勉強会報告

2015年8月30日

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)に済生会新潟第二病院で行いました。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。今回、山田幸男先生(NPOオアシス)の講演要約をご紹介します。

報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (3)山田 幸男
 演題:「私たちのNPOオアシスでやってきたこと、行っていること」
 講師:山田 幸男(新潟県保健衛生センター/信楽園病院 内科) 

【講演要約】
 視覚障害者の自殺が契機となって、私たちは目の不自由な人のリハビリテーションに取り組む決意をしました。いまから、ちょうど31年前のことです。しかし当時の信楽園病院の眼科には、大学からパートできておられたので、眼科医が赴任されるのを待ちました。待つこと10年、1994年5月に、ようやく眼科医の大石先生が着任され、外来日には埼玉や東京から視覚障害更生施設の清水美知子先生と石川充英先生に来ていただいて、眼科医、日常生活訓練士を中心に、糖尿病内科医、視能訓練士などが加わったチームで、毎月2回リハビリテーション外来診療を行うことができるようになりました(表)。 

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表1 視覚障害リハビリテーション外来の概要(1994年5月開設)
   外来日 :毎月2回 11:00-17:00
   担当  :眼科医、日常生活訓練士、糖尿病内科医,視能訓練士、看護師、管理栄養士、その他
   指導内容:歩行訓練(白杖、誘導)、ロービジョンケア(視覚的補助具の紹介と処方など)、音声パソコン・点字・化粧・調理・栄養の指導、こころのケア(グループセラピーを含む)、日常生活用具の紹介と使い方の指導、更生施設・福祉制度の紹介、職業相談など
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 月2回行っているリハビリテーション外来では、眼科医や日常生活訓練士などを中心とした密度の濃い外来ですので、なるべくこの場でしかできないことを行っています。 一方、パソコン指導や点字指導など継続的に行わないと技術が身につかない日常生活訓練やこころのケアは、月2回のリハビリ外来だけでは不十分なため、その他の日にも行えるように週4日訓練日をとっています(図)。 

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図 視覚障害リハビリテーション外来と継続日常生活訓練室を中心とした指導

 

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  外来を開設して1年後には、パソコン教室を開設しました。その後、さらに歩行指導(白杖、誘導)、調理・化粧指導など指導項目を増やしながら、視覚障害者の自立を援助しています。 障害者の心のケアも大切です。お茶飲みや食事をしながら、話し合い、情報交換する機会を設けました。パソコンをやらないで、お茶飲みや友達を求めて集まる人も多くみられます。 

 リハビリ外来やパソコン教室を開設して、丸20年が経ち、視覚障害者にも高齢化の波が押し寄せています。老老介護の人が多くなり、いつ介護者が介護できなくなるかわからない人も少なくありません。そこで、目の不自由な人たちに「もし介護者が介護できなくなったら、あなたは施設で過ごしますか、自宅で過ごしますか?」とたずねてみました。自宅で過ごしたいと答えた人が多く、男性障害者(24人)では54.2%、女性障害者(8人)では75%に達しました。 

 介護者がいなくなったときに、視覚障害者がとくに困ることは、歩行・移動、食事作り、買い物です。歩行・移動に対しては、2014年8月から、「転倒予防・体力増進教室」を開始しました(毎月1回)。ロコモ・サルコペニア・フレイル・骨粗鬆症などの講義と、ラジオ体操などの実技、看護師によるフットケア、栄養士による栄養指導などを行っています。 

 調理教室は以前から月2回集団指導形式で行ってきましたが、一人になると作れない人がほとんどです。そこで確実に作れるようにするために、「習って、教える、リレー調理教室」を開設しました。ご飯が炊けることが大切なので、まず指導者が視覚障害者とマンツーマンでご飯が炊けるようになるまで指導します。その人ができるようになったら、次はその人が次の目の不自由な人に教えます。このように、一人でできるようになった人は、次の人に教え、その人がマスターしたら、また次の人の指導にあたる、リレー方式です。 

 ご飯を炊くことができるようになったら、次はみそ汁つくりです。同様に、次から次へと技術のバトンを渡しています。この方法は、技術が確実に身につくと同時に、達成感も味わえるように思います。今後はさらにサラダなど挑戦するメニューを増す予定です。 

 視覚障害者の一人暮らしや老々介護は今後いっそう大きな問題になります。その解決策なども含めてさらに検討が必要と考えます。
 

【略 歴】 山田幸男(やまだ ゆきお)
 1967年(昭和42年)3月 新潟大学医学部卒業
        同年4月 新潟大学医学部附属病院インターン
 1968年(昭和43年)4月 新潟大学医学部第一内科に入局。内分泌代謝斑に所属
 1979年(昭和54年)5月 社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 2005年(平成17年)4月 公益財団法人新潟県保健衛生センター
  日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本ロービジョン学会評議員、日本病態栄養学会評議員 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」   

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843
 
15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
   http://andonoburo.net/on/3923 

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科) 
  
 http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)  

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)   

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)  

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)  

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)済生会新潟第二病院で行いました。2001年に始めてから、16回目になります。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。今回、加藤 聡先生(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科)の講演要約をご紹介します。

 報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (2)加藤 聡
 演題:「眼科医が行うロービジョンケア」
 講師:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授) 

【講演要約】
 ゴールデンウィークも過ぎ、巷では日本のプロ野球もこれから佳境を迎えるところである。近年のプロ野球での投手の起用法を見てみると、先発、中継ぎ、抑えと分業化されてきている。果たして眼科医も患者さんに対して、そのように分業化されてくるべきなのであろうか? 

 もちろん、医療経済の観点からすれば、かかりつけ医と高度な医療機関(急性期病院)との分業である病診連携が必須なのは論をまたない。それでは高度な医療を行う急性期病院では、どのように眼科医は患者さんと相対すればよいのであろうか?高度の診断や手術を含む治療を行う眼科医が「先発投手」ならば、最終的にロービジョンケアを行う眼科医は患者さんへの対応を医療として終了するという意味で「抑えの投手」ということになるという考え方もある。あるいは、視覚障害の患者さんに対しては大変失礼だが、中には最終的にロービジョンケアを行う眼科医は「敗戦処理投手」のように考えている残念な眼科医も一部にいることは確かである。しかし、私は、いずれの考えにも違和感を覚える。 

 眼科医のなかでもかかりつけ医として、第一線の眼科医療に携わっている眼科医からは、「難しい手術や強力な治療を行っている訳ではないので、最終的に治療をしてもロービジョンになる患者はほとんどなく、自分はロービジョンケアとは縁遠い。」という声を聞くことがある。しかし、例えば、コンタクトレンズを作りに来た患者の眼底に偶然にも網膜色素変性症の初期病変を眼底に見つけてしまった場合、かかりつけの眼科医としてはどのように対応するのが望ましいのであろうか?
 1.今回はコンタクトレンズを作ることが目的なのだから、コンタクトレンズを処方し、余計なことは患者に伝えない。
 2.本日中に視野検査や電気生理学的検査を行い、結果によっては網膜色素変性症により出現する症状や予後、現在の治療法での限界を話す。
 3.とりあえず、本日はコンタクトレンズを作り、眼底に異常の疑いがあるので次回精密な検査をしましょうと予約をとる。
 1から3のどれも正解であり、どれも不正解とも考えられる。しかし、かかりつけ医として、「ロービジョンそのものや成りうる病態の告知行うには、ロービジョンケアや連携の裏付けが必須である」ことを忘れないでいて欲しいと考える。 

 一方高度医療機関で働く、例えば網膜硝子体手術者はいくら手術が成功しても、今までの生活を行うことは不可能である症例を前にして、いつ、ロービジョンケアのことを患者に話したら良いのであろうか?
 1.ロービジョンケアのことは話さない。
 2.ロービジョンケアのことを術前から話しておく。
 3.ロービジョンケアのことは術前ではなく、経過中に時機を見て話す。
 私から考えると、1はありえない回答のようにも思えるのだが、アンケートでは網膜硝子体疾患を専門にしている主に網膜硝子体の手術者の12%より、1という回答を得ている。いつ、ロービジョンケアを始めるのかの正解はないと考えるが、「患者からロービジョンケアに関する行動を起こすことは難しく、眼科医が連携のまず初めの人にならなくてはいけない」ということをどの眼科医、特に難治な症例の手術を行う眼科医は自覚する必要があると考えられる。 

 本来眼科医が行うロービジョンケアとは、正しい診断、適切な手術を含む治療を行い、その上での狭義のロービジョンケアを行うことが正しいあり方だと考える。すなわち、眼科医が行うロービジョンケアとは最後を締めくくることではなく、先発投手として完投することである。どの投手であろうと、元々が抑えの投手になろうとして、投手になった者はいない。以上のように考えるならば、ロービジョンケアにより力を入れる眼科医も必然的に増えると期待している。 

【略 歴】 加藤 聡 (カトウ サトシ)
 1987年 新潟大学医学部医学科卒業
     東京大学医学部附属病院眼科入局
 1996年 東京女子医科大学糖尿病センター眼科講師
 1999年 東京大学医学部附属病院分院眼科講師
 2000年 King’s College London, St. Thomas’ Hospital研究員 
 2001年 東京大学医学部眼科講師
 2007年 東京大学医学部眼科准教授
 2013年 日本ロービジョン学会理事長
  現在に至る 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」  

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医) 

14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843
 
15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  
 http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)  

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士) 

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)  

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)  

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年8月15日

2015年8月1日、16回目となる新潟ロービジョン研究会を行いました。今年の研究会は、全国14都府県から90名が集いました。満員となった済生会新潟第二病院10階の会議室では、どの演題にも熱い討論があり、気づきがあり、感動がありました。
今回、特別講演では、世界各国のロービジョンケアについて講演して頂きました。結論の一つに、無戦争が重要であることが述べられています。終戦の日である8月15日に、特別講演の講演要約をお届けします。 

 

特別講演:『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
講師:仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)

【講演要約】
1.目的
 世界各国におけるロービジョンケアあるいは視覚リハには、どのような方たちが関わり、そして、何が大切なのかを分析し、現在の我が国の特性と今後について検討する。 

2.方法
 日本、コロンビア、米国、カナダ、イギリス、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、大韓民国、中華人民共和国、モーリシャス、モンゴル、ジンバブエの視覚障害者福祉について調査した。調査は、筆者のJICA短期派遣専門家としてのコロンビア訪問の経験をもとに、私信およびインターネットによる検索を用いて行った。その際、西田朋美氏(国リハ病院)、永井春彦氏(勤医協札幌病院)、王鑫氏(筑波大学)、新井千賀子氏(杏林アイセンター)、河原佐和子氏・伊藤和之氏(国リハ自立支援局)から、各国視察経験に基づいた資料提供ならびにご助言をいただいた。それらの制度が生まれた背景を考えるには、各国における政治・経済・歴史・思想・習慣を知らなければならない。今回は、我が国が辿った道になぞらえて各国の現状を比較し、そして現在の我が国の特性と今後について検討する。

3.結果 
 1)治安と福祉
 医療も福祉も、その国が平和かどうかによって大きく異なる。筆者が関わったコロンビアでは、いまだに内戦が続いており、地雷、時限爆弾、誘拐が横行する。人々は明るく美しい国であるが、常に命の危険に晒されている。視覚リハに関しては、アメリカ式のリハ体制がスペイン経由で輸入され、国内数カ所に高いレベルのリハ施設が存在するものの、それを享受できる者はわずか1%にすぎない。戦時下における我が国では、障害者を「劣等国民」と差別した史実があり、国民全体が生命の危機に直面する状況において、社会的弱者の権利は脆弱なものとなることは明らかである。

 2)家族と福祉
 スウェーデンの近代史を見ると高福祉と家族の崩壊との関係を指摘するものが多い。子供は国の宝であり、親が守らずとも国が守る。高齢者や障害者も国が守る。しかし、それは同時に肉親が守らなくても大丈夫という発想を与え、家族の必要性を損なう。そのため、今や離婚率は50%を上回り、子連れ再婚による血縁のない兄弟関係が当たり前となった。一方で、途上国の多くは今も大家族であり、福祉が行き届かなくても家族が障害者を守る習慣がある。しかし、そこには家族間の格差があり悲劇も多い。ほとんどの国では、大家族は、経済発展に伴い核家族化する。核家族化すると弱者を社会が守る必要性が高まり、福祉制度が充実せざるをえない。そして、福祉制度がさらに充実すると夫婦という最小の家族単位すら不要となり、社会の基礎単位が個人となる。この核家族から個人への移行過程を先進諸国は歩いており、我が国もその例外ではない。 

 3)経済と福祉
 今回、経済指標として国民一人当たりの国内総生産(GDP)によって各国を比較した。我が国では約3.7万ドルであり、最も多かった米国が約5.3万ドル、最も少なかったジンバブエが約0.2万ドルである。韓国とイギリスは我が国と同程度で、他の西欧諸国は4万ドル台、他のアジア・アフリカ諸国は1万ドル台であった。これらを、我が国のGDPの年代的推移に当てはめると、ジンバブエは明治時代、アジア・アフリカ諸国は1970年代に相当する。 

 4)ロービジョンケアに携わる人たち
 ロービジョンケアに携わる人の職種は、各国さまざまであった。我が国では、眼科医が統括し、視能訓練士が視機能評価と光学的補助具の選定・訓練を行い、他の視覚リハ訓練と相談業務を歩行訓練士等が行うという体制にある。これに対し世界では、眼科医と視能訓練士の役割は少ない。その代わり、オプトメトリストと呼ばれる職種が存在し、彼らが主体的に我が国の眼科医・視能訓練士の役割に相当する部分を担っている。また、多くの国の視覚リハ訓練において作業療法士の関わりが大きい。これは、視覚リハが総合リハの一環として行われているためである。さらに、特筆すべきこととしては、カナダにおいて、専ら視覚障害のみを業務対象として活動が成り立っている看護師がいることであろう。また、多くの国では、心理的なサポートをその専門職が行っている。我が国にも臨床心理士が存在するが、視覚リハへの関与は残念ながら少ない。医療職が多く関与する国では、視覚リハが基本的に医療保険で行われている。その点、我が国では、福祉や教育のフィールドで視覚リハが行われてきた歴史的背景を反映し、歩行訓練士等による福祉施設における訓練が定着しているのが特徴と言える。

 5)ロービジョンケアを享受する人
 世界的にロービジョンケアあるいは視覚リハを享受するには、それ相応の対価を支払うことが求められる。医療保険でこれらを行っている国では、その契約対象にそれが含まれているかどうかで、受けられるかどうかがほぼ決まる。コロンビアのアンテオキア県の場合、受診時にその部分が検討され、実に75%がこの理由で視覚リハを受けることができない。米国においても保険契約上の問題で享受できない人がいるため、個人差の大きなサービスにならざるをえない。その点、中国や北欧などでは、国民に一律同等のサービスが与えられているが、その経済根拠はとなると他の部分での圧迫が生じることとなる。国によっては、視覚リハに携わる人が少ないため、そこにつながらない場合もある。視覚リハの需要とその内容は、その国の人口の年齢構成と、視覚障害の原因疾患によっても左右する。我が国では、高齢化による緑内障と加齢黄斑変性の増加に伴う需要がますます大きくなっている。それに応じて、医療と介護の役割が増大している。一方、視覚障害児の教育については、各国とも積極的に取り組んでいるが、世界的に統合教育の理念により視覚障害児が一般校に通学する傾向にある。それは、単に一般児童と生活をともにすればいいということではない。そこで生じた課題を解決できる体制と対で行われなければならない。北欧諸国では、その体制が十分に整っているためにうまく運んでいるものと思われる。ロービジョンケアの国際比較というとその技術やサービス内容に目がいきがちであるが、現代、情報はすぐに伝わるもので、調査したほとんどの国での知識や機材の質には大きな違いはなかった。むしろ、そのサービスにいかに繋がることができるかという点で異なっていた。 

 6)視覚障害者支援の強化因子
 1964年に世界盲人福祉協議会でなされた「盲人の人間宣言」以来、障害当事者が自分たちに関することを自分たちで決めるという理念に対するコンセンサスが広がっている。その中で、米国のAmerican foundation for the blind、カナダのCanadian national institute for the blind、イギリスのThe royal institute of the blind people、オーストラリアのThe Australian Blindness Forumというような、当事者自身が参画し、当事者団体としての性格を併せ持つ支援・活動団体の存在が目を引く。また、カナダのCNIBや今回の調査対象からは外れたが、スペインのONCEという視覚障害者支援団体は、宝くじの胴元となって潤沢な資金を集め、これを根拠として支援活動を行っている。我が国にも、日本盲人会連合、全日本視覚障害者協議会、弱視者問題研究会などの当事者団体が存在し、日本網膜色素変性症協会、全国盲老人福祉施設連絡協議会、日本盲人社会福祉施設協議会、全国盲導犬施設連合会、全国視覚障害者情報提供施設協会、全国盲学校長会、視覚障害リハビリテーション協会といった各種支援団体が数多く存在するが、いずれもその組織率は高いとは言えず、そして、それぞれの目的も微妙に異なる。

4.考察
 1)治安と福祉
 治安が不安定な中で、世界的に見た場合のセーフティネットとしての宗教の役割は大きい。我が国での無宗教の比率は7割と言われているので、現在の福祉水準の維持に無戦争の果たす役割は計り知れない。

 2)家族と福祉
 核家族から個人単位への転換は、高福祉が下支えする。家族崩壊を嘆く声も少なくないが、逆に真の意味での愛情と信頼で結ばれた家族関係が生まれ、それが本来の姿だという考えもある。北欧諸国のこれからを見据えるとともに、我が国における家族のあり方について、さらなる議論が必要である。

 3)経済と福祉
 各国の福祉状況をみると国民一人当たりのGDPとの相関をうかがい知ることができる。我が国のそれは、過去に世界第2位まで上り詰めたが、徐々に低下して、現在は19位に転落している。今後の我が国の福祉水準を維持するためには、適正な所得の再分配を前提とする経済的発展が不可欠と言えよう。 

 4)ロービジョンケアに携わる人たち
 我が国の特徴として、眼科医と視能訓練士が他国よりも深く関わっている。これは、その制度上の違いが生むものではあるが、その点を生かすことでより保有視機能に則し、治療の可能性を常に考えた支援が可能になるという点で、他国に優るロービジョンケアサービスシステムを構築できるのではないだろうか。その一方で、歩行訓練士等の福祉職として勤務する職種が、専門職としての資格が与えられず、医療施設で働きにくいという問題を解決していかなければならない。 

 5)ロービジョンケアを享受する人
 我が国でもロービジョンケアを行っている施設は十分とは言えないが、他国に比べればまだ多いほうである。問題は、うまくそこに繋がるかどうかである。現代のロービジョンケアの水準を示すスケールとして何をするかだけでなく、どう繋がるか、すなわちサービスへのアクセシビリティが重要になっている。最近では、眼科学会や眼科医会といった眼科医の組織が、ロービジョンケアの重要性を連呼し、眼科医療全般にその存在意義を啓発している。しかし、視覚リハにおいて何が行われるのかを熟知する眼科医や視能訓練士は依然として少なく、まだまだ啓発の余地が残されている。眼科ベースで視覚リハを行おうとしている世界的にはむしろ稀有なシステムを持つ我が国は、この特徴を生かし、ロービジョンケアを享受できる人の割合を増やし、さらには、必要と感じてからそれを受けることのできるまでの時間の短い優良なシステムを作り上げることができるのではないだろうか。

 6)視覚障害者支援の強化因子
 我が国に現在林立する視覚障害関連団体をまとめる組織が、障害当事者を核として成立することが、今後の我が国の視覚障害者支援においては重要ではないかと考える。それは、単にボランティア的な支援サービスの集合体ではなく、当事者の権利を守り、支援者の生活を下支えする、政治力と経済力を兼ね備えた組織でなければならない。

5.結論
 外国のシステムを学ぶことは、何であっても新しい視点と発想を与えてくれる。そして、自分の置かれている状況の問題点を見つけることができる。しかし、それと同時に今までに気づいていなかった我が国での良い点を再認識し、変えてはならない部分があることにも気づかされる。
 今回の検討から、1) 無戦争の維持、2) 家族についての検討、3) 経済的発展、4) 専門職の資格、5) サービスへのアクセシビリティの改善、6) 障害当事者を核とする支援組織の存在が、今後の我が国に必要であると提案する。

【略 歴】
 1989年 東京慈恵会医科大学卒業
 1995年 神奈川リハビリテーション病院
 2003年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 講師
 2004年 Stanford大学 客員研究員
 2007年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 准教授
 2008年 国立身体障害者リハビリ病院第三機能回復訓練部 部長
 2010年 国立障害者リハビリ病院第二診療部 部長 

 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」 

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)

14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843


15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科) 

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭) 

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師) 

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年8月13日

済生会新潟第二病院眼科では、どなたでも参加できる公開講座を開催しています。
今回は、加齢性黄斑変性治療第一人者の五味 文先生(住友病院)、再生治療のトップリーダーの高橋 政代先生(理研)、高次脳機能障害からの回復訓練に夫婦で取り組んだ立神 粧子先生(フェリス女学院大学教授)をお呼びして、『治療とリハビリ』と題して行います。
今のうちにカレンダーへのチェックをお願い致します。

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済生会新潟第二病院 眼科公開講座2015(2)「治療とリハビリ」
 日時:2015年10月10日(土)
         開場:13時30分 研究会:14時~18時
 場所:済生会新潟第二病院10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 事前登録 

13:55 はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院)
14:00~特別講演
 「加齢性黄斑変性治療の現状」
   座長:長谷部 日(新潟大学)、佐藤 弥生(新潟大学)
   演者:五味 文(住友病院) 

14:50~特別講演
  「iPS細胞による眼疾患治療の現状と未来」
   座長:福地 健郎(新潟大学)、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
   演者:高橋 政代(理研) 

15:40~ コーヒーブレーク 

16:00~特別講演
 「高次脳機能障害と向き合う
 
    〜神経心理ピラミッドを用いたホリスティック・アプローチ〜」
   座長:仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター)、平形 明人(杏林大学)
   演者:立神 粧子(フェリス女学院大学教授) 

16:50~ 座談会「治療とリハビリ」(1時間)
  座長:仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター)、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
  パネリスト:五味 文(住友病院)高橋 政代(理研)、立神 粧子(フェリス女学院大学教授)
   
平形 明人(杏林大学)、福地 健郎・長谷部 日・佐藤 弥生(新潟大学) 

17:50 おわりに 仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター)
    会場片付け(アジャーン)

18:00 終了 
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これまでの済生会新潟第二病院 眼科公開講座
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平成27年(2015年)2月28日(土)
「済生会新潟第二病院眼科 公開講座2015」『細井順講演会』
 講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス希望館長;近江八幡市)
 演題:生きるとは…「いのち」にであうこと ~死にゆく人から教わる「いのち」を語る~
 http://andonoburo.net/on/3515 

2012年(平成24年)9月19日(水)
「視覚障害児の目や見え方に関する講演会 2012」
 (第199回(12‐09月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会)
  会場:新潟盲学校 会議室
  演題:「様々な障害を持つお子さんを通して考えてきたこと」
  講師:富田 香 (東京;平和眼科)
   主催:済生会新潟第二病院眼科
   共催;新潟県立新潟盲学校 

2009年11月21日(土)
「明日の眼科を考える 新潟フォーラム2009」 
 特別講演
 「網膜色素変性とiPS細胞」
     高橋 政代 (神戸理研)
 「人工の眼は可能か?」
     仲泊 聡 (国立障害者リハビリセンター病院) 
 http://andonoburo.net/on/2577 

平成20年(2008年)11月15日(土)
「視覚に障がいのある子どもの発達と支援を考える新潟フォーラム 2008」
  会場:新潟盲学校 会議室
  司会進行 新井 千賀子(杏林アイセンター)、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)
 「子どもの視覚の発達と眼疾患」
      三木 淳司(新潟大学眼科)
 「視覚障がい乳幼児の発達」
      香川 スミ子(浦和大学)
 「視覚障がい乳幼児の支援ー新潟盲学校の取り組み」
      田邊 聡子(新潟県立新潟盲学校)
 「視覚障がい乳幼児への早期支援をうけて」
      近山 智子(新潟盲学校 PTA)
 パネルディスカッション 
   基調講演 「スペシャル子育てを考える」
          新井 千賀子(杏林アイセンター)
   パネリスト 三木 淳司(新潟大学眼科)
          香川 スミ子(浦和大学)
          田邊 聡子(新潟県立新潟盲学校)
          近山 智子(新潟盲学校 PTA)
   主催:済生会新潟第二病院眼科
   共催;新潟県立新潟盲学校 

平成20年(2008年)2月23日(土)
「済生会新潟第二病院眼科 公開講座2008」『細井順 講演会』
(第144回(08‐2月)済生会新潟第二病院眼科勉強会)
 演題:「豊かな生き方、納得した終わり方」
 講師:細井順(財団法人近江兄弟社ヴォーリズ記念病院ホスピス長)
 http://andonoburo.net/on/2573 

平成19年(2007年)11月11日(日)
『済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2007』
 シンポジウム 「患者として思う、患者さんを想う」
  稲垣吉彦(患者;有限会社アットイーズ 取締役社長、千葉県)
  荒川和子(看護師;医療法人社団済安堂 井上眼科病院、東京)
  三輪まり枝(視能訓練士;国立身体障害者リハセンター病院)
 コメンテーター
  櫻井真彦(眼科医;埼玉医科大学総合医療センター教授)
 http://andonoburo.net/on/2556 

平成18年(2006年)11月11日(土)
『済生会新潟第二病院眼科 公開講座2006』
 
(第128回(06‐11)済生会新潟第二病院 眼科勉強会)
  「失明の体験と現在の私」 
    西田稔(NPO『眼炎症スタディーグループ』理事長)
  「シルクロード病(ベーチェット病)からの贈り物」 
    西田朋美(眼科医、聖隷横浜病院)
 http://andonoburo.net/on/2552 

平成17年(2005年)11月26日(土)
「済生会新潟第二病院眼科 公開講座 2005」
 演題:「ホスピスで生きる人たち」 
 講師:細井順 (財団法人近江兄弟社ヴォーリズ記念病院緩和ケア部長)
 http://andonoburo.net/on/2548

2015年8月8日

 「新潟盲学校弁論大会 イン 済生会」
  日時:平成27年7月8日(水)16:30~17:30
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
(1)「僕の父」 中学部3年  
(2)「夢は地道にコツコツと」 高等部普通科3年 


(1)「僕の父」 新潟県立新潟盲学校 中学部3年  
 僕は、月曜日から木曜日まで寄宿舎に泊まります。中学部になってから、父と毎日会えません。だから少し淋しいです。

 僕の父はやさしいです。休みのときは父と一緒にお風呂に入ります。僕の身体をごしごし洗ってくれます。そんなときは、「お前、小さいときよく泣いてたな。お父ちゃんのくしゃみや鼻かむ音で泣いてたな」と僕の子供の頃の話をしてくれます。

 また、 「お出かけについて」話をします。お出かけに連れて行ってくれます。僕の好きな巫女爺や熱気球大会や花火大会を見に行ったり、いろいろな所に連れて行ってくれます。今年のゴールデンウィークは、毎日、柏崎や長岡に連れて行ってもらいました。行事のときは、家族みんなを学校まで送ってくれます。体育祭のときは「がんばれ、がんばれ」と応援してくれました。

 文化祭では作業で作ったフォトフレームをよくできた」と言ったり、有志のステージ発表で、僕たちがよさこいソーランを踊ったときは、「上手だったよ。」と、ほめてくれたりしました。

 僕とよく遊んでくれます。総合体育館に行って、僕の手を引いて走ります。そのとき父は飛ばします。速いので僕が手を離しそうになると、「おい、お前なにしてやんだ。」と言います。

 家ではウィーでゲームをしてくれます。座禅やスキーのジャンプのゲームを教えてくれます。父は、「飛べ!飛べ!前、前、前、前・・・」と、ジャンプのタイミングを指示してくれます。僕が上手に飛べると、「123メートルだって。いったねえ。」と、ほめてくれます。テレビで「お宝鑑定団」やニュースをよく見ています。 

 父は電気工事士をしています。仕事に出かけるとき僕に「よし、お父ちゃん仕事に行ってきますよ」と言って出かけます。そんな父はかっこいいと思います。

 僕は父が一番大好きです。これからも元気でいて下さい、お父さん。

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(2)「夢は地道にコツコツと」 新潟県立新潟盲学校 高等部普通科3年 
 今から話しをするのは、二年間話すことが出来なかった中学校の時の話です。

 私は、生まれつきの弱視ですが、勇気が出せず、本当に信用している友達にしか目が悪いことを打ち明けていませんでした。だから私は他の友達に気づかれないように学校生活を送っていました。高校受験も、盲学校進学ではなく、普通校進学を希望していました。なぜなら私は、盲学校は目が全く見えない人が通うところだと勘違いしており、盲学校に進学することで、目が悪いことがみんなに知られてしまうのを恐れたからです。 

 私は、普通校合格のために必死に勉強しました。入試当日、教室に書見台が用意され、拡大された答案用紙が配られました。他の受験生たちがじろじろと見ているのがとても恥ずかしかったし、視線を怖く感じました。それでも、入試を出来る限りがんばりました。休み時間には友達が面白い話や、「俺だめだった」みたいな話をして私を勇気づけてくれました。志望した高校には、友達が多く受験していたので、緊張せずに取り組めました。入試が終わったあと、『やることはやった!がんばった!』という達成感よりも、『無事に高校に入学できるか』という不安でいっぱいでした。

 志望校合格発表の日。自分の受験番号を一生懸命探しました。1、2、3、4……数が近づいてくるにつれ、私の心臓はバクバクしました。結果は不合格でした。私は、頭が真っ白になりました。理解できずに何度も何度も探しましたが、番号はありませんでした。

 私は、二次の新潟盲学校受験を頑張ろうと思い、再び努力しました。そして、新潟盲学校に合格しました。うれしいのですが、素直に喜べませんでした。目が見えない人がいく学校で、自分の目が悪いことを知られてしまうと思ったからです。友達に「どこ入学するの?」と聞かれて盲学校と答えるのが嫌でした。私の不安は無事に入学できるかというものから、盲学校ってどんなところなのかというものに変わっていき、入学式が近づくにつれてその不安がどんどん大きくなりました。ついには盲学校入学が決まっているのに、「普通校に行きたい」「普通校で勉強したい」とさえ思ってしまいました。

 しかし、その不安は入学式で生徒会長からのお祝いの言葉を聞いたときに全て吹き飛びました。しっかりハキハキと言っている姿を見て「本当に目が悪いのか?」と思いました。学校生活が始まり、グランドソフトボール部の先輩たちがアイマスクをしていても、普通に投げたり打ったり、走ったりしているのを見て「すごいなぁ」と思いました。さらに、寄宿舎でも私よりもよっぽど小さな子が一人暮らしをしていてすごいと思いました。

 盲学校に来たばかりで何も知らなかった私に気軽に話してくれる人ばかりでした。私のことを大好きと言ってくれる人もいました。私は、とてもうれしかったです。私は、『盲学校入学は、間違いじゃなかったんだ、もし私が普通校に合格していたら、こんなすてきな友達と出会えなかったし、私のことをわかってくれる先生方もいなかった!普通校に落ちたから今の私がある!』と思っています。

 三年生になり、たくさんの友達といつもわいわいしながら学校生活を送っています。そんな私には今、夢があります。それは、パン屋になるという夢です。私がパン屋を意識したのは、中三の時です。「焼きたてジャパン」というテレビアニメにハマり、家でパンを作り始めたのがきっかけです。目盛りやはかりの線が見えにくい私にとって、非常に難しい夢だと思います。しかし、その夢をあきらめたくはありません。なぜなら、私はパンが好きだからです。

 私は、二年生の時から「産業社会と人間」という授業を選択しています。その授業では、日頃のあいさつ、礼儀、作業など就職に関したことを学んでいます。慣れてくると現場実習があり、二週間の現場実習を行いました。金具組み立てや段ボール作りなどを一日六時間以上やるので、とてもくたくたになりましたが、この実習を通して仕事の大変さや辛さがしみじみとわかりました。今年も七月にまた実習があります。就職に向けて大変な実習もがんばっていきたいです。

 さて、みなさんは、連続テレビ小説「まれ」を知っていますか?夢が嫌いなまれが言った言葉に「人生は地道にコツコツ」という言葉があります。まれは夢が嫌いですが、私は夢が大好きです。夢がなかったら人生は楽しくないし、夢が無いと何事もがんばれないと思います。みなさんも夢に向かって地道にコツコツとがんばりましょう。たとえ大きな障害があり、それがどんなに暗闇に包まれたとしても、続けていれば必ず夢に近づいて行くはずです。私もパン屋という夢に向かって走り続けていきます。

 これで発表を終わります。ご清聴ありがとうございました。

【後 記】
 済生会新潟第二病院眼科勉強会の七月は、毎年新潟盲学校の生徒による弁論大会を行っています。盲学校生が胸に秘めた熱い思いを弁論は、毎回好評です。
 今回も二人の弁士は、一所懸命に時に身振りを交えて弁論してくれました。参加者からも多くの賛辞が寄せられ、感動の弁論大会でした。

@全国盲学校弁論大会弁論47話「生きるということ―鎖の輪が広がる―」
 http://www.kyoikushinsha.co.jp/book/0103/index.html
 平成20年度で77回目を迎えた全国盲学校弁論大会の発表作品は、“こころ”の課題を抱える現代の児童生徒、学生にインパクトとともに大きな勇気を与えている。学校、家庭での読み聞かせにお勧めの一冊。

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【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成27年9月9日(水)16:30~18:00
 第235回(15-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題:街歩きを通して考える社会の視覚障害者観と当事者の心理
  講師:清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)

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平成27年10月10日(土)午後
 済生会新潟第二病院 眼科公開講座2015「治療とリハビリ」
 会場:済生会新潟第二病院10階会議室
 要:事前登録
 講演予定者
  五味文(住友病院)
  高橋政代(理研)
  立神粧子(フェリス女学院大学教授)
 http://andonoburo.net/on/3607
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平成27年10月14日(水)16:30~18:00
 【目の愛護デー記念講演会 2015】 
 (第236回(15-10)済生会新潟第二病院 眼科勉強会)
 「ー眼を見つめて50年ー
  素晴らしい眼科学の進歩と医療現場における問題を顧みる」
 藤井 青(ふじい眼科)

平成27年11月11日(水)16:30~18:00
 第237回(15-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「臨床からの学び・発展・創造・実現」
  郷家和子(帝京大学)

平成27年12月02日(水)16:30~18:00
 第238回(15-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  田中正四 (胎内市)

平成28年1月13日(水)16:30~18:00
 第239回(16-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「パラドックス的人生」
  上林明(新潟市)

平成28年2月10日(水)16:30~18:00
 第240回(16-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  若槻 裕子・岩崎 深雪 (新潟市)