報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (4)西脇 友紀
2015年9月2日

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)に済生会新潟第二病院で行いました。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。
 「報告:『新潟ロービジョン研究会2015』」と題して、本研究会での講演を報告しています。今回、西脇 友紀(視能訓練士)さんの講演要約をご紹介します。

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報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (4)西脇 友紀
 演題:「ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり」
 講師:西脇 友紀 (国立障害者リハビリテーションセンター病院)
 
【講演要約】
 視能訓練士は、1971年に制定された「視能訓練士法」という法律に基づく国家資格を持った医療技術者である。私達のほとんどは、眼科で医師の指示のもと視力や視野などの眼科一般検査を行ったり、斜視・弱視の訓練治療に携わったりしている。リハビリテーション分野の他職種である理学療法士や作業療法士に比べてかなり少なく知名度も低いが、現在では各地に養成校も増え、今年6月には11,000名を超えた。

 ロービジョンケアを行っている眼科も徐々に増えつつあり、ロービジョンケアを担当している職種について調べた調査では、視能訓練士が84.7%と他職種に比べ圧倒的に多かった(西脇・仲泊ほか2012)。しかし、視能訓練士全体の中でロービジョンケアに携わっている者の割合は低く、2010年に行われた日本視能訓練士協会の調査結果では27.9%と3割にも満たなかった。その後の割合の推移は不明だが、まだまだ少数派であると思われる。

 現在、私が在籍している病院の眼科では、眼科医、視能訓練士、生活訓練専門職、ソーシャルワーカーがチームを組んでロービジョンケアにあたっている。眼科医は、治療、診断、そして治療に関する相談を受け、患者のニーズについて問診票を用いて詳細に聴取し、その患者に必要な対応について他のスタッフに指示する。視能訓練士は、視機能検査および視覚補助具の選定と使用訓練を、生活訓練専門職は、歩行訓練、点字・パソコン訓練、日常生活訓練を、ソーシャルワーカーは身体障害者手帳や年金、職業訓練や社会福祉に関する相談を担当している。また、例えば就労中の患者で職場環境の調整の必要があれば、眼科医はじめ担当スタッフが患者の職場の人事担当者や上司と面談を行い、患者にどのような配慮をすれば仕
 事の継続が可能であるか等についてアドバイスを行っている。

 それぞれの職種で担当する内容は異なるが、すべての職種で共通していることは、見えにくくなって来院する患者や患者の周囲の人達に、見えにくくなる前とは異なる「見る方法の代替手段」を提案しているということである。その手段は、患者の視機能の状態や生活背景によって一人一人異なるため、それぞれの専門分野の知識や経験を総動員して、その患者に合った方法を一緒に探している。そして週に一度、全スタッフが集まり、対応した患者についてカンファレンスを行い、以降、必要な対応について協議している。

 視能訓練士の担当分野は、主に視覚補助具の選定と使用訓練であり、視力検査同様、業務独占の業務内容ではない。しかし、これは眼光学とレンズ光学の教育を受けている視能訓練士が適任ではないかと考えられる。数多ある補助具の中で、どの補助具をどのように使用すると最も効果的かを他覚的に判断し、自覚的な選択と比較しながら使用訓練を行っている。まぶしさを軽減する遮光眼鏡や、高倍率の拡大鏡、文字を数十倍に拡大したり表示を白黒反転にできる拡大読書器など、世間一般ではあまり馴染みがなく来院時に知っている患者はほとんどいない。見えにくくなったために好きだった読書を諦めていた患者が、「拡大することで文字が見やすくなった。拡大読書器を使うようになって世界が変わった」という言葉も、誇大でなくたびたび聞かれる。

 眼科でロービジョンケアが普及しにくい背景には時間不足や人手不足など諸問題があるが、患者が見えにくいことによって生活上で抱えている問題について検査時あるいは診察時に言及することで、対応すべき問題の存在を認識することができる。私たち視能訓練士は眼の治療をすることはできない。しかし、その見えにくさを改善する方法を共に考える眼の専門職として役に立ちたいと考えている。検査時、患者から言及される問題について、聞き逃すことなく解決策を共に考えていきたい。

(参考文献)
・西脇友紀・仲泊聡ほか「ロービジョンケアおよび視覚リハビリテーション実施状況調査と中間型アウトリーチ支援に関する意向調査」視覚リハビリテーション研究. 2(2) 75-81,2012
・日本視能訓練士協会「視能訓練士の現状と展望(2010)」2011

【略 歴】
 1998年3月 国立小児病院附属視能訓練学院卒業
 1998年4月 杏林大学医学部付属病院眼科
 2005年10月 もり眼科医院
 2010年4月 国立障害者リハビリテーションセンター病院


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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」  

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843

15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
   http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
   http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
   http://andonoburo.net/on/3982

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)  

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師) 

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)