勉強会報告

2017年5月12日

 

報告:『済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017』 2)平形 明人 

 最新の眼科医療や再生医療の話題を知り、視覚リハビリテーションを語るという市民公開講座(主催:済生会新潟第二病院眼科)を、2月25日に開催しました。高橋政代先生(理化学研究所)、平形明人先生(杏林大学眼科教授)、清水美知子先生(フリーランスの歩行訓練士)をお招きし、司会は林 知茂先生(国立障害者リハビリテーションセンター病院)と、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)が務めました。当日は全国12都府県から100名を超す方々が参加、熱気あふれる公開講座となりました。

 公開講座の報告として、講師の方々の講演要約を順に公開しています。今回は、平形明人先生(杏林アイセンター教授)です。 

===================================== 

演題:杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って
講師:平形 明人(杏林アイセンター教授) 

【講演要約】
 ロービジョンケアの重要性は眼科領域ではかなり普及してきている。しかし、対象となる病態や患者背景は多様であり、眼底疾患だけでも、発生異常による先天性視力障害、腫瘍や遺伝性網脈絡膜疾患による中途失明、血管閉塞や黄斑変性などによる高齢者の視力障害など様々である。また、施設により実施方法やロービジョンケア担当の職種は異なる。患者の日常生活に密接に関わる開業医、多数の難病疾患を紹介され高度な治療後の後遺症に対処する病院、高度医療の実施と若い医師や医療者を教育指導している大学病院、再生医療などの最先端治療をしながら難病患者に対応する高度医療機関、それぞれ異なった環境でロービジョンケアの方法には特徴があるであろう。 

 今回は、我が国で最初のアイセンターの名前を冠して活動している杏林大学病院眼科で、どのようにロービジョン外来が誕生してロービジョンケアを実施しているのかを振り返ってみた。 

 杏林大学眼科は、1999年にアイセンターの名前を冠して高齢化社会に向う我が国の眼科治療の発展の必要性を訴えた(つもりである)。そのアイセンター構想は、すでに1994年に杏林学園に提出されたが、その大きな柱の一つがロービジョンケアであった。当時主任教授であった藤原隆明教授、樋田哲夫助教授と私で、高齢化社会での生活の質(QOL)のために視覚医療が非常に大切で、そのためにはロービジョンケアが大きな役割を果たすことを強調した。この杏林ロービジョンケアの創設は、その2年前にORTの守田好江さんが外来にロービジョン補助具を準備したことに遡る。 

 守田好江さんは、慶應大学の植村恭夫先生の下で小児眼科、つまり斜視弱視と屈折矯正の基本を徹底的に仕込まれたORTであるが、植村先生の退任を機会に米国に留学してロービジョンケアを学び、杏林にORTとして赴任した。そして、人手のない中でORT業務の合間に少しずつロービジョンケアを行いながら、教室の眼科医たちにそのコンセプトを浸透させた。 

 守田さんが再び米国に戻ることになった時に、彼女の推薦でORTの田中(石垣)恵津子さんが赴任し、彼女が大学院で学んだ東京女子大の小田浩一教授との交流が始まった。田中さんの献身的な患者への対応を見ながら、網膜硝子体手術の対象疾患をはじめ難病疾患の患者に対する治療前後のロービジョンケアの意義を私を含め多くのスタッフが認識するようになり、ORT西脇友紀さんも加わった。 

 Duke大学で硝子体手術の父といわれるRobert Machemer教授に指導いただいた樋田教授と私は、「本当の医者は、自分の手術の上達に満足するのではなく、手術を受けた患者がどのように生活を拡大するかに心を配らなければいけない。そのために、手術後の屈折矯正を基本とする視覚環境のケアに眼科医は関心を持たなければいけない。」という教育を受けていた。まさに、彼女らのケアによって生活が拡大する視覚障害者に接して、ロービジョンケアの重要性を実感した。 

 1999年の病院の新外来棟建設に伴ってアイセンターが設立したのを機会に、田中、西脇をORTの基本業務から外し、小田教授をロービジョンケアリサーチ主任として非常勤講師に迎えた。以後、彼らの学会発表や論文報告の数は医師のそれを凌ぐものになった。その後、家庭の事情から田中、西脇が非常勤になり、ORT新井千賀子さんと歩行訓練士の尾形真樹さんが受け継いで活動範囲はさらに広がり、外部から見学者や研修者が多く訪れ、アイセンターにはなくてはならない外来に充実した。 

 本講演では、ロービジョンケアが生活拡大に明らかに有用であった印象深い数例を紹介した。
・両眼の先天網脈絡膜コロボーマで健常網膜は上方血管アーケードより周辺しか残存していない3歳女児。両眼視力は0.04であるが、行動観察、読書検査、固視検査を通じて年齢に適切な視環境を取り入れながら成長し、昨年、4年制大学を卒業して福祉関係の仕事に就職された。

・68歳男性でドーナツ状の輪状暗点を示す輪紋状脈絡膜硬化症の男性に、病態や将来予後の可能性を説明し、MN-Read読書検査から周辺視野を使った文字サイズで読むことを拡大読書器で練習してもらった。13年たった81歳の現在、中心視力は0.08に低下したが、趣味の読書を続けている。

・60歳男性、糖尿病治療歴なく、他眼失明で残る眼の網膜剥離を合併する重篤な増殖糖尿病網膜症で受診した。視力は0.03、糖尿病内科眼科同時診察を経て、内科入院中から手術後の予後を想定して、糖尿病のインスリン自己注射を含む自己管理、食事法、点眼や内服の工夫(点眼ビンのマーク付けや内服分包など)、治療経過に対応しての眼鏡や拡大鏡処方、介護保険の利用、他施設の利用などを、看護師、栄養士、ロービジョンケア担当師と指導し、硝子体手術後6か月で視力0.1に回復するまで網膜症の治療だけでなく両親の介護を含む行動範囲を維持した。 

 ロービジョン外来を受診して生活範囲を維持する患者に接することで、医師や看護師などのコ・メディカルが多くの眼科医療の在り方を学び、視覚障害者に対する看護・介護の手段も広がった。また、医学生や研修医が眼科医療の視覚医療がQOLに欠かせないもので、そのケアに医師の役割が重要であることを実感している。さらに、ロービジョンケアの担当者は、各専門分野の医師との交流から、各専門分野の疾患に特徴ある情報を得ることで、将来を予測した対応を提供することもできた。高度医療機関や大学病院など医師を養成する施設にはロービジョン外来の設置は必要条件であると感じている。 

【略 歴】
 1982年 慶應義塾大学医学部卒業、同眼科学教室入局
 1987年 慶應義塾大学医学部助手
 1989年 米国Duke大学Eye Center留学
 1992年 杏林大学医学部眼科講師
 1997年 杏林大学医学部眼科助教授
 2005年 杏林大学医学部眼科教授
 2008年 杏林大学医学部眼科主任教授   現在に至る 

 

『済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017』
  日時;2017年02月25日(土)15時~18時
  会場:新潟大学医学部 有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
 テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
 主催:済生会新潟第二病院眼科

【プログラム】
 座長:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
    林 知茂 (国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科)

・「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
    平形 明人(杏林アイセンター;主任教授) 

・「網膜再生医療とアイセンター」
    高橋 政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト) 

・「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
    清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
   http://andonoburo.net/on/5840

 

2017年5月3日

報告:第254回(17‐04月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 小島紀代子 他

 演題:「私たちの出前授業45×2
       ~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」

  講師:小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
    (NPO法人障害者自立支援センターオアシス) 

  日 時:平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
  場 所:済生会新潟第二病院 眼科外来

【講演要旨】
  平成10年、「総合学習」が創設。地域の多様な立場の人と交流・体験を通し、「思いやりの心、生きる力」を育てる学びの場が地域に拓かれました。平成9年、オアシス主催「第1回学生、子どもたちのためのサマースクール」が、「目の不自由な人をもっと知ってもらうために」「誰もが誘導歩行できる社会に」を目指し開催、昨年20回を迎えました。

1.出前授業の変遷
 「見えない人の体験談・誘導歩行」の依頼を受け、双方が戸惑いながらの始まりでした。体育館で当事者が一人で語り、そのあと二人一組になり「誘導歩行体験」。子どもたちは、「見えないと怖~い。大変。だから道で会ったら助けようと思います。」の感想が大半でした。 

 私たちは、「総合学習」のあり方に疑問を感じ検討しました。・アイマスク体験は、怖い思いと「かわいそう」だけが残り、逆効果の恐れ。・ひとり語りは、特別な人に感じられ真の姿が届きにくい。そこで、① 視覚障害者の全体像を伝えるために、「言葉」だけでなく「映像の力」を。② 体験談は、一人語りからインタビュー形式に。③ 体験学習はグループ別に分けて行う 「誘導」、「機器や道具」、「弱視メガネ・白杖」。④ 障害者の差別偏見と「今」の子どもたちの問題から、『感じ・考える』授業に。 

2.小学校4年生の最近の授業風景
 1) ~スライドを映しながら~
・視覚障害者の全体像(全盲・ロービジョン・中途・先天盲。見え方のいろいろ)。・オアシス物語(一人の自殺者と内科医師の取組み)。・目のリハビリテーション(こころのケア・歩行・調理・化粧・パソコン・機器・道具の訓練)。・オアシスの特徴(次の人のために教え合い、支え合う教室) 

 ~目をつむっての体験~~
 Q.もし君たちが見えなくなったらどんな気持ち?
 A.隣の人がみえない、いやな気持ち。 どこにいるかわからない、不安になる。

 Q.見えなくなったら、何もできなくなるのかな?
 ・「みかんや物を触ってもらう」・・・他の感覚を使う。
 ・「自分の名前を書いてもらう」・・今までの経験の力を使う。 

 2) ~インタビュー形式の語り~
 当事者の以前の職業などを映し、子どもたちからスライドを説明してもらう。当事者の心の内をカミングアウトする。

 Q. 見えなくなって困ることは?
 A. 死にたくなった、つらかった、白杖が持てない、好きなこともある。元気になれたのはネ。

 Q. 見えなくなって、よかったことは?
 A. 「よいことなんか、ひとつもないけど、君たちに会えた」「小さいことにも感謝できる」「本当の仲間に出会えた」「パソコンができた」

 @悲しみ・苦しみから、楽しみ、喜びなど、ありのままを真剣に語る当事者と聞く子どもたち。 

 3) ~「パソコン・iPad・機器・道具」の紹介~

 @子どもたちは、驚き、それを使い生活する当事者へ尊敬のまなざし。 

 4) ~『考える』授業~
 Q1.「もし、君たちのお父さん、お母さんが見えなくなって、白杖が持てないと言ったら?」
 A.・僕が誘導するからいい。 危ないから家族を説得する。 オアシスに相談する。
 ・お父さんの誕生日に盲導犬をプレゼントする、それまでは仕方ない。

 Q2.「もし君たちが見えなくなったら、白杖持てますか?」
 A.(持ちたくないと答えた子) ・だって見下されるから ・恥ずかしいから ・もちたくないから
  (持つと答えた子) ・仕方ないじゃん、生きていかなければならないから。 

 Q3.白杖と盲導犬だったら、どっち?
 A.ひとりで歩くと淋しい、不安だから盲導犬を持つ ・僕は白杖も盲導犬も持つ。

 Q4.「点字ブロックは、車椅子の人には迷惑、視覚障害者には必要。どうしたらいいかな?」
 A.「簡単じゃん・・・片方は車いす用に、もう片方は、点字ブロックを敷く。」 

3.中学校 「いじめ」問題を意識しての授業
 重複障害で重い障害のAさんは、周囲に助けを求め仕事を継続。軽い障害のBさんは、周囲に助けを求めず隠していたため孤立化し仕事を辞めた。Aさんは「反対の立場だったら私も隠した」と。Bさんは、淡々と苦しみを語り、中学生も先生も共感!感じてもらえた授業。 

4. 最近の子どもたちの感想文
・白杖を持ちたくない気持ちが、すごーくわかりました。・目の不自由な人は、かわいそうではありません。普通の人と同じことができて凄い。・「目のリハビリ」があることにびっくりした。(多くの子どもたちからも)・調理したり、パソコン、アイパッド、携帯電話が使える。拡大読書器もすごいです。・目が不自由でも、楽しいことがあるということ。仲間が増え、パソコンができること。・ぼくは、差別しないと決めました。なんでもない人でも困っていたら、「どうしましたか?」って聞いて助けてあげます。・仕事のこと、いやな思い、見えなくなった時のショックなど、悲しい気持ちで聞きました。・話したくないことを話してくれた。感謝しています。強い人でした。・目の不自由な人が次の人に教えてあげる。気持の分かる人が教えるのはいいことです。 

5・まとめ
 最後に、見えない人のハーモニカで力強く歌い、「ありがとう」と握手する子どもたち。まっすぐな心で感じ、聴いてくれた子どもたちが教えてくれました。
 「仕方ないじゃない・・生きていかなければだめだから」「僕は白杖も盲導犬も持つ」「私はデイズニーランドのキャスターになりたい。もし働くことになったら、不自由な人のために、いっぱいアイディアをだしたい」 (4年女子)
 「出前授業45×2」は、私たちに「生きる勇気」を、未来に「希望」を感じさせる時間でした。 

 

【メンバー紹介】
 小島紀代子(事務局・相談員・視覚障害リハビリテーション外来)
 小菅茂  (福祉機器普及員・テープ起こしワーク員)
 入山豊次 (福祉機器普及員・グループセラピー・テープ起こしワーク員)
 吉井美恵子(パソコン指導員・同行援護養成講座指導員・盲ろう者通訳介助員)
 三留五百枝(フットケア&健康相談員・テープ起こしワーク員・看護師) 

=============================
NPO法人障害者自立支援センターオアシスの紹介
=============================

1.「視覚障害リハビリ外来」1994年開設(月2回)
 中央から視覚リハ専門の先生お2人と眼科医・内科医による、「就労・進学などの悩み相談」「移動・歩行のリハビリテーション」「拡大鏡・遮光眼鏡の選択、指導」「パソコン・iPad・拡大読書器」「日常生活用具」「福祉制度」の紹介と使い方指導等。

2.「日常生活訓練指導」~リハビリ外来と連携~(週4回)
 「パソコン・機器の使い方指導」「調理・化粧教室」「転倒予防運動」等。

3.「こころのケア」
 外来の先生方によるカウンセリング、「グループセラピー」「昼食会・カフェ」ほか。お茶やお話を楽しむ方、いろんな方たちとの交流の場を提供。

4.「地域社会貢献~地域の人と共に~」
「白杖・誘導歩行・転倒予防講習会」「サマースクール」「看護学生実習施設」「同行援護従業者養成講座」「出前授業」等。スタッフは眼科医・内科医、日常生活訓練士、元盲学校の先生、栄養士、看護師、保健師、MSW、機能訓練士他さまざまな職種の方、視覚障害者、その家族、ボランティア。 

*「獲った魚を与えるよりも、魚の獲り方を教えよ」の精神で自立支援を行い23年。就労者の増加、「今」を受け止め明るく暮らす方たちが「希望」です。
http://userweb.www.fsinet.or.jp/aisuisin/

=============================

 

【追 記】
  オアシスグループの見事なステージでした。小菅さんを中心に練りに練ったスタイルで、小島さんのナレーション、入山さんの語り、吉井さんと三留さんのプレゼンと時間いっぱいに使ったショー形式の講演でした。
 
子どもたちに目の不自由な人の生活を教えるだけでなく、感じてもらう、考えてもらう工夫が溢れていました。私たちは時々参加しながら、なるほどなるほど、ほーそうだったのか、と感心しながら拝見していました。まさに「子供は未来」と感じました。そして子供と接することで、関わった大人達も生き生きしてくることが良く判りました。
  
オアシスの皆さん、ありがとうございました。 

 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】

平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00

  第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会

   「地域包括ケアシステムってなに?新潟市における医療と介護の連携から

   斎川克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長

         新潟市医師会在宅医療推進室室長)

                              

平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00

 第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会

   「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」

     渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム)

 

平成29年07月

  第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会

   新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)

 

平成29年08月09日(水)16:30 ~ 18:00

  第258(17-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会

  演題未定

  小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)

 

 

平成29年09月02日(土)午後

  新潟ロービジョン研究会2017

    会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)

     2階会議室

 テーマ:「私と視覚リハビリテーション」

1)司会進行

   加藤聡(東大眼科)、仲泊聡(理化学研究所)、

   安藤伸朗(済生会新潟第二病院)

  特別コメンテーター

   中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)

   大島光芳(新潟県上越市) 

2)プログラム

 1.「ロービジョンケアとの出会い」   

    高橋政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)

 2.「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」

    清水朋美(国立障害者リハセンター病院)

 3.「私と視覚障害リハビリテーション」    

    山田幸男(NPOオアシス)

 4.「眼科医療におけるキュアとケア」

    安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)

 全体討論

 

 

平成29年11月18日(土)午後

 済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座

  会場:済生会新潟第二病院 10階 多目的室

  日時:平成29年11月18日(土)午後

   演題:「人生の手応えを共にさがし求めて〜死にゆく人たちと語り合った20年〜」

   講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)

 

 

2017年3月2日

報告:第252回(17‐02月)済生会新潟第二病院眼科勉強会  宮坂道夫
 演題:「物語としての病い」
 講師:宮坂道夫(新潟大学医学部教授)
  日時:平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

【講演要約】
 21世紀の医療には、あまり目立ちはしないが「物語論」という静かな潮流がずっと流れ続けている。日本語の「物語」は、英語のstoryやnarrativeに対応している。このうちnarrativeという英語が、最近の医療ではカタカナでそのまま使われることが増えている。物語論の考え方を応用した様々な実践がなされていて、これを一括りにして「ナラティヴ・アプローチ」とか「ナラティヴ実践」と呼んでいる。 

 ナラティヴ・アプローチにはきわめて多様なものが含まれるが、「物語への向き合い方」という視点で捉えれば、3つの系統に分類できる。まず、医療者が患者という「他者」の経験を、当人の文脈のなかで理解しようとする実践群がある(これを仮に「現象学的実践」と呼んでおく)。
 1990年代末に、「エビデンス・ベイスト・メディスン evidence-based medicine」(文献的根拠に照らして最善の治療法を選択しようという考え方)の行き過ぎを憂慮した医師たちが提唱したのが「ナラティヴ・ベイスト・メディスンnarrative-based medicine」であったが、そこには、「医療者は専門性の枠組みの中で病気を捉えるが、病気を抱えているのは患者であり、その経験は医療者にとって容易に理解できるものではない」という問題意識があり、治療方針の選択については「疾患が患者にもたらす影響は、その当人の人生史や価値観によって左右されるのだから、医療者は文献上のデータではなく、個々の患者の人生の文脈において最善と評価できる治療・ケアを選択すべきだ」という発想の転換があった。 

 第2の系統は、「物語」をケアとして用いる実践群である(仮に「ケア的実践」と呼んでおく)。 これは、1970年代に心理療法の中から誕生したナラティヴ・セラピーと呼ばれる一群の実践に端を発している。そこでは、患者の「自己物語」と「認知・経験」とが矛盾することで心理的問題が生じると見なされ、治療者が患者に「自己物語の書き換え」を促すことが、ケアの目標となる。ナラティヴ・セラピーは、気分障害、発達障害、トラウマ、アディクション、摂食障害、DV等々の多岐にわたる「心の病」を抱える人たちのためのものであるが、そこに散りばめられていた斬新なアイデアは、もっと広い範囲の対象に適用できるのではないかという期待を強く抱かせた。
 講演では、食事を取ったことを忘れてしまった認知症患者への声かけを考えた。認知症患者の脳は、認知機能は低下するが情動機能は維持されているとされる。そのため、食事をしたことを思い出させようとするあまり、相手の自尊感情を損なうようなコミュニケーションは望ましくない。「食事を取らなければいけない」という患者の「自己物語」を他人が無理に変更させることで、患者の脳では「否定された」という情動が働いてしまう。むしろ、「わかりました。ご飯の準備をしておきますね」等と、自尊感情に配慮した声かけをすることで、「認知・経験」との矛盾を拡大させずに、「食事を取らなければいけない」という気持ちがやわらぐのを待つ方がよい。 

 第3の系統が、筆者が専門的に取り組んできた、医療倫理の方法論としてのナラティヴ実践である。そこでは「倫理的問題は当事者の物語の不調和で生じる」と見なして、「対立し合う物語の調停」を試みる(仮に「調停的実践」と呼んでおく)。
 講演では、意識回復が望めない脳梗塞患者に胃瘻を造設するか否かが問題になった事例を考えた。妻は「本人は延命治療をしないでほしいと言っていた」と反対し、息子は「このまま死なせるのは忍びない。打てる手があるならお願いしたい」と実施を求めた。ここにあるのは、患者との関わりや、歩んできた道のりの違いに根ざす「思い」のズレであり、このズレを「妻の物語と息子の物語の不調和」と捉えることで、それを解消するためにどんな対話をこの2人としていけばよいのかを考える道が開けてくる。例えば、妻は患者の気持ちを代弁しているように思えるが、自分自身の気持ちはどうなのかを聞いてみてはどうだろうか。息子が抱いている父親への思いには大いに共感できるが、胃瘻の効果を医学的に考えてみると、この状態の患者に「胃瘻を作らない」ことが、必ずしも「何も手を打たないこと」とは言えないように思えることを伝えてみてはどうか。 

 以上が講演の概略であるが、これらが眼科領域にどのように適用できるのかは、これまでほとんど考えたことがなかった。特に、ナラティヴ実践の中には視覚的なもの(紙芝居や絵本を作ったり、写真やビデオを用いたりする実践など)もあるが、これらはそのままでは適用することができない。しかし、講演後に視覚障害を持つ方から出された感想や意見をうかがうと、彼らが私の話を細部に至るまで丁寧に聞いてくれており、しかも自分の経験に照らして様々な発想を展開していることに驚かされた。視覚障害者にとっての「物語」の豊かさを感じたとともに、彼らとともに様々なナラティヴ・アプローチを試みることも、眼科の医療にとって意味があることのように思えた。
 

【略 歴】
 1965年長野県松本市生まれ。
 早稲田大学教育学部理学科生物学専修卒業、大阪大学大学院医学研究科修士課程修了、東京大学大学院医学系研究科博士課程単位取得、博士(医学、東大)。専門は医療倫理、ナラティヴ・アプローチ(医療における物語論)など。
 2011年より新潟大学医学部保健学科教授。
 著書に『医療倫理学の方法 - 原則, 手順, ナラティヴ』(医学書院)、『ハンセン病 重監房の記録』(集英社)、『専門家をめざす人のための緩和医療学』(共著、南江堂)、『ナラティヴ・アプローチ』(共著、勁草書房)など。

 宮坂道夫研究室ホームページ
 http://www.clg.niigata-u.ac.jp/~miyasaka/

 

【後 記】
 宮坂道夫先生は、全国区で活躍している生命倫理の大家です。眼科領域でも臨床眼科学会で講演して頂いたり、「日本の眼科」に投稿して頂いています。
 今回のお話は、「病いの物語」という演題でお話して頂きました。EBM(evidence-based medicine,根拠に基づく医療)が大流行りの今日、NBM(Narrative Based Medicine)をテーマとしたお話です。
 私が理解した先生のお話は、、、、、物語(ナラティブ)に基づいた医療。物語とは何か?アリストテレス(BC384年 – 322年)によると、物語は「再現・シークエンス(展開)・登場人物・感情を揺さぶる」と集約できる。 NBMでは、傾聴・関係性・ケアが基本。一言でいうと、医師は医療の標準化を求めEBMに精を出す。一方、NBMは患者目線での個別化医療。以下の言葉が、印象に残りました。他者理解のNBMとケアの実践のNBM、「無知のアプローチ」、「スニーキー・プー」、問題の外在化、「人生紙芝居」
 今回も、色々な角度から物事の本質を見つめる宮坂先生の世界を知り、大変勉強になりました。
 宮坂先生の益々のご活躍を祈念致します。 

 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
 平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
    第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
    「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
    栗原 隆(新潟大学人文学部教授)
  http://andonoburo.net/on/5636 

  平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
    第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
    「私たちの出前授業 45×2
   ~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」
    小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
    (NPO法人障害者自立支援センターオアシス) 

  平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
    第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
    「地域包括ケアシステムってなに?新潟市における医療と介護の連携から
    斎川克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
         新潟市医師会在宅医療推進室室長)                              

  平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
  第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
    渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
  4月から(新潟大学 准教授:工学部工学科人間支援感性科学プログラム) 

  平成29年07月
   第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
   新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
 

  平成29年09月02日(土)午後
   新潟ロービジョン研究会2017 予定
    会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)
     2階会議室
   テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
 1)司会進行
   加藤聡(東京大学眼科)、仲泊聡(理化学研究所)
 2)演者
   高橋政代(理化学研究所)
   清水朋美(国立障害者リハセンター病院)
   山田幸男(NPOオアシス)
   安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
 3)特別コメンテーター
   中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
   大島光芳(新潟県上越市) 

 

 平成29年11月18日(土)午後 
  済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017 
  細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市) 

2017年2月2日

報告:第251回(17‐01月)済生会新潟第二病院眼科勉強会   大石華法
 演題:「ブラインドメイクは、世界へ
            -視覚障害者である前に一人の女性として-」
 講師:大石 華法(一般社団法人日本ケアメイク協会)
  日時:平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来

【講演要約】

 視覚に障害がある女性を対象に,自分自身で鏡を使わずにフルメーキャップができる化粧技法「ブラインドメイク」を考案したことをきっかけとして,20101010日よりケアメイク活動をスタートし,6年間の活動を経て,2016125日に一般社団法人日本ケアメイク協会を発足しました.
 
今,「ブラインドメイク」は,日本の視覚障害女性の笑顔支援に留まることなく,世界の視覚障害女性の笑顔支援につながっています. 

1.視覚障害者に化粧は不要か?
 
「視覚障害者に化粧のニーズがあるのか?」「化粧をしても目が見えないのに,化粧する意味があるのか?」「目が見えないのに,化粧をさせるとは無茶なことだ」「そもそも彼女たちに化粧の話をすることは(出来ないのに)失礼なことだ」など意見が飛び交うなか,視覚障害の女性は,視覚に障害があるけれども「女性」であることに晴眼者の女性たちと何ら変わりはない.女性は死んでも死化粧をする.そこまで化粧は女性にとって重要なものとして扱われている.化粧は女性の尊厳を支えるアイテムであると言っても過言ではないと考えました.そのため,視覚に障害があることで,本当に化粧を諦めてもいいのだろうか?しなくていいのだろうか?それが本当に彼女たちの望んでいることなのだろうか?いや,そんなはずはない.私と同じ「女性」なのだから.と自問自答を繰り返す日々が続いていました. 

2.視覚障害者理解不足が「障害」に?!
 
ある日,一人の視覚に障害のある女性が「私はいつか目が見える時がきたら,化粧をしたいの・・・」と言って,1本の口紅を鞄の中に入れて持ち続けている女性の姿を見て,視覚障害の女性は目に障害があっても「女性だ!」と強く認識しました.
 
それからは,視覚障害の女性と出会っても,同じ「女性」のスタンスで接することで,「目が見えない人」ということが気にならなくなりました.それどころか,一緒に“女子トーク”を楽しみ,“視覚障害者のアルアル話”を彼女たちとするようにまでなりました.
 
ここで分かったことは,視覚障害者は,確かに身体の目の部分に「障害」はあるけれども,晴眼者側に視覚障害者理解が足りておらず,その理解不足の部分が,各自の思い込みや先入観(私はこのことを晴眼者側の「障害」と呼んでいます)を作りだしているのではないかということでした. 

3.女性の「美しくなりたい」という気持ちに寄り添う
 ブラインドメイクを指導する化粧訓練士の研修生たちに「視覚障害者と同行している時に,目の前に階段とエレベーターとエスカレーターがあれば,援護者はどうしますか?」と質問します.そうすると,「エレベーター」「エスカレーター」と,身体に負担が少ない,あるいは,容易に行く方法を考えます.しかし,答えは「本人に尋ねる」がよいことを話します.そして,目の前に「階段」「エレベーター」「エスカレーター」があるという情報を提供することの大切さを教えています.この回答を述べると,皆が「そっか!」と認識します.つまり,どうするかは援護者側が勝手に良かれと思ったことを実行するのではなく,本人にまず情報提供をして,本人が決めるという自己決定を尊重することの意味を話します.
 
そして,次の質問では「視覚障害の女性はお化粧するしないは誰が決めるのでしょうか?」それは「本人」が決めることで,周囲が勝手に視覚障害者は化粧を「する」「しない」「できる」「できない」を決めるのではないことの理解を深めていただいています.
 
最後に,「よく『当事者の気持ちに寄り添うことが大切だ』と言われていますが,視覚障害の女性の気持ちに寄り添えることは何でしょう?」という部分に触れます.回答は,「視覚に障害がある前に,その人を一人の『女性』であるということ.女性であるならば『美しくなりたい』という気持ちがあることを,認識して理解すること」と述べています.これらの回答は,ブラインドメイクができるようになった視覚障害の女性たちが,ケアメイク女子会で述べていたことを参考にしました. 

4.「ブラインドメイク」は世界へ
 「ブラインドメイクは我々医療では手の届かない患者さんを笑顔にする不思議な力を持っている」と、安藤伸朗先生(済生会新潟第二病院)は仰ってくださっています.ブランドメイクは,単に視覚障害者が鏡を見ないで,綺麗にフルメーキャップすることができる化粧技法のみではなく,“笑顔”につながっています.その笑顔は,見ている晴眼者の顔にも“笑顔”にする力があります.ブラインドメイクは「笑顔支援」だと言っていますが,その笑顔支援は今や国境を越えて世界へ広がっています.
 
それはなぜでしょう?世界にいる視覚に障害のある女性たちも,障害がある前に,一人の「女性」だということです. 

大石華法 プロフィール
大阪府生まれ。日本福祉大学大学院福祉社会開発研究科社会福祉学専攻博士課程。高齢者・認知症患者・視覚障害者・精神障害者を対象とした、化粧の有用性に関する研究を行っている。主な研究論文に「ロービジョン検査判断材料としてのブラインドメイクの検討」「Family Support for Self-realization of the Visually Impaired Woman with Hereditary Blindness in a “Blind Makeup Lesson Program”」など。
一般社団法人日本ケアメイク協会理事長。
日本ケアメイク協会:http://www.caremake.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/caremake

活動履歴 http://www.caremake.jp/?page_id=42

@本勉強会で「ブラインドメイク」の講演は3年連続
 2年前この勉強会で、大石華法さんにブラインドメイクの講演をして頂き、昨年は岩崎さん・若槻さんが講演。今回の大石さんの講演で3年連続になります。下記ご参照ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
報告:第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「視覚障害者の化粧技法について~ブラインドメイク・プログラム~」
 講師:大石華法(日本ケアメイク協会)
  日時:平成27年02月4(水)16:30 ~ 18:00 
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 
 http://andonoburo.net/on/3418

報告:第240回(16-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会 若槻/岩崎
 演題:「ブラインドメイク 実践と体験」
 講師:岩崎 深雪(新潟市;盲導犬ユーザー)
    若槻 裕子(新潟市:化粧訓練士)
  日時:平成28年02月17日(水)16:30~18:00
  場所:済生会新潟第二病院眼科外来
 http://andonoburo.net/on/4538


【後 記】
 
新潟で行われた勉強会にもかかわらず、わざわざ大阪と神戸から2名の参加があり、地元新潟の化粧訓練士・訓練生・視覚障害者を加えた5名が会場前方で揃ってブラインドメイクの実演、まさに壮観でした。
 
講演もパワフルで大石節全開でした。今回の講演で、ブラインドメイクのことを「たかがお化粧」などと言ってはならないことを再度確認できました。それまで家にこもりがちだった視覚障害の方が、お化粧することで生き生きとしてきて、本人が変わるだけでなく、家庭も地域も明るく変えるのです。また認知症の方へのメイクが効果あるというお話も新鮮でした。ケアメイクをするようになって娘さんと女子トークが出来るようになったというお話にも感動しました。これは実際にそういう方を見てみないと分からないのですが。私自身、新潟の視覚障害をお持ちの女性が、ブラインドメイクのお蔭で、どんどん見違えるように活発になっていくさまを目の当りにして、感動しました。
 
まさに医療ではできない笑顔を取り戻すことを可能にする魔法だと思いました。大石さんの、一般社団法人日本ケアメイク協会のブラインドメイク、ますますの発展を応援したいと思います。

 

PS:大石先生から下記伝言がありました。
「書籍出版のご支援をお願いします」
 
現在、ブラインドメイクをマスターした視覚障害の女性たち10名に「ブラインドメイク物語,それぞれの想い」を執筆してもらってます.
・「目が見えなくても化粧ができた!」彼女たちの想いを本にしたい!
 (執筆:大石華法・「ブラインドメイク」体験者10名 136ページ予定
  
価格:3,240円(税込)判型:A5判 株式会社メディカ出版 fanfare企画)

 300冊購入支援者がいれば,書籍になるそうです.
 何冊でも結構ですので,ご支援お願い致します.
 下記URLから支援登録が出来ます。
 
https://fanfare.medica.co.jp/book/projects/ohishi/

 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
 平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
    第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「物語としての病い」
      宮坂 道夫(新潟大学医学部教授)
  http://andonoburo.net/on/5482
 

 平成29年02月25日(土)15時~18時
    済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
     会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
     テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
    パネリスト
     ・平形 明人(杏林アイセンター 主任教授)
      「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
    http://andonoburo.net/on/5303

     ・高橋 政代(理化学研究所 プロジェクトリーダー)
      「網膜再生医療とアイセンター」
    http://andonoburo.net/on/5331

     ・清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
      「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
    http://andonoburo.net/on/5336

    オーガナイザー
      安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
 

 平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
    第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
      栗原 隆(新潟大学人文学部教授) 

  平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
    第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「私たちの出前授業 45×2
    ~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」
      小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
      (NPO法人障害者自立支援センターオアシス) 

  平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
    第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
    「地域包括ケアシステムってなに?新潟市における医療と介護の連携から
    斎川克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
         新潟市医師会在宅医療推進室室長)                              

  平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
  第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
    「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
      渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
   4月から(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム) 

  平成29年07月
    第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定) 

 

  平成29年09月02日(土)午後
    新潟ロービジョン研究会2017 予定
     会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
   テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
      詳細未定 

 

 平成29年11月18日(土)午後
  済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
  細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)

2017年1月12日

報告:第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (清水美知子)
 演題:杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
 講師:清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
  日時:平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
  場所:済生会新潟第二病院眼科外来 

【講演要約】
1. 歩行手段として
 視覚障害がある人が街を歩く場合、杖、犬、人の三つの手段があり、外出ごとに行き先、距離、交通機関などを考慮して、一つまたは複数の手段を選択して歩いている。

1)杖(ロングケイン)
 物と当たったり段差(例:縁石、階段)を踏み外したりしないよう、杖を身体の前で左右に振り、物や段差を検知して歩くための杖を「ロングケイン(long cane)」と呼ぶ。ほとんどが白色であるため「白杖」と呼ばれることが多い。白杖には他に、ガイドと歩くときに携行するためのガイドケイン、周囲に視覚障害があることを示すためのシンボルケイン(またはIDケイン)、身体を支えるためのサポートケインがある。

 杖の場合、杖を持った手より上、すなわち頭部を含む上半身は防御できない。また使用者は進路上の物を検知すべく杖を左右に振るが、進路上に杖で検知し残した区域ができ、この区域に入った交通標識のポールや電柱などが身体に接触する。

2)盲導犬
 盲導犬は使用者の「パートナー」などと呼ばれる存在で、使用者の指揮のもと使用者と一体となって障害物を回避し段差や角で停止する。使用者はハーネスを介して知る犬の動きに追随して歩く。盲導犬の場合、前方の障害物を犬が眼で認識し、接触することなく回避ルートを歩くので、歩行は安定的に進行する。

 盲導犬との歩行の特徴の一つに「風をきる」ような速い歩行速度が挙げられるが、これは遅い速度で歩くことが苦手ということでもあり、盲導犬使用者にはある程度以上の速度で歩く能力が求められる。また、犬の世話及び健康管理、犬の基本誘導行動の確認と維持は使用者の責任であり、それが行われてはじめて外出時の安全な歩行が確保できる。

3)人
 人はガイド(街の人、ボランティア、移動支援従業者、同行援護従業者など)である。人と歩くのも盲導犬とほぼ同じで、人の腕を掴んだり肩に手を置くなどの方法で追随して歩く。盲導犬と歩く時のように人に道順などを指示する。

 杖は単なる道具であるが、盲導犬と人は意思と感情を持つ生きた存在である。使用者と盲導犬または人との関係は歩行の安全性や効率性に大きく影響する。特にガイドと歩く場合は互いへの気遣いが必要であるが、使用者の主体性が尊重されなければならない。 

2.社会との相互作用への影響
1)杖使用者と盲導犬使用者
 外を歩けば、社会との相互作用が生じる。その主な状況が「援助依頼」である。方向を失った時や初めての交差点を横断する時などに街の人に「すみません」「手を貸してください」などと声をかけ、援助を依頼する。近くを通る人がそれに応えるが、時にそれに気づかない、あるいは気づいても応えないこともある。

 援助依頼の際、杖使用者より盲導犬使用者の方が、援助が得やすいと言われる。今回参加した盲導犬使用者からも杖を使って歩いている時より盲導犬と歩いているときの方がより頻回に声をかけられるとの体験談が聞かれた。盲導犬は周囲の注意を引き、その場の雰囲気を和ませ、会話のきっかけとなるなど使用者と社会との相互作用を促し促進する存在であると言われている。街の人は一般的に障害者との接触体験が少なく援助の要請にどう応えたらいいのか迷い、対応を躊躇してしまいがちである。そのような状況で、盲導犬は街の人の心理的な抵抗感やぎこちなさを軽減するための緩衝材あるいは潤滑油のような役割を果たすのかもしれない。

 参加者の一人は、盲導犬と社会へ出ていく時の気持ちを妊娠している女性に例え、独りでは街の中に出ていく決断ができなかったが盲導犬の存在が自分を強くしたと語った。また、街で人に声をかけられることを避けていたけれども盲導犬と外出することで人との接触に積極的になった等、同様の体験談が聞かれた。

2)人
 人と歩く状況で、一般的なのは同行援護サービスを利用した外出である。同行援護サービスには移動支援以外に、代筆代読支援、摂食や排泄の介護なども含まれている。同行援護従業者は、外出中常に傍にいて視覚障害により生じる情報障害を補償し、視覚障害がある人と社会との相互作用を支援する存在である。

 視覚障害がある人の「常に近くにいる専属の支援者」という存在は、安全が確保される一方、時に障害者と社会の間に見えない垣根を立ててしまう危険を含んでいる。つまり障害者と社会の間で双方から依頼を受け、仲介行為をすることにより障害者と社会との直接的な接触がなくなり、相互理解のための機会が失われてしまうのである。今回、参加者のほぼ全員が、「コンビニが混んでいる時には同行援護従業者に買い物の支払いを頼んでしまう」と話した。社会の側も同行援護従業者に任せ、自分が直接視覚障害がある人と関わらない状況を生みやすい。 

 視覚障害がある人の外出手段としての杖、盲導犬及び人について話し、参加者と意見を交わした。外出の手段としてそれぞれに一長一短があるが、視覚障害がある人の安全な街歩きのためには、当事者も支援者も、そして社会も、相互作用によって互いの理解が深まることを忘れてはならないであろう。 
 

【略 歴】
 1979年~2002年 視覚障害者更生訓練施設に勤務、
  その後在宅視覚障害者の訪問訓練事業に関わる
 1988年~新潟市社会事業協会「信楽園病院」にて、視覚障害リハビリテーション外来担当
 2002年~フリーランスの歩行訓練士 

【後 記】
 流石の清水節でした。改めて、杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くことを考えた時間でした。Shared identity  という単語も新鮮でした。「白杖」を知らない人が多いことにもビックリでした。

 「杖の場合、頭部を含む上半身は防御できない」「盲導犬の世話及び健康管理、犬の基本誘導行動の確認と維持は使用者の責任」「ガイドと歩く場合は互いへの気遣いが必要であるが、障害者の主体性が尊重されなければならない」「援助依頼の際、杖使用者より盲導犬使用者の方が、援助が得やすいと言われる」、、、ほんとそうですね。特に「常に近くにいる専属の支援者という存在は、安全が確保される一方、時に障害者と社会の間に見えない垣根を立ててしまう危険を含んでいる」という指摘は重いと思いました。

 「歩く」ということが障がい者自身の生活に必要な行動であるだけでなく、ある意味カミング・アウトであり、自己表現だと改めて感じました。毎回清水さんから教わることは多いです。益々のご活躍を祈念致します。

 

(参考まで)清水さんは済生会新潟第二病院眼科勉強会で過去9回講演しています。それらの講演要約はandonoburo.netに掲載しています。以下に、それらをまとめて列記します。
==============================

●第235回(15-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会  清水美知子
 日時:平成27年9月9日(水)16:30~18:00
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
   演題:街歩きを通して考える社会の視覚障害者観と当事者の心理
   講師:清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
   http://andonoburo.net/on/4065 

●第204回(13‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 日時:平成25年2月13日(水)16:30 ~ 18:00 
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:「歩行訓練40余年を振り返る」
  講師:清水 美知子 (フリーランスの歩行訓練士;埼玉県)
  http://andonoburo.net/on/1751 

●第183回(11‐05月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 日時:平成23年5月18日(水)16:30 ~ 18:00 
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:「初めての道を歩く」
  講師:清水美知子 (歩行訓練士;埼玉県)
 http://andonoburo.net/on/4545 

●第160回(09‐06月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 日時:平成21年6月10日 (水)16:30 ~ 18:00
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:「杖に関する質問にお答えします」
  講師:清水 美知子(歩行訓練士;埼玉県)
 http://andonoburo.net/on/4550 

●第143回(08‐01月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 日時:平成20年1月9日(水)16:30 ~ 18:00 
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:『歩行訓練士は何を教えるのか
      ー自分の歩行訓練プログラムを考えるために』
  講師:清水美知子(歩行訓練士;埼玉県)
 http://andonoburo.net/on/4553 

●第122回(06‐5月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 日時:平成18年5月10日(水)16:30 ~ 18:00
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:『カタカナ語で見る視覚障害者のリハビリテーション』 
  講師:清水美知子(歩行訓練士)
 http://andonoburo.net/on/4557 

●第102回(2004‐9月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 日時:平成16年9月8日 (水)16:30 ~ 18:00
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:「視覚障害者の歩行を分析する」
  講師:清水美知子(歩行訓練士)
 http://andonoburo.net/on/4561 

●第87回済生会新潟第二病院眼科勉強会 清水美知子
 日時:2003年8月20日(水) 16:30~18:00
 場所: 済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題  「Coming-out Part 2 家族、身近な無理解者」
  演者  清水美知子(歩行訓練士)
 http://andonoburo.net/on/4030 

●第76回(2002‐9月)済生会新潟第二病院眼科勉強会 清水美知子
 日時:2002年9月11日(水)16:00~17:30
 場所: 済生会新潟第二病院  眼科外来
  演題:「Coming out –人目にさらす」
  講師:清水美知子 (信楽園病院視覚障害リハビリ外来担当)
 http://andonoburo.net/on/4023  

================================
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
 平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
    第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「物語としての病い」
      宮坂 道夫(新潟大学医学部教授) 

 平成29年02月25日(土)15時~18時
    済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
      会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
      テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
     オーガナイザー 
      安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
     パネリスト
     ・平形 明人(杏林アイセンター 主任教授)
      「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
    http://andonoburo.net/on/5303
     ・高橋 政代(理化学研究所 プロジェクトリーダー)
      「演題:「網膜再生医療とアイセンター」
    http://andonoburo.net/on/5331
     ・清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
      「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
    http://andonoburo.net/on/5336 

 平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
    第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
      栗原 隆(新潟大学人文学部教授) 

  平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
    第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     演題未定
      小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
      (NPO法人障害者自立支援センターオアシス) 

  平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
    第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     演題未定
    斎川克之(済生会新潟第二病院 地域医療連携室長) 

  平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
  第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
      渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
  
 4月から(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム) 

  平成29年07月
    第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
     新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
 

  平成29年09月02日(土)午後
    新潟ロービジョン研究会2017 予定
     会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
      詳細未定
 

 平成29年11月18日(土)午後
  済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
  細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長)