勉強会報告

2013年10月28日

『iPS細胞がもたらす網膜・視神経の再生医療とロービジョンケア』
   栗本康夫(神戸市立医療センター中央市民病院、先端医療センター)
   シンポジウム「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
   2013年10月12日 第14回日本ロービジョン学会学術総会(倉敷)

【講演要旨】
 およそ百年ほど前、神経科学界の巨人であるカハールが「哺乳類の中枢神経系においては、いったん発達が終われば軸索や樹状突起の成長と再生の泉は枯れてしまって元に戻らない。成熟した脳では神経の経路は固定されていて変更不能である。あらゆるものは死ぬことはあっても再生することはない。」と記載して以来、成熟した哺乳類の中枢神経はひとたび細胞死や軸索の切断をきたすと再生することはないとドグマの如くに信じられてきた。眼科領域においても、中枢神経系に属する網膜および視神経は疾病や外傷などにより神経細胞がひとたび変性に陥れば再生することはないと信じられ、再生医療は夢の話であった。しかし、近年の神経科学および幹細胞研究の長足の進歩により、中枢神経の再生医療が現実のものになろうとしている。

 幹細胞を利用した中枢神経再生医療には、1)内在性幹細胞の賦活、2)幹細胞あるいは前駆細胞の患部への移植、3)幹細胞から誘導した体細胞の患部移植の三つのストラテジーが考えられるが、現時点で臨床応用に最も好ましいのは、3)幹細胞から誘導した体細胞の移植である。このストラテジーにおいては、近年の人工多能性幹(iPS)細胞の発見・樹立により胚性幹(ES)細胞の利用で問題となっていた倫理的問題や免疫学的問題などがクリアされたため、臨床応用への動きに大きく弾みがついている。iPS細胞研究で世界をリードする我が国は、網膜再生医療で世界の先陣を切って臨床応用が進むことが見込まれている。既に我々は、iPS細胞による世界初の臨床治療として、滲出型加齢黄斑変性に対するiPS 細胞由来の網膜色素上皮シートの臨床研究の実施を開始した。

 網膜および視神経再生医療の実現は、ロービジョンケアにも大きな変革をもたらす可能性がある。従来、ロービジョンケアとは、著しく障害された視機能が医学生理学的に回復を見込めない患者に対して行われるケアであり、基本的には患者の視機能は良くても現状維持、しばしば低下していくことを念頭におかねばならなかった。ところが、網膜ないし視神経の再生医療を施行された患者では、治療により視機能の改善も期待できる。残された視機能をいかに活用して生活機能を向上させるかがロービジョンケアであったのが、残された生理的視機能そのものが向上していく可能性があるわけである。これはロービジョンケアのパラダイムチェンジと言えるかもしれないし、新たな視能訓練分野の創成に繫がるのかもしれない。

 iPS 細胞臨床応用の当初プロジェクトである網膜色素上皮の移植治療では、傷害された視細胞など網膜の神経細胞そのものを再生するわけではないので、治療開始時点に較べての大幅な視機能の回復は期待できない。したがって、この治療法においてロービジョンケアの果たす役割は、加齢黄斑変性において病状が安定した患者に施行されてきた従来のケアと大きく変わりはないであろう。しかし、その次の治療として期待されているiPS 細胞を用いた視細胞移植治療においては事情が異なる。視機能の改善を得るためには、移植された視細胞がホスト網膜と有機的な神経回路網を構築することが必須であり、そのためには移植細胞とホスト細胞に双方向的な神経突起・樹状突起やシナプスの形成や伸長、あるいはシナプスの伝達効率の強化などの可塑的変化が必要となる。こうした変化を誘導し生理的視機能の獲得および向上を得るためには、視能訓練的なトレーニングが必要であろう。実際にどのようなトレーニングが必要となるのかは今後の検討課題であるが、網膜・視神経再生治療が実現すれば、ロービジョンケアは新たな役割を担うことが期待される。

【略 歴】
 1986年 京都大学医学部卒業、同眼科学教室入局
 1988年 京都大学大学院医学研究科
 1992年 国立京都病院眼科医師
 1993年 神戸市立中央市民病院眼科副医長
 1997年 信州大学医学部眼科講師
 2000年 ハーバード大学博士研究員
 2002年 信州大学医学部眼科助教授
 2003年 神戸市立中央市民病院眼科部長代行、
     先端医療センター視覚機能再生研究チームディレクター (兼任)

 2006年 神戸市立医療センター中央市民病院眼科部長、
     京都大学臨床教授(兼任)

 2008年 先端医療センター病院眼科客員部長(兼任)
 2011年 先端医療センター病院眼科統括部長(兼任)
 2013年 神戸大学臨床教授(兼任) 

 

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第14回日本ロービジョン学会学術総会
 シンポジウム2「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
 日時:2013年10月12日(土)16:20~17:50
 会場:第1会場(倉敷市芸文館 メインホール)
 オーガナイザー:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
         佐藤 美保(浜松医科大学)
 演者:門之園 一明(横浜市大医療センター)
    佐藤 美保(浜松医科大学)
    若倉 雅登(井上眼科)
    根岸 一乃(慶応義塾大学)
    栗本 康夫(神戸市立医療センター中央市民病院)
    安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
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2013年10月27日

報告:【目の愛護デー記念講演会 2013】 西田朋美先生
(第212回(13‐10月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会)
 演題:「眼科医として私だからできること」
 講師:西田 朋美 
  (国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部 眼科医長)
  日時:2013年(平成25年)10月9日(水)16:30 ~ 18:00 
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

 

【講演要旨】
 私が眼科医を目指した動機は、父の病である。父は、私が生まれる前にベーチェット病が原因で失明しており、私は見えている時代の父を知らない。父が見えないことに気付いたのは就学前で、どうして見えないのか?と母にたずねた。母がその時に教えてくれた「ベーチェット病」という言葉は強く心に残り、私にとっては父から視力を奪った憎むべき敵であった。この敵に立ち向かうには、眼科医になって戦うしかないと幼い私は真剣に考えていた。 

 その後、幼い頃からの願いが実現し、私は本当に眼科医になった。しかも、ベーチェット病研究の第一人者の先生が率いる教室で学ばせていただけるという、とても恵まれた環境に身を置くことができた。新しい門出に意気揚々する反面、どうして医療の現場では福祉のことを学ぶことがないのだろう?と思うことも増えてきた。幼い頃から、盲学校や視力障害センターで勤務していた父を通して、数多くの視覚障害者の方々と交流する機会があった私にとっては、医療と福祉はとても密接したものという印象があった。しかし、実際には決してそうではない。その疑問は自分の臨床経験が増えるにつれ、ますます大きくなってきた。そして、多くの眼科医が視覚障害の患者さんに対して声をかける内容は、「見えなくなったら、エライことですからね、大変ですからね・・・」であり、それに対する視覚障害の患者さんの発言は、「見えなくなったら、何もできないし、死んだほうがまし、他がどんなに悪くなっても、目だけは見えていたい・・・」といった種類の言葉が大半だった。毎度その言葉を臨床の場で耳にするたびに、私には何か違うのでは?と思うことばかりだった。いろいろと自分なりに考えてみたが、一般社会にも眼科医にも視覚障害者の日常が単に知られていないのだという結論に至った。 

 振り返れば、私は幼少時から明るく楽しい視覚障害者と触れる機会が多く、視覚障害だからという理由で打ちひしがれている印象がほとんどなかったこともあり、逆に少々ショックだった。今はカリキュラムが違っているかもしれないが、思えば、私の医学部時代には障害者や福祉、診断書の書き方ひとつまともに習ったことがない。少しは患者さんに対してポジティブな発言ができるように、これからは医学部の学生や研修医の期間に、障害者や福祉に関しての知識が得られるようになるとよいと思う。 

 私が医者になって、20年が過ぎた。一般の眼科業務に加えて、私がぜひ継続して活動したいと思うことがいくつかある。一つ目は、視覚障害に関して、一般に正しく知ってもらうこと、二つ目は、ロービジョンケアと視覚障害スポーツに関して啓発していくこと、三つ目は、私がこの道にいる原点ともいえるベーチェット病に関して学び続けること、つまり、ベーチェット病研究班の会議を傍聴していくことである。2000年に第一回国際シルクロード病(ベーチェット病)患者の集いを通して、諸外国のベーチェット病患者さんが治療薬を手に入れるためにいかにご苦労されているのかを思い知った。それを機に、父が2001年にNPO法人眼炎症スタディーグループを立ち上げ、いくつかの国にコルヒチンを寄贈してきた。しかし、度重なる世情不安の中で継続困難となり、その後に法人名を海外たすけあいロービジョンネットワークと変えて、ロービジョンエイドを必要な諸外国に寄贈する活動を行っている。今年はそのために9月にモンゴルへ出向き、モンゴル眼科医会に拡大読書器、拡大鏡などを実際に運び、現地のニーズや活用状況を視察してきた。この手の活動もぜひ継続していきたい。 

 「失明を 幸に変えよと言いし母 臨終の日にも 我に念押す」は父が詠んだ短歌である。父がいよいよ見えなくなってきた時、医師に事実上の失明宣告を受けた。その直後、父の母は父に対して、「失明は誰でも経験できることではない。これを貴重な経験と思い、これを生かした仕事をしてはどうか?それがたとえどんなに小さな仕事でも、ひとつの社会貢献になるのではないか?」と語った。父もその言葉をすぐには受け入れることはできなかったようだが、失明して50年以上経過した今でも、父の座右の銘となり、これまで父は自分と同じ中途視覚障害の教え子さんたちにもこの言葉を語り続けてきたそうだ。私が思うに、この言葉は私にそのままあてはまる。眼科医の私にとって、生まれた時から視覚障害の父がいるということは、これ以上ない貴重な経験である。私の勤務先には、多くの視覚障害の患者さんがいらっしゃる。その方々を拝見する中で、私がこの半生で父を通して経験したことが実に役立つ。 

 こんな私なので、一般的な眼科医の仕事だけをしていたのでは、眼科医になった意味がない。あと何年眼科医ができるかわからないが、自分のミッションだと思って、今後私だからやれる仕事を眼科医の立場からできる限りやっていきたいと願っている。 

【略歴】
 1991年 愛媛大学医学部卒業
 1995年 横浜市立大学大学院医学研究科修了
 1996年 ハーバード大学医学部スケペンス眼研究所留学
 2001年 横浜市立大学医学部眼科学講座助手
 2005年 聖隷横浜病院眼科主任医長
 2009年 国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二診療部 眼科医長 
  現在に至る 

【後記】
 『眼科医として私だからこそできること』西田先生の力強い言葉が会場に響きました、、、、「私が生まれた時には、父は目が見えなかった」「父を目を見えないようにしたベ-チェット病は敵だった」「医師になって、やっと念願のベ-チェット病の研究に専念することが出来た」「医者は、障害者や福祉のことを知らな過ぎる」、、、参加者は、皆、感銘を受けました。
 「私だからできる仕事」ナンバーワンではなく、オンリーワンを目指すとも聞こえました。自分にとってオンリーワンの仕事は何だろうと、講演を聞きながら自問自答しました。

2013年10月24日

『小児眼科のロービジョンケア』 
      佐藤 美保 (浜松医科大学)
   
シンポジウム「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
   
2013年10月12日 第14回 日本ロービジョン学会学術総会(倉敷) 

【講演要旨】
 小児眼科外来は、小児の良好な視力発達を目標として治療を行っているが、重度の先天性眼疾患をもって生まれた児や、未熟児網膜症などで、改善の期待できない重度の視覚障害をもつ児に対して、その家族も含めたロービジョンケアを行うことは重要な役目である。

 浜松医科大学付属病院では視覚障害のある小児を対象とした療育相談を行っている。そのなかでも3歳以下を早期療育相談として、視覚支援校と早期に繋がりをもたせる試みを行っている。早期療育相談の流れは、重篤な視力障害を持つ乳幼児が受診した場合に、院内早期療育相談の存在を養育者に伝える。養育者が相談を希望した場合には、ロービジョン外来担当の視能訓練士が窓口となって、視覚支援校の乳幼児発達支援指導員と連絡をとる。院内早期療育相談は、視覚支援校の教員が大学病院の外来を訪問する。初めに眼科医、視能訓練士が同席して、病状を保護者と教員に説明するとともに児の眼症状をいっしょに確認する。その後、教員が乳幼児の行動を観察しながら、育児支援、発達支援、情報提供などを保護者に対して行う。院内早期療育相談終了後、保護者からの希望があれば視覚支援校を訪問しての教育相談に繋げていく。 

 低視力の原因は、黄斑低形成、未熟児網膜症、第一次硝子体過形成遺残、眼白子症、先天白内障 先天小瞳孔、視神経異常、網膜色素変性症、緑内障 強角膜症などである。視力は0.1以上のものもいたが、ほとんどは0.1以下であった。そして、相談を受けた養育者の多くは、引き続き視覚支援校との連絡をとり視覚支援校幼稚部への進学を選択するものが多くみられた。

 生まれてきたばかりの赤ちゃんが、生涯視力に問題を抱えていきていくという事実を受けいれることは容易なことではない。医師の役目は正しい診断をくだし、治療可能なものにたいしては全力で治療にあたるが、そうでない場合には予後を判断したうえで正直に事実を伝えることである。予後の判断が即座にできない疾患に関しては継続的なフォローをしながら必要な情報を提供していく。ときには悲観的な説明ばかりではなく、児が成人となる20年後の未来の医療への希望へとつなぐ説明を行うことも必要である。養育者は子育てに悩みながら相談できる場所をさがしているため、早期療育相談を通して医療と教育、福祉をうまくつないでいくことが重要と考える。 

【略 歴】 2013年7月1日現在
 1986年        名古屋大学医学部卒業
 1992年        名古屋大学医学部大学院外科系眼科学満了
 1992年        学位取得
 1993年        名古屋大学眼科学助手
 1993年9月-1995年3月 米国Indiana 大学小児眼科斜視部門留学
 1997年7月    名古屋大学眼科学講師
 2002年7月    浜松医科大学医学部眼科学助教授(准教授) 
 2011年1月1日浜松医科大学医学部病院教授
                現在に至る 

 第12回国際斜視学会(ISA 2014;京都) 会長(予定)
  2014年12月1日(月)~12月4日(木)
  http://www.isa2014.jp/index.html

 

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第14回日本ロービジョン学会学術総会
 シンポジウム2「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
 日時:2013年10月12日(土)16:20~17:50
 会場:第1会場(倉敷市芸文館 メインホール)
 オーガナイザー:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
         佐藤 美保(浜松医科大学)
 演者:門之園 一明(横浜市大医療センター)
    佐藤 美保(浜松医科大学)
    若倉 雅登(井上眼科)
    根岸 一乃(慶応義塾大学)
    栗本 康夫(神戸市立医療センター中央市民病院)
    安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
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『白内障・屈折のロービジョンケア』
 根岸 一乃 (慶應義塾大学医学部眼科学教室)
  シンポジウム「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
  2013年10月12日 第14回 日本ロービジョン学会学術総会(倉敷)

【講演要旨】
 一般に白内障および屈折矯正手術は、視力の改善が期待できるものに行われ、それ以外は適応外であるとされる。ロービジョン患者に関しては、患者が手術を希望しても「適応なし」として放置される場合もしばしばである。これは「視力予後」という観点から見れば正しい判断だといえる。一方で、ロービジョンの白内障患者において、術後矯正視力が0.1未満であってもQuality of Life(QOL)が大きく改善する症例をしばしば経験する。

 近年、白内障および屈折矯正手術は患者のQOLに大きく関与することがわかってきている(文献1-5)。我々は、両眼または片眼で、点眼麻酔下でPEA+IOL(SN60WF, Alcon)を挿入した連続症例155例を対象として術前および術後2か月・7か月の視覚関連QOLの質問票NEI-VFQ25(日本語版version 1.4,コンポ7)、睡眠の質を示すピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、および歩行速度(m/sec)を検討し、白内障術後はNEI-VFQ25が改善し、術前に睡眠障害があった患者のPSQIや術後2か月で有意に改善すること、術前に歩行速度が0.8m/sec(寿命予後不良の基準値)未満の症例の歩行速度が大部分改善することを報告した(文献5)。

 今回は上記の155例の中から、術後矯正視力が0.6以下と不良であった4例(視力不良群)について全症例の平均値と比較したところ、4例中3例において視力の改善度は全症例の平均値より大きく、NEI-VFQ25は大きく改善し、全例においてPSQIは改善していた。寿命との関連が指摘されている歩行速度は4例中2例で改善した。また、白内障手術による屈折変化から4例中2例において眼鏡依存度が軽減した。

 以上より、術後矯正視力の期待できないロービジョン患者においても、白内障手術によって術後にQOLが改善する可能性があることから、白内障手術の適応は視力予後ばかりでなく、QOLへの影響を考慮して総合的に判断すべきであることが示唆された。

【文献】
 1) Ishii K, Kabata T, Oshika T. The impact of cataract surgery on cognitive impairment and depressive mental status in elderly patients. Am J Ophthalmol 2008;146:404–409.
 2) Tanaka M, Hosoe K, Hamada T, Morita T. Change in sleep state of the elderly before and after cataract surgery. J Physiol Anthropol 2010;29:219–224.
 3) Harwood RH, Foss AJE, Osborn F, Gregson RM, Zaman A, Masud T. Falls and health status in elderly woman following first eye cataract surgery: A randomized controlled trial. Br J Ophthalmol 2005;89:53–59.
 4) Yamada M, Mizuno Y, Miyake Y; Cataract Survey Group of the National Hospital Organization of Japan. A multicenter study on the health-related quality of life of cataract patients: Baseline data. Jpn J Ophthalmol 2009;53:470–476.
 5) Ayaki M, Muramatsu M, Negishi K, Tsubota K. Improvements in sleep quality and gait speed after cataract surgery. Rejuvenation Res. 2013 Feb;16(1):35-42.

 

【略歴】 根岸 一乃(ねぎし かずの)
 1988年 慶應義塾大学医学部卒業・同眼科学教室入局
 1995年 国立埼玉病院眼科医長
 1998年 東京電力病院眼科科長
 1999年 慶應義塾大学眼科学教室講師(兼任)
 2001年 慶應義塾大学眼科学教室専任講師
 2007年 慶應義塾大学眼科学教室准教授
     現在に至る。

 2011年9月 第47回日本眼光学学会総会(東京) 会長
 2015年 6月 第30回 日本白内障屈折手術学術学会(東京)会長(予定)

 


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第14回日本ロービジョン学会学術総会
 シンポジウム2「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
 日時:2013年10月12日(土)16:20~17:50
 会場:第1会場(倉敷市芸文館 メインホール)
 オーガナイザー:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院) 
         佐藤 美保(浜松医科大学)

 演者:門之園 一明(横浜市大医療センター)
    佐藤 美保(浜松医科大学)
    若倉 雅登(井上眼科)
    根岸 一乃(慶応義塾大学)
    栗本 康夫(神戸市立医療センター中央市民病院)
    安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
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2013年10月20日

『第14回 越後眼科研究会』 
  日時:平成25年10月19日(土)17:00~19:30
  場所:チサンホテル&コンファランスセンター新潟(越後東の間) 

 特別講演の大島先生のお話は、1時間の講演が、アッという間でした。非常に勉強になる講演をありがとうございました。 以下、私の記憶をたどりながら、講演要旨をまとめてみました。

特別講演  講演要旨
『重症増殖糖尿病網膜症に対する外科的治療のアップデート:小切開硝子体手術の進化と補助薬剤ベバシズマブの功罪』
  大島 佑介(西葛西 井上眼科病院) 

 大学院で学んだvascular cell biologyを基に、現在の眼内新生血管の抑制について概観し、眼内血管新生に対する分子標的治療(抗VEGF)の功罪について述べた。
 現在、糖尿病網膜症の大きな問題である血管新生緑内障や牽引性網膜剥離の治療に、抗VEGF療法は有効であるとともに、問題があることを示した。
 充分量と適正量~bevacizumab(Avastin)の1mg硝子体内投与は、適正なのか?前房内のVEGF濃度は、投与後しばらくの間は測定不能なくらいの低値。これをどう解釈するのか?やり過ぎではないか?0.1mgで同じような効果が期待出来うること。同時に抗VEGFの神経保護作用に対する悪影響や、血管閉塞の合併について触れた。

 27G硝子体手術 硝子体手術の歴史に触れ、17Gが開発され、20Gとなり、最近は23/25Gとなってきた。27Gは当初、黄斑疾患にのみの適応と考えられていたが、PDRやPVRへも適応が広がってきた。大きな要因として、27G機器・広角視野システム・明るい照明系の開発等が挙げられる。疾患による硝子体の性状の特徴から27Gが向かない疾患(AMDに伴う硝子体出血等)もあるが、現在では多くの網膜硝子体疾患に適応が広がりつつある。特にPDRの場合は、硝子体液化が進行していることが多く、膜処理等には、従来の双手法よりも好都合であることを理解しました。ダブルポートカッターの話なども新鮮だった。

 今後は、血管新生緑内障や牽引性網膜剥離ばかりでなく、PDR術後の視神経萎縮が課題である。

 

【略歴】
 1992 大阪大学医学部・卒業  大阪大学医学部眼科学教室・入局
 1993 多根記念眼科病院
 1995 淀川キリスト教病院眼科
 1997 大阪労災病院眼科
 1999 大阪大学大学院医学系研究科臓器制御学専攻(博士課程)
 2003 大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室・助手
 2010 大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室・講師
 2012 中国南開大学医学院・客員教授
 2013 西葛西井上眼科病院・副院長
   京都府立医科大学および近畿大学医学部眼科・客員講師

 

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 以下、一般演題の抄録です。

17:00~ 一般演題     座長:橋本 薫(長岡赤十字病院眼科)                   (講演10分.質疑5分)

1)アイファガン点眼液0.1%について   ○千寿製薬株式会社 

2) 術中に腫瘍だと判明した急性涙嚢炎の1例   
 ○橋本 薫、田中 玲子、武田 啓治(長岡赤十字病院眼科)
 

 症例は79歳女性。近医で急性涙嚢炎として複数回排膿処置を施行されていた。手術目的に当科紹介受診され、涙嚢摘出術を施行した。切開直後に充実性の組織を認め、腫瘍除去術を施行した。術後の病理検査で上顎洞癌由来のSCCと診断された。急性涙嚢炎でも術前のCT検査は必要であると思われた。

3) 網膜色素変性症のOCT所見   
 ○安藤伸朗、大矢佳美、中村裕介(済生会新潟第二病院)
 

 網膜色素変性の治療については、人工網膜や再生医療、遺伝子治療などが話題になっているが実用化には、まだ数年あるいは数十年かかりそうである。現在臨床の現場では、白内障手術や黄斑浮腫など克服できる課題がある。今回は特にOCT所見を中心に臨床現場での問題を掘り下げる。

4) 硝子体手術に至った網膜血管腫の1例   
 ○ 村上健治(新潟市民病院)
 

 症例は15歳女性、網膜血管腫を伴う網膜剥離の診断で当科を紹介されて受診した。流入血管および血管腫本体に光凝固を施行し病勢は鎮静化したが徐々に黄斑上膜が出現し再び視力低下を来したため硝子体手術を施行し た。黄斑上膜が出現した場合は早期の硝子体手術が望ましい。 

5) 白内障手術術後合併症に対する網膜硝子体治療   
 ○吉澤豊久(三条眼科)
 

 白内障手術には術中の核落下、眼内レンズ破損などに加えて、術後黄斑浮腫などの合併症がある。今回、術後に増悪したMPPE、網膜硝子体牽引症候 群により黄斑浮腫が悪化した2例を経験したので報告する。MPPEに対しては ranibizumabの硝子体注射、硝子体網膜牽引に対しては硝子体手術により視機能を改善させた。術後合 併症の原因・発症機序を見極め、それに応じた対処法を行うことが重要である。