報告:第264回(18-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会「ささえ、ささえられて」 4)上林 洋子
2018年4月28日

報告:第264回(18-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会   4)上林 洋子
 「ささえ、ささえられて」
 日時:平成30年02月14日(水)16:00 ~ 18:30
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

 2月の勉強会は、5名の方に講演して頂きました;小林 章(日本点字図書館:歩行訓練士)、大石華法(日本ケアメイク協会)、橋本伸子(白尾眼科:石川県、看護師)、上林洋子(盲導犬ユーザー;新潟市)、岩崎深雪(盲導犬ユーザー;新潟市)。順に講演要約をお送りしています。今回は、上林洋子氏です。 

 演 題:「生きていてよかった!!」
 講 師:上林 洋子(新潟市;盲導犬ユーザー)
【講演要約】
 小・中学校時代の私は体育系は苦手で、思っていることがあっても自分から言い出せないという「消極的」な性格でした。中学卒業後「看護婦」になる夢を抱いて川崎市内の病院付属養成所に入学したのですが、緑内障の発病により新潟大学眼科で手術を受けました。担当医師から再発により失明の可能性が高いと言われ、親に説得され翌春に新潟盲学校高等部に入学しました。盲学校では、視野欠損があるものの文字の読み書きができるので何かと重宝がられ生徒会の役員を手伝わされました。ここで自分から思っていることを進んで発言できるようになった気がします。 

 出産、子育てのさ中に緑内障が再発し、手術を繰り返しながら39歳で両眼球摘出、全盲となりました。子育てや家事は工夫することによりできたのですが、一人で外を歩くことが怖くてできませんでした。そんな私を支えてくれたのは、喜怒哀楽を三十一文字の短歌に託すことでした。 

 子供たちが就職、大学にと家を離れた平成7年、先輩ユーザーの勧めにより盲導犬の訓練を受け、一緒に暮らすことになったのです。この盲導犬、意見を主張できない性格の私を見抜いてか、夫の発言がしっかりしていることを悟ったゆえか、歩行中でも、私より夫の指示に従うようになったのです。今思えば恥ずかしいのですが「消極的では世の中渡れない」と盲導犬から教えられたのでした。 

 それから我が家は早朝散歩のトレーニングで足・腰を鍛え平成9年、先輩ユーザーの提案により、盲導犬とともに富士山頂に立ちました。この時の達成感が忘れられず、視覚障害者とともに登る「山の会」に入会し、近在の里山をはじめ、立山、白馬、火打山、大峰山、五頭山、安達太良山…山頂を極めることができました。 

 また、25年ほど前に市の社会福祉協議会から小・中学校の福祉授業に関する協力依頼を受け、現在も続けています。

 消極的で人前で話すことが苦手だった私でしたが、失明により出会った人たちから生きるヒントをいただきました。また、歩行の一助となればと選んだ盲導犬歩行により、自分 の意思をはっきり相手に伝える生き方を身につけました。3代目の盲導犬も今年で定年退職(リタイヤ)です。4代目パートナーと暮らせるように、もうひと踏ん張り頑張りたいと思います。 

 ようやく私も人並みに「おばあちゃん」の境地に満足し、工夫を重ねることにより日々をエンジョイして「生きていてよかった!」と痛感しているこの頃です。そして、三十一文字に託してきた短歌の総まとめに取りかかっています。
 ・いつしらに色の記憶の薄れたり今朝は触れてみつチューリップの花
 ・ゆったりと浅き緑を踏む犬の歩みに合わせめぐる山裾
 ・風呂の栓抜きてしまい湯落とすとき渦巻きながら消えゆく一日
 ・盲導犬戸口に繋ぎ庭を掃く時折名を呼び吾の位置を知る
 ・人生のとどのつまりは皆ひとり一合に満たぬ明日の米研ぐ
 

【自己紹介】 上林 洋子(かんばやし ようこ)
 昭和36年 緑内障と診断される、視覚障害手帳(5級か6級?)
 昭和37年 新潟盲学校高等部入学
 昭和42年から短歌等の創作や編み物に挑戦
 昭和59年、両眼球摘出
 昭和60年ころ、漢点字、音声ワープロ等を取得
 平成5年から、社会福祉協議会の依頼を受け小、中学校などの福祉授業に協力
 平成7年、盲導犬ユーザーとなる
 平成9年、登山初体験(富士山) 

【参加者の感想】
・盲導犬に出会ってから生活が大きく変わり、やれば出来るを座右の銘とし編物・登山・短歌に力を注ぎ生きていて良かったとの心境となった。視覚障害が判明してからはもがき苦しんでいるばかりの私にとってとても感銘深いものでした。上林さんの生き方を私の今後の心の糧とし生きて行きたいと思いました。
 (新潟県三条市 女性)
・死にたいと思ったことが二度ありますとおっしゃる、そんな厳しい人生に真摯に向き合ってこられ、今は三代目の盲導犬とともに山登りなどアクティブな人生を送っていらっしゃるとのこと。前向きで明るい笑顔に感動しました。
 (神奈川県 眼科医)
・健常者であるにもかかわらず、時に愚痴を言ってしまっている自分が恥ずかしくなりました。諦めない、チャレンジする、人生を楽しむ人生の先輩から多くのメッセージが受け取れました。
 (兵庫県 ボランティア)
・力強く前向きな姿勢に胸打たれ、満足感を抱えて帰路につきました。
 (神奈川県 会社員) 

【後 記】
勉強会常連の上林さんにお話して頂きました。上林さんの優しい語り口調に吸い込まれ、心地良い感覚でお聞きしました。「生きていてよかった」ここに、上林さんの人生が集約されているのが、講演を拝聴してよく理解することが出来ました。幾多の苦難を乗り越えて、自らの精一杯の努力と、本気でぶつかり合いながらで築き上げた、多くの理解と愛情の中で、今を生き抜いている。。。。。今後は、上林さんの知識と経験、そして、エネルギーを多くの方々に伝え広めていただきたいと期待しています。益々の活躍を祈念しております。 

参考までに、これまで上林さんには勉強会で2回お話してもらいました。
第114回(05-09月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
「限りなく透明な世界」  
 上林洋子(視覚障害者福祉協会会員、盲導犬ユーザーの会会員;新潟市)
 日時:平成17年9月14日16:30 ~ 18:00 
 http://andonoburo.net/on/6471

 第220回(14‐06月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「生きていてよかった!」
 講師:上林 洋子(社福:新潟県視覚障害者福祉協会副理事長 同女性部長)
  日時:平成26年6月11日(水)16:30 ~ 18:00 
 http://andonoburo.net/on/2848 

PS:先日、上林さんから、主人上林明様ご逝去の報が届きました。
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3月19日に夫上林明が旅立ってしまいました。覚悟をしていたとはいえ、心の整理がつかない日々です。
『酸素ボンベひたすら動く病室にあなたと分かつ限られし刻を』
『あなたもう苦しまなくともいいのです愛用のベレー棺に納む』
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謹んでご冥福をお祈りいたします。 

上林明様に、一度勉強会で講演して頂きました。とても心に残るお話でした。
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第239回(16-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会    上林明
 演題:「パラドックス的人生」
 講師:上林明(新潟市)
  日時:平成28年1月13日(水)16:30~18:00
 http://andonoburo.net/on/4401  
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第264回(18-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会「ささえ、ささえられて」
講師と演題
1.小林 章(日本点字図書館:歩行訓練士)
 「空気を感じて歩く楽しさと  少しでも楽に歩ける視覚活用方法を伝えること」
  http://andonoburo.net/on/6438
2.大石華法(日本ケアメイク協会)
 「『ブラインドメイク物語』視覚障害者もメイクの力で人生が変わる!」
  http://andonoburo.net/on/6455
3.橋本伸子(白尾眼科:石川県、看護師)
 「これからのロービジョンケア、看護師だからできること」
    http://andonoburo.net/on/6464
4.上林洋子(盲導犬ユーザー;新潟市)
 「生きていてよかった!!」
5.岩崎深雪(盲導犬ユーザー;新潟市)
 「私のささやかなボランティア …」

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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
 1996年(平成8年)6月から毎月欠かさず265回続け、2018年(平成30年)3月で終了しました。
 この勉強会は誰でも参加出来ました。話題は眼科のことに限らず、何でもありでした。参加者は毎回約20から30名くらい。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しました。眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会でした。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換がありました。
  日時:毎月第2水曜日午後 
  場所:済生会新潟第二病院眼科外来 

*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
 1)ホームページ「すずらん」
  新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している音声パソコン教室ホームページ 
  http://occhie3.sakura.ne.jp/suzuran/
 2)済生会新潟第二病院 ホームページ
   http://www.ngt.saiseikai.or.jp/section/ophthalmology/study.html
 3)安藤 伸朗 ホームページ
   http://andonoburo.net/