報告:第240回(16-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会 若槻/岩崎
2016年3月3日

 演題:「ブラインドメイク 実践と体験」
 日時:平成28年02月17日(水)16:30~18:00
 場所:済生会新潟第二病院眼科外来
 講師:岩崎 深雪(新潟市;盲導犬ユーザー)
    若槻 裕子(新潟市:化粧訓練士)
  
 演題1:私の化粧(フルメーキャップ)の自己実現
     -ブラインドメイクの出会いから1年ー
 講師:岩崎 深雪(新潟市;盲導犬ユーザー) 

【講演要約】
 化粧に全く関心がなかった私が、平成27年2月に大石先生の視覚障害者が鏡を見ないでひとりで化粧ができる「ブラインドメイク」の講演会があることをしりましたが、私には関係ないことと思っていました。でも!私はカラオケ教室に通っているので、舞台に出るときに、もしかして一人で化粧ができるようになれば、人の手を煩わさなくてもいいようになるかも?と思って、同行援護者でもある若槻さんを誘って先生の講演を聞きに行きました。 

 講演を聞きながら正直「こんなこと私に出来ない。場違いなところに来てしまった。」とその場から逃げだしたくなりました。講演が終わり引き止められるのを振り切ってさっさと帰ってきました。その後「私と一緒にやろうよ。」と若槻さんに熱心に誘われ、とにかく一度行ってみて、それから断っても悪くわないだろうと思い、5月からブラインドメイクのレッスンを受けてみることにしました。 

 第1回目のレッスン(フェイシャル&スキンケア)後、乾燥していた唇が潤い、肌がツルツルになっていくことを手指で感じることができました。このレッスンで、自分の顔が愛おしく感じるようになり、知り合いからも「会うたびに綺麗になっていくのね」などと言われると、次第に気持ちが楽しくなりました。 レッスンの度に綺麗に化粧ができるようになっていく自分を感じることで自信がつき、内面から変化していくことに気が付きました。そしてとうとうフルメイクができるまでレッスンを受けて、合格をいただきました。 

 レッスンは70歳を迎える私には、決して簡単なものではありませんでした。アイメイクでは、アイシャドーやマスカラはどこに塗ればいいのか、名前と場所が一致しなかったり、マスキングテープを張るのに四苦八苦しました。でも、今では出かけるときは必ず化粧をするようになりました。化粧をせずにスッピンで出かけた時は、いつの間にか下向きになっている自分に気がつきました。化粧をして出かけると、自分では無意識のうちに背筋を伸ばして、顔を上げて歩いています。 

 ブラインドメイクができるようになったお蔭で、自信がついて、姿勢もよくなり、気持ちも若返り、健康維持にも欠かせないものとなりました。 

 フルメイクができるようになっても、口紅がはみ出ていないかしら?チークはどうかしら?アイメイクはきちんとできているかしら?・・・、常に不安はついて回ります。周りに見てもらえる人がいればいいのですが、いないときは不安のまま出かけて、行先で「私のメイクおかしなところはない?」と聞くようにしています。「綺麗にできてるよ」と言われた時はほっと胸をなでおろします。おかしなところがある時などは「お願い!申し訳ないけどちょっと直して!」とお願いするようにしています。でも、残念なことにおかしいところがあっても黙っている人が多いように感じます。 「教えてあげて気を悪くしないかしら?」などと思わずに何気なく教えてくださる方が身近にいてくれると、どんなにか助かることでしょう。教えていただくだけでなく、それを直していただければなお嬉しいです。 

 そのためにも視覚障害者に関わる方々に、ぜひこのブラインドメイクの化粧技法を覚えていただいて、中途失明で家に閉じこもりがちの女性や視覚障害者の女性に外出の喜びや楽しさを教えていただきたいのです。ブラインドメイクを教えていただける化粧訓練士が1人でも多く私たちのような視覚障害者のためになっていただけることを願っています。 

【略 歴】
 1962年 3月~新潟県立新潟盲学校高等部別科卒業 
 1967年 3月~結婚
 2003年11月~財団法人アイメイト協会より盲導犬1頭目を貸与。
 2011年 1月~盲導犬引退。引き続き2月に2頭目の貸与
 2012年~新潟市東区河渡本町に転居
 2015年 2月~日本ケアメイク協会、大石華法先生の講演を聞く
       5月より大石先生の講座を受け現在に至る 

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 演題2:「女性にとってお化粧とは何でしょう?」
 講師:若槻 裕子(新潟市)

【講演要約】
 街を歩いていて、お化粧をしている視覚障害の女性に出会うことはほとんどありません。その理由は、自分自身のお化粧した顔を鏡に映して確認することができないことで「お化粧はできないもの」と思い込まれているかたが多いからではないでしょうか? 

 私は介護福祉士と同行援護の資格を有していますが、友人に視覚障害の岩崎深雪さんという70歳の女性がいます。彼女は自分では化粧することができなかったため、私が彼女にお化粧をすることが当たり前になっていたのですが、彼女はその度に「申し訳ないね」と気遣った言葉を口にされていました。気遣う彼女に対して私は「大丈夫!」という、今となれば何とも無責任な表現しかできなかったのですが「視覚障害者は、自分でお化粧できないのは仕方ないこと」「視覚障害者はお化粧しても色が見えないし、綺麗になっていく姿も確認することができない」「だから他者(私)が彼女にお化粧をするのは当然のこと」と、こうした決め付けや思い込み、先入観がありました。ブラインドメイクに出会うまでは・・・ 

 2015年2月、ブラインドメイクを考案された大石華法先生と運命的な出会いがありました。視覚障害の女性が自分1人で誰の手も借りずに、とても綺麗にお化粧をしている様子を生まれて初めて見て、感動のあまり鳥肌が立ちました。感動が収まらず、翌月から大阪の大石先生の元へ化粧訓練士を目指して新潟から月に1度、ご指導を受けに通うようになりました。そこではブラインドメイクのレッスンに通っている多くの視覚障害の女性との出会いがあり、彼女たちの声を直接聞かせていただくことができました。そこで感じた事は「綺麗になりたい」「綺麗でありたい」「美しくなりたい」との想いは、女性なら誰でも想い願う事であり、視覚障害の女性も美しくなりたいと願う、ひとりの“女性”であることでした。 

 私が大阪まで通い始めて2か月後のこと。「お化粧は一生出来ない、無用のもの!」と強く拒絶していた岩崎さんに「貴女なら絶対にお化粧できるようになるから!」と誘い、5月から一緒にブラインドメイクのレッスンを受けに大石先生の元へ通うようになりました。70歳の彼女は、ブラインドメイクのレッスンを受ける毎に、パーツ化粧が1つ1つ綺麗にできるようになっていき、12月には、1人で綺麗にフルメーキャップまでできるようになりました。お化粧だけではなく、洋服やお洒落にも気を使うようになり、長い髪をバッサリ切り、毛染めやパーマもして、誰もが見違えるほど若くて綺麗になりました。 

 少し前屈みに背中を丸くして歩いていた彼女でしたが、背筋が真っ直ぐになって歩くようになりましたし、立ち居振る舞いまで女らしく変わってきたことには驚かされました。周囲からは「明るくなったね!」「綺麗になったね!」「若くなったね!」「素敵ですよ!」と声をかけられることで自然と頬がほころび、嬉し恥ずかしそうな笑顔は、まるで少女のようです。その様子を見た側にいる周囲の人たちまでが笑顔になっていました。そして私自身も笑顔になっていることに気が付きました。視覚障害の女性がメイクをすることで、当事者ばかりでなく、周囲の人たちまで明るく、そして楽しくなることを実感しています。 

 ブラインドメイクのレッスンを受ける過程で“自分らしさ”をどんどん見出されて、自主性と積極性を持って生き生きとした生活を送られている視覚障害の女性が大勢いらっしゃいます。「お化粧をしたい」と心の底に押しこめられている声に出せない心の声に耳を傾けて、信頼される化粧訓練士となり、ブラインドメイクを広げていきたいと思います。 

【略 歴】
 2005年 「有限会社 きゃすと」にホームヘルパーとして入社
 2012年 介護福祉士を取得
 2014年 同行援護応用課程を修了
 2015年 日本ケアメイク協会、大石華法先生のご指導のもと
     「化粧訓練士」を習得中 

日本ケアメイク協会 http://www.caremake.jp 

 

 

【後 記】
 勉強会に、テレビ局2社(新潟放送BSN, 新潟テレビUX)とラジオ局1社(新潟放送BSN)の取材がありました。翌日の2月18日夕刻に、テレビ2局(BSNとUX)で早速、放映がありました。勉強会を初めて20年、通算で240回になりますが、本勉強会について新聞報道(読売新聞、新潟日報等)はいくつかありましたが、TVやラジオの取材は初めてのことでした。
 今回の話題「ブラインドメイク」は、視覚障碍者の方が自ら行うお化粧です。今回は会場(眼科外来)で、実演をして頂きましたが、鏡も使わず、指を用いてファンデーション、マスカラ、アイシャドー、チークを行っていきます。みるみるうちに綺麗になるばかりでなく、表情が輝いてくる有様は圧巻でした。

 @丁度1年前のこの勉強会で、大石華法さんに講演して頂いたことが、今回の勉強会に繋がりました。
 
第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「視覚障害者の化粧技法について~ブラインドメイク・プログラム~」
 講師:大石華法(日本ケアメイク協会)
  日時:平成27年02月4(水)16:30 ~ 18:00 
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 
 http://andonoburo.net/on/3418

 

 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成28年03月09日(水)16:30 ~ 18:00
 第241回(16-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「『見たい物しか見えない』と『見たい物が見えない』のあいだ」
  関 恒子(長野県松本市)
 http://andonoburo.net/on/4488

 
平成28年04月13日(水)16:30 ~ 18:00
 第242回(16-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「盲学校理療教育の現状と課題~歴史から学び展望する~」
  小西 明(済生会新潟第二病院 医療福祉相談室) 

平成28年05月11日(水)16:30 ~ 18:00
 第243回(16-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「嬉しかったこと、役立ったこと」
  大島光芳(上越市) 

平成28年06月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第244回(16-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「水枯れの大河 信濃川・千曲川に鮭の道を拓く」
  加藤功(NPO法人新潟水辺の会) 

平成28年07月未定
 第245回(16-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 

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平成28年07月17日(日) シンポジウム「病とともに生きる」
 開場: 09時30分 講演会10時~13時
 会場:「有壬記念館」(新潟大学医学部同窓会館)
 http://andonoburo.net/on/4424
 コーディネーター
  安藤 伸朗(済生会新潟第二病院 眼科部長)
  曽根 博仁(新潟大学医学部 血液・内分泌・代謝内科;教授)
 基調講演 (30分)
  大森 安恵(海老名総合病院・糖尿病センター;内科医
       東京女子医大名誉教授、元東京女子医大糖尿病センター長)
    「糖尿病と向き合うー私の歩いた一筋の道ー」
    http://andonoburo.net/on/4450

 パネリスト (各25分)
  南 昌江 (南昌江内科クリニック;内科医)
    「糖尿病を通して開けた人生」
    http://andonoburo.net/on/4462
  小川 弓子(福岡市立西部療育センター センター長;小児科医)
    「母として医師として~視覚障害の息子と共に~」
    http://andonoburo.net/on/4478
  清水 朋美(国立障害者リハセンター病院第二診療部 眼科医長)
    「オンリーワンの眼科医を目指して」
    http://andonoburo.net/on/4491
  立神 粧子(フェリス女学院大学音楽学部・大学院 音楽研究科教授)
    「続・高次脳機能障害というエベレストに登る~作戦を立ててがんばる~」
    http://andonoburo.net/on/4495

 ディスカッション (50分)
  演者間、会場を含めた討論
 13時 終了
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平成28年08月10日(水)16:30 ~ 18:00
 第246回(16-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「京都ライトハウス創立者・鳥居篤治郎が抱いた絶望と希望とは」
   岸 博実(京都府宇治市) 

平成28年09月14日(水)16:30 ~ 18:00
 第247回(16-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
   演題未定
   林 豊彦(新潟大学工学部教授/新潟市障がい者ITサポートセンター長) 

平成28年10月
 第248回(16-10)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  (目の愛護デー講演会)
   演者未定 

平成28年11月09日(水)16:30 ~ 18:00
 第249回(16-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
   青木 学(新潟市会議員) 

平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
 第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
   演者未定

平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
 第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
   演者未定 

平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
   宮坂道夫(新潟大学医学部教授) 

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