「視覚障害者のこころのケア」
2013年9月14日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨 特別講演
「視覚障害者のこころのケア」
 山田 幸男(新潟県保健衛生センター・信楽園病院内科) 

 日時:平成25年6月22日(土)
 会場:チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間 

【講演要約】                     
1.目が不自由になると一度は死を考える
 目が不自由になるとそれが原因で、少なくとも2人に1人は死ぬことを考えます(文献1)。いや、「目が不自由になると、誰もが一度は死ぬことを考える」といったほうが正しいのかも知れません。パソコンや携帯電話など文字を頻繁に使う現在のような情報社会にあっては、目が不自由になると、仕事や日常生活が難しくなります。

 視覚障害者は生活行動や精神面で大きなハンディキャップを抱えながら、回復の見込みがないままに、また視力の残っている人は全く見えなくなるのではないかと不安を抱(いだ)きながら、生き続けなければなりません。がんなどの病気と違って、視覚障害の終点には“死”がないため、耐え切れなくなると、自分から死を選ぶのだと思います。

2.うつ病などこころに関連する病気が多い
 目の不自由な人には、うつ病をはじめ、すいみん障害、不安障害、パニック障害、過換気症候群など、こころに関連した病気を併発することが少なくありません。なかでも、うつ病は多く、かつ苦痛が大きいので見逃すことができません。最近晴眼の大人のうつ病患者が増え、5人に1人といわれています。目の不自由な人にはさらに多くみられます。

 私たちの調査では、目の不自由な人97名のうち、うつ病の人は23.7%(23名)、うつ状態の人は24.7%(24名)、ほとんど問題なしの人は51.6%(50名)でした(文献2)。この結果から明らかなように、目の不自由な人のほぼ半数はうつ病やうつ状態にあります。とくに女性や糖尿病の人に多いことが注目されます。

 そのみられる時期は、仕事や日常生活動作が困難になった時がもっとも多く、次いで病気の進行したとき、視覚障害の現われた時、見えなくなった時、などです。視覚障害が原因でおこるうつ病は、多くは大うつ病性障害の一つである反応性・症候性うつ病に含まれます。反応性・症候性の場合は、比較的短い期間でなおるともいわれ、私たちは次に述べるパソコン兼喫茶室がきわめて有効と考えています。

3.パソコン教室兼喫茶室はこころのケアにも有効
 私たちが開設して間もなく20年になるパソコン教室兼喫茶室が視覚障害者のこころのケアに役立つかを47名の利用者に聞いたところ、21.3%の人は大いに役立っている、76.6%の人は役立っていると答えていました。とくにこころが和む、元気が出る、などこころのケアに有効と考える人が多く、さらに友達作り、楽しむ場、また情報交換の場としても皆さん利用しています。パソコンの普及を兼ねた喫茶室は視覚障害者の自立に欠かせないため、県内10数か所にパソコン教室兼喫茶室を常設して、リハビリテーションに、またこころのケアの場として利用してもらっています。 

4.障害者は地域で治療を受けることを望んでいる
 多くの障害者、とくに高齢者は、長年住み慣れた地域社会でリハビリを受けたいと思っています。家族に囲まれながら、自分の座を確保しながら、リハビリテーシヨンを受けることを望んでいます。そのため家族と離れてまでして技術を身につけなくてもよいといいます。またリハビリテーションをやるような精神状態ではないことも無関係ではないようです。障害者医療は、本来、地域医療であるといわれています。ほとんどの視覚障害者は、できることなら家族と生活しながら通院でリハビリテーションをやりたいと考えています。

5.燃えつき症候群―家族にもこころのケアは必要
 視覚障害者とその介護にあたる家族は、対人関係や、期待・要求に必死に頑張ろうとする慢性的なストレスのために、身体的に、また精神的に、エネルギーの消耗した状態になりがちです。このような状態を、明るいろうそくが燃え尽きる姿になぞらえて、「燃えつき症候群」、「燃えつき」などといわれていますが、障害者の半数以上、家族の4割弱が経験していまこころのケアは、障害者とともに介助にあたる家族などにも必要です。

文献
1)山田幸男、大石正夫、ほか:中途視覚障害者のリハビリテーション(第6報)視覚障害者の心理・社会的問題、とくに白杖、点字、障害者手帳、自殺意識について。眼紀 52:24-29、2001.
2)山田幸男、大石正夫、ほか:中途視覚障害者のリハビリテーション(第9報)視覚障害者にみられる睡眠障害とうつ病の頻度、特徴。 眼紀 55:192-196、2004。

【略歴】
 1967年(昭和42)3月 新潟大学医学部卒業
          4月 新潟大学医学部附属病院インターン
 1968年(昭和43)4月 新潟大学医学部第一内科入局(内分泌代謝斑)
 1979年(昭和54)5月 社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 2005年(平成17)4月 公益財団法人新潟県保健衛生センター   

学 会
 日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、
 日本ロービジョン学会評議員、日本病態栄養学会評議員 

著 書
・視覚障害者のリハビリテーション(日本メディカルセンター)
・視覚障害者のためのパソコン教室(メディカ出版)
・白杖歩行サポートハンドブック(読書工房)
・目の不自由な人の“こころのケア”(考古堂)
・目の不自由な人の転倒予防(考古堂)、ほか