報告:『済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017』 2)平形 明人
2017年5月12日

 

報告:『済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017』 2)平形 明人 

 最新の眼科医療や再生医療の話題を知り、視覚リハビリテーションを語るという市民公開講座(主催:済生会新潟第二病院眼科)を、2月25日に開催しました。高橋政代先生(理化学研究所)、平形明人先生(杏林大学眼科教授)、清水美知子先生(フリーランスの歩行訓練士)をお招きし、司会は林 知茂先生(国立障害者リハビリテーションセンター病院)と、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)が務めました。当日は全国12都府県から100名を超す方々が参加、熱気あふれる公開講座となりました。

 公開講座の報告として、講師の方々の講演要約を順に公開しています。今回は、平形明人先生(杏林アイセンター教授)です。 

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演題:杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って
講師:平形 明人(杏林アイセンター教授) 

【講演要約】
 ロービジョンケアの重要性は眼科領域ではかなり普及してきている。しかし、対象となる病態や患者背景は多様であり、眼底疾患だけでも、発生異常による先天性視力障害、腫瘍や遺伝性網脈絡膜疾患による中途失明、血管閉塞や黄斑変性などによる高齢者の視力障害など様々である。また、施設により実施方法やロービジョンケア担当の職種は異なる。患者の日常生活に密接に関わる開業医、多数の難病疾患を紹介され高度な治療後の後遺症に対処する病院、高度医療の実施と若い医師や医療者を教育指導している大学病院、再生医療などの最先端治療をしながら難病患者に対応する高度医療機関、それぞれ異なった環境でロービジョンケアの方法には特徴があるであろう。 

 今回は、我が国で最初のアイセンターの名前を冠して活動している杏林大学病院眼科で、どのようにロービジョン外来が誕生してロービジョンケアを実施しているのかを振り返ってみた。 

 杏林大学眼科は、1999年にアイセンターの名前を冠して高齢化社会に向う我が国の眼科治療の発展の必要性を訴えた(つもりである)。そのアイセンター構想は、すでに1994年に杏林学園に提出されたが、その大きな柱の一つがロービジョンケアであった。当時主任教授であった藤原隆明教授、樋田哲夫助教授と私で、高齢化社会での生活の質(QOL)のために視覚医療が非常に大切で、そのためにはロービジョンケアが大きな役割を果たすことを強調した。この杏林ロービジョンケアの創設は、その2年前にORTの守田好江さんが外来にロービジョン補助具を準備したことに遡る。 

 守田好江さんは、慶應大学の植村恭夫先生の下で小児眼科、つまり斜視弱視と屈折矯正の基本を徹底的に仕込まれたORTであるが、植村先生の退任を機会に米国に留学してロービジョンケアを学び、杏林にORTとして赴任した。そして、人手のない中でORT業務の合間に少しずつロービジョンケアを行いながら、教室の眼科医たちにそのコンセプトを浸透させた。 

 守田さんが再び米国に戻ることになった時に、彼女の推薦でORTの田中(石垣)恵津子さんが赴任し、彼女が大学院で学んだ東京女子大の小田浩一教授との交流が始まった。田中さんの献身的な患者への対応を見ながら、網膜硝子体手術の対象疾患をはじめ難病疾患の患者に対する治療前後のロービジョンケアの意義を私を含め多くのスタッフが認識するようになり、ORT西脇友紀さんも加わった。 

 Duke大学で硝子体手術の父といわれるRobert Machemer教授に指導いただいた樋田教授と私は、「本当の医者は、自分の手術の上達に満足するのではなく、手術を受けた患者がどのように生活を拡大するかに心を配らなければいけない。そのために、手術後の屈折矯正を基本とする視覚環境のケアに眼科医は関心を持たなければいけない。」という教育を受けていた。まさに、彼女らのケアによって生活が拡大する視覚障害者に接して、ロービジョンケアの重要性を実感した。 

 1999年の病院の新外来棟建設に伴ってアイセンターが設立したのを機会に、田中、西脇をORTの基本業務から外し、小田教授をロービジョンケアリサーチ主任として非常勤講師に迎えた。以後、彼らの学会発表や論文報告の数は医師のそれを凌ぐものになった。その後、家庭の事情から田中、西脇が非常勤になり、ORT新井千賀子さんと歩行訓練士の尾形真樹さんが受け継いで活動範囲はさらに広がり、外部から見学者や研修者が多く訪れ、アイセンターにはなくてはならない外来に充実した。 

 本講演では、ロービジョンケアが生活拡大に明らかに有用であった印象深い数例を紹介した。
・両眼の先天網脈絡膜コロボーマで健常網膜は上方血管アーケードより周辺しか残存していない3歳女児。両眼視力は0.04であるが、行動観察、読書検査、固視検査を通じて年齢に適切な視環境を取り入れながら成長し、昨年、4年制大学を卒業して福祉関係の仕事に就職された。

・68歳男性でドーナツ状の輪状暗点を示す輪紋状脈絡膜硬化症の男性に、病態や将来予後の可能性を説明し、MN-Read読書検査から周辺視野を使った文字サイズで読むことを拡大読書器で練習してもらった。13年たった81歳の現在、中心視力は0.08に低下したが、趣味の読書を続けている。

・60歳男性、糖尿病治療歴なく、他眼失明で残る眼の網膜剥離を合併する重篤な増殖糖尿病網膜症で受診した。視力は0.03、糖尿病内科眼科同時診察を経て、内科入院中から手術後の予後を想定して、糖尿病のインスリン自己注射を含む自己管理、食事法、点眼や内服の工夫(点眼ビンのマーク付けや内服分包など)、治療経過に対応しての眼鏡や拡大鏡処方、介護保険の利用、他施設の利用などを、看護師、栄養士、ロービジョンケア担当師と指導し、硝子体手術後6か月で視力0.1に回復するまで網膜症の治療だけでなく両親の介護を含む行動範囲を維持した。 

 ロービジョン外来を受診して生活範囲を維持する患者に接することで、医師や看護師などのコ・メディカルが多くの眼科医療の在り方を学び、視覚障害者に対する看護・介護の手段も広がった。また、医学生や研修医が眼科医療の視覚医療がQOLに欠かせないもので、そのケアに医師の役割が重要であることを実感している。さらに、ロービジョンケアの担当者は、各専門分野の医師との交流から、各専門分野の疾患に特徴ある情報を得ることで、将来を予測した対応を提供することもできた。高度医療機関や大学病院など医師を養成する施設にはロービジョン外来の設置は必要条件であると感じている。 

【略 歴】
 1982年 慶應義塾大学医学部卒業、同眼科学教室入局
 1987年 慶應義塾大学医学部助手
 1989年 米国Duke大学Eye Center留学
 1992年 杏林大学医学部眼科講師
 1997年 杏林大学医学部眼科助教授
 2005年 杏林大学医学部眼科教授
 2008年 杏林大学医学部眼科主任教授   現在に至る 

 

『済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017』
  日時;2017年02月25日(土)15時~18時
  会場:新潟大学医学部 有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
 テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
 主催:済生会新潟第二病院眼科

【プログラム】
 座長:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
    林 知茂 (国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科)

・「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
    平形 明人(杏林アイセンター;主任教授) 

・「網膜再生医療とアイセンター」
    高橋 政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト) 

・「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
    清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
   http://andonoburo.net/on/5840