報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (2)加藤 聡
2015年8月30日

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)済生会新潟第二病院で行いました。2001年に始めてから、16回目になります。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。今回、加藤 聡先生(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科)の講演要約をご紹介します。

 報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (2)加藤 聡
 演題:「眼科医が行うロービジョンケア」
 講師:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授) 

【講演要約】
 ゴールデンウィークも過ぎ、巷では日本のプロ野球もこれから佳境を迎えるところである。近年のプロ野球での投手の起用法を見てみると、先発、中継ぎ、抑えと分業化されてきている。果たして眼科医も患者さんに対して、そのように分業化されてくるべきなのであろうか? 

 もちろん、医療経済の観点からすれば、かかりつけ医と高度な医療機関(急性期病院)との分業である病診連携が必須なのは論をまたない。それでは高度な医療を行う急性期病院では、どのように眼科医は患者さんと相対すればよいのであろうか?高度の診断や手術を含む治療を行う眼科医が「先発投手」ならば、最終的にロービジョンケアを行う眼科医は患者さんへの対応を医療として終了するという意味で「抑えの投手」ということになるという考え方もある。あるいは、視覚障害の患者さんに対しては大変失礼だが、中には最終的にロービジョンケアを行う眼科医は「敗戦処理投手」のように考えている残念な眼科医も一部にいることは確かである。しかし、私は、いずれの考えにも違和感を覚える。 

 眼科医のなかでもかかりつけ医として、第一線の眼科医療に携わっている眼科医からは、「難しい手術や強力な治療を行っている訳ではないので、最終的に治療をしてもロービジョンになる患者はほとんどなく、自分はロービジョンケアとは縁遠い。」という声を聞くことがある。しかし、例えば、コンタクトレンズを作りに来た患者の眼底に偶然にも網膜色素変性症の初期病変を眼底に見つけてしまった場合、かかりつけの眼科医としてはどのように対応するのが望ましいのであろうか?
 1.今回はコンタクトレンズを作ることが目的なのだから、コンタクトレンズを処方し、余計なことは患者に伝えない。
 2.本日中に視野検査や電気生理学的検査を行い、結果によっては網膜色素変性症により出現する症状や予後、現在の治療法での限界を話す。
 3.とりあえず、本日はコンタクトレンズを作り、眼底に異常の疑いがあるので次回精密な検査をしましょうと予約をとる。
 1から3のどれも正解であり、どれも不正解とも考えられる。しかし、かかりつけ医として、「ロービジョンそのものや成りうる病態の告知行うには、ロービジョンケアや連携の裏付けが必須である」ことを忘れないでいて欲しいと考える。 

 一方高度医療機関で働く、例えば網膜硝子体手術者はいくら手術が成功しても、今までの生活を行うことは不可能である症例を前にして、いつ、ロービジョンケアのことを患者に話したら良いのであろうか?
 1.ロービジョンケアのことは話さない。
 2.ロービジョンケアのことを術前から話しておく。
 3.ロービジョンケアのことは術前ではなく、経過中に時機を見て話す。
 私から考えると、1はありえない回答のようにも思えるのだが、アンケートでは網膜硝子体疾患を専門にしている主に網膜硝子体の手術者の12%より、1という回答を得ている。いつ、ロービジョンケアを始めるのかの正解はないと考えるが、「患者からロービジョンケアに関する行動を起こすことは難しく、眼科医が連携のまず初めの人にならなくてはいけない」ということをどの眼科医、特に難治な症例の手術を行う眼科医は自覚する必要があると考えられる。 

 本来眼科医が行うロービジョンケアとは、正しい診断、適切な手術を含む治療を行い、その上での狭義のロービジョンケアを行うことが正しいあり方だと考える。すなわち、眼科医が行うロービジョンケアとは最後を締めくくることではなく、先発投手として完投することである。どの投手であろうと、元々が抑えの投手になろうとして、投手になった者はいない。以上のように考えるならば、ロービジョンケアにより力を入れる眼科医も必然的に増えると期待している。 

【略 歴】 加藤 聡 (カトウ サトシ)
 1987年 新潟大学医学部医学科卒業
     東京大学医学部附属病院眼科入局
 1996年 東京女子医科大学糖尿病センター眼科講師
 1999年 東京大学医学部附属病院分院眼科講師
 2000年 King’s College London, St. Thomas’ Hospital研究員 
 2001年 東京大学医学部眼科講師
 2007年 東京大学医学部眼科准教授
 2013年 日本ロービジョン学会理事長
  現在に至る 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」  

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医) 

14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843
 
15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  
 http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)  

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士) 

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)  

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)  

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)