待されたが、実際には高濃度投与群で網膜感度の上昇がみられ、プラセボ群との間に有意な差が観察された。この結果をもとに、180例を対象とした52週間の第3相臨床試験が開始され、症例のエントリーは順調に進んでいる。 

 人工網膜は、米国で開発されたArgus IIがすでに米国と欧州で医療機器としての承認を受け、実際に患者への移植が行われている。電極が60個と限られているため視力に限界はあるが、先行する欧州からは臨床報告が相次いでいる。ドイツで開発された人工網膜は、1500個の電極あるため解像度に優れ、サイコロの目の数や向かい合った人の表情も判別できると報告されている。日本では大阪大学のグループが、強膜内に埋め込む人工網膜の開発を進めている。 

 これらの治療法は、直ちにすべての患者に適応可能というわけではないが、網膜色素変性の治療はもはや夢物語ではなく、間近に見える明るい希望の光であることは間違いない。 
 

【略歴】
 1983年 千葉大学医学部卒業
 1989年 千葉大学大学院医学研究科修了
 1990年 富山医科薬科大学眼科講師
 1991年 コロンビア大学眼研究所研究員
 1994年 富山医科薬科大学眼科助教授
 1997年 東邦大学佐倉病院眼科助教授
 2001年 東邦大学佐倉病院眼科教授
 2003年 千葉大学大学院医学研究院眼科学教授
 2007年 千葉大学医学部附属病院副病院長併任
 2008年 日本網膜色素変性症協会(JRPS)副会長 

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今回の新潟ロービジョン研究会は、「第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会」の招待講演に、新潟ロービジョン研究会が共催する形で行われたものです。 

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
 http://andonoburo.net/on/1690
  開催日:平成25年6月21日(金)から23日(日)
  会場:チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 
     新潟大学駅南キャンパス「ときめいと」 

招待講演(市民公開講座) 2013年6月23日(日)9:00〜11:00
 共催 新潟ロービジョン研究会2013
   座長 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院)
 1)「iPS細胞を用いた網膜再生医療」
     高橋 政代 (理化学研究所)
 2)「網膜色素変性、治療への最前線」 
     山本 修一 (千葉大学眼科教授)

 

『新潟ロービジョン研究会2013』1)高橋政代先生

「iPS細胞を用いた網膜再生医療」
  高橋 政代(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
             
 網膜再生医療研究プロジェクト プロジェクトリーダー)
 平成25年6月23日(日)9時~10時
 チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間 

【講演要旨】
 昔から眼は様々な新しい治療が最初に導入される場である。臓器移植としては角膜移植が腎臓移植と並んで始まり、人工レンズは早くから最も成功した人工臓器の一つである。また、網膜色素変性の遺伝子治療も一定の成功を納めている。加齢黄斑変性に抗VEGF剤が効果をあげているが、これは抗体医薬の最初の成功例である。そして、今、iPS細胞を用いた細胞治療も網膜で初めて行われようとしている。 

 2006年にマウス皮膚の線維芽細胞に4つの遺伝子を入れることでシャーレの中で無限に増えて、一方で身体中のあらゆる細胞を作ることができるiPS細胞(人工多能性幹細胞 induced pluripotent stem cells)が発表された。その1年後にはヒトのiPS細胞も作成された。それまでにES細胞(胚性幹細胞Embryonic Stem cells)から作った網膜色素上皮細胞を網膜疾患治療に応用できることを示していた我々は、ES細胞と同じ性質を備え、しかも拒絶反応を回避できるiPS細胞にとびついた。 

 そして6年の臨床への準備を経て、2013年8月に臨床研究に関与する3機関の倫理委員会と厚生労働省の審査で承認を得て世界で初めてのiPS細胞を用いた臨床研究が開始となった。具体的には加齢黄斑変性という網膜色素上皮細胞の老化によって引き起こされる疾患で、網膜の中央部(黄斑)が障害されるため全体の視野は問題ないが、見ようとするところが見えない、視力が低下して字が読めなくなるという疾患である。網膜色素上皮の老化が原因で、網膜の裏側にある脈絡膜から新生血管が発生する。新生血管に対しては効果的な眼球注射薬が存在するが、高価な上に1、2ヶ月毎に治療しなければ再発をするため、治療を続けなくてはならない。そこで、老化し障害された網膜色素上皮を患者本人のiPS細胞から作った正常で若返ったRPEと置き換えることによって、その上の視細胞の層を保護する役目がある。 

 最初の臨床研究では2年間にわたって6名の患者を選び治療後1年間で効果を判定する。移植する細胞シートは様々な検査で安全性が確認されている。未知の予測不可能な危険はゼロとは言えないが、細胞よりも細胞を移植する手術、これは毎週眼科で施行されている手術とほぼ同様のものであるが、その手術の危険の方がはるかに大きいのである。放置すると失明につながるような合併症は、数パーセントで起こる事が知られている。これは、報道などからは伝わらない事実である。 

 また、なかなか伝わらないのは、この細胞治療の効果である。最初の臨床研究はあくまでこの治療の安全性、特に移植する細胞が腫瘍を作らないか、拒絶反応を引き起こさないかを明らかにする研究である。よって、効果のある治療であるかどうかは安全性が確認されてから次の問題である。もちろんある程度の効果は期待して臨床研究を行うが、それでも矯正視力は多くの場合0.1まで回復するのがやっとであろうと予測される。従って、自然と臨床研究に参加していただく方の矯正視力は0.1以下の方に絞られてくる。「再生」という言葉はもとどおりに回復するという意味が本義であるので、網膜の再生というとよく見えるようになるという印象を受けてしまうのは仕方ないことである。しかし、そのような期待で臨床研究に参加すると裏切られる事になり、網膜の再生医療は健全なスタートをきる事ができない。 

 報道の短い時間や字数制限の中で伝えられる情報は多くない。報道だけが情報源である場合は、どうしても誤解が大きいようである。重要なことは、複数の情報源をもち、事実をそのままに受け取ってもらう事。我々は、将来の再生医療の発展のためにそれを説明し続けなければならない。また、過剰な期待を抱くのは、その裏側に障害の解消だけが解決策と考え、その他の方向性をまったく模索しないという場合に多い。つまり、疾患の正しい情報を集め障害の現状を理解して甘受する「健全なあきらめ」(九州大学 田嶋教授)(*)が必要である。 

 また将来、網膜の細胞治療(再生治療)が成功したとしても、0.1程度の低視力に留まることが多いため、その状況で補助具などを使い有効に視機能を使える事が治療の効果を十分に引き出すために重要である。すなわち、どの分野でも同様であると考えられるが、再生医療とはリハビリテーション(ロービジョンケア)とセットで完成する治療である。 

(*)「健全なあきらめ」(田嶌誠一 九州大学教授)
 変わるものを変えようとする勇気 
 変わらないものを受け入れる寛容さ
 そしてその二つを取り違えない叡智 

【略歴】
 1986(S61)京都大学医学部卒業
 1986(S61)-1987(S62)京都大学付属病院眼科研修医
 1988(S63)-1992(H4)京都大学大学院医学博士課程
 1992(H4)-2001(H13)京都大学医学部眼科助手
 1995(H7)-1996(H8)米国サンディエゴ ソーク研究所研究員
 2001(H13)-2006(H18)京都大学附属病院探索医療センター開発部助教授
 2006(H18)- 理化学研究所 発生再生科学総合研究センター
                  網膜再生医療研究チーム チームリーダー
 (組織改正) 理化学研究所 発生再生科学総合研究センター
                  網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー 

 

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今回の新潟ロービジョン研究会は、「第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会」の招待講演に、新潟ロービジョン研究会が共催する形で行われたものです。 

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
 http://andonoburo.net/on/1690 
  開催日:平成25年6月21日(金)から23日(日)
  会場:チサンホテル&カンファレンスセンター新潟
     新潟大学駅南キャンパス「ときめいと」 

 招待講演(市民公開講座) 2013年6月23日(日)9:00〜11:00
 
 共催 新潟ロービジョン研究会2013
   座長 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院)
 1)「iPS細胞を用いた網膜再生医療」
     高橋 政代 (理化学研究所)
 2)「網膜色素変性、治療への最前線」 
     山本 修一 (千葉大学眼科教授)

 

2013年6月11日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨  
【シンポジウム】 『視覚障がい者の就労支援』   
 星野 恵美子 (司会:新潟医療福祉大学)    
 小島 紀代子 (NPO障害者自立支援センターオアシス)   
 清水 晃 (新潟県上越市)
 今野 靖 (新潟公共職業安定所)
 工藤 正一 (NPO法人タートル)

 平成25年6月23日(日)  
 チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間

【講演要旨】  
 障がい者にも、健常者にも、就労(働くこと)は、その経済面での保障や社会的、自尊感情のために重要である。就労支援においては、その障害特有の解決を要する課題がある。今回のシンポジウムでは、視覚障がい者が働く現状と課題を明らかにしその支援策等について検討し、今後に生かすことが今回のシンポの目的であった。 実践・体験豊かなシンポジストに恵まれたおかげで、実り大きいシンポとなった。就労支援の成功の鍵としては、当事者の相談をして、心を支えつつ職業能力を高め、各種の専門家が適切に連携して問題解決を図ることが効果的である。

 以下に各領域のシンポジストの発言を振り返る。
1.視覚障害者を取り巻く現状と課題 相談支援する立場から
  小島 紀代子 (NPO障害者自立支援センターオアシス)  
 NPO法人オアシスでは調理、歩行、化粧等の日常生活訓練や、パソコン、拡大読書器の使用や福祉制度の紹介を行う。また、多くの方の相談に当たり、グループセラピーを通して心のケアに力を注いでいる。 相談事例の調査報告から、中途障害によるシニア層で離職の理由は、文字の読み書きの困難や夕方からの歩行が難しく、残業や仕事ができないと思い退職。また若い世代では、運転が困難になり仕事に支障、世間の目が重圧になり白杖が持てない、盲学校という選択肢を断念する。いずれの世代でも離職後相談に訪れるため、打つ手が限定される傾向にある。一方、就労した人は早くに助けを求め、辛い時に相談し、就労に必要な各種技能を訓練し取得したり、多様な専門職とのチーム医療に支えられて就労にこぎつける。

2.当事者の立場で     
 清水 晃 (上越市役所勤務)  
 仕事を持つ意味は人生にとって大事な自分自身の存在を守るための仕事の選択がある。再就職へ向けてのアクションとしては、サポート体制の構築や就労支援制度に関する情報を整理し、自己分析作業が大切である。まとめとして、病状悪化に伴い、様々な苦労をしたが、現在は自身のサポート体制が整っているため、将来的な不安は少ない。今後、さらなる病状悪化が予想されるが、連携を図りながら、就労継続や自己能力開発に努めていきたい

3.ハローワーク新潟における視覚障がい者の就労支援   
 今野 靖 (新潟公共職業安定所)
 職業リハビリテーションの目的は、求職者が職業を通じて、社会人として生活できるように支援する。就職準備から職場定着までのチーム支援によるサポートが重要である。 視覚障がい者(応募者側から)の採用・就労継続のポイントとしては、   (1)正確な自己分析(能力・キャリア・障がい特性)に基づく応募先の選択、 (2)就職活動ノウハウを基本とした効果的な実践(自己PR,アピール)、 (3)本人のニーズと適性に合った紹介と企業への面接・採用の働き掛け、(4)通勤面、職場内での職業生活のクリア及び職務遂行能力の確保、 (5)助成金・支援メニュー、支援機器等を活用した課題・問題解決が重要である。

4.「視覚障害者の就労支援と今後の課題」   
 工藤 正一 (NPO法人タートル)  
 中途で視覚障害者となっても、いかにすれば、働き続けられるか。  事例からみた就労成功の条件とは、①障害の受容と前向きな姿勢 ②ロービジョンケアを踏まえた関係者との連携、③PC操作技術の習得と歩行訓練による通勤の安全、④職場の理解・協力、⑤各種支援制度の活用である。また、職場復帰や雇用継続の判断には産業医の意見が重要で、産業医が眼科医と連携し保有視機能の状態と配慮事項等の情報の共有することで、適切な支援・雇用管理が可能となる。また、雇用継続のためには、・障害受容と心のケア、生活面と職業面の問題の解決、受障初期の眼科医療からの連携が必要である。  
 今後の課題として、視覚障害があっても働き続けられるように、①在職者訓練等、職業訓練機会の保障、②視覚障害者に対応できるジョブコーチの養成、③歩行訓練と職業訓練の人材の養成及び障害者支援体制の整備として、④ロービジョンケアと産業医との連携、⑤視覚障害の正しい理解と合理的配慮の検討が望まれる。

 

2013年5月28日

  演題:「インクルーシブ教育システム構築と視覚障害教育~盲学校に求められるもの~」
  講師:小西 明 (新潟県立新潟盲学校:校長)
    日時:平成25年5月8日(水)16:30 ~ 18:00 
    場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

【講演要旨】
1 障害者の権利に関する条約
 障害者プランが終了した後の平成16年(2004)、最近の平成23年(2011)に障害者基本法の改正がありました。この間、障害のある子どもの教育においては、平成19年に障害児教育(特殊教育)が特別支援教育という用語に改正された時でした。この前後から、それまでの統合教育とかノーマライゼーションという用語に代わり、インクルーシブ教育(インクルージョン)という用語が使われるようになりました。特別支援教育では、障害者である児童生徒とない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮すること。障害者である児童生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供やその意向を尊重すること。交流及び共同学習の推進などが課題とされました。

 同時期の平成18年(2006)、国際的な動きとして「障害者の権利に関する条約」が第61回国連総会で採択され、平成20年(2008)に発効しました。我が国は、平成19年(2007)に条約に署名し、現在批准に向け政府で検討がなされています。条約の内容は、前文と第1条から第50条まであり、全文はネットで検索していただくとして、教育に関しては第24条に示されています。24条にはインクルーシブ教育(包容教育とか共生教育と訳されている)が明記されています。これを簡略に表現すれば、
 1) 原則的に、障害のある者も障害のない者も、共に学ぶ仕組み「inclusive education system 」(署名時仮訳:インクルーシブ教育システム)であり「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと。
 2) 共に学ぶに必要な人的・物的配慮を受ける合理的配慮が提供されること。(視覚障害者であれば、拡大図書や読書器、点字教材や指導者の配置など)
 3) 小学校や中学校等、希望する教育環境で学ぶことができる仕組みなどです。 

2 障がい者制度改革推進会議
 これを受け、我が国では平成21年(2009)12月に、条約の締結に必要な国内法の整備をはじめとする障害者に係わる制度の改革、並びに障害者施策の推進を図るため、内閣総理大臣を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」が設置されました。さらに、同本部の下に「障がい者制度改革推進会議」 (以下:推進会議)が設置され、制度改革が行われています。

  障害者の権利に関する条約にかかるこれまでの経緯
 ・平成18年12月 国連総会において採択
 ・平成19年 9月  署名
 ・平成21年12月 内閣府「障がい者制度改革推進本部」及び「障がい者制度改革推進会議」を設置
 ・平成22年 7月 中央教育審議会「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」(通称:特特委員会)を設置
 ・平成23年 8月 障害者基本法の一部を改正する法律が公布
 ・平成24年 5月  内閣府「障がい者制度改革推進会議」を廃止、「障害者政策委員会」を設置
 ・平成24年7月23日 特特委員会は、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」(報告)としてとりまとめた。

3 特特委員会(報告)の要点
(1)共生社会の形成に向けて
・障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会です。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相 互に認め合える全員参加型の社会である。
・このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。

(2)就学相談・就学先決定の在り方について
・早期からの教育相談等による、本人・保護者への十分な情報提供と共通理解・障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人、保護者の意見、専門家の意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な判断で、就学先を決定する仕組みが必要である。
・就学時に決定した「学びの場」は固定したものではなく、児童生徒のそれぞれの発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に転学ができることが重要である。例えば、特別支援学級から通常学級へ、またはその逆など。
・個別の教育支援計画の活用

(3)障害のある子どもが通常の学級等で、十分に教育を受けられるための「合理的配慮」 及び「基礎的環境整備」
・「合理的配慮」とは、障害のある子どもが、他の子どもと平等に教育を受ける権利を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの。 

(4)多様な学びの場の整備と学校間連携の推進
・多様な学びの場として、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれの環境整備の充実を図っていくことが必要である。
・域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により、域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教 育システムを構築することが必要である。例:視、聴、知、病等の学校
・センター的機能を効果的に発揮するため、各特別支援学校の役割分担や、特別支援学校のネットワーク構築が必要である。
・交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害のある児童生徒等にとっても、障害のない児童生徒等にとっても、共生社会の形 成に向けて、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有するとともに、多様性を尊重する心を育むことができる。
・教育課程の位置付け、年間指導計画の作成等、交流及び共同学習の更なる計画的・組織的な推進が必要である。その際、関係する都道府県教育委員会、市町村教育委員会等との連携も重要である。 

(5)特別支援教育の充実のための教職員の専門性向上等
・インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。
・学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダー シップは欠かせない。 

4 新潟盲学校の取組
(1)早期からの教育相談:相談支援センター0歳から成人まで
(2)情報発信:行政機関へのリーフレット、巡回相談、スマートサイト
(3)幼保、小、中学校特支学級との連携:研修会参加、出張支援、授業参観、学習支援教室
(4)交流及び共同学習:24・25年度実践研究校
(5)生きる力を育む指導と教職員の専門性:校内研修、情報の発信

 

【略歴】
 1977年 新潟県立新潟盲学校教諭  
    1992年 新潟県立はまぐみ養護学校教諭
    1995年 新潟県立高田盲学校教頭      
 1997年 新潟県立教育センター教育相談・特殊教育課長
 2002年 新潟県立高田盲学校校長
 2006年 新潟県立新潟盲学校校長

【後記】
 「障害者の権利に関する条約」、ここで謳われている障害者である児童生徒とない児童生徒と「共に生きる」社会を醸成するために、教育がなせることは何か?というのが今回の主題だった。
 お金ありきでなく、理念を持って先ずは動くことが大事だと。生徒が選択できること。医療・教育・福祉がチームを組むこと、、、、、。

 *障害者の権利に関する条約 第24条(教育)
 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc8/convention.html#article24

 以下のことを考えながらお聞きしておりました。
 1.二元論から一元論(インクルーシブ教育)となった場合に、教育(教師)の専門性を如何に保つか?育むか?
 2.結局は経済的な視点が、この制度には大きく関与しているのではないか?
 3.先天盲は減少しているが、後天性視力障害は増えているのでは?こうした現状では、ロービジョンケアも盲学校の仕事では?この点に関して、小西先生は、6月に新潟で開催される第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会において、「盲学校での中途視覚障害者支援」についての特別企画をオーガナイズしている。

  第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
   ホームページ: http://www.jarvi2013.net/
  詳細な情報: http://andonoburo.net/on/1690

 今回のお話で、障害児教育の流れと現場のご苦労が語られたが、最後に新潟盲学校での積極的な取り組み(スマートサイト等)が披露された。
 その後も小西先生とお話をする時間を持つことが出来た。眼疾患(未熟児網膜症等)を持った子供たちの学童期の視機能と抱える問題点について教わった。医者は、患者と治療の時点でのピンポイントでお付き合いしているが、教育の方々は、治療後の長い10数年にも及ぶ経過で子供たちと関わっておられる。同じ方を語っていても視点が違い、とても参考になった。つくづく、もっとお話をお聞きしたいと思った。
 小西先生の、新潟盲学校のますますの発展を願います!

 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
 平成25年6月12日(水)16:30~18:00
   「視覚障害グループセラピーの考察」
      小島 紀代子 (NPOオアシス)

 平成25年6月21(金)~23日(日)
  第22回視覚リハビリテーション研究発表大会
  (兼 新潟ロービジョン研究会2013)
   期 日:2013年6月21日(金)プレカンファレンス
             22日(土)・23日(日)本大会
   会 場:「チサン ホテル & コンファレンスセンター 新潟」4階
        「新潟大学駅南キャンパスときめいと」 2階
   メインテーマ : 「見えない」を「見える」にする「心・技・体」
    大 会 長 :  安藤 伸朗  (済生会新潟第二病院)
    実行委員長 : 渡辺 哲也  (新潟大学工学部 福祉人間工学科)

 平成25年7月10日(水)16:30 ~ 18:00
   「新潟盲学校弁論大会 イン 済生会」

 平成25年8月7日(水)16:30 ~ 18:00 
   「楽しい外出をサポートします!~『同行援護』その効果とは!?~」
     奥村 京子 (社会福祉法人新潟市社会福祉協議会)

 平成25年9月11日(水)16:30 ~ 18:00
   「言葉 ~伝える道具~」
     多和田 悟 (公益財団法人日本盲導犬協会 訓練技術担当理事)

 平成25年10月9日(水)16:30 ~ 18:00
   演題未定
     西田 朋美 (国立障害者リハビリテーション病院 眼科)