報告:新潟ロービジョン研究会2014 5)シンポジウム 八子恵子
2014年10月30日

シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
「一眼科医としてロービジョンケアを考える」
 八子恵子 (北福島医療センター)

【講演要約】
 眼科医になってまもなくから、小児眼科や斜視・弱視といった領域を担当することが多かった私は、眼先天異常や未熟児網膜症、網膜芽細胞腫などによる視覚障害のお子さんを診察する機会があった。それらのお子さんに、屈折矯正眼鏡や弱視レンズ、遮光眼鏡、義眼などを処方し、指導する経験を得た。そして、これらの処方が、「見える」や「見やすい」の喜びを与え、「かわいいね」で表情が明るくなるなど、大きな力を持つことを知った。 

  これらの経験から私は以下のようなことに気がついた。すなわち、眼疾患の治療が必要ない、あるいは不要となった患者さんにたいしてもやるべきことがある。それらは、眼科医でなければできないことである。しかしそれらは、患者さんの周囲の人の協力があって進むことである。といったことである。 

 次に、私は、福島県障がい者総合福祉センターが行っている視覚障がい者巡回相談会における医療相談を担当することになり、この巡回相談会に、県や地方自治体のみならず、県立盲学校、生活支援センターや拡大読書器や遮光レンズを展示する業者など多くの人がかかわっていることや、ピアカウンセラーの存在を知った。そして、これらの参加団体がいろいろな行事ややり方で視覚障がい者を支援していること、しかしその内容を眼科医である私、すなわち視覚障害を持つ患者さんに最も早く、もっとも頻繁に会っている眼科医が知らないということにショックを受けた。そして、視覚障がい者に向けた活動や支援を知り、患者さんに伝え、眼科医も積極的にその役割を果たすためには、これら関連する団体や人と連携する必要があると強く感じ、福島県ロービジョンネットワークを立ち上げることになった。 

 福島県ロービジョンネットワークは、設立から8年になり、それなりの活動ができているが、私という一眼科医としてロービジョンケアとどうかかわっているであろうか。大学勤務を辞めて以降、定期的とは言え多施設で診療をしている私は、一施設での系統だったロービジョンケアをできず、外来で出会ったロービジョンの方にすすめたいと思う補装具が多くの施設には用意されていない、しかし、遮光レンズなどは実物を見ないと患者さんに理解していただけず、理解していただけなければ先に進めないのが現状。このような状況でも私がプライマリーあるいは基本的ロービジョンケアをしたいなら、「自分でモノを持って行けばよい」「そうだ、移動診療所だ」となったのも私が年に似合わず、運転好きであったことが功を奏したと言える。 

 そんなわけで、私の車の後部座席には、遮光レンズのトライアル、焦点調節式単眼鏡数種、小児の近見視力を測定する視力表、レチノスコープ(屈折検査機器)、模型の眼球(患者さんに主に屈折異常を説明するため)、治療が難しい複視の解消に役立つ遮蔽レンズ(オクルア)のトライアル、クラッチメガネ(手術非適応の眼瞼下垂にたいする対症療法)、義眼数種などなどが乗っている。それらから、ロービジョンの患者さんに、よいのではないかと思われるモノを見、体験していただき、これ!というものがあれば、手帳の有無によるその後の流れを説明、福祉や直接業者などにつなげることになる。もっと多くのものを見たほうがよい場合には、展示会や展示している業者などを紹介するが、その場合も、様々な職種、団体とのつながりが大いに役立っている。 

 一眼科医がロービジョンケアにかかわるには、大きなことはいらず、必要としている患者さんに巡り合うこと、そのような患者さんは目の前におり、それに気づくこと、少しでよいから何かを提案し、自分にもできることがあることを知ること、でも、できないことは人に頼ること、そのために多くの人とつながることである。今の私の思いである。
 

【略 歴】 八 子 恵 子 
1971年  福島県立医科大学 卒業
1972年  福島県立医科大学 助手
1978年  公立岩瀬病院眼科 医長
1980年  福島県立医科大学 講師
1988年  福島県立医科大学 助教授
2003年  福島県立医科大学 非常勤講師
2007年  埼玉医大眼科客員教授
2008年  北福島医療センター 非常勤医師
福島県ロービジョンネットワーク 代表


【後 記】
拝聴した皆が、「これがロービジョンケアの原点だ」と感じた素晴らしい講演でした 〜 眼科医として診療に携わる中で、必要と感じた(効果のあった)症例を提示し、「治療が必要がなくなった患者でもやるべきことはある」と断言された。曰く、LVの基本は「気が付くこと、何かを提案すること、自分にもできることがあることを知ること、出来ないことは他人に頼ること」、、、、、
うっ、これは人生の基本か1?

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『新潟ロービジョン研究会2014】
 日時:平成26年年9月27日(土)14:00~18:40
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室 
  主催:済生会新潟第二病院眼科  

開会の挨拶 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
1)特別講演 (各講演40分)
1.日本におけるロービジョンケアの流れ:日本ロービジョン学会の設立前
  田淵昭雄(川崎医療福祉大学感覚矯正学科;日本ロービジョン学会初代理事長)
 http://andonoburo.net/on/3222

2.日本におけるロービジョンケアの流れ:ロービジョンケアからロービジョンリハビリテーションへ-平成24年度診療報酬改定の意味するところ-
 高橋 広(北九州市立総合療育センター;日本ロービジョン学会第2代理事長)
  http://andonoburo.net/on/3234

3.本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望
 加藤 聡(東京大学眼科准教授;日本ロービジョン学会第3代(現)理事長)
  http://andonoburo.net/on/3253

2)シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
 座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
    安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
 シンポジスト (各講演20分)
 1.ロービジョン当事者として相談支援専門家として我が国のロービジョンケアの未来に対する夢を語る
  吉野 由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)
   http://andonoburo.net/on/3259

 2.一眼科医としてロービジョンケアを考える
  八子恵子 (北福島医療センター)
  http://andonoburo.net/on/3277
   
 3.私たちの視覚障害リハビリテーション
  山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
   
  コメンテーター
     田淵昭雄(日本ロービジョン学会初代理事長)
   高橋 広(日本ロービジョン学会第2代理事長)
   加藤 聡(日本ロービジョン学会第3代理事長)   

閉会の挨拶 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)