報告:第264回(18-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「ささえ、ささえられて」 3)橋本伸子
日時:平成30年02月14日(水)16:00 ~ 18:30
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
2月の勉強会は、5名の方に講演して頂きました;小林 章(日本点字図書館:歩行訓練士)、大石華法(日本ケアメイク協会)、橋本伸子(白尾眼科:石川県、看護師)、上林洋子(盲導犬ユーザー;新潟市)、岩崎深雪(盲導犬ユーザー;新潟市)。順に講演要約をお送りしています。今回は、橋本伸子氏です。
演題:これからのロービジョンケア、看護師だからできること
講師:橋本伸子(しらお眼科;石川県 看護師)
【講演要約】
私は眼科看護歴26年になるが、ロービジョンケアという言葉を知ったのはほんの6~7年前である。それまでは、眼科看護だと思っていた。今もケアと付くからには看護だと思っている。「見えなくなったらどうしよう…」この問いにどう答えたら良いのだろう。傾聴だけではそのひとの明日は変わらない。この思いが芯となり私を動かしてきた。では、何ができるだろう。
私達看護師は、身体に機能障害が残ってもリハビリをして地域で生活していける事をこれまでも経験している。あるいは身体の一部が失われるようなケースのケアについても経験している。いずれの場合も安全な環境調整から退院に向けての支援、また転倒予防、感染予防、再発予防などと予防的支援まで関わることができる。しかし、視覚障害に関しては、消極的だと言われる事が多くある。それは、これまでに視覚障害に対してのリハビリを臨床の中で目にする事がなかったためだと私は思っている。気持ちはあっても、視力検査や視野検査など保有視機能の評価だけでは動けない。私自身もそんな「足踏み期」は長かった。
それならば私達が学んではどうだろう。その先を歩く経験者に教われば良いのである。私はその答えにたどり着くまでに、失敗もしている。保有視機能だけをみて不便だと思い込み、活用できる社会制度や補助具の利用について来院するたびに積極的に紹介する事が役割だと思う「勘違いの思い込み期」もあった。これでは、結果、断られ敬遠される事になる。その後も、学会や研修でロービジョンケアを知るほど、少人数のクリニックで、ORT(視能訓練士)もいない環境ではロービジョンケアは難しいのではないかと感じる「ロービジョンケア委縮期」もあった。
しかし、今は患者さんから学べば良いと考えている。保有視機能をヒントにその方の生活環境、自宅での自立度、人生の経験値、見えにくい歴、病期(初期~末期)、進行性か固定か、そして発達段階の役割を考えた時に浮かぶ疑問があるはずである。いったいこの視力でどうやっているのだろうと思う事を尋ねるのである。それは、通院方法、病院の会計時のお金の区別、処方された薬の区別、自己血糖など目の前の事から、普段の生活の中にまで及ぶ。買い物、料理、体温計、学校や地域での役員、冠婚葬祭の付き合いなど。季節や気候に合わせて、さりげなく聞いていく。
これが、私が外来で実践している「できている事に目を向けるケア」であり患者さんから学ぶケアである。実践を続ける間に気が付いたことであるが、本当に多くのノウハウが隠れており、話す表情も明るいのである。できない事や不便だけを聞き出そうとした時の苦労とは真逆である。できている事に目を向けた時に、社会制度や補助具についての捉え方も変わってくる。自己肯定感にも繋がってくると感じている。補助具も見えなくなったから使うではなく、自分の事は自分でしたいから使うである。そして「お困りの事はないですか?」では得られなかった具体的なニーズが出てくるのである。
さらに、患者さんから学ぶケアを繰り返してきて見えてきたものは、地域での生活、家族との関係、協力者の有無、現状の捉え方などである。そして、必ず把握する必要があると感じていることが2つある。1つ目は、家族以外に繋がりがあるか、社会や地域との関わりの有無である。協力者が1人の場合、あるいは年齢背景によっては早めに介入しなければと危機感を覚える。通院できなくなってからでは遅いのである。2つ目は、転倒や怪我などの最近のヒヤッとした出来事や失敗談についての情報である。それによって予防的支援についても考えなくてはならない。その他にも日常生活用具給付、同行支援、福祉相談会、機器展など地域で利用できる社会資源の情報が届いているかである。知っていて利用しないのか、知らないから利用できないのかを確認することである。
そして、医院のトイレを使ったことがあるかもさりげなく確認している。当然のニーズである、待ち時間が長い時は特に排泄への配慮を忘れてはならない。病院に来る時は朝から飲まないようにしているとういう声も少なくないのである。外来には入院時のようなオリエンテーションがない。そのため、もし、使ったことがない場合は、説明する必要がある。
最後に、できている事に目を向けるケア、患者さんから学ぶケアはかなり面白い。目からウロコの連続である。しかし、同時に生活するということは、制度や補助具では解決できない問題が多い事を思い知る。私達はこのノウハウを学びながら、それをカスタマイズし還元していく力をつけなければならない。また、信頼関係を築くことで、通院の中断を予防し、適切な時期に社会資源と繋いでいくことも大きな役割だと感じている。さらに、これから各々の看護の臨床で細分化されたロービジョンケアが誕生してくることを期待している。
【自己紹介】 橋本 伸子(しらお眼科;石川県 看護師)
看護師 臨床デビューは、整形外科。その後、眼科に移動になり、毎日、整形外科に戻りたいと懇願しつつ、段々面白みにハマっていく。その後も移動で泌尿器科にも行き、退職後開業医の眼科へ。気が付けば、眼科看護歴26年となる。
【参加者の感想】
・視覚障害発症後のリハビリを目にしたことがなかったところからはじまったとはいえ、経験や知識に頼らず、無知を力に「私を育ててください」と患者様から教わる姿勢は橋本さんのお人柄と相まって素晴らしいアプローチだと思いました。経験者からノウハウを引き出し、新たな患者様に向けてカスタマイズしていく。「見えなくなったらどうしよう」に対しては、一番大きな不安要素を聞き出し、一緒に向き合うこと。など、大変勉強になりました。「見えなくなってからの人生の続きを描ける看護師」でありたいと語られたのが印象的でした。益々のご活躍を心からお祈り致します。
(神奈川県、眼科医)
・眼科外来看護師としてなにができるか?見えなくなる患者に対して相手を受身にするのではなく、一緒に考えできることはなにか聞くことは素晴らしいと思いました。10人いたら10通りのやり方があり、できることも様々。まず聞くことでたくさんの情報を得るそして、次の方へカスタマイズすることはことに共感しました。当事者に寄り添う、共に考え、できることへと導きだせることが本物の指導者となれると感じます。それをクリアされ、さらなる飛躍をされておられる方の言葉は重みがありました。
(兵庫県、ボランティア)
【後 記】
橋本さんは、ストレートなヒトだと思います。「ロービジョンケア」はケアと付くから看護の領域だと思ったという勘違いからこの領域に足を踏み入れたようです。「見えなくなったらどうしよう…」この問いにどう答えたら良いのだろうとの想いが、芯となり彼女をつき動かしました。ロービジョンケアを担当する職種は多いのですが、多くの場合は眼科医と視能訓練士です。看護師が主体的に取り組んだ事例は多くはありません。橋本さんは、患者さんとの会話を通してニーズを探り、看護師ならではの視点で、時に視覚障害者の先輩からお聞きした方法も取り入れ、解決法を患者さんと共に考えるという「無知のアプローチ的手法」で、看護師ならではのロービジョンケアを実践してきました。 素晴らしいことだと思います。今後もますます活躍されることを祈念しております。
第264回(18-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会「ささえ、ささえられて」
講師と演題
1.小林 章(日本点字図書館:歩行訓練士)
「空気を感じて歩く楽しさと 少しでも楽に歩ける視覚活用方法を伝えること」
http://andonoburo.net/on/6438
2.大石華法(日本ケアメイク協会)
「『ブラインドメイク物語』視覚障害者もメイクの力で人生が変わる!」
http://andonoburo.net/on/6455
3.橋本伸子(白尾眼科:石川県、看護師)
「これからのロービジョンケア、看護師だからできること」
4.上林洋子(盲導犬ユーザー;新潟市)
「生きていてよかった!!」
5.岩崎深雪(盲導犬ユーザー;新潟市)
「私のささやかなボランティア …」
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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
1996年(平成8年)6月から毎月欠かさず265回続け、2018年(平成30年)3月で終了しました。
この勉強会は誰でも参加出来ました。話題は眼科のことに限らず、何でもありでした。参加者は毎回約20から30名くらい。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しました。眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会でした。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換がありました。
日時:毎月第2水曜日午後
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
1)ホームページ「すずらん」
新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している音声パソコン教室ホームページ
http://occhie3.sakura.ne.jp/suzuran/
2)済生会新潟第二病院 ホームページ
http://www.ngt.saiseikai.or.jp/section/ophthalmology/study.html
3)安藤 伸朗 ホームページ
http://andonoburo.net/