報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (3)山田 幸男
2015年8月30日

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)に済生会新潟第二病院で行いました。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。今回、山田幸男先生(NPOオアシス)の講演要約をご紹介します。

報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (3)山田 幸男
 演題:「私たちのNPOオアシスでやってきたこと、行っていること」
 講師:山田 幸男(新潟県保健衛生センター/信楽園病院 内科) 

【講演要約】
 視覚障害者の自殺が契機となって、私たちは目の不自由な人のリハビリテーションに取り組む決意をしました。いまから、ちょうど31年前のことです。しかし当時の信楽園病院の眼科には、大学からパートできておられたので、眼科医が赴任されるのを待ちました。待つこと10年、1994年5月に、ようやく眼科医の大石先生が着任され、外来日には埼玉や東京から視覚障害更生施設の清水美知子先生と石川充英先生に来ていただいて、眼科医、日常生活訓練士を中心に、糖尿病内科医、視能訓練士などが加わったチームで、毎月2回リハビリテーション外来診療を行うことができるようになりました(表)。 

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表1 視覚障害リハビリテーション外来の概要(1994年5月開設)
   外来日 :毎月2回 11:00-17:00
   担当  :眼科医、日常生活訓練士、糖尿病内科医,視能訓練士、看護師、管理栄養士、その他
   指導内容:歩行訓練(白杖、誘導)、ロービジョンケア(視覚的補助具の紹介と処方など)、音声パソコン・点字・化粧・調理・栄養の指導、こころのケア(グループセラピーを含む)、日常生活用具の紹介と使い方の指導、更生施設・福祉制度の紹介、職業相談など
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 月2回行っているリハビリテーション外来では、眼科医や日常生活訓練士などを中心とした密度の濃い外来ですので、なるべくこの場でしかできないことを行っています。 一方、パソコン指導や点字指導など継続的に行わないと技術が身につかない日常生活訓練やこころのケアは、月2回のリハビリ外来だけでは不十分なため、その他の日にも行えるように週4日訓練日をとっています(図)。 

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図 視覚障害リハビリテーション外来と継続日常生活訓練室を中心とした指導

 

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  外来を開設して1年後には、パソコン教室を開設しました。その後、さらに歩行指導(白杖、誘導)、調理・化粧指導など指導項目を増やしながら、視覚障害者の自立を援助しています。 障害者の心のケアも大切です。お茶飲みや食事をしながら、話し合い、情報交換する機会を設けました。パソコンをやらないで、お茶飲みや友達を求めて集まる人も多くみられます。 

 リハビリ外来やパソコン教室を開設して、丸20年が経ち、視覚障害者にも高齢化の波が押し寄せています。老老介護の人が多くなり、いつ介護者が介護できなくなるかわからない人も少なくありません。そこで、目の不自由な人たちに「もし介護者が介護できなくなったら、あなたは施設で過ごしますか、自宅で過ごしますか?」とたずねてみました。自宅で過ごしたいと答えた人が多く、男性障害者(24人)では54.2%、女性障害者(8人)では75%に達しました。 

 介護者がいなくなったときに、視覚障害者がとくに困ることは、歩行・移動、食事作り、買い物です。歩行・移動に対しては、2014年8月から、「転倒予防・体力増進教室」を開始しました(毎月1回)。ロコモ・サルコペニア・フレイル・骨粗鬆症などの講義と、ラジオ体操などの実技、看護師によるフットケア、栄養士による栄養指導などを行っています。 

 調理教室は以前から月2回集団指導形式で行ってきましたが、一人になると作れない人がほとんどです。そこで確実に作れるようにするために、「習って、教える、リレー調理教室」を開設しました。ご飯が炊けることが大切なので、まず指導者が視覚障害者とマンツーマンでご飯が炊けるようになるまで指導します。その人ができるようになったら、次はその人が次の目の不自由な人に教えます。このように、一人でできるようになった人は、次の人に教え、その人がマスターしたら、また次の人の指導にあたる、リレー方式です。 

 ご飯を炊くことができるようになったら、次はみそ汁つくりです。同様に、次から次へと技術のバトンを渡しています。この方法は、技術が確実に身につくと同時に、達成感も味わえるように思います。今後はさらにサラダなど挑戦するメニューを増す予定です。 

 視覚障害者の一人暮らしや老々介護は今後いっそう大きな問題になります。その解決策なども含めてさらに検討が必要と考えます。
 

【略 歴】 山田幸男(やまだ ゆきお)
 1967年(昭和42年)3月 新潟大学医学部卒業
        同年4月 新潟大学医学部附属病院インターン
 1968年(昭和43年)4月 新潟大学医学部第一内科に入局。内分泌代謝斑に所属
 1979年(昭和54年)5月 社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 2005年(平成17年)4月 公益財団法人新潟県保健衛生センター
  日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本ロービジョン学会評議員、日本病態栄養学会評議員 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」   

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843
 
15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
   http://andonoburo.net/on/3923 

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科) 
  
 http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)  

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)   

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)  

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)  

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)