2015年9月4日

 新潟ロービジョン研究会2015は、「ロービジョンケアに携わる人達」をテーマに、8月1日(土)済生会新潟第二病院で行いました。 「報告:『新潟ロービジョン研究会2015』」と題して、研究会での講演を順に報告しています。今回、多和田 悟 (日本盲導犬協会)さんの講演要約をご紹介します。

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報告:『新潟ロービジョン研究会2015』  (6)多和田 悟
 演題:盲導犬とローヴィジョン
 講師:多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)

【講演要約】
 今回の研究会では医療、教育、リハなど様々な分野からの発表があった。ロービジョン(以下LVと略す)に関わる人がこのように多岐にわたるのはそれだけの必要があるからである。私がお話をさせていただいたLVと盲導犬は機能で語ればリハの中でも移動に関する限られた分野であるが当日発表をされたすべての方々のベースに横たわる共通の課題を含んでいることを改めて認識した。

 一人の人が病気や事故など様々な理由により見えにくくなった時、それまで自分が築いてきた人生におけるそれぞれの方法を変えざるを得なくなる事は当事者を含めLVのリハに関わる全ての人の認識である。それは正しい認識であることは当事者も分かっているが分かっていてもそのように出来ない、若しくはしたくないと思うのも当事者なのであろう。

 白杖を自らの歩行補助具として選ぶときの覚悟は白杖の機能の一つである自らの見えにくさを社会に公表することによって周りにいる人間の援助や配慮を求める、これを是とするかどうかであろう。

 盲導犬を自らの歩行補助具として選ぶときには加えて、生き物である犬と暮らす覚悟も求められる。多数の人が自らの視覚機能を使って情報を得て判断することで生活を機能させている中で触覚や聴覚による情報で判断をすることを受け入れるには自らの視覚機能の状態を理解し今までと違う方法で行うことを納得しない限り能動的に自分の人生に自らの責任で関与することは出来ない。

 白杖が触覚的な情報を歩行者が受け取り環境の音を含めた総合的な情報によって歩行するのに対して盲導犬は犬の視覚情報をハーネスを通して触覚の情報として歩行者に伝えて自らの判断で歩行を行うものである。

 白杖歩行はすべての責任が自らにある。盲導犬の歩行は犬に訓練されたパフォーマンスをいつでも、どこでもコンスタントに発揮させるためのメインテナンスが使用者に求められる。以前は(今でも?)良く訓練された優秀な盲導犬を信じてついていけば安全に歩ける、と言われてきた。その為に自らの視覚機能を使えるLVの方は犬のパフォーマンスを邪魔する、犬を信じきれないから盲導犬との関係も築けないから盲導犬歩行の対象にはならない。と言われて来た。

 日本盲導犬協会では盲導犬歩行を歩行に必要な角、段差、(昇降共に)、障害物(地上、頭上、動く)を情報としてコンスタントに歩行者に伝えその判断によって安全な歩行を作っていくものと考えている。犬自身を信じるのではなく、犬が提供する歩行に必要な情報を分析し判断できる自らの能力を信じるように、自らの能力の向上も常に求める。

 盲導犬使用者には犬にコンスタントに情報を提供させるようにメインテナンスすることと生き物としての犬の日常の世話をしなければならない。この要件を受け入れて自らの歩行補助に盲導犬を使いたいと思われる方はどのような方でも盲導犬歩行の対象者になり得る。

 私を人ごみの中で見つけて声をかけることが出来るくらいの盲導犬使用者がいた。彼は見える家族の中では見えない人であった。子供も若く自らの将来に対して視覚機能の低下による失明への恐れ、経済的な自立など多くの不安を持っていた。彼が盲導犬を持とうと思ったのは夕方暗くなるまでに帰らないと見えなくなるために夜も歩けるようにとの思いからであった。ところが共同訓練(盲導犬候補犬を使って歩行指導を行いその期間に犬の世話、盲導犬歩行の原則などを学ぶ)の後半、夜間歩行を科目に入れると途端に足がすくんでしまって歩けなくなってしまった。それまで盲導犬の作業を自らの視覚機能の補助として使っていいたのだが次の日から彼はハーネス(犬に装着された胴輪から出ているハンドル)を触覚的に読むという作業に取り組み数日後の夜間歩行で見えなくても歩けることを実感した。

 彼はLVになって彼が求めた完全な視覚機能と、見えていた自分が正しい自分でこのように見えにくい自分は自分ではないという考え方は、それ以後徐々に変わってきた。彼の妻は私に「彼は犬とあることでSelf-Esteem(セルフエスティーム)を回復した」と伝えてくれた。それまで私はリハのゴールは人の手を借りないで自らが以前のように出来るようになる事(自立)、と考えていたが、その彼との出会い以降、リハのゴールは自らを大切な存在として肯定しその状態のままでも幸せを求めて生きること、と思うようになった。Self-Esteemを回復する手伝いが出来ればリハに関わるものとして喜びである。見えない、見えにくいために歩くことに困っている人はすべて対象者である。
我々を相談を待っています。

【略 歴】
 1974年      青山学院文学部神学科中退
       財団法人日本盲導犬協会の小金井訓練センターに入る。
       (その後、同協会北陸盲導犬訓練所勤務。)
 1982年       財団法人関西盲導犬協会設立時に訓練部長として参加。
 1994年      国際盲導犬連盟のアセッサー(査察員)に任命される。
              日本人では唯一(現在に至る)
 1995年      オーストラリアのクイーンズランド盲導犬協会に
              シニア・コーディネーターとして招聘される。
 2001年      オーストラリアより帰国 
              財団法人関西盲導犬協会のシニア・コーディネーターに就任
             (2004年2月)勇退。
 2004年3月  財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校の教務長に就任。
     4月  財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校 開校
 2008年4月  財団法人日本盲導犬協会訓練事業部ゼネラルマネージャーを兼務
 2012年6月  盲導犬訓練士学校を休止 
             公益財団法人日本盲導犬協会訓練技術・職員養成担当常勤理事就任
 2015年4月 公益財団法人日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事


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『新潟ロービジョン研究会2015』
  日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
  主催:済生会新潟第二病院眼科
  テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
   http://andonoburo.net/on/3843

15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
    http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
    http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
   http://andonoburo.net/on/3982

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)
   http://andonoburo.net/on/3990

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 
  
http://andonoburo.net/on/3999

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア

    橋本 伸子(石川県;看護師)

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年9月3日

新潟ロービジョン研究会2015は、「ロービジョンケアに携わる人達」をテーマに、8月1日(土)済生会新潟第二病院にて行いました。
「報告:『新潟ロービジョン研究会2015』」と題して、研究会での講演を順に報告しています。今回、渡邉 信子(盲学校教諭)さんの講演要約をご紹介します。

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報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (5)渡邉 信子
 演題:「新潟盲学校が取り組む地域支援」
 講師:渡邉信子 (新潟県立新潟盲学校 教諭)
  http://andonoburo.net/on/3990
    
【講演要約】
 本校は新潟県内全域の視覚に障害のある全ての対象者及びその関係者等に対し、本校が有する視覚障害教育を中心とした専門性について、教育的支援・情報等を提供することを目的として「相談支援センター」を分掌として位置付けている。この「相談支援センター」が中心となり、相談事業・啓発事業・小中学校等支援事業などのセンター的機能を果たしている。
本講演では相談事業と小中学校等支援事業を中心に紹介する。

(1)相談事業
 相談は電話・メール・来校・訪問等の方法で行われる。そして前述したように対象は視覚に障害のあるすべての対象者及びその関係者等であるので、その年齢や見え方、環境等によって相談内容も様々である。

 就学前の乳幼児とその保護者へは、まずその気持ちに寄り添い受け止めるところから始まる。少しずつ前向きに考えられるように一緒に考えながら就学へとつなげていく。

 小・中学生とその保護者でも低学年では学校生活について、中学年では学習内容の増加に伴う教科書の文字サイズや書字、板書等についてのより具体的な相談が増える。高学年や中学生になると進路に関する相談が多くを占める。このように学齢期といっても見え方や子どもの実態、学年や在籍する学校等によっても相談内容は変わってくる。

(2)小・中学校等支援事業
 インクルーシブ教育システム構築に向けた取組が推進する中、本校は新潟県教育委員会より、平成25・26年度、文部科学省特別支援学校機能強化モデル事業(特別支援学校のセンター的機能充実事業)の実践研究校としての指定を受けた。研究を始めるに当たり小・中学校等の教員(視覚障害児と関わる)のニーズを把握した。方法はアンケート形式を取り、その結果
 ①研修会への参加、
 ②継続的教育相談(本校では学習支援教室という)への参加、
 ③本校教員や外部専門家の訪問支援、
 ④本校の授業参観、
 ⑤Web会議システムの活用等があげられた。

 ①の希望する研修会内容については関わる児童生徒によって異なり、このことは視覚障害児者の実態がそれぞれ異なり、個々の対応が必要であることを明瞭にしたものである。それでも、可能な限りその希望に応えるため外部講師や本校教員による研修会の開催や教材紹介等を行った。
 ②の学習支援教室とは、点字・補助具活用・歩行・デジタル機器・遊び等の個に応じた支援を行うものである。平成26年度は年間7回実施し、小・中学校等で学ぶ児童生徒やその関係者が多く参加した。
 ③の訪問支援については本校職員に加え外部専門家の訪問も実現し、視覚活用の実態把握と教室環境の確認、補助具の活用と最新情報の提供等の支援を行うことができた。
 ⑤のWeb会議システム導入の目的は遠方の小・中学校等の支援である。設定までにいくつかの段階を踏まなければならないこと、セキュリティの観点から制限があること等課題は多く残ったが、支援に活用できるということは確認できた。

 また、本校は成人からの相談も多い。今後の見え方に不安をもっていたり、これからの人生を考えたいという思いをもっていたり、内容は眼疾や現在の見え方の状況によっても様々である。本校高等部専攻科の職員が中心となり相談に応じているところである。

(3)課題
 事業を通しての本校「相談支援センター」の実践は概ね高評価をいただいているが課題も多い。今後、地域の小・中学校で学ぶ視覚障害児が増加する一方、本校の在籍児童数の減少とそれに伴う教員の減少、また本校の専門性の維持向上等、このことは本校のみならず全国の視覚障害特別支援学校にとって大きな課題と言える。本校は全職員での研修への取組の強化等、さらに努力を重ねていかなければならない。


【略 歴】
 県内小学校で8年間勤務
 その後、聴覚障害・知的障害を中心とする特別支援学校に勤務
 現在、新潟県立新潟盲学校 勤務


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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843

15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
   http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
   http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
  http://andonoburo.net/on/3982

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)
  http://andonoburo.net/on/3990

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年9月2日

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)に済生会新潟第二病院で行いました。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。
 「報告:『新潟ロービジョン研究会2015』」と題して、本研究会での講演を報告しています。今回、西脇 友紀(視能訓練士)さんの講演要約をご紹介します。

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報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (4)西脇 友紀
 演題:「ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり」
 講師:西脇 友紀 (国立障害者リハビリテーションセンター病院)
 
【講演要約】
 視能訓練士は、1971年に制定された「視能訓練士法」という法律に基づく国家資格を持った医療技術者である。私達のほとんどは、眼科で医師の指示のもと視力や視野などの眼科一般検査を行ったり、斜視・弱視の訓練治療に携わったりしている。リハビリテーション分野の他職種である理学療法士や作業療法士に比べてかなり少なく知名度も低いが、現在では各地に養成校も増え、今年6月には11,000名を超えた。

 ロービジョンケアを行っている眼科も徐々に増えつつあり、ロービジョンケアを担当している職種について調べた調査では、視能訓練士が84.7%と他職種に比べ圧倒的に多かった(西脇・仲泊ほか2012)。しかし、視能訓練士全体の中でロービジョンケアに携わっている者の割合は低く、2010年に行われた日本視能訓練士協会の調査結果では27.9%と3割にも満たなかった。その後の割合の推移は不明だが、まだまだ少数派であると思われる。

 現在、私が在籍している病院の眼科では、眼科医、視能訓練士、生活訓練専門職、ソーシャルワーカーがチームを組んでロービジョンケアにあたっている。眼科医は、治療、診断、そして治療に関する相談を受け、患者のニーズについて問診票を用いて詳細に聴取し、その患者に必要な対応について他のスタッフに指示する。視能訓練士は、視機能検査および視覚補助具の選定と使用訓練を、生活訓練専門職は、歩行訓練、点字・パソコン訓練、日常生活訓練を、ソーシャルワーカーは身体障害者手帳や年金、職業訓練や社会福祉に関する相談を担当している。また、例えば就労中の患者で職場環境の調整の必要があれば、眼科医はじめ担当スタッフが患者の職場の人事担当者や上司と面談を行い、患者にどのような配慮をすれば仕
 事の継続が可能であるか等についてアドバイスを行っている。

 それぞれの職種で担当する内容は異なるが、すべての職種で共通していることは、見えにくくなって来院する患者や患者の周囲の人達に、見えにくくなる前とは異なる「見る方法の代替手段」を提案しているということである。その手段は、患者の視機能の状態や生活背景によって一人一人異なるため、それぞれの専門分野の知識や経験を総動員して、その患者に合った方法を一緒に探している。そして週に一度、全スタッフが集まり、対応した患者についてカンファレンスを行い、以降、必要な対応について協議している。

 視能訓練士の担当分野は、主に視覚補助具の選定と使用訓練であり、視力検査同様、業務独占の業務内容ではない。しかし、これは眼光学とレンズ光学の教育を受けている視能訓練士が適任ではないかと考えられる。数多ある補助具の中で、どの補助具をどのように使用すると最も効果的かを他覚的に判断し、自覚的な選択と比較しながら使用訓練を行っている。まぶしさを軽減する遮光眼鏡や、高倍率の拡大鏡、文字を数十倍に拡大したり表示を白黒反転にできる拡大読書器など、世間一般ではあまり馴染みがなく来院時に知っている患者はほとんどいない。見えにくくなったために好きだった読書を諦めていた患者が、「拡大することで文字が見やすくなった。拡大読書器を使うようになって世界が変わった」という言葉も、誇大でなくたびたび聞かれる。

 眼科でロービジョンケアが普及しにくい背景には時間不足や人手不足など諸問題があるが、患者が見えにくいことによって生活上で抱えている問題について検査時あるいは診察時に言及することで、対応すべき問題の存在を認識することができる。私たち視能訓練士は眼の治療をすることはできない。しかし、その見えにくさを改善する方法を共に考える眼の専門職として役に立ちたいと考えている。検査時、患者から言及される問題について、聞き逃すことなく解決策を共に考えていきたい。

(参考文献)
・西脇友紀・仲泊聡ほか「ロービジョンケアおよび視覚リハビリテーション実施状況調査と中間型アウトリーチ支援に関する意向調査」視覚リハビリテーション研究. 2(2) 75-81,2012
・日本視能訓練士協会「視能訓練士の現状と展望(2010)」2011

【略 歴】
 1998年3月 国立小児病院附属視能訓練学院卒業
 1998年4月 杏林大学医学部付属病院眼科
 2005年10月 もり眼科医院
 2010年4月 国立障害者リハビリテーションセンター病院


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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」  

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843

15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
   http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
   http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
   http://andonoburo.net/on/3982

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)  

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師) 

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年8月30日

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)に済生会新潟第二病院で行いました。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。今回、山田幸男先生(NPOオアシス)の講演要約をご紹介します。

報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (3)山田 幸男
 演題:「私たちのNPOオアシスでやってきたこと、行っていること」
 講師:山田 幸男(新潟県保健衛生センター/信楽園病院 内科) 

【講演要約】
 視覚障害者の自殺が契機となって、私たちは目の不自由な人のリハビリテーションに取り組む決意をしました。いまから、ちょうど31年前のことです。しかし当時の信楽園病院の眼科には、大学からパートできておられたので、眼科医が赴任されるのを待ちました。待つこと10年、1994年5月に、ようやく眼科医の大石先生が着任され、外来日には埼玉や東京から視覚障害更生施設の清水美知子先生と石川充英先生に来ていただいて、眼科医、日常生活訓練士を中心に、糖尿病内科医、視能訓練士などが加わったチームで、毎月2回リハビリテーション外来診療を行うことができるようになりました(表)。 

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表1 視覚障害リハビリテーション外来の概要(1994年5月開設)
   外来日 :毎月2回 11:00-17:00
   担当  :眼科医、日常生活訓練士、糖尿病内科医,視能訓練士、看護師、管理栄養士、その他
   指導内容:歩行訓練(白杖、誘導)、ロービジョンケア(視覚的補助具の紹介と処方など)、音声パソコン・点字・化粧・調理・栄養の指導、こころのケア(グループセラピーを含む)、日常生活用具の紹介と使い方の指導、更生施設・福祉制度の紹介、職業相談など
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 月2回行っているリハビリテーション外来では、眼科医や日常生活訓練士などを中心とした密度の濃い外来ですので、なるべくこの場でしかできないことを行っています。 一方、パソコン指導や点字指導など継続的に行わないと技術が身につかない日常生活訓練やこころのケアは、月2回のリハビリ外来だけでは不十分なため、その他の日にも行えるように週4日訓練日をとっています(図)。 

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図 視覚障害リハビリテーション外来と継続日常生活訓練室を中心とした指導

 

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  外来を開設して1年後には、パソコン教室を開設しました。その後、さらに歩行指導(白杖、誘導)、調理・化粧指導など指導項目を増やしながら、視覚障害者の自立を援助しています。 障害者の心のケアも大切です。お茶飲みや食事をしながら、話し合い、情報交換する機会を設けました。パソコンをやらないで、お茶飲みや友達を求めて集まる人も多くみられます。 

 リハビリ外来やパソコン教室を開設して、丸20年が経ち、視覚障害者にも高齢化の波が押し寄せています。老老介護の人が多くなり、いつ介護者が介護できなくなるかわからない人も少なくありません。そこで、目の不自由な人たちに「もし介護者が介護できなくなったら、あなたは施設で過ごしますか、自宅で過ごしますか?」とたずねてみました。自宅で過ごしたいと答えた人が多く、男性障害者(24人)では54.2%、女性障害者(8人)では75%に達しました。 

 介護者がいなくなったときに、視覚障害者がとくに困ることは、歩行・移動、食事作り、買い物です。歩行・移動に対しては、2014年8月から、「転倒予防・体力増進教室」を開始しました(毎月1回)。ロコモ・サルコペニア・フレイル・骨粗鬆症などの講義と、ラジオ体操などの実技、看護師によるフットケア、栄養士による栄養指導などを行っています。 

 調理教室は以前から月2回集団指導形式で行ってきましたが、一人になると作れない人がほとんどです。そこで確実に作れるようにするために、「習って、教える、リレー調理教室」を開設しました。ご飯が炊けることが大切なので、まず指導者が視覚障害者とマンツーマンでご飯が炊けるようになるまで指導します。その人ができるようになったら、次はその人が次の目の不自由な人に教えます。このように、一人でできるようになった人は、次の人に教え、その人がマスターしたら、また次の人の指導にあたる、リレー方式です。 

 ご飯を炊くことができるようになったら、次はみそ汁つくりです。同様に、次から次へと技術のバトンを渡しています。この方法は、技術が確実に身につくと同時に、達成感も味わえるように思います。今後はさらにサラダなど挑戦するメニューを増す予定です。 

 視覚障害者の一人暮らしや老々介護は今後いっそう大きな問題になります。その解決策なども含めてさらに検討が必要と考えます。
 

【略 歴】 山田幸男(やまだ ゆきお)
 1967年(昭和42年)3月 新潟大学医学部卒業
        同年4月 新潟大学医学部附属病院インターン
 1968年(昭和43年)4月 新潟大学医学部第一内科に入局。内分泌代謝斑に所属
 1979年(昭和54年)5月 社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 2005年(平成17年)4月 公益財団法人新潟県保健衛生センター
  日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本ロービジョン学会評議員、日本病態栄養学会評議員 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」   

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843
 
15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
   http://andonoburo.net/on/3923 

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科) 
  
 http://andonoburo.net/on/3952

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)  

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)   

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)  

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)  

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

 新潟ロービジョン研究会2015を、8月1日(土)済生会新潟第二病院で行いました。2001年に始めてから、16回目になります。今年のテーマは「ロービジョンケアに携わる人達」。今回、加藤 聡先生(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科)の講演要約をご紹介します。

 報告:『新潟ロービジョン研究会2015』 (2)加藤 聡
 演題:「眼科医が行うロービジョンケア」
 講師:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授) 

【講演要約】
 ゴールデンウィークも過ぎ、巷では日本のプロ野球もこれから佳境を迎えるところである。近年のプロ野球での投手の起用法を見てみると、先発、中継ぎ、抑えと分業化されてきている。果たして眼科医も患者さんに対して、そのように分業化されてくるべきなのであろうか? 

 もちろん、医療経済の観点からすれば、かかりつけ医と高度な医療機関(急性期病院)との分業である病診連携が必須なのは論をまたない。それでは高度な医療を行う急性期病院では、どのように眼科医は患者さんと相対すればよいのであろうか?高度の診断や手術を含む治療を行う眼科医が「先発投手」ならば、最終的にロービジョンケアを行う眼科医は患者さんへの対応を医療として終了するという意味で「抑えの投手」ということになるという考え方もある。あるいは、視覚障害の患者さんに対しては大変失礼だが、中には最終的にロービジョンケアを行う眼科医は「敗戦処理投手」のように考えている残念な眼科医も一部にいることは確かである。しかし、私は、いずれの考えにも違和感を覚える。 

 眼科医のなかでもかかりつけ医として、第一線の眼科医療に携わっている眼科医からは、「難しい手術や強力な治療を行っている訳ではないので、最終的に治療をしてもロービジョンになる患者はほとんどなく、自分はロービジョンケアとは縁遠い。」という声を聞くことがある。しかし、例えば、コンタクトレンズを作りに来た患者の眼底に偶然にも網膜色素変性症の初期病変を眼底に見つけてしまった場合、かかりつけの眼科医としてはどのように対応するのが望ましいのであろうか?
 1.今回はコンタクトレンズを作ることが目的なのだから、コンタクトレンズを処方し、余計なことは患者に伝えない。
 2.本日中に視野検査や電気生理学的検査を行い、結果によっては網膜色素変性症により出現する症状や予後、現在の治療法での限界を話す。
 3.とりあえず、本日はコンタクトレンズを作り、眼底に異常の疑いがあるので次回精密な検査をしましょうと予約をとる。
 1から3のどれも正解であり、どれも不正解とも考えられる。しかし、かかりつけ医として、「ロービジョンそのものや成りうる病態の告知行うには、ロービジョンケアや連携の裏付けが必須である」ことを忘れないでいて欲しいと考える。 

 一方高度医療機関で働く、例えば網膜硝子体手術者はいくら手術が成功しても、今までの生活を行うことは不可能である症例を前にして、いつ、ロービジョンケアのことを患者に話したら良いのであろうか?
 1.ロービジョンケアのことは話さない。
 2.ロービジョンケアのことを術前から話しておく。
 3.ロービジョンケアのことは術前ではなく、経過中に時機を見て話す。
 私から考えると、1はありえない回答のようにも思えるのだが、アンケートでは網膜硝子体疾患を専門にしている主に網膜硝子体の手術者の12%より、1という回答を得ている。いつ、ロービジョンケアを始めるのかの正解はないと考えるが、「患者からロービジョンケアに関する行動を起こすことは難しく、眼科医が連携のまず初めの人にならなくてはいけない」ということをどの眼科医、特に難治な症例の手術を行う眼科医は自覚する必要があると考えられる。 

 本来眼科医が行うロービジョンケアとは、正しい診断、適切な手術を含む治療を行い、その上での狭義のロービジョンケアを行うことが正しいあり方だと考える。すなわち、眼科医が行うロービジョンケアとは最後を締めくくることではなく、先発投手として完投することである。どの投手であろうと、元々が抑えの投手になろうとして、投手になった者はいない。以上のように考えるならば、ロービジョンケアにより力を入れる眼科医も必然的に増えると期待している。 

【略 歴】 加藤 聡 (カトウ サトシ)
 1987年 新潟大学医学部医学科卒業
     東京大学医学部附属病院眼科入局
 1996年 東京女子医科大学糖尿病センター眼科講師
 1999年 東京大学医学部附属病院分院眼科講師
 2000年 King’s College London, St. Thomas’ Hospital研究員 
 2001年 東京大学医学部眼科講師
 2007年 東京大学医学部眼科准教授
 2013年 日本ロービジョン学会理事長
  現在に至る 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」  

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医) 

14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843
 
15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  
 http://andonoburo.net/on/3923

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)  

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士) 

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)  

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事) 

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師)  

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年8月15日

2015年8月1日、16回目となる新潟ロービジョン研究会を行いました。今年の研究会は、全国14都府県から90名が集いました。満員となった済生会新潟第二病院10階の会議室では、どの演題にも熱い討論があり、気づきがあり、感動がありました。
今回、特別講演では、世界各国のロービジョンケアについて講演して頂きました。結論の一つに、無戦争が重要であることが述べられています。終戦の日である8月15日に、特別講演の講演要約をお届けします。 

 

特別講演:『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
講師:仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)

【講演要約】
1.目的
 世界各国におけるロービジョンケアあるいは視覚リハには、どのような方たちが関わり、そして、何が大切なのかを分析し、現在の我が国の特性と今後について検討する。 

2.方法
 日本、コロンビア、米国、カナダ、イギリス、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、大韓民国、中華人民共和国、モーリシャス、モンゴル、ジンバブエの視覚障害者福祉について調査した。調査は、筆者のJICA短期派遣専門家としてのコロンビア訪問の経験をもとに、私信およびインターネットによる検索を用いて行った。その際、西田朋美氏(国リハ病院)、永井春彦氏(勤医協札幌病院)、王鑫氏(筑波大学)、新井千賀子氏(杏林アイセンター)、河原佐和子氏・伊藤和之氏(国リハ自立支援局)から、各国視察経験に基づいた資料提供ならびにご助言をいただいた。それらの制度が生まれた背景を考えるには、各国における政治・経済・歴史・思想・習慣を知らなければならない。今回は、我が国が辿った道になぞらえて各国の現状を比較し、そして現在の我が国の特性と今後について検討する。

3.結果 
 1)治安と福祉
 医療も福祉も、その国が平和かどうかによって大きく異なる。筆者が関わったコロンビアでは、いまだに内戦が続いており、地雷、時限爆弾、誘拐が横行する。人々は明るく美しい国であるが、常に命の危険に晒されている。視覚リハに関しては、アメリカ式のリハ体制がスペイン経由で輸入され、国内数カ所に高いレベルのリハ施設が存在するものの、それを享受できる者はわずか1%にすぎない。戦時下における我が国では、障害者を「劣等国民」と差別した史実があり、国民全体が生命の危機に直面する状況において、社会的弱者の権利は脆弱なものとなることは明らかである。

 2)家族と福祉
 スウェーデンの近代史を見ると高福祉と家族の崩壊との関係を指摘するものが多い。子供は国の宝であり、親が守らずとも国が守る。高齢者や障害者も国が守る。しかし、それは同時に肉親が守らなくても大丈夫という発想を与え、家族の必要性を損なう。そのため、今や離婚率は50%を上回り、子連れ再婚による血縁のない兄弟関係が当たり前となった。一方で、途上国の多くは今も大家族であり、福祉が行き届かなくても家族が障害者を守る習慣がある。しかし、そこには家族間の格差があり悲劇も多い。ほとんどの国では、大家族は、経済発展に伴い核家族化する。核家族化すると弱者を社会が守る必要性が高まり、福祉制度が充実せざるをえない。そして、福祉制度がさらに充実すると夫婦という最小の家族単位すら不要となり、社会の基礎単位が個人となる。この核家族から個人への移行過程を先進諸国は歩いており、我が国もその例外ではない。 

 3)経済と福祉
 今回、経済指標として国民一人当たりの国内総生産(GDP)によって各国を比較した。我が国では約3.7万ドルであり、最も多かった米国が約5.3万ドル、最も少なかったジンバブエが約0.2万ドルである。韓国とイギリスは我が国と同程度で、他の西欧諸国は4万ドル台、他のアジア・アフリカ諸国は1万ドル台であった。これらを、我が国のGDPの年代的推移に当てはめると、ジンバブエは明治時代、アジア・アフリカ諸国は1970年代に相当する。 

 4)ロービジョンケアに携わる人たち
 ロービジョンケアに携わる人の職種は、各国さまざまであった。我が国では、眼科医が統括し、視能訓練士が視機能評価と光学的補助具の選定・訓練を行い、他の視覚リハ訓練と相談業務を歩行訓練士等が行うという体制にある。これに対し世界では、眼科医と視能訓練士の役割は少ない。その代わり、オプトメトリストと呼ばれる職種が存在し、彼らが主体的に我が国の眼科医・視能訓練士の役割に相当する部分を担っている。また、多くの国の視覚リハ訓練において作業療法士の関わりが大きい。これは、視覚リハが総合リハの一環として行われているためである。さらに、特筆すべきこととしては、カナダにおいて、専ら視覚障害のみを業務対象として活動が成り立っている看護師がいることであろう。また、多くの国では、心理的なサポートをその専門職が行っている。我が国にも臨床心理士が存在するが、視覚リハへの関与は残念ながら少ない。医療職が多く関与する国では、視覚リハが基本的に医療保険で行われている。その点、我が国では、福祉や教育のフィールドで視覚リハが行われてきた歴史的背景を反映し、歩行訓練士等による福祉施設における訓練が定着しているのが特徴と言える。

 5)ロービジョンケアを享受する人
 世界的にロービジョンケアあるいは視覚リハを享受するには、それ相応の対価を支払うことが求められる。医療保険でこれらを行っている国では、その契約対象にそれが含まれているかどうかで、受けられるかどうかがほぼ決まる。コロンビアのアンテオキア県の場合、受診時にその部分が検討され、実に75%がこの理由で視覚リハを受けることができない。米国においても保険契約上の問題で享受できない人がいるため、個人差の大きなサービスにならざるをえない。その点、中国や北欧などでは、国民に一律同等のサービスが与えられているが、その経済根拠はとなると他の部分での圧迫が生じることとなる。国によっては、視覚リハに携わる人が少ないため、そこにつながらない場合もある。視覚リハの需要とその内容は、その国の人口の年齢構成と、視覚障害の原因疾患によっても左右する。我が国では、高齢化による緑内障と加齢黄斑変性の増加に伴う需要がますます大きくなっている。それに応じて、医療と介護の役割が増大している。一方、視覚障害児の教育については、各国とも積極的に取り組んでいるが、世界的に統合教育の理念により視覚障害児が一般校に通学する傾向にある。それは、単に一般児童と生活をともにすればいいということではない。そこで生じた課題を解決できる体制と対で行われなければならない。北欧諸国では、その体制が十分に整っているためにうまく運んでいるものと思われる。ロービジョンケアの国際比較というとその技術やサービス内容に目がいきがちであるが、現代、情報はすぐに伝わるもので、調査したほとんどの国での知識や機材の質には大きな違いはなかった。むしろ、そのサービスにいかに繋がることができるかという点で異なっていた。 

 6)視覚障害者支援の強化因子
 1964年に世界盲人福祉協議会でなされた「盲人の人間宣言」以来、障害当事者が自分たちに関することを自分たちで決めるという理念に対するコンセンサスが広がっている。その中で、米国のAmerican foundation for the blind、カナダのCanadian national institute for the blind、イギリスのThe royal institute of the blind people、オーストラリアのThe Australian Blindness Forumというような、当事者自身が参画し、当事者団体としての性格を併せ持つ支援・活動団体の存在が目を引く。また、カナダのCNIBや今回の調査対象からは外れたが、スペインのONCEという視覚障害者支援団体は、宝くじの胴元となって潤沢な資金を集め、これを根拠として支援活動を行っている。我が国にも、日本盲人会連合、全日本視覚障害者協議会、弱視者問題研究会などの当事者団体が存在し、日本網膜色素変性症協会、全国盲老人福祉施設連絡協議会、日本盲人社会福祉施設協議会、全国盲導犬施設連合会、全国視覚障害者情報提供施設協会、全国盲学校長会、視覚障害リハビリテーション協会といった各種支援団体が数多く存在するが、いずれもその組織率は高いとは言えず、そして、それぞれの目的も微妙に異なる。

4.考察
 1)治安と福祉
 治安が不安定な中で、世界的に見た場合のセーフティネットとしての宗教の役割は大きい。我が国での無宗教の比率は7割と言われているので、現在の福祉水準の維持に無戦争の果たす役割は計り知れない。

 2)家族と福祉
 核家族から個人単位への転換は、高福祉が下支えする。家族崩壊を嘆く声も少なくないが、逆に真の意味での愛情と信頼で結ばれた家族関係が生まれ、それが本来の姿だという考えもある。北欧諸国のこれからを見据えるとともに、我が国における家族のあり方について、さらなる議論が必要である。

 3)経済と福祉
 各国の福祉状況をみると国民一人当たりのGDPとの相関をうかがい知ることができる。我が国のそれは、過去に世界第2位まで上り詰めたが、徐々に低下して、現在は19位に転落している。今後の我が国の福祉水準を維持するためには、適正な所得の再分配を前提とする経済的発展が不可欠と言えよう。 

 4)ロービジョンケアに携わる人たち
 我が国の特徴として、眼科医と視能訓練士が他国よりも深く関わっている。これは、その制度上の違いが生むものではあるが、その点を生かすことでより保有視機能に則し、治療の可能性を常に考えた支援が可能になるという点で、他国に優るロービジョンケアサービスシステムを構築できるのではないだろうか。その一方で、歩行訓練士等の福祉職として勤務する職種が、専門職としての資格が与えられず、医療施設で働きにくいという問題を解決していかなければならない。 

 5)ロービジョンケアを享受する人
 我が国でもロービジョンケアを行っている施設は十分とは言えないが、他国に比べればまだ多いほうである。問題は、うまくそこに繋がるかどうかである。現代のロービジョンケアの水準を示すスケールとして何をするかだけでなく、どう繋がるか、すなわちサービスへのアクセシビリティが重要になっている。最近では、眼科学会や眼科医会といった眼科医の組織が、ロービジョンケアの重要性を連呼し、眼科医療全般にその存在意義を啓発している。しかし、視覚リハにおいて何が行われるのかを熟知する眼科医や視能訓練士は依然として少なく、まだまだ啓発の余地が残されている。眼科ベースで視覚リハを行おうとしている世界的にはむしろ稀有なシステムを持つ我が国は、この特徴を生かし、ロービジョンケアを享受できる人の割合を増やし、さらには、必要と感じてからそれを受けることのできるまでの時間の短い優良なシステムを作り上げることができるのではないだろうか。

 6)視覚障害者支援の強化因子
 我が国に現在林立する視覚障害関連団体をまとめる組織が、障害当事者を核として成立することが、今後の我が国の視覚障害者支援においては重要ではないかと考える。それは、単にボランティア的な支援サービスの集合体ではなく、当事者の権利を守り、支援者の生活を下支えする、政治力と経済力を兼ね備えた組織でなければならない。

5.結論
 外国のシステムを学ぶことは、何であっても新しい視点と発想を与えてくれる。そして、自分の置かれている状況の問題点を見つけることができる。しかし、それと同時に今までに気づいていなかった我が国での良い点を再認識し、変えてはならない部分があることにも気づかされる。
 今回の検討から、1) 無戦争の維持、2) 家族についての検討、3) 経済的発展、4) 専門職の資格、5) サービスへのアクセシビリティの改善、6) 障害当事者を核とする支援組織の存在が、今後の我が国に必要であると提案する。

【略 歴】
 1989年 東京慈恵会医科大学卒業
 1995年 神奈川リハビリテーション病院
 2003年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 講師
 2004年 Stanford大学 客員研究員
 2007年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 准教授
 2008年 国立身体障害者リハビリ病院第三機能回復訓練部 部長
 2010年 国立障害者リハビリ病院第二診療部 部長 

 

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『新潟ロービジョン研究会2015』
 日時:平成27年8月1日(土)14時~18時
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」 

【プログラム】
14時~はじめに 安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)

14時05分~特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
  『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
    仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  http://andonoburo.net/on/3843


15時~パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医)
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)
  1)眼科医が行うロービジョンケア
    加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)

 2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
    山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科) 

 3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
    西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)

 4)新潟盲学校が取り組む地域支援
     渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭) 

 5)盲導犬とローヴィジョン
    多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)

 6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
    橋本 伸子(石川県;看護師) 

 7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
     大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)

2015年8月2日

今年の新潟ロービジョン研究会は、全国14都府県から90名近くが集いました。満員となった済生会新潟第二病院10階の会議室では、どの演題にも熱い討論があり、気づきがあり、感動がありました。
後日、各演者には講演要約を提出して頂く予定ですが、速記メモを中心にここに速報版として報告致します。

『新潟ロービジョン研究会2015』  
 日時:平成27年8月1日(土)開場;13時30分 研究会14時~18時
 
会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 
テーマ:「ロービジョンケアに携わる人達」

特別講演
  座長:加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
 『世界各国と比べた日本のロービジョンケア』
  仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医) 

 世界各国(コロンビア、米国、カナダ、イギリス、オーストラリア、スウェーデン、大韓民国、中華人民共和国、モーリシャス、モンゴル、ジンバブエ)のロービジョンケアの実態を調査した結果、下記のことが明らかとなった。
 医療も福祉も、その国が平和かどうかによって大きく異なる。そして、どこにその財源があるのかという点で、その国の経済状況とシステムが大きく影響する。また、社会の中の家族の役割によっても大きく影響を受けている(家族構成~大家族:弱者を家族が守る、核家族:弱者を社会が守る)。 つまり、そのお国柄でロービジョンケアの内容も、その対象となる人も、そしてそれを実践する人も異なる。 
 ロービジョンケアの土台~まずは「平和、道徳・宗教」、そして「経済情勢」、さらに「家族、疾患・年齢」、そのうえで「技術・制度」
 日本は、当事者団体・支援団体の統一・結集する必要がある。現在我が国の視覚障害リハビリ関わる団体は以下の通りである~日本盲人会連合、全日本視覚障害者協議会、弱視者問題研究会、日本網膜網膜色素変性症協会、日本失明者協会、視覚障害者支援総合センター、全国盲老人福祉施設連絡協議会、日本盲人社会福祉施設協議会、全国盲導犬施設連合会、全国視覚障害者情報提供施設協会、全国盲学校長会、視覚障害リハビリテーション協会
 一方欧米では、一国に一つの組織である。米国~AFB:American foundation for the blind、カナダ~CNIB:Canadian national institute for the blind、イギリス~RNIB:The royal institute for the blind people、オーストラリア~ABF:The Australian Blindness Forum
 外国のシステムを学ぶことは、何であっても新しい視点と発想を与えてくれる。そして、自分の置かれている状況の問題点を見つけることができる。しかし、それと同時に今までに気づいていなかった日本での良い点を再認識し、変えてはならない部分があることにも気づかされる。 

 ★討論:国際ロービジョン学会での主な話題は何か?
 

パネルディスカッション ~ 『ロービジョンケアに携わる人達』
  司会:安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院;眼科医) 
     仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター;眼科医)

1)眼科医が行うロービジョンケア
  加藤 聡(日本ロービジョン学会理事長 東大眼科准教授)
 かかりつけ医と高度な医療機関(急性期病院)との分業である病診連携は必要不可欠である。それでは高度な医療を行う急性期病院では、どのように眼科医は患者さんと相対すればよいのであろうか?高度の診断や手術を含む治療を行う眼科医が「先発投手」ならば、最終的にロービジョンケアを行う眼科医は患者さんへの対応を医療として終了するという意味で「抑えの投手」ということになるという考え方もある。あるいは、中には最終的にロービジョンケアを行う眼科医は「敗戦処理投手」のように考えている残念な眼科医も一部にいることは確かである。しかし、私は、いずれの考えにも違和感を覚える。
 本来眼科医が行うロービジョンケアとは、正しい診断、適切な手術を含む治療を行い、その上での狭義のロービジョンケアを行うことが正しいあり方だと考える。すなわち、眼科医が行うロービジョンケアとは最後を締めくくることではなく、先発投手として完投することであり、そのように考えるならば、ロービジョンケアにより力を入れる眼科医も必然的に増えると期待している。 

 ★討論:眼科医が行うという観点からのお話だったが、患者が眼科医に期待できることは何だろう?多くの患者は、医師に裏切られた歴史を持っている。
  討論:先発・抑えの例えは如何なものか?むしろサッカーのオフェンス・ディフェンスが適当ではないか。サッカーでは、フォワードは攻めるばかりでなく、守備も求められる。最新医療に中にもケアの視点が必要ではないか?
 

2)NPOオアシスでやってきたこと、行っていること
  山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
 いまから31年前の視覚障害者の自殺が契機となって、私たちは目の不自由な人のリハビリテーションに取り組んだ。当時信楽園病院の眼科は、大学からパートできておられたので、眼科医が赴任されるのを待った。待つこと10年、ようやく眼科医の大石正夫先生が着任され、すぐにリハビリ外来を、さらに翌年にはパソコン教室を開設した。その後、さらに歩行指導(白杖、誘導)、調理・化粧指導など指導項目を増やしながら、視覚障害者の自立を援助している。
 障害者の心のケアも大切。お茶飲みや食事をしながら、話し合い、情報交換する機会を設けた。パソコンをやらないで、お茶飲みや友達を求めて集まる人も多くみられる。リハビリ外来やパソコン教室を開設して、丸20年が経ち、視覚障害者にも高齢化の波が押し寄せている。
 老老介護の人が多くなり、いつ介護者が介護できなくなるかわからない人が多くみられる。そこで、目の不自由な人たちに「もし介護者が介護できなくなったら、あなたは施設で過ごしますか、自宅で過ごしますか?」とたずねてみた。自宅で過ごしたいと答えた人が多く、男性障害者(24人)では54.2%、女性障害者(8人)は75%に達した。介護者がいなくなったときに、視覚障害者がとくに困ることは、歩行・移動、食事作り、買い物。
 歩行・移動に対しては、昨年8月から、「転倒予防・体力増進教室」を開始した(毎月1回)。ロコモ・サルコペニア・フレイル・骨粗鬆症などの講義と、ラジオ体操などの実技、看護師によるフットケア、栄養士による栄養指導などを行っている。
 調理教室は以前から月2回行ってきましたが、一人になると作れない人がほとんどだった。そこで確実に作れるようになるために、「習って、教える、リレー調理教室」を開設した。ご飯が炊けることが大切なので、まず指導者が視覚障害者とマンツーマンでご飯が炊けるようになるまで指導。その人ができるようになったら、次はその人が次の目の不自由な人に教える。このように、一人でできるようになった人は、次の人に教え、その人がマスターしたら、また次の人の指導にあたる、リレー方式。ご飯を炊くことができるようになったら、次はみそ汁つくり。同様に、次から次へと技術のバトンを渡している。この方法は、技術が確実に身につくと同時に、達成感も味わえるように思う。
  @サルコペニア(sarcopenia)~進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下 を特徴とする症候群。 

 ★感想:「習って、教える、リレー調理教室」の発想は素晴らしい。単に技術を覚えるのみでなく、人に教えるという達成感も味わうことが出来る。
 

3)ロービジョンケアにおける視能訓練士の関わり
  西脇 友紀(国立障害者リハビリテーションセンター病院;視能訓練士)
 視能訓練士は、昭和46年に制定された「視能訓練士法」という法律に基づく国家資格をもった医療技術者。私たちのほとんどは、眼科で医師の指示のもと視力や視野などの眼科一般検査を行ったり、斜視・弱視の訓練治療に携わったりしている。現在では各地に養成校も増え、約12,700名の有資格者がいる。
 その中で、ロービジョンケアに携わっている視能訓練士はというと、ロービジョンケアを行っている眼科がまだ少ないこともあり少数派だが、ロービジョンケアの前提となるのが正確な視機能検査であることを考えると、私たち視能訓練士すべてが関わっているとも言える。
 現在、私が在籍している病院の眼科では、眼科医、視能訓練士、生活訓練専門職、ソーシャルワーカーがチームを組んでロービジョンケアにあたっている。 

 ★討論:ロービジョンケアの専門施設で行った経験と、開業医に務めた双方の経験から、我が国のロービジョンケアの問題点、あるいはロービジョンケアが拡大しない理由等について、どのようにお考えですか?
 

4)新潟盲学校が取り組む地域支援
  渡邉 信子 (新潟県立新潟盲学校;教諭)
 新潟盲学校では相談支援センターが中心となり、新潟県内全域の視覚に障害のあるすべての対象者及びその関係者に対し、教育的支援・情報等を提供している。主な活動には、「来校相談」「電話・メール相談」等を中心とする相談支援活動や、「各種研修会の開催」等の理解啓発活動があるが、その内容は多岐に渡る。
 相談内容は、「乳幼児期」「就学時期」「就学後」「中学・高校進学時期」「成人期」等、その年齢や状況によって様々。そういった相談に対し、「いかに希望のもてる教育相談ができるか」が、新潟盲学校にとって大きな役割と考えている。
 平成25年度・26年度に文部科学省「特別支援学校機能強化モデル(特別支援学校のセンター的機能充実事業)」の指定を受け、地域の抱える課題等に向き合いながら事業を進めてきた。また、新潟県視覚障害リハビリテーションネットワーク「ささだんごネット」が3年前に発足し、連携を取って活動を進めていくことで、「相談事業」や「理解啓発事業」に幅と深みが出てきた。
 様々な取組によって成果を認めるが、同時に課題も明らかになってきました。盲学校の生徒数減少し、教諭も減少している。こうした現状の中で、「新潟盲学校が取り組む地域支援を今後どのように進めていくのか」を再度考えなければならない時期にきている。

 ★感想:教師は7~8年で転勤するという宿命があり、なかなか専門性を確立できない。しかしマイナスなことばかりを数えていても何の解決にもならない。現場でこういう取り組みを実践していることが素晴らしい。
 

5)盲導犬とローヴィジョン
  多和田 悟 (公益財団法人:日本盲導犬協会 訓練事業本部長 常勤理事)
 1993年の第2回リハビリテーション協会の研究発表大会で盲導犬を利用した弱視者の歩行訓練について発表した。当時は(現在でも?)どこの盲導犬協会も盲導犬使用の対象者は全盲に限るとされていた。それはLVの歩行において困るのは全盲であって多少でも見えるLVは困っていない、LVの保有視覚が訓練された犬のパフォーマンスを邪魔するなどという考え方であった。それはよく訓練された犬を信じてついていけばあなたは安全に歩ける、安全に歩けないのは犬の言う事を聞かないからである、との盲導犬歩行観があった。LVの方々も「私はまだ見える」「盲導犬を使うほどではない」という考えの方がほとんどであった。
 LVの妻が全盲の夫の手を引いて盲導犬使用の申請に来られた。説明を聞く中で妻は「私も神経をすり減らすことなく楽しく歩きたい」と言われた。その結果、LVの盲導犬使用者と世界で初めて一頭の犬を二人で使う「タンデム」とが出来た。別のLVの方は歩行指導の終了後、夜に興奮して電話をかけてきて「コンサートに行ってきた」と報告してくれた。音楽家を目指していた彼女にとって夜のコンサートに行けたことは彼女自身のセルフエスティーム(自尊感情:self-esteem:自己肯定感)の回復に大いに役立ったことと思う。
  現在ではLVの方の盲導犬使用は指導方法の進歩に伴って多くなってきている。今後はより個別のアプローチが出来るように歩行指導が計画され実行されるために歩行指導員の技術向上の機会が与えられることが求められる。

 ★感想:リハビリの目標が技術の獲得のみでなく、セルフエスティーム(自尊感情:self-esteem:自己肯定感)の回復であると指摘して頂いた。
 

6)後悔から始まった看護師によるロービジョンケア
  橋本 伸子(石川県;看護師)
 なぜ、看護師がロービジョンケアを?とこれまで多くの方に、何度も聞かれてきた。それは、見えなくなったらどうしようと通院していた方が、見えなくなった途端に通院をやめてしまった事がきっかけである。不安への傾聴以外にもっとできることがあったのでは無いかと後悔したからである。我々、看護師は排泄のケアにも踏み込めるケアのプロである。でも、残念な事に、ロービジョンケアという言葉自体が看護職には浸透していないのが現状である。それは、ロービジョンケアや視覚リハビリテーションについての教育や啓発の多くが、眼科に特化した職業の人にだけ向けて行われているためである。
 もし、その教育や啓蒙がもっと看護師に向けて積極的に行われていったなら、どうであろう。地域にある社会資源の存在について知っているだけでも、どれほど多くの情報拡散ができるだろうか。職業人口自体が多く、多岐にわたる病棟や各科外来や、在宅ケアにまで分布しする私達の存在は、より多くの患者さんに、知識や情報を提供できるマンパワーとなる。そして、それは福祉難民を予防することにもなり、自立に向けた社会資源へ繋がる近道となる。最も期待すべきは、ケア自体の発展である。我々、看護師が多く関わり正しく学ぶ事で、これまで議論される事が少なかった視覚障害者の排泄や栄養、清潔の保持といった当たり前のテーマにも、多くのケアが出てくると確信している。
 そして、今日、私がこの場に立っているのは、ここにおられる全ての人に、看護師(学生も含む)に向けたロービジョンケアの啓発活動を積極的に行うことをお願いしたいからである。 

 ★感想:「患者にとって一番身近な存在である看護師が資源となることは重要」という視点は新鮮。新しい気付きが沢山あった講演でした。
 

7)嬉しかったこと、役立ったこと (患者の立場から)
  大島 光芳 (上越市;視覚障がい者)
 視覚障害に陥った当初、女房がいないと寂しいと思った。そこでヘルパーさんに家事援助(弁当買ってきてもらう)をお願いした。外出のためガイドヘルパーをお願いした。新潟や東京への出張も出来るようになった。社会資源を利用する側から考えてみると、誰が私達の意見を吸い上げてくれるか?ということがポイントだった。
 私は何をやるにもスピードが十分の一になったのだから、ゆっくりでいい。時間はたっぷりある。辛抱強く、少しのプライドを持って歩みたい。「お父さん、頑張っているね」となれば嬉しい。妻もきっとそう望むから。
 「診察」とは、見て察することことではないだろうか?

 ★感想:視覚障害者自身の心の中の声を披露して頂いた。多くの感動があった。

 

2014年10月30日

シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
3)私たちの行っている視覚障害リハビリテーション
 山田 幸男
 (新潟県保健衛生センター)
 (信楽園病院 内科)

【講演要約】
 私たちのリハビリテーション(以下リハビリ)を始めるきっかけは、糖尿病網膜症が原因で失明した35歳のO君の入院中の自殺です。入院中のO君は奥さんにすべて介助してもらっていました。もし彼が入院中トイレやナースステーションに自分一人で行き、食事も一人で食べることができたら、奥さんは働くことができ、経済的に追い込まれることはなかったのではないか、それには目の不自由な人にもリハビリが必要であると考えました。

 それまでは目の不自由な人のリハビリのあることさえ知りませんでした。彼の死後間もなくして目の不自由な人にもリハビリのあることを知りました。そして10年の準備期間をおいて、1994年に信楽園病院にリハビリ外来を開設しました。私たちのリハビリ外来は、県外からリハビリ専門施設の先生方(清水美知子先生と石川充英先生)に来ていただき、その先生方を中心に、眼科医、内科医が同席して月2回開いています。

 今年は開設して満20年になります。外来受診者は800人、延べで10,000人ほどです。

 リハビリ外来では、就労訓練をのぞいた歩行訓練、ロービジョンケア、音声パソコン・点字指導、進学・就職相談、こころのケアなど広く指導を行い、パソコンや点字、歩行訓練などの頻回に継続して指導の必要なものは、外来のほかに週4回教室を開いて継続的に指導を行っています。

 いままで目の不自由なことが原因で死を考えたことのある人は56%、うつ病・うつ状態になったことのある人がおよそ50%おります。こころのケアは重要です。

 目の不自由な人に欠かせないこころのケアには、私たちはリハビリ外来やグループセラピーに加えて、お茶を飲みながら談笑できる喫茶室を設けて対応してきました。喫茶室には、目の不自由な人のほかに晴眼者や学生なども出入りするので、いわゆるうつ病とはやや異なる視覚障害という疾患のある人に多いうつ・うつ状態の改善には、このような喫茶室も有効と考えています。

 新潟県は広く、また交通の便が必ずしも良くないため、私たちのリハビリ外来を継続して利用することの困難な人が多くみられます。その解決策として開設したのが、県内10数か所のパソコン教室兼喫茶室をもつ姉妹校(サチライト)です。サチライトではパソコン教室を定期的に開いて、パソコン指導や簡単な歩行訓練などもやっています。サチライトでも目の不自由な人や晴眼者が集まって、お茶を飲みながら話に花を咲かせています。こころのケアにも大きな効果がみられます。

 視覚障害者においても高齢化は大きな問題です。とくにロコモティブシンドロームによる転倒、骨折、そして寝たきりです。なかでも加齢による筋肉の減少症(サルコペニア)対策は重要です。

 そこで2014年8月から私たちは、サルコペニア予防としての筋トレ・栄養指導、さらにフットケアなどを含めた転倒予防・体力増強教室を毎月1回開催しています。開催前の私たちの予想では、参加者は10人くらいだろうと思っていたのですが、予想に反して、70人(晴眼者も含めて)が参加され、そのニードの大きさに驚いています。とくに糖尿病患者では、サルコペニアの併発は血糖の悪化につながるので、その予防は大切と考えています。

 高齢視覚障害者対策は今後ますます重要です。


【略 歴】 山田幸男(やまだ ゆきお)
 昭和42年(1967年) 3月 新潟大学医学部卒業
 昭和42年(1967年) 4月 新潟大学医学部附属病院インターン
 昭和43年(1968年) 4月 新潟大学医学部第一内科に入局。内分泌代謝斑に所属
 昭和54年(1979年) 5月 社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 平成17年(2005年) 4月 公益財団法人 新潟県保健衛生センター
 学 会
 日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本病態栄養学会評議員
 日本ロービジョン学会評議員



【後 記】
 視覚障がい者のために築いてこられた素晴らしい「NPOオアシス」の成り立ちを振り返り、多くの示唆に富む講演でした。内科医でありながらロービジョンケアに取り組んだと評価する方もいますが、内科医であればこその発想(体内時計/骨代謝等)は、眼科医では思いもつかないかなり独創的でかつ先駆的な仕事です。糖尿病透析患者Oさんの失明したことによる自殺という事件を、このような形で乗り越えてきた(報いてきた)山田幸男先生、新潟の誇りです。

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『新潟ロービジョン研究会2014】
 日時:平成26年年9月27日(土)14:00~18:40
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室 
  主催:済生会新潟第二病院眼科  

開会の挨拶 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
1)特別講演 (各講演40分)
1.日本におけるロービジョンケアの流れ:日本ロービジョン学会の設立前
  田淵昭雄(川崎医療福祉大学感覚矯正学科;日本ロービジョン学会初代理事長)
 http://andonoburo.net/on/3222

2.日本におけるロービジョンケアの流れ:ロービジョンケアからロービジョンリハビリテーションへ-平成24年度診療報酬改定の意味するところ-
 高橋 広(北九州市立総合療育センター;日本ロービジョン学会第2代理事長)
  http://andonoburo.net/on/3234

3.本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望
 加藤 聡(東京大学眼科准教授;日本ロービジョン学会第3代(現)理事長)
  http://andonoburo.net/on/3253

2)シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
 座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
    安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
 シンポジスト (各講演20分)
 1.ロービジョン当事者として相談支援専門家として我が国のロービジョンケアの未来に対する夢を語る
  吉野 由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)
   http://andonoburo.net/on/3259

 2.一眼科医としてロービジョンケアを考える
  八子恵子 (北福島医療センター)
  http://andonoburo.net/on/3277
   
 3.私たちの視覚障害リハビリテーション
  山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
  http://andonoburo.net/on/3290
   
  コメンテーター
     田淵昭雄(日本ロービジョン学会初代理事長)
   高橋 広(日本ロービジョン学会第2代理事長)
   加藤 聡(日本ロービジョン学会第3代理事長)   

閉会の挨拶 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)

 

シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
「一眼科医としてロービジョンケアを考える」
 八子恵子 (北福島医療センター)

【講演要約】
 眼科医になってまもなくから、小児眼科や斜視・弱視といった領域を担当することが多かった私は、眼先天異常や未熟児網膜症、網膜芽細胞腫などによる視覚障害のお子さんを診察する機会があった。それらのお子さんに、屈折矯正眼鏡や弱視レンズ、遮光眼鏡、義眼などを処方し、指導する経験を得た。そして、これらの処方が、「見える」や「見やすい」の喜びを与え、「かわいいね」で表情が明るくなるなど、大きな力を持つことを知った。 

  これらの経験から私は以下のようなことに気がついた。すなわち、眼疾患の治療が必要ない、あるいは不要となった患者さんにたいしてもやるべきことがある。それらは、眼科医でなければできないことである。しかしそれらは、患者さんの周囲の人の協力があって進むことである。といったことである。 

 次に、私は、福島県障がい者総合福祉センターが行っている視覚障がい者巡回相談会における医療相談を担当することになり、この巡回相談会に、県や地方自治体のみならず、県立盲学校、生活支援センターや拡大読書器や遮光レンズを展示する業者など多くの人がかかわっていることや、ピアカウンセラーの存在を知った。そして、これらの参加団体がいろいろな行事ややり方で視覚障がい者を支援していること、しかしその内容を眼科医である私、すなわち視覚障害を持つ患者さんに最も早く、もっとも頻繁に会っている眼科医が知らないということにショックを受けた。そして、視覚障がい者に向けた活動や支援を知り、患者さんに伝え、眼科医も積極的にその役割を果たすためには、これら関連する団体や人と連携する必要があると強く感じ、福島県ロービジョンネットワークを立ち上げることになった。 

 福島県ロービジョンネットワークは、設立から8年になり、それなりの活動ができているが、私という一眼科医としてロービジョンケアとどうかかわっているであろうか。大学勤務を辞めて以降、定期的とは言え多施設で診療をしている私は、一施設での系統だったロービジョンケアをできず、外来で出会ったロービジョンの方にすすめたいと思う補装具が多くの施設には用意されていない、しかし、遮光レンズなどは実物を見ないと患者さんに理解していただけず、理解していただけなければ先に進めないのが現状。このような状況でも私がプライマリーあるいは基本的ロービジョンケアをしたいなら、「自分でモノを持って行けばよい」「そうだ、移動診療所だ」となったのも私が年に似合わず、運転好きであったことが功を奏したと言える。 

 そんなわけで、私の車の後部座席には、遮光レンズのトライアル、焦点調節式単眼鏡数種、小児の近見視力を測定する視力表、レチノスコープ(屈折検査機器)、模型の眼球(患者さんに主に屈折異常を説明するため)、治療が難しい複視の解消に役立つ遮蔽レンズ(オクルア)のトライアル、クラッチメガネ(手術非適応の眼瞼下垂にたいする対症療法)、義眼数種などなどが乗っている。それらから、ロービジョンの患者さんに、よいのではないかと思われるモノを見、体験していただき、これ!というものがあれば、手帳の有無によるその後の流れを説明、福祉や直接業者などにつなげることになる。もっと多くのものを見たほうがよい場合には、展示会や展示している業者などを紹介するが、その場合も、様々な職種、団体とのつながりが大いに役立っている。 

 一眼科医がロービジョンケアにかかわるには、大きなことはいらず、必要としている患者さんに巡り合うこと、そのような患者さんは目の前におり、それに気づくこと、少しでよいから何かを提案し、自分にもできることがあることを知ること、でも、できないことは人に頼ること、そのために多くの人とつながることである。今の私の思いである。
 

【略 歴】 八 子 恵 子 
1971年  福島県立医科大学 卒業
1972年  福島県立医科大学 助手
1978年  公立岩瀬病院眼科 医長
1980年  福島県立医科大学 講師
1988年  福島県立医科大学 助教授
2003年  福島県立医科大学 非常勤講師
2007年  埼玉医大眼科客員教授
2008年  北福島医療センター 非常勤医師
福島県ロービジョンネットワーク 代表


【後 記】
拝聴した皆が、「これがロービジョンケアの原点だ」と感じた素晴らしい講演でした 〜 眼科医として診療に携わる中で、必要と感じた(効果のあった)症例を提示し、「治療が必要がなくなった患者でもやるべきことはある」と断言された。曰く、LVの基本は「気が付くこと、何かを提案すること、自分にもできることがあることを知ること、出来ないことは他人に頼ること」、、、、、
うっ、これは人生の基本か1?

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『新潟ロービジョン研究会2014】
 日時:平成26年年9月27日(土)14:00~18:40
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室 
  主催:済生会新潟第二病院眼科  

開会の挨拶 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
1)特別講演 (各講演40分)
1.日本におけるロービジョンケアの流れ:日本ロービジョン学会の設立前
  田淵昭雄(川崎医療福祉大学感覚矯正学科;日本ロービジョン学会初代理事長)
 http://andonoburo.net/on/3222

2.日本におけるロービジョンケアの流れ:ロービジョンケアからロービジョンリハビリテーションへ-平成24年度診療報酬改定の意味するところ-
 高橋 広(北九州市立総合療育センター;日本ロービジョン学会第2代理事長)
  http://andonoburo.net/on/3234

3.本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望
 加藤 聡(東京大学眼科准教授;日本ロービジョン学会第3代(現)理事長)
  http://andonoburo.net/on/3253

2)シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
 座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
    安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
 シンポジスト (各講演20分)
 1.ロービジョン当事者として相談支援専門家として我が国のロービジョンケアの未来に対する夢を語る
  吉野 由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)
   http://andonoburo.net/on/3259

 2.一眼科医としてロービジョンケアを考える
  八子恵子 (北福島医療センター)
  http://andonoburo.net/on/3277
   
 3.私たちの視覚障害リハビリテーション
  山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
   
  コメンテーター
     田淵昭雄(日本ロービジョン学会初代理事長)
   高橋 広(日本ロービジョン学会第2代理事長)
   加藤 聡(日本ロービジョン学会第3代理事長)   

閉会の挨拶 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)

 

2014年10月29日

ロービジョン当事者として相談支援専門家として我が国のロービジョンケアの未来に対する夢を語る
吉野 由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)

【講演要約】
 私は、昭和22(1947)年に生まれ66歳になる。生後3ヶ月の時に母が、私の眼が見えていないのではないかと気づき眼科へ、先天性白内障と診断され、生後6ヶ月から7歳までの間に6回に分けて濁った水晶体の摘出手術を受けた。後から知ったのであるが、この時期にこんなに早くから開眼手術を受けられたのは奇跡に近い出来事だったらしい。7歳の時に、16Dぐらいの分厚い凸レンズを処方され、真っ白だと思っていた瀬戸物に細かいひび割れがあるのを見てびっくりした記憶が鮮明に残っている。16歳の時に初めて弱視レンズを紹介され、遠用と近用のメガネを使い分けて見ることを学んだ。その後光学機器の発達の助けを借りて、私の見る能力はどんどん向上した(矯正視力右0.03、左0.2)。

 ところが、35歳の時に突然右目が窓ガラスに水滴がついたような見え方になり、ひりひりした痛みが出るようになった。「失明するのではないか」という恐怖に駆られて、有名眼科をいくつか受診したが、「小眼球で仕方がない」と言われ、「先天的な障害があると治療の対象にもしてもらえない」ことにショックを受けた。幸い右目の症状はそんなに悪くならなかったが、56歳を過ぎる頃から、再び右目の角膜混濁が強くなり痛みも出るようになった。その時に、視覚リハの仕事で知っていたロービジョンに精通した眼科医から、角膜移植の専門医を紹介していただき、目の前の症状を緩和することだけでなく、将来の自分の眼の予後についてや角膜移植の時期など見通しを持った治療とその説明を受けることができた。それと同時に、やはり仕事で知っていたロービジョンケアに精通した眼鏡士から、自分の状態に合った遮光眼鏡を紹介された。

 以上のような自分自身の経験と、幼い頃からのロービジョンの方たちの相談に乗った経験から、医療の中でのロービジョンケアの未来に望むことを以下にまとめた。
 1 障害があって元々視力が弱くても、幼い頃からのロービジョンのあるものは、その見え方に依存して生きている。0.01から全盲になってしまうことは、「中途失明」と同じ状態であることを、ロービジョンケアに携わる眼科医がまず理解し、すべての眼科医が理解しているように教育されること。

 2 ロービジョンのある方の視力や視野が落ちてきたら、それを「病気」ととらえ、治療の対象と考えて欲しい。また、視力や視野の低下の原因について、きちんとした説明を受けることができるようにして欲しい。

 3 その人なりに見えていることの意味を熟知した担当医(ロービジョン専門家)から最先端医療を担う専門眼科の医師にその見え方を維持するための最善の治療を受けられるように紹介して欲しい。担当医と専門眼科医の連携が、いつでもどこにいてもできるようになっていて欲しい。

 4 ロービジョンケアを標榜する病院においては、メガネ等の補助具の正しい選定がおこなわれるだけでなく、その使い方のトレーニングが受けられるように視能訓練士等のスタッフを充実させて欲しい。

 5 見え方が変化するたびに「失明するかも」という不安に襲われ、生活上の支障も出てくる方たちのために、カウンセラーやソーシャルワーカーなどの心のケアや生活相談に乗れるスタッフの必要性とその育成をロービジョンケアをおこなう眼科医が積極的に主張し、教育をおこなう体制を整えて欲しい。

 6 見えないことによって困るのは、日常生活の場面であるから、訪問リハが医師の指示によってできるように、教育現場や在宅の場面、高齢者の施設などに、視能訓練士等が出向いて、視機能検査や、補助具の選定等ができるシステムが確立されるようになって欲しい。
 
 以上、先天のロービジョン当事者の経験と、視覚リハの相談者としての経験から語らせていただいた。


【略 歴】
 1947年 東京生まれ 66歳 
 1968年 東京教育大学(現筑波大学)付属盲学校高等部普通科卒業
 1974年 日本福祉大社会福祉学部卒業後、名古屋ライトハウスあけの星声の図書館に中途視覚障害者の相談業務担当として就職(初めて中途視覚障害者と出会う)
 1991年 日本女子大学大学院文学研究科社会福祉専攻終了(社会学修士)
      東京都立大学人文学部社会福祉学科助手を経て
 1999年4月~2009年3月 高知女子大学社会福祉学部講師→准教授
     高知女子大学在任中、高知県で視覚障害リハビリテーションの普及活動を行う。
 2008年4月~任意団体視覚障害リハビリテーション協会長(現在に至る

 【後記】
患者さんの生の声を聞いた。吉野さんは、生い立ち・病気のこと・眼科医の言葉に対する感情(気持ち)を披露して下さった。
「治ることは期待しないが、治療して欲しい」「治る見込みのない障害者であっても治療の対象として診て欲しい」「視機能が向上しないと治療の意味がないのか?そんなことはない」「少なくても眼の状態について説明して欲しい」「最善の治療を受けているという確信がないとLVケアは受けられない」「主治医と専門家の連携を。よく話を聞いて欲しい」、、、、、、
それは、すべての医療関係者に聞いて欲しい患者さんの真の思いだった。

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『新潟ロービジョン研究会2014】
 日時:平成26年年9月27日(土)14:00~18:40
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室 
  主催:済生会新潟第二病院眼科  

開会の挨拶 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
1)特別講演 (各講演40分)
1.日本におけるロービジョンケアの流れ:日本ロービジョン学会の設立前
  田淵昭雄(川崎医療福祉大学感覚矯正学科;日本ロービジョン学会初代理事長)
 http://andonoburo.net/on/3222

2.日本におけるロービジョンケアの流れ:ロービジョンケアからロービジョンリハビリテーションへ-平成24年度診療報酬改定の意味するところ-
 高橋 広(北九州市立総合療育センター;日本ロービジョン学会第2代理事長)
  http://andonoburo.net/on/3234

3.本邦におけるロービジョンケアの課題と将来への展望
 加藤 聡(東京大学眼科准教授;日本ロービジョン学会第3代(現)理事長)
  http://andonoburo.net/on/3253
 

2)シンポジウム「我が国のロービジョンケアを語ろう」
 座長 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)
    安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
 シンポジスト (各講演20分)
 1.ロービジョン当事者として相談支援専門家として我が国のロービジョンケアの未来に対する夢を語る
  吉野 由美子 (視覚障害リハビリテーション協会)

   http://andonoburo.net/on/3259

 2.一眼科医としてロービジョンケアを考える
  八子恵子 (北福島医療センター)

   
 3.
私たちの視覚障害リハビリテーション
  山田 幸男 (新潟県保健衛生センター;信楽園病院 内科)
   
  コメンテーター
     田淵昭雄(日本ロービジョン学会初代理事長)
   高橋 広(日本ロービジョン学会第2代理事長)
   加藤 聡(日本ロービジョン学会第3代理事長)   

閉会の挨拶 仲泊 聡(国立障害者リハビリセンター病院)