報告『新潟ロービジョン研究会2016』 3)岩瀬 愛子
2016年11月28日

報告『新潟ロービジョン研究会2016』 3)岩瀬 愛子
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 
演題:「最大のロービジョン対策とは?私の緑内障との闘い」
講師:岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科) 

【講演要約】
1 視覚障害原因としての緑内障
 日本における中途視覚障害の原因として、視覚障害者手帳申請の原因疾患統計がよく引用される。この報告において、2004年に糖尿病網膜症を抜いて1位になった緑内障は2014年の報告においても依然として1位のままである。一方、日本緑内障学会が実施した2つの疫学調査、多治見スタディ・久米島スタディにおいても、緑内障はロービジョン原因疾患の上位3位内に入っている。

 臨床統計と疫学調査のどちらの点からみても、緑内障がロービジョン対策に重要な病気であることは明白である。そして、この2つの疫学調査が示したもう一つの緑内障の特徴は、緑内障になっている人で診断時までに未発見であった人の多さであり、多治見スタディでは89.5%、久米島では75%であった。すなわち両眼で補ってしまうなどの理由で、進行しなければ自覚症状が出ないところに緑内障の怖さがあり、未発見のまま治療開始が遅れ緑内障が視覚障害原因となる背景がそこにある。
 

2 緑内障の早期発見には眼科検診と啓発活動
 早期発見には「眼科疾患のための眼科検診」が必須であるが、日本眼科医会の調査では、成人眼科公的検診が実施されているのは全国自治体の20%以下であり、特定検診以外の方法で実施している自治体は3.7%に過ぎないと報告されている。岐阜県多治見市では、1995年より節目検診の形で40歳以上の5歳きざみの眼科検診を始め、緑内障を始めとする眼の病気の早期発見を目指してきた。自治体によるこうした眼科検診には法的根拠もなく、予算も厳しい中で、眼科医が常に強く発信しないと消滅してしまいそうになるが、幸い現在まで継続してきている。

 現在、節目検診だけではなく、さまざまな機会をとらえて検診受診者を増やしてはきたが、多治見市の眼科検診受診者は、まだ年間2,000人くらいにしかならない。2000年から2001年に実施された多治見スタディは、日本緑内障学会の疫学調査であったが、多治見市では、同時に「多治見市民眼科検診」の形で、対象年代である40歳以上の検診受診希望者全員に、多治見スタディと同一機器による眼科検診を年間通して行った。この時は最大の広報活動を行ったこともあり、市民の関心も高く、疫学調査の対象者を合わせての検診受診者は17,800人であり、これは多治見市の当時の40歳以上の人口54,000人の約30%であった。現在の年間検診受診者はこの約1/9に過ぎない。市の検診体制の弱さにも原因があるかもしれないが、眼科検診に対する市民の関心を維持できていないせいもあると考えた。これは、ひとえに眼科医の責任である。 

 今、緑内障早期発見のためにできることは、緑内障の正しい知識と眼科検診の重要性を理解して自ら眼科検診を受ける人を増やす活動をしなければいけないと思った。それは、一自治体の中で、検診受診者を増やす努力をするだけにとどまらず、もっと広く情報を発信する手段が必要ではないか?と考えた。「ライトアップinグリーン運動」はそうした啓発活動の一つである。「ライトアップinグリーン運動」は、毎年3月に世界中で展開される啓発活動期間である「世界緑内障週間」に、全国のいろんな施設で緑色のライトアップをして緑内障という病気に関心をもっていただこうという日本緑内障学会の運動である。2015年の3月から全国5か所で始めたが、2016年の3月には点灯場所が20か所になった。緑色の光の意味は、「緑内障の早期発見」「継続治療」、そして、「希望」である。

 「早期発見」ができるのが一番の進行予防対策であり、失明予防対策である。緑内障だからといって、すべての人が失明するわけではない。「早期発見」し治療によって進行を緩やかにすることができれば「見える」には大いに役立つ。一方、早期発見ではない場合でも「治療を継続」することで、少しでも「見える」を維持することができる。お一人でも多くの「見える」を確保できますようにという「希望」を込めて全国に緑の光の輪が今後も広がりますように。治療の研究の発展とこうした広報活動で、緑内障が失明原因の1位ではなくなりますように、見えにくくなる方が一人でも少なくなりますようにとの思いを込めての活動である。 

3 今、眼科医として自分ができることは何か?
 高齢者は、緑内障他の眼の病気になりやすいだけではなく、さまざまな全身の疾患を抱えていることが多い。しかし、そうした場合、公的制度のはざまで、本当にその人が希望しているサポートが得られていない例がたくさんある。例えば、高齢者は介護保険優先の原則とされるも、複数の疾患がある場合自治体のルールなどによっては、両方のサービスから外れてしまい、本来必要な助けを受けられなくなっている場合がある。今回の発表では、たじみ岩瀬眼科に通院中の方の事例をお話しした。

 眼科医は医療によって患者さんの眼疾患の治療をするだけではなく、自らの知識を持って、医療だけではカバーしきれない支援を必要とする患者さんがよりよく生きるための努力をしなければいけない。ロービジョンケアへの取り組み、医療と福祉の中でのその方に適したより良い環境の確保も眼科医の責任である。見えにくくしないための医療、でも、見えにくくなった時、「どう支援すればいいのか?」「それはその人が本当にして欲しいことなのか?」、「今、自分ができることが何か?」振り返れば、足りないことばかりであり身が引き締まる思いである。 

【略 歴】
 1980年 岐阜大学医学部医学科卒業
 1990年 多治見市民病院眼科医長
 1995年 多治見市民病院眼科診療部長
 2000年 多治見市保健センター非常勤医師兼任
 2005年 多治見市民病院副院長
 2009年 たじみ岩瀬眼科院長

 たじみ岩瀬眼科HP
 http://www.iwase-eye.jp/ 

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【岩瀬愛子先生の紹介】
 祖父が緑内障であったことから、生涯緑内障による視覚障害撲滅のために闘っている先生。長年、地方で病院勤務医・開業医として活躍していながら、日本緑内障学会・日本視野学会の会長も歴任され、国際視野学会のメンバー(Vice Presiden)でもあります。有名な多治見スタディーの実質的中心人物です。今回の締めくくりも、
岩瀬先生が語ると重い言葉となります。曰く、「眼科医は医療によって患者さんの眼疾患の治療をするだけではなく、自らの知識を持って、医療だけではカバーしきれない支援を必要とする患者さんがよりよく生きるための努力をしなければいけない」。
(文責;安藤伸朗) 

@国際視野学会 主要メンバー
 http://www.perimetry.org/GEN-INFO/groups.htm 

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新潟ロービジョン研究会 2016 プログラム
0.はじめに
  安藤 伸朗(済生会新潟第二病院;眼科医)
1.【第1部 連携を求めて】
 1)看護師が関わると、こんなに変わるロービジョンケア
   橋本 伸子(しらお眼科;石川県白山市、看護師)
   http://andonoburo.net/on/5171

 2)情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア
   三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)
   http://andonoburo.net/on/5182
 3)視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室
   ○山田 幸男 田村 瑞穂 嶋田 美恵子  久保 尚人
   (新潟県視覚障害者のリハビリテーションを推進する会;NPOオアシス)
2.【第2部 眼科医療と視覚リハビリ】
 1)最大のロービジョン対策は予防と治療:私の緑内障との闘い
   岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科;岐阜県多治見市、眼科医)
   http://andonoburo.net/on/5189
 2)新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医
   小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)
 3)我が国初の眼科リハビリテーションクリニック(順天堂大学)
   ー開設当時を振り返ってー
   佐渡 一成(さど眼科;仙台市、眼科医)
 4)眼科医・原田政美の障害者福祉理念と功績
   香川 スミ子(元 浦和大学)
3. 【第3部 熊本地震を考える】
  「熊本地震と災害時視覚障害者支援」
   出田 隆一 (出田眼科院長;熊本)
4. おわりに   
   仲泊 聡(神戸理化学研究所;眼科医)