盲学校での中途視覚障害者支援
2013年10月4日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
 特別企画  『盲学校での中途視覚障害者支援』
  司会:小西 明(新潟県立新潟盲学校 校長)
  話題提供:中村 信弘(秋田県立盲学校 校長)
  情報提供:田邊 佳実
   (日本ライトハウス/視覚障害生活訓練指導者養成課程研修生)

 平成25年6月22日(土)
 チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間

【講演要旨】
1 中途視覚障害者のニーズ
 平成25年度の新潟県内の視覚障害1・2級の身体障害者手帳取得人数は、3,770人である。このうち、18歳以上が3,708人で全体の98.4%を占める。障害者手帳(視覚)を取得した方の支援組織として、県内では新潟盲学校、新潟大学ロービジョン外来、視覚障害者福祉協会、NPO法人等がある。しかし、地方には一人一人のニーズに応じ総合的に支援するライトハウスやリハビリテーションセンター、盲導犬協会等の生活訓練を行う専門機関はない。

  また、最近の新潟盲学校の教育相談における18歳以上の主訴を分析すると、理療による職業自立を希望する傾向から、視覚障害に起因する現状改善のための方法を身に付けたいと望んでいる傾向がある。具体的には視能訓練や歩行訓練、パソコン操作などの情報処理、点字の読み書き、補助機器の使い方等の希望である。成人の中途視覚障害者の多くが、高等部理療科の学習以前に、生活の不自由や不便さの解消を求めている。これらのことから、成人の中途視覚障害者のニーズは、日常生活の技能や趣味、理療による職業自立の基盤としての生活技能の習得であることがうかがえる。

 

2  秋田県立盲学校の取組
 秋田県には中途視覚障害者のための、視覚障害者更生施設や身体障害者更生施設等でサービスを提供している例はなく、最も近い施設として仙台に「日本盲導犬協会」があるだけである。こうした現状にあって、地方在住の中途視覚障害者のニーズに応えるモデルとして、秋田県立盲学校では高等部専攻科に生活情報科を設置し成果を上げている。

 秋田県立盲学校は「視覚に障害があったとしても、障害を乗り越えて、社会で積極的に生きる力をつける」を学校目標に、①早期教育 ②普通教育 ③重複障害教育  ④QOLを目指す教育(生活情報科) ⑤職業教育  に力を注いでいる。盲学校に生活情報科を設置する意義として、①視覚に障害のある方のために存在する特別支援学校で「自立」を目指している。②「就学奨励費」の対象となり、在学中の費用はほとんどかからず、負担が少ない。をあげている。

  生活情報科では、一人一人のニーズに合わせてカリキュラムを作成し、学習を進めている。主な学習内容は、①障害理解 ②白杖を使用した歩行指導 ③音声パソコンの活用 ④日常生活に必要な機器等の活用 ⑤学習活動に必要な拡大読書器やディジー等の活用 ⑥社会経験の拡充 ⑦福祉制度や関係機関の活用方法 ⑧余暇の活用  等である。

  担当教員は、日本ライトハウスで歩行指導員の研修を受けた教諭4人と視能訓練士(非常勤)1人が配置されている。更に、平成25年度には日本ライトハウス「生活訓練等指導者養成課程」へ教員1人が派遣され、指導内容・方法の一層の充実が期待されている。               

3  生活訓練等指導者養成課程
 盲学校(特別支援学校)には、特別に設けられた指導領域である「自立活動」がある。 
 自立活動は、個々の幼児児童生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養うことをねらいとしている。視覚障害者の自立活動の内容として、日常生活動作、コミュニーション、歩行などがあり、指導者には専門的な知識と技術が求められる。専門性を身に付けた盲学校教員を育成するため、日本ライトハウス「生活訓練等指導者養成課程」へ職員が派遣されている。高い専門性を身に付け、中途視覚障害者の自立活動の指導に当たることの意義は大きい。 

4  盲学校の資源を生かす
 盲学校に自立活動を指導の中核にした学科を設置することにより、0歳から高齢者まで、視覚に障害のある方々のトータルサポートセンターとしての機能を果たすことが可能となる。現状の高等部専攻科理療科は、理療科目の履修でほぼ授業日が埋まり、並行して自立活動を履修することは困難である。そのため、中途視覚障害者においては理療科をはじめとする職業リハビリテーション開始前に、日常の困り感を解消したり学習を効率的に行う方法を学ぶ必要がある。

 視覚障害リハビリテーション施設が設置されていない地域では、秋田県立盲学校のように学校体制を工夫することでこれを補うことができる。見えない、見えづらいといった困り感のある視覚障害者のために、どこがやるかでなく、「やれるところがやる」姿勢が求められている。