報告:第158回(2009‐04月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会  宮坂道夫
2009年4月8日

報告:第158回(2009‐04月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会  宮坂道夫
     演題:「医療紛争のソフトな解決について」
     講師:宮坂 道夫(新潟大学医学部准教授)
   日時:平成21年4月8日(水) 17:00~18:30
   場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

【講演抄録】
 裁判外紛争処理(ADR、alternative dispute resolution)は、1960~70年代に欧米で提案され、80年代から急速に国際的に拡大した。これは、司法制度の限界を見据えて、より柔軟な紛争処理の仕組みを設けようという運動であった。いくつかの異なった仕組みが提案されている。裁判の「前段階」として、司法の枠内にそのようなシステムを設けようという提案や、裁判とは独立した仕組みを提案する民間型の提案がなされてきた。 

 日本の医療でも、裁判は紛争解決の手段として問題が多々あることが指摘されてきた。和田らは、(1)争点が法的問題に限定されること、(2)責任主体が限られた個人に限定されること、(3)紛争解決の帰結が金銭賠償に限定されること、(4)対決的構図が必然的に設定されること、(4)医療現場への影響が大きいこと、等を指摘する(*1)。

 *1 和田仁孝、中西淑美
   『医療コンフリクト・マネジメント-メディエーションの理論と技法-』 (シーニュ、2006年)

 さらにこれに加えて、(5)患者の権利が法制度化されておらず、診療情報が医療側に独占されていること、にも関わらず(6)立証責任が訴えた側にあること、(7)医療者側の証拠提示義務が十分でないこと等も指摘されてきた。 

「医療コンフリクト・マネジメント」
 和田らは、(A)医療紛争において、患者側のニーズと医療者側のニーズは、実はかなり共通している。(B)当事者のニーズに丸ごと対応できる、ケアの理念に基づくシステムが必要、という前提に立ち、「医療コンフリクト・マネジメント」を提唱している。それによると、当事者の対立は認知フレームの相違に基づいているので、「対立をもたらす認知フレームに働きかけ、それを変容させるべき」だという。そのために、メディエーターが、対立の構造(イシュー、ポジション、インタレスト)を分析し、その上で仲介(メディエーション)を試みる。 

 講演では、具体的なケーススタディを行って、ADRが日本の医療現場でも有効に働きうることを指摘し、その一方で限界もあることを示唆した。演者は、検討を要する課題として、(1)ADRは、紛争の内容が「広範囲」に及ぶ場合(複数の医療施設が関わるような場合や、当事者の姻戚関係や職場・学校などに紛争の環境要因があるような場合)に対応が困難、(2)ADRがあくまで紛争発生後の「事後」の対処法である、という点を指摘した。また、参加者から、メディエーターの育成・確保の問題も指摘された。これについては、日本医療メディエーター協会が養成事業を行っていることなどを紹介した。 

 ADRの弱点を補う方法として、「紛争の芽を絶つ」事前の解決策が不可欠であり、その位置づけにあたるのが「臨床倫理」の検討会ではないかと提案した。具体的には、多職種による「臨床倫理検討会」をインフォーマルに行うことを提案した(*2)。

  *2 詳細は、以下を参照のこと
   宮坂道夫:『医療倫理学の方法 原則, 手順, ナラティヴ』(医学書院,2005年)
   宮坂道夫, 坂井さゆり, 山内春夫:日常臨床における医療倫理の実践,
    日本外科学会雑誌,110(1), 28-31, 2009  
 

【宮坂 道夫 先生:略歴】
 1965年長野県松本市生まれ。松本県ヶ丘高校卒業、
 早稲田大学・教育学部理学科生物学専修卒業、
 大阪大学・大学院医学研究科修士課程修了、
 東京大学・大学院医学系研究科博士課程単位取得、博士(医学、東大)
 現在、新潟大学医学部保健学科准教授。
  専門は生命倫理、医療倫理など。
  主著:『医療倫理学の方法』(医学書院)
     『ハンセン病 重監房の記録』(集英社新書)など
 HP http://www.clg.niigata-u.ac.jp/~miyasaka/

【後記】
 医療訴訟は、医療現場での悩ましい問題です。一生懸命治療していた結果患者さんに訴えられる、あるいは信頼して治療を受けていた主治医を訴える、、、、辛く悲惨な状況です。解決の方法として医療裁判があるのですが、現状では、時間がかかりお金がかかる割には、双方に納得できる解決が得られることが殆どありません。すなわち、どちらも不満足な、不本意な判決になってしまうことが多いのです。

 時間がかからず、経費がかからずに、双方が満足できる(Win-Win)解決法、ソフトな解決法はないものか?こうした疑問に一つの答えを示してくれる講演でした。すなわち、こじれた関係をいかにお互いの立場や心情を理解しつつ、歩み寄れるのか、そのためにはどのような方策が考えられるのか、と改めて考えさせられる内容でした。
 参加された方々からも、いくつかの事例が報告され皆で考える時間を持つことが出来ました。
 

 今回は、耳慣れない言葉が多かったので、私なりに調べてみました。
 「裁判外紛争処理制度(ADR)」
  http://www.nichibenren.or.jp/ja/judical_reform/adr.html
  日本弁護士連合会(日弁連)のHP
 

 「医療コンフリクト・マネジメント」
  http://www.conflict-management.jp/preface/preface.htm
  医療コンフリクト・マネジメント研究会のHP
 

 「日本医療メディエーター協会」
  http://jahm.org/toha.htm
  日本医療メディエーター協会のHP