報告:新潟ロービジョン研究会2014 6)シンポジウム 山田幸男
2014年10月30日

シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
3)私たちの行っている視覚障害リハビリテーション
 山田 幸男
 (新潟県保健衛生センター)
 (信楽園病院 内科)

【講演要約】
 私たちのリハビリテーション(以下リハビリ)を始めるきっかけは、糖尿病網膜症が原因で失明した35歳のO君の入院中の自殺です。入院中のO君は奥さんにすべて介助してもらっていました。もし彼が入院中トイレやナースステーションに自分一人で行き、食事も一人で食べることができたら、奥さんは働くことができ、経済的に追い込まれることはなかったのではないか、それには目の不自由な人にもリハビリが必要であると考えました。

 それまでは目の不自由な人のリハビリのあることさえ知りませんでした。彼の死後間もなくして目の不自由な人にもリハビリのあることを知りました。そして10年の準備期間をおいて、1994年に信楽園病院にリハビリ外来を開設しました。私たちのリハビリ外来は、県外からリハビリ専門施設の先生方(清水美知子先生と石川充英先生)に来ていただき、その先生方を中心に、眼科医、内科医が同席して月2回開いています。

 今年は開設して満20年になります。外来受診者は800人、延べで10,000人ほどです。

 リハビリ外来では、就労訓練をのぞいた歩行訓練、ロービジョンケア、音声パソコン・点字指導、進学・就職相談、こころのケアなど広く指導を行い、パソコンや点字、歩行訓練などの頻回に継続して指導の必要なものは、外来のほかに週4回教室を開いて継続的に指導を行っています。

 いままで目の不自由なことが原因で死を考えたことのある人は56%、うつ病・うつ状態になったことのある人がおよそ50%おります。こころのケアは重要です。

 目の不自由な人に欠かせないこころのケアには、私たちはリハビリ外来やグループセラピーに加えて、お茶を飲みながら談笑できる喫茶室を設けて対応してきました。喫茶室には、目の不自由な人のほかに晴眼者や学生なども出入りするので、いわゆるうつ病とはやや異なる視覚障害という疾患のある人に多いうつ・うつ状態の改善には、このような喫茶室も有効と考えています。

 新潟県は広く、また交通の便が必ずしも良くないため、私たちのリハビリ外来を継続して利用することの困難な人が多くみられます。その解決策として開設したのが、県内10数か所のパソコン教室兼喫茶室をもつ姉妹校(サチライト)です。サチライトではパソコン教室を定期的に開いて、パソコン指導や簡単な歩行訓練などもやっています。サチライトでも目の不自由な人や晴眼者が集まって、お茶を飲みながら話に花を咲かせています。こころのケアにも大きな効果がみられます。

 視覚障害者においても高齢化は大きな問題です。とくにロコモティブシンドロームによる転倒、骨折、そして寝たきりです。なかでも加齢による筋肉の減少症(サルコペニア)対策は重要です。

 そこで2014年8月から私たちは、サルコペニア予防としての筋トレ・栄養指導、さらにフットケアなどを含めた転倒予防・体力増強教室を毎月1回開催しています。開催前の私たちの予想では、参加者は10人くらいだろうと思っていたのですが、予想に反して、70人(晴眼者も含めて)が参加され、そのニードの大きさに驚いています。とくに糖尿病患者では、サルコペニアの併発は血糖の悪化につながるので、その予防は大切と考えています。

 高齢視覚障害者対策は今後ますます重要です。


【略 歴】 山田幸男(やまだ ゆきお)
 昭和42年(1967年) 3月 新潟大学医学部卒業
 昭和42年(1967年) 4月 新潟大学医学部附属病院インターン
 昭和43年(1968年) 4月 新潟大学医学部第一内科に入局。内分泌代謝斑に所属
 昭和54年(1979年) 5月 社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 平成17年(2005年) 4月 公益財団法人 新潟県保健衛生センター
 学 会
 日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本病態栄養学会評議員
 日本ロービジョン学会評議員



【後 記】
 視覚障がい者のために築いてこられた素晴らしい「NPOオアシス」の成り立ちを振り返り、多くの示唆に富む講演でした。内科医でありながらロービジョンケアに取り組んだと評価する方もいますが、内科医であればこその発想(体内時計/骨代謝等)は、眼科医では思いもつかないかなり独創的でかつ先駆的な仕事です。糖尿病透析患者Oさんの失明したことによる自殺という事件を、このような形で乗り越えてきた(報いてきた)山田幸男先生、新潟の誇りです。

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『新潟ロービジョン研究会2014】
 日時:平成26年年9月27日(土)14:00~18:40
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室 
  主催:済生会新潟第二病院眼科  

開会の挨拶 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
1)特別講演 (各講演40分)
1.日本におけるロービジョンケアの流れ:日本ロービジョン学会の設立前
  田淵昭雄(川崎医療福祉大学感覚矯正学科;日本ロービジョン学会初代理事長)
 http://andonoburo.net/on/3222

2.日本におけるロービジョンケアの流れ:ロービジョンケアからロービジョンリハビリテーションへ-平成24年度診療報酬改定の意味するところ-
 高橋 広(北九州市立総合療育センター;日本ロービジョン学会第2代理事長)
  http://andonoburo.net/on/3234

3.本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望
 加藤 聡(東京大学眼科准教授;日本ロービジョン学会第3代(現)理事長)
  http://andonoburo.net/on/3253

2)シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
 座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
    安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
 シンポジスト (各講演20分)
 1.ロービジョン当事者として相談支援専門家として我が国のロービジョンケアの未来に対する夢を語る
  吉野 由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)
   http://andonoburo.net/on/3259

 2.一眼科医としてロービジョンケアを考える
  八子恵子 (北福島医療センター)
  http://andonoburo.net/on/3277
   
 3.私たちの視覚障害リハビリテーション
  山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
  http://andonoburo.net/on/3290
   
  コメンテーター
     田淵昭雄(日本ロービジョン学会初代理事長)
   高橋 広(日本ロービジョン学会第2代理事長)
   加藤 聡(日本ロービジョン学会第3代理事長)   

閉会の挨拶 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)