視覚障害者とスマートフォン
2013年10月2日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
 特別企画『視覚障害者とスマートフォン』
  渡辺 哲也 (新潟大学工学部 福祉人間工学科)
   平成25年6月22日(土)
      チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間 

【講演要旨】
1.はじめに
 昨今、タッチパネル操作が主体のスマートフォンとタブレット端末の広まりが目覚ましい。ロービジョンの人たちにとってこれらの機器は、画面拡大操作がしやすい、拡大読書器の代わりに使える、持ち運びに便利、そして格好いい、など利点が多い。他方で、全盲の人たちにとっては、たとえ音声出力があっても、触覚的手がかりのないタッチパネル操作は難しいのではないかと思われる。そこで、全盲の人たちがスマートフォンやタブレットを利用する利点と問題点について調査を始めた。Webを使った文献調査、利用者への聞き取り調査、音声によるタッチパネル操作実験などを通してわかったことを報告する。

2.操作方法
2.1.スクリーンリーダ
 Apple社のスマートフォンiPhoneやタブレットiPadには、スクリーンリーダVoiceOverが標準装備されている。Apple社以外のスマートフォンやタブレットのほとんどにはGoogle社のAndroid OSが搭載されている。このAndroidにも、スクリーンリーダTalkBackが標準装備されている。ただし、日本語出力のために音声合成ソフトを別途インストールする必要がある。

2.2.アイコン等の選択
 アイコン等の選択操作には2通りの方式がある。直接指示方式では、触れた位置にあるアイコンなどが選択され、読み上げが行われる。続けてダブルタップすると選択決定となる。画面構成を覚えておけば操作は容易だが、画面構成が分からないと目標項目を探すのは困難である。

 順次選択方式では、画面上でスワイプ(フリックともいう)することで、前後の項目へ移動し、これを読み上げる。項目間を確実に移動できるが、目標項目に到達するまで時間がかかることが多い。

2.3.文字入力
 テンキー画面によるフリック入力やマルチタップ入力(同じキーを押すたびに、あ、い、う、と変化)、50音キーボード画面やQWERTYキーボード画面が音声読み上げされる。漢字の詳細読み機能もある(iPhone, iPadの詳細読みは渡辺らが開発したものである)。いずれの方式も、個々のキーが小さいため、入力が不正確になりがちである。この問題を解決するため、iPhoneには自動修正機能が装備されている(英語版のみ)。ジョージア工科大学で開発されたBrailleTouchというアプリでは、タッチ画面を点字タイプライタの入力部に見立てて6点入力をする。

3.様々な便利アプリ
 光認識、色認識、紙幣認識、拡大機能、読み上げなど、単体の機械や従来型の携帯電話で実現されてきた機能が、スマートフォンやタブレットへアプリをインストールだけで利用可能になった。インターネットとの常時接続やGPSによる位置の推定など、スマートフォンの特徴的な機能を応用した新しいアプリとしては、物体認識、屋外のナビゲーションなどがある。
 ・Fleksy:打ち間違えても、「正しい」候補を賢く表示
 ・Light Detector:光量を音の高低で表示
 ・マネーリーダー:紙幣の額面金額を読み上げ
  日本でも同種のソフトを財務省、日本銀行、国立印刷局が開発中。2013年のうちにiOS用アプリとして無償公開される予定
 ・明るく大きく, VividCam:コントラスト改善、拡大
 ・TapTapSee, CamFind:視覚障害者向け画像認識
 ・Ariadne GPS, ドキュメントトーカボイスナビ:現在地・周囲情報・経路案内 

4.まとめ
 音声支援により全盲の人もタッチパネルを操作できる。しかし、アイコン等の選択や文字入力が効率的に行えるとは言いがたい。お札や色の判別などのアプリは従来の携帯電話でも利用できたが、これらを簡単にインストールできる点は利点であろう。スマートフォンで新たに実用可能になった物体認識やナビゲーション機能の実用性の検証とその発展が今後期待される。