2016年12月7日

報告:『新潟ロービジョン研究会2016』  山田幸男
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 

演題:「視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室の開設とその意義」
講師:○山田 幸男 田村瑞穂 嶋田美恵子 久保尚人
     (新潟県視覚障害者のリハビリを推進する会) 

【講演要約】
Ⅰ.はじめに
 眼の不自由な人が転びやすいのは、見えないために物につまずくだけではありません。眼はものを見るためだけでなく、平衡を司る器官でもあるため、眼が不自由になるとバランスをくずしやすくなるからです。加えて、眼が不自由になると、運動量が減り筋力が落ちるため、ますます転びやすくなります。転倒を恐れて外出をひかえると、ビタミンD不足になり、さらに転倒しやすく、骨折の大きな原因となる骨粗鬆症にもなりやすくなります。骨粗鬆症は骨折を、骨折は寝たきりの原因ともなります。

 私たちの検討では、眼の不自由な人の中には、バランス能力を示す片足立ちや、運動能力を示す歩行速度、さらに全身の筋力を示す握力などの検査で基準値以下の人がたくさんみられます。

 そこで私たちは、少々のつまずきでも転ばない、歩くことのできる体力の維持、サルコペニアやロコモの予防、将来の寝たきり予防のために、20年ほど前から毎月1回開いてきた歩行講習会(1996年から誘導歩行を、1999年から白杖歩行)の中に、2014年から「転倒予防・体力増進(以下、転倒予防)教室」を併設しました(図1)。

 図1.転倒予防・体力増進教室、歩行講習会のあゆみ 

 

 転倒予防教室の内容は講義と実技からなります。講義は、医師によるロコモ、サルコペニア、フレイル、骨粗鬆症など、看護師によるフットケア、栄養士による転倒予防と食事(ビタミンDも含めて)、などです。

 実技は、身体計測(血圧、握力、腹囲、体重、開眼片足立ち時間、最大一歩幅、5メートルの歩行時間など)を行ったあとに、参加者全員でラジオ体操その他を行います。さらに誘導歩行と転倒予防の希望者には、誘導歩行を30分行い、その後、筋トレ、スクワット、片足立ちなどを30分行います。白杖歩行の希望者は60分間白杖歩行の指導を行います。

 この度、転倒予防・体力増進教室の開設経緯とその効果について検討しました。 

Ⅱ.対象と方法
 対象:2014年8月に開始した第1回「転倒予防・体力増進教室」に毎月1回1クール5回参加した視覚障害者15名(男性3人、女性12人)を対象としました。

 方法:運動開始前に行った身体計測値の変化を検討しました。さらに11名には、教室参加の意義や楽しさ、自宅での運動状況などについて電話によるアンケート調査を行いました。 

Ⅲ.結果
 歩行速度・握力ともに異常なしの人(サルコペニアではない)が11人(73.3%)です。身体計測では、4カ月後には開眼片足立ち時間と最大一歩幅は向上傾向を認めたが、握力や5メートル歩行速度では変化を認めませんでした。

 アンケート調査では、教室に参加後、歩行の歩数が増え、運動するようになった人が7割に達しました。参加して体力がついた・楽しい(64%)、動きがよくなった・転びにくくなった(55%)など、参加して運動効果を認める人が多くみられます。およそ半数の人が、教室は転倒予防に有効、参加して体力がついた、自宅でも運動をするようになった、タンパク質を多く摂取するようになった、などと答えています。 

Ⅳ.考案
1.参加者のほとんどが転倒予防・体力増進教室を選択
 転倒予防開設時、誘導、白杖、転倒予防の3コースの中から、希望コースを選んでもらったところ、ほとんど全員といっていいほどの人が転倒予防のコースを選択されました。珍しさもあってのことかと思っていたところ、その後も毎回ほとんどの人が転倒予防コースを希望です。これでは本家本元の誘導・白杖歩行が消滅しないとも限りません。

 そこで1年後には、転倒予防教室を重視しつつ、白杖や誘導歩行にも参加してもらうために、開設時考えた3コースを2コースに減らしました。誘導と転倒予防を1つにした誘導・転倒予防体力増進コースと、白杖歩行の2つのコースです。どのコースを選択する人も転倒予防の講義を15分聞き、さらにラジオ体操と筋トレを15分間することにしました(図2)。その後、白杖と、誘導-転倒予防の2グループに分かれます。白杖コースの参加者は白杖歩行実技1時間、誘導・転倒予防コースの人は誘導歩行の実技30分、転倒予防体力増進の実技30分の合計1時間です。このやり方だと、転倒予防の講義を15分聞くことができ、かつ誘導歩行の人も、また転倒予防の人も、転倒予防の実技を45分(講義と実技で合計60分)できるので不満は少なくなりました。

 図2.転倒予防・体力増進教室、歩行講習会のプログラム 

 

2.教室の効果
 眼が不自由でも「自分の行きたいところに自分の力で移動し、やりたいことができる」ようにと、1996年から歩行講習会を開いてきました。今回は2年前に始めた転倒予防教室が、その目的を達しているかどうかを検討しました。その結果、参加して4カ月後には、最大一歩幅、開眼片足立ちでは向上を認め、また歩く歩数が増えた人もたくさんみられました。

 ときどき思い出して体操をする、ラジオ体操やスクワットが身についた、家ではキッチン台につかまって運動をしている、など運動意欲が向上し、転びにくくなったことも大きな効果です。参加しなくなって転びやすくなった、体力が元に戻った、太った、などの声も聞かれます。肉は嫌いだがなるべく食べるようにしている、もともと肉は好きで安心して食べられるなど、食事面でも意識の変化もみられます。 

Ⅴ.今後の課題
 下肢の力は歩行、体のバランス維持に重要です。今回は下肢の力は握力で代行しましたが、腰・膝の疾患のある人は握力が正常でも下肢筋力の低下の可能性があります。足趾筋力測定器具などを用いて足趾筋力の測定を行い、低下者には下肢筋力アップの運動を勧めたいと考えています。県内に10数か所あるパソコン教室姉妹校でも転倒予防教室を開いて、パソコン教室の充実につなげたいと考えています。

 勉強のため参加している、現状維持でもうけもの、今はこれが一番の健康法、習ったことを自分なりにもっと時間をかければ体力はつくと思う、教室参加は必ず転倒予防に役立つはず、などの声も多いので、スタッフ一同自信をもってさらに発展させたいと考えています。「体操も、講義内容もいいので、健常者にも広げないともったいない」との指摘もあるので、今後もっと晴眼者にも紹介してゆきたいと考えています。

 

【略 歴】山田幸男(やまだ ゆきお)
 1967年(昭和42年)3月  新潟大学医学部卒業
    同年(昭和42年)4月  新潟大学医学部附属病院インターン
 1968年(昭和43年)4月  新潟大学医学部第一内科に入局。内分泌代謝斑に所属
 1979年(昭和54年)5月  社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院
 2005年(平成17年)4月  公益財団法人新潟県保健衛生センター
  日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医
  日本病態栄養学会評議員  

@山田幸男先生の紹介
 私の最も尊敬する先輩の一人です。内科医ですが新潟で視覚障害者のための視覚リハビリを立ち上げ、県内10数か所にパソコン教室を作る原動力となり、白杖歩行は勿論、誘導歩行、見えない方のお料理教室・お化粧教室・ピアカウンセリング等々を実行しています。

 一番すごいところは、とにかく眼の不自由な方が集まってお茶を飲むというサロンを開放していることです。こうした中から患者さんの心のケアを行い、やる気を引き出しているのです。自分たちの持っているものを患者さんに教え込もうとするリハビリの押しつけとは一線を画しているのです。 

 

●新潟ロービジョン研究会 2016 プログラム
0.はじめに
  安藤 伸朗(済生会新潟第二病院;眼科医)
1.【第1部 連携を求めて】
 1)看護師が関わると、こんなに変わるロービジョンケア
   橋本 伸子(しらお眼科;石川県白山市、看護師)
   http://andonoburo.net/on/5171

 2)情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア
   三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)
   http://andonoburo.net/on/5182

 3)視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室
   ○山田 幸男 田村 瑞穂 嶋田 美恵子  久保 尚人
   (新潟県視覚障害者のリハビリテーションを推進する会;NPOオアシス)

2.【第2部 眼科医療と視覚リハビリ】
 1)最大のロービジョン対策は予防と治療:私の緑内障との闘い
   岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科;岐阜県多治見市、眼科医)
   http://andonoburo.net/on/5189

 2)新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医
   小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)

 3)我が国初の眼科リハビリテーションクリニック(順天堂大学)
   ー開設当時を振り返ってー
   佐渡 一成(さど眼科;仙台市、眼科医)

 4)眼科医・原田政美の障害者福祉理念と功績
   香川 スミ子(元 浦和大学)

3. 【第3部 熊本地震を考える】
  「熊本地震と災害時視覚障害者支援」
   出田 隆一 (出田眼科院長;熊本)

4. おわりに  
   仲泊 聡(神戸理化学研究所;眼科医)

2016年12月1日

案内:『済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017』
 
注目の3名に新潟に来て頂き、眼科及び視覚リハビリテーションの現状と将来について語って頂きたいます。期待してご参加ください。 

済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
  日時;2017年2月25日(土)15時~18時
  会場:有壬記念館 (ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部)
     2階会議室
 テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
 主催:済生会新潟第二病院眼科
 参加無料/事前登録 

 オーガナイザー 
  安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
 パネリスト
 ・平形 明人(杏林アイセンター 教授)
  「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
 ・高橋 政代(理化学研究所 プロジェクトリーダー)
  「演題:「網膜再生医療とアイセンター」
 ・清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
  「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」 

【パネリストの紹介】
1.平形明人先生
 臨床で最高レベルの大学眼科の主任教授で有名な眼科サージャン。杏林アイセンターは眼科臨床ではもちろんロービジョンケアでも最先端を誇っています。今回、これから展開しようとしている医療も語って頂きます。
2.高橋政代先生
 再生医療の眼疾患への臨床応用の研究者であり推進者。Next Visionという形で、視覚障害者の福祉向上と科学技術の発達に寄与する近未来の最先端医療を展開しようとしています
3.清水美知子先生
 長い間歩行訓練を行いながら、多くの視覚障害者とお付き合いしてきました。視覚障害者の置かれた状況や心理を語って頂き、今後眼科医療に期待することを語って頂きます。 

 講演のみでなく、ディスカッションできる時間を設けたいと思います。平形先生、高橋先生、清水先生が繰り広げるパネリスト間のトークにご期待下さい。 

 

2016年11月29日

案内:第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会  (清水 美知子)
 済生会新潟第二病院眼科で、平成8年6月から毎月行なっている勉強会。どなたでも大歓迎です(参加無料、事前登録なし、保険証不要)。ただし、お茶等のサービスもありません。悪しからず。
  演題:杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
  講師:清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
 日時:平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
 場所:済生会新潟第二病院眼科外来 

【抄 録】
 見えない・見えにくい人が街を歩く場合、杖、犬、人の三つの手段がある。杖は進路上や周囲を探索する杖、犬は盲導犬、人はガイド(街の人、ボランティア、移動支援従業者、同行援護従業者など)である。見えない・見えにくい人は外出ごとに行き先、距離、交通機関などを考慮して一つまたは複数の手段を選択して歩いている。 

 杖は単純な一本の棒(折りたたみ式もある)である。使用者は、物と当たったり段差(例:縁石、階段)を踏み外したりしないよう、杖を身体の前で左右に振り、物や段差を検知して歩く。 

 盲導犬は使用者の「パートナー」などと呼ばれる存在で、使用者の指揮のもと使用者と一体となって障害物を回避し段差や角で停止する。使用者はハーネスを介して知る犬の動きに追随して歩く。 

 人も盲導犬とほぼ同じで、人の腕を握り追随して歩く。行き先を言って、人についていく場合が多いが、盲導犬と歩く時のように人に行き方などを指示して歩く場合もある。 

 杖は単なる道具であるが、盲導犬と人は意思と感情を持つ生きた存在である。使用者と盲導犬、人との関係は歩行の安全性や効率性に大きく影響する。特にガイドと歩く場合は互いへの気遣いが必要であるが、使用者の主体性が尊重されなければならない。 

 今回は、杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと、三つの歩行手段について、その安全性や利便性、歩行の快適性、使用者の心理的側面等について、みなさんと共に考えたいと思う。 

【略 歴】
 1979年~2002年 視覚障害者更生訓練施設に勤務、
  その後在宅視覚障害者の訪問訓練事業に関わる
 1988年~新潟市社会事業協会「信楽園病院」にて、視覚障害リハビリテーション外来担当
 2002年~フリーランスの歩行訓練士 

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「新潟大学工学部渡辺研究室」と「新潟市障がい者ITサポートセンター」のご協力により実況ネット配信致します。以下のURLにアクセスして下さい。
  http://www.ustream.tv/channel/niigata-saiseikai
 当日の視聴のみ可能です。当方では録画はしておりません。録画することは禁じておりませんが、個人的な使用のみにお願いします。
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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
 1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。話題は眼科のことに限らず、何でもありです。参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があります。
 日時:毎月第2水曜日16:30~18:00(原則として)
 場所:済生会新潟第二病院眼科外来   

*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
 1)ホームページ「すずらん」
  新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している音声パソコン教室ホームページ
 http://occhie3.sakura.ne.jp/suzuran/
 2)済生会新潟第二病院 ホームページ
  http://www.ngt.saiseikai.or.jp/section/ophthalmology/study.html
 3)安藤 伸朗 ホームページ
  http://andonoburo.net/ 

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【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
 第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「ブラインドメイク」は、世界へー視覚障害者である前に一人の女性としてー
  大石 華法(日本ケアメイク協会) 

平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「物語としての病い」
  宮坂 道夫(新潟大学医学部教授) 

平成29年02月25日(土) 午後
 済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017
  会場:有壬記念館(新潟大学医学部)
  オーガナイザー 安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
   講師:平形明人(杏林大学眼科教授)
      高橋政代(神戸理化学研究所)
      清水美知子(フリーランス歩行訓練士)
 http://andonoburo.net/on/5159 

平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
   栗原 隆(新潟大学人文学部教授) 

2016年11月28日

報告『新潟ロービジョン研究会2016』 3)岩瀬 愛子
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 
演題:「最大のロービジョン対策とは?私の緑内障との闘い」
講師:岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科) 

【講演要約】
1 視覚障害原因としての緑内障
 日本における中途視覚障害の原因として、視覚障害者手帳申請の原因疾患統計がよく引用される。この報告において、2004年に糖尿病網膜症を抜いて1位になった緑内障は2014年の報告においても依然として1位のままである。一方、日本緑内障学会が実施した2つの疫学調査、多治見スタディ・久米島スタディにおいても、緑内障はロービジョン原因疾患の上位3位内に入っている。

 臨床統計と疫学調査のどちらの点からみても、緑内障がロービジョン対策に重要な病気であることは明白である。そして、この2つの疫学調査が示したもう一つの緑内障の特徴は、緑内障になっている人で診断時までに未発見であった人の多さであり、多治見スタディでは89.5%、久米島では75%であった。すなわち両眼で補ってしまうなどの理由で、進行しなければ自覚症状が出ないところに緑内障の怖さがあり、未発見のまま治療開始が遅れ緑内障が視覚障害原因となる背景がそこにある。
 

2 緑内障の早期発見には眼科検診と啓発活動
 早期発見には「眼科疾患のための眼科検診」が必須であるが、日本眼科医会の調査では、成人眼科公的検診が実施されているのは全国自治体の20%以下であり、特定検診以外の方法で実施している自治体は3.7%に過ぎないと報告されている。岐阜県多治見市では、1995年より節目検診の形で40歳以上の5歳きざみの眼科検診を始め、緑内障を始めとする眼の病気の早期発見を目指してきた。自治体によるこうした眼科検診には法的根拠もなく、予算も厳しい中で、眼科医が常に強く発信しないと消滅してしまいそうになるが、幸い現在まで継続してきている。

 現在、節目検診だけではなく、さまざまな機会をとらえて検診受診者を増やしてはきたが、多治見市の眼科検診受診者は、まだ年間2,000人くらいにしかならない。2000年から2001年に実施された多治見スタディは、日本緑内障学会の疫学調査であったが、多治見市では、同時に「多治見市民眼科検診」の形で、対象年代である40歳以上の検診受診希望者全員に、多治見スタディと同一機器による眼科検診を年間通して行った。この時は最大の広報活動を行ったこともあり、市民の関心も高く、疫学調査の対象者を合わせての検診受診者は17,800人であり、これは多治見市の当時の40歳以上の人口54,000人の約30%であった。現在の年間検診受診者はこの約1/9に過ぎない。市の検診体制の弱さにも原因があるかもしれないが、眼科検診に対する市民の関心を維持できていないせいもあると考えた。これは、ひとえに眼科医の責任である。 

 今、緑内障早期発見のためにできることは、緑内障の正しい知識と眼科検診の重要性を理解して自ら眼科検診を受ける人を増やす活動をしなければいけないと思った。それは、一自治体の中で、検診受診者を増やす努力をするだけにとどまらず、もっと広く情報を発信する手段が必要ではないか?と考えた。「ライトアップinグリーン運動」はそうした啓発活動の一つである。「ライトアップinグリーン運動」は、毎年3月に世界中で展開される啓発活動期間である「世界緑内障週間」に、全国のいろんな施設で緑色のライトアップをして緑内障という病気に関心をもっていただこうという日本緑内障学会の運動である。2015年の3月から全国5か所で始めたが、2016年の3月には点灯場所が20か所になった。緑色の光の意味は、「緑内障の早期発見」「継続治療」、そして、「希望」である。

 「早期発見」ができるのが一番の進行予防対策であり、失明予防対策である。緑内障だからといって、すべての人が失明するわけではない。「早期発見」し治療によって進行を緩やかにすることができれば「見える」には大いに役立つ。一方、早期発見ではない場合でも「治療を継続」することで、少しでも「見える」を維持することができる。お一人でも多くの「見える」を確保できますようにという「希望」を込めて全国に緑の光の輪が今後も広がりますように。治療の研究の発展とこうした広報活動で、緑内障が失明原因の1位ではなくなりますように、見えにくくなる方が一人でも少なくなりますようにとの思いを込めての活動である。 

3 今、眼科医として自分ができることは何か?
 高齢者は、緑内障他の眼の病気になりやすいだけではなく、さまざまな全身の疾患を抱えていることが多い。しかし、そうした場合、公的制度のはざまで、本当にその人が希望しているサポートが得られていない例がたくさんある。例えば、高齢者は介護保険優先の原則とされるも、複数の疾患がある場合自治体のルールなどによっては、両方のサービスから外れてしまい、本来必要な助けを受けられなくなっている場合がある。今回の発表では、たじみ岩瀬眼科に通院中の方の事例をお話しした。

 眼科医は医療によって患者さんの眼疾患の治療をするだけではなく、自らの知識を持って、医療だけではカバーしきれない支援を必要とする患者さんがよりよく生きるための努力をしなければいけない。ロービジョンケアへの取り組み、医療と福祉の中でのその方に適したより良い環境の確保も眼科医の責任である。見えにくくしないための医療、でも、見えにくくなった時、「どう支援すればいいのか?」「それはその人が本当にして欲しいことなのか?」、「今、自分ができることが何か?」振り返れば、足りないことばかりであり身が引き締まる思いである。 

【略 歴】
 1980年 岐阜大学医学部医学科卒業
 1990年 多治見市民病院眼科医長
 1995年 多治見市民病院眼科診療部長
 2000年 多治見市保健センター非常勤医師兼任
 2005年 多治見市民病院副院長
 2009年 たじみ岩瀬眼科院長

 たじみ岩瀬眼科HP
 http://www.iwase-eye.jp/ 

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【岩瀬愛子先生の紹介】
 祖父が緑内障であったことから、生涯緑内障による視覚障害撲滅のために闘っている先生。長年、地方で病院勤務医・開業医として活躍していながら、日本緑内障学会・日本視野学会の会長も歴任され、国際視野学会のメンバー(Vice Presiden)でもあります。有名な多治見スタディーの実質的中心人物です。今回の締めくくりも、
岩瀬先生が語ると重い言葉となります。曰く、「眼科医は医療によって患者さんの眼疾患の治療をするだけではなく、自らの知識を持って、医療だけではカバーしきれない支援を必要とする患者さんがよりよく生きるための努力をしなければいけない」。
(文責;安藤伸朗) 

@国際視野学会 主要メンバー
 http://www.perimetry.org/GEN-INFO/groups.htm 

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新潟ロービジョン研究会 2016 プログラム
0.はじめに
  安藤 伸朗(済生会新潟第二病院;眼科医)
1.【第1部 連携を求めて】
 1)看護師が関わると、こんなに変わるロービジョンケア
   橋本 伸子(しらお眼科;石川県白山市、看護師)
   http://andonoburo.net/on/5171

 2)情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア
   三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)
   http://andonoburo.net/on/5182
 3)視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室
   ○山田 幸男 田村 瑞穂 嶋田 美恵子  久保 尚人
   (新潟県視覚障害者のリハビリテーションを推進する会;NPOオアシス)
2.【第2部 眼科医療と視覚リハビリ】
 1)最大のロービジョン対策は予防と治療:私の緑内障との闘い
   岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科;岐阜県多治見市、眼科医)
   http://andonoburo.net/on/5189
 2)新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医
   小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)
 3)我が国初の眼科リハビリテーションクリニック(順天堂大学)
   ー開設当時を振り返ってー
   佐渡 一成(さど眼科;仙台市、眼科医)
 4)眼科医・原田政美の障害者福祉理念と功績
   香川 スミ子(元 浦和大学)
3. 【第3部 熊本地震を考える】
  「熊本地震と災害時視覚障害者支援」
   出田 隆一 (出田眼科院長;熊本)
4. おわりに   
   仲泊 聡(神戸理化学研究所;眼科医) 

2016年11月25日

報告『新潟ロービジョン研究会2016』 2)三宅 琢
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部)  

 新潟ロービジョン研究会2016は、10月23日(日)有壬記念館(新潟大学医学部)で行いました。研究会での講演を順次報告しています。今回は、三宅琢先生の講演要約です。
 

演題:「情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア」

講師:三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)

【はじめに】
私はiPadやiPhoneといったICT(Information and Communication Technology)機器を用いたロービジョンケアをデジタルビジョンケアと称し、医療や就労の分野において眼科医や産業医の立場で2011年より5年間実践して来た。本講演では私の専門性である〝人と社会を診る医療〟について紹介した。具体的には意欲のケアとしてのデジタルビジョンケア、自らの個性を知り提案できる力であるセフルアドボカシー、障害を強みにするバリアバリューの三つのテーマを中心に5年間での学びと気づきを紹介した。 

【デジタルビジョンケアによる意欲のケア】
これまでの視覚障害者に対する補助具に当たるルーペや拡大読書器等のロービジョンエイドよる視機能の向上に加えてICT機器の活用による情報保障は、視覚障害者の視認や読書意欲を向上させて情報障害に陥ることを予防する上でとても重要な意味を持つと考える。 

デジタルビジョンケアの導入には従来の視機能の把握によるロービジョンケアに加えて、患者のニーズに当たる必要な情報を把握することが極めて重要である。例えば視力低下により出社困難となった弱視の女性の例では、iPadの前面カメラを拡大できる鏡として活用することで化粧が可能となり出社が可能となった。また背面カメラを用いた簡易式の拡大読書器としての活用を提案した事例では、爪切りや食事の補助に活用がされた。こられの事例より患者のニーズや困難さは患者の中にしかないため、患者教育に加えて患者から学ぶ姿勢の大切さに気付かされる。 

また読書に関する意欲ケアでは拡大よりもテキスト情報をデジタル化することで文字の書体やサイズ、文字や背景の色調、構成等が適正化されることが何より重要である。デジタル情報であれば適宜音声読み上げ機能等も併用することが可能なため読書の方法の選択肢が広がる。これまでは障害に合わせて生きる時代であったが、情報はデジタル化された現在では情報を障害に合わせる時代へと変化したと言える。 

全盲者へのiPhoneを用いた情報保障では情報の可視化が重要である。ある全盲者の活用事例では、複数の国を移動する際の困難さとしての紙幣の識別をiPhoneの背面カメラを用いた紙幣識別のアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)で紙幣情報を音声化することで可視化し困難さは解消された。この事例を通した学びは視覚障害者が困難に感じるのは、視機能の低下に加えて生活に必要な情報の取得が困難であることである。また適切な情報保障のツールとして、ICT端末と日々登場する生活情報を可視化する安価アプリ群はとても有用であることを伝えている。 

【自己権利擁護としてのセフルアドボカシー】
中途で視覚障害者となった労働者へのICT機器を用いた合理的配慮の事例では、視機能の評価に基づく適切なロービジョンエイドとICT機器の選定と特別利用の許可、支援支援施設等の情報提供の重要性について解説した。 

また配慮の必要性の医学的根拠の取得方法や具体的な対策方法の提案等は、当事者本人が自身の機能低下と改善方法を産業医、企業内産業保健スタッフ、眼科医等とともに考えることで実現可能な配慮の提案をする力(セルフアドボカシー)の重要性を紹介した。障害者の就労や就学における合理的配慮の提供が義務化にともない、今後セルフアドボカシーに関する教育の啓蒙の重要性は増すと考えられる。 

【障害を強みにするバリアバリュー】
私の知人の中途失明の精神科医は、精神科に通う患者の表情や外見が見えなくなることでより患者の感情の揺れを声で評価することが可能になったと語った。バリアバリューの概念においては、視覚情報を損失することで得られる聴覚や触覚、嗅覚の機能向上を強みにすることを検討している。産業医は企業内で労働者に関するさまざまな就労上のアドバイスを行う職務をもち、今後産業医の企業内で活躍がバリアバリュー事例を増やす上では需要であり、企業や業界の枠を超えた成功事例の共有が行える場の提供が必要であると考える。 

【おわりに】
視覚障害者である患者にとってのQOLに直結するQOV(Quality of Vision)の向上に必要なケアは、屈折矯正や眼科的治療だけではない。患者は教科書であると言われるように、患者のニーズは患者の中にしか存在しない。丁寧な問診を重ねることで患者のニーズに耳を傾けて、患者に聞くという姿勢を持って、彼らの視機能に加えて困難さにも関心を持つことが重要である。

 情報時代に適合した情報保障の一つとして、ICT機器によるデジタルビジョンケアは一つの医療の形であると私は考える。障害者や患者という名前の人間はおらず、彼らが不便であっても不幸にしないためには、人の意欲と社会(環境)を診る産業医が必要であり、患者を治すよりも患者自身が治る医療の形をこれからも産業医、眼科医として追求し続けて行きたいと思う。
 

【略 歴】
 2005年 東京医科大学医学部 卒業
 2007年 東京医科大学眼科学教室  社会人大学院
 2012年 東京医科大学眼科学教室  兼任助教
 2013年 東京大学先端科学技術研究センター 人間支援工学分野 特任研究員
 2014年 神戸理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクト 客員研究員
     株式会社ファーストリティング 産業医  

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三宅 琢先生の紹介】
 彼の語るロービジョンケアは、夢があります。聞いていてワクワクします。そして常に将来を見据えています。「障害を武器に」と彼が語ると、そうだなと納得できます。医学医療をはみ出した活躍をする三宅節は注目です。 

 

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新潟ロービジョン研究会 2016
 
日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部)
0.はじめに
   安藤 伸朗(済生会新潟第二病院;眼科医)
1.【第1部 連携を求めて】
 1)看護師が関わると、こんなに変わるロービジョンケア
   橋本 伸子(しらお眼科;石川県白山市、看護師)
    http://andonoburo.net/on/5171

 2)情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア
   三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)

 3)視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室
   ○山田 幸男 田村 瑞穂 嶋田 美恵子  久保 尚人
   (新潟県視覚障害者のリハビリテーションを推進する会;NPOオアシス)

2.【第2部 眼科医療と視覚リハビリ】
 1)最大のロービジョン対策は予防と治療:私の緑内障との闘い
   岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科;岐阜県多治見市、眼科医)

 2)新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医
   小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)

 3)我が国初の眼科リハビリテーションクリニック(順天堂大学)
   ー開設当時を振り返ってー
   佐渡 一成(さど眼科;仙台市、眼科医)

 4)眼科医・原田政美の障害者福祉理念と功績
   香川 スミ子(元 浦和大学)

3. 【第3部 熊本地震を考える】
  「熊本地震と災害時視覚障害者支援」
   出田 隆一 (出田眼科院長;熊本)

4. おわりに  
   仲泊 聡(神戸理化学研究所;眼科医)

2016年11月24日

報告『新潟ロービジョン研究会2016』 1)橋本伸子
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 

 新潟ロービジョン研究会2016は、10月23日(日)有壬記念館(新潟大学医学部)で行いました。研究会での講演を順次報告致します。今回は、橋本伸子さんの講演要約です。 

演題:『看護師が関わるとこんなに変わるロービジョンケア』
講師:橋本 伸子(看護師;石川県 しらお眼科)

【講演要約】
Ⅰ.はじめに
 多くの方は、ロービジョンケアというと、眼科医や視能訓練士が中心となると考えていることと思う。しかし、実は多くの職種の方がさまざまに関わる事ができる。そしておのおのの立場でケアに加わることで、広く深いケアになる。 

Ⅱ.看護師が関わると何が変わるの?
1)ケアの視点
 看護師はケアのプロである。かつ、患者さんの意見や不満を、よく聞く立場にあることを強く意識している。それは、ロービジョンケアの領域でも同様だ。私達看護師が関わったなら、まず最初に出てくるのは、見えにくくなってからの排泄の自立、栄養や清潔の保持など生活の自立についてだ。

 なぜなら、私達には、初めから自立支援のための援助が叩き込まれている。残存機能を活用して、地域でいかに自分らしく自立して生活していけるか。それは、私達が他科で経験している脳血管障害の後遺症で麻痺が残った方への援助や、脊髄損傷で車椅子で生活をするための援助と全く同じ考え方なのだ。 

2)羞恥心を伴う排泄ケアにも踏み込む
 私達が、まず最初に考えるのは、もっとも人に頼みたくない排泄の自立だろう。こういう羞恥心を伴う問題にも当然のニーズとして踏み込める。皆さんは、自分の勤務する職場や駅などでトイレに使いにくさがないか考えた事があるだろうか?トイレの流し方に戸惑った経験はないだろうか?

 従来のスタンダードなタンク横のカランが付いてるタイプ以外に、手動及び自動センサー、あるいは壁にパネル式のボタンがあったりと、流し方が多様化している。なぜなら、JIS企画では、触知記号の位置や意味が決まっていない。決まっているのは、起点になるボタンにマークを使用するとの方針のみだ。そのため、触知記号をどのボタンに採用するかはメーカー独自の対応となっている。

 これでは、慣れた場所のトイレ以外は使いにくい。トイレの不安があると外出が億劫になる。そのため、活動が低下している場合に、要因の1つとして排泄に対する不安が無いか、真剣に考えなくてはいけない。 

3)視機能だけではなく、その人全体を総合的に捉える
 見えにくくなったという訴えがあり、視機能に変化はない時、私たちは、生活のリズムや質に変化がないだろうかと考える。睡眠はとれているだろうか?食事はとれているだろうか?体重減少はないだろうか?他の基礎疾患の有無、コントロール状態はどうだろうか?と考える。

 食事についても、クロック式の配膳ということばかりでなく健康に必要な栄養が取れているかという視点で考える。生活背景や環境、生活習慣、家族での役割、経験値などを含めた視点で考える。 

Ⅲ.私が行っているロービジョンケア
 私が多く関わるのは、見えにくさを訴えられる成人のケアだ。大切にしているモットーは『人にお願いする事が1つでも減るためのケア』であり、自立を妨げる支援にならないように注意している。

 具体的にどんな事をしているの?と問われると特別なことはない。例えば、皆さんは、ご存知だろうか、目の前にいる患者さんが、どうやって通院しているか?朝、起きてから病院に到着するまでの生活を?

 私達看護師は、患者さんのニーズを良く知っている。気軽に話せる関係性を日常から築いている。何か私にできる支援はないか?というスタンスではない。逆である。こちらが学ぶ姿勢である。彼らがやってのけている日常生活から知恵と工夫を拝借する。それは、今、不便を感じているかたのニーズと合致する事が多い。そのコツをメッセンジャーとして伝授していく。そこで、また一緒に考え、新しい工夫が生まれる事を共に楽しみながら行っていく。例えば、ルーペの固定が上手く出来ない時は、ルーペの達人の技から学んだり、手の癖を見てコツ要らずの小道具を作成したり、小銭の仕分けの工夫や、毎日買い物には行けなくても困らない作り置きメニューの工夫、学校や町内会の役員のこなし方や、雨の日に白杖と傘で両手が塞がる時の工夫などと学ぶことは多い。現場だからこそ得られる情報である。つまりは、教えるケアではなく、教わるケアなのである。 

Ⅳ.おわりに
 看護師の行うケアとは、目の前の人が何か困っていないか、どうしたら良いかを毎日毎日気に掛け、解決法を一緒に考えて他人(先輩)から学ぶことの繰り返しである。

 看護師が関わると視点が変わるように、他(多)職種が関わる事で、より細やかなロービジョンケアが行えるようになり、ロービジョンケアは発展し拡散することができる。今回タイトルを『看護師が関わると』としたが、これは、例えば『栄養士が関わると』や、『内科医が関わると』『〇〇が関わると』と何でもありである。自分に出来ることに置き換えてると、多くの細やかなロービジョンケアが生まれる。その(他)多職種連携と拡散こそが大事であり、これから必要になってくると考えている。 

 

【プロフィール】 橋本 伸子(看護師;石川県 しらお眼科)
 1991年〜1996年 リハビリテーション加賀八幡温泉病院 外来勤務
          (現在の名称は、やわたメディカルセンター)
 1997年〜2015年 2月 眼科わじま医院勤務
 2015年3月〜  しらお眼科勤務
・3人の子供を持つ母
・「視覚障害者ITサポート友の会」メンバー
・平成25年度石川県バリアフリー社会推進賞福祉用具部門 優秀賞(iPadコロコロ号)
・2016年 i see Working Awards 就労アイデア『価値変換賞』
 ロービジョンケアは、いつもお世話なってる地域の皆様への恩返しであり、町医者に勤務する私にできる地域還元だと考えてる。 

【橋本伸子先生の紹介】
 看護師はケアの専門家。橋本さんによると、「ロービジョンケアがケアであるなら、看護師の力は必要なはず。しもの世話でも何でもやります。看護師は、健康維持、栄養や排泄、清潔保持さらにはセルフケア支援を行うことが出来ます。すなわち視機能だけでなく、全体として捉え残存機能を最大限にいかすことが出来るのです。」
 私は、いままでこんなことを言った看護師を見たことがありません。正論を堂々と言える人。開業医の看護師であり、かつ地元でiPad活用教室を主催する。ご本人は意識していないが、Think globally, act locallyを地道に実践中。
 彼女が将来の日本のロービジョンケアを変える一人であることを確信しています。ご注目ください。

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新潟ロービジョン研究会 2016
 日時:平成28年10月23日(日)
 場所:有壬記念館(ゆうじんきねんかん;新潟大学医学部) 

0.はじめに
   安藤 伸朗(済生会新潟第二病院;眼科医)
1.【第1部 連携を求めて】
 1)看護師が関わると、こんなに変わるロービジョンケア
   橋本 伸子(しらお眼科;石川県白山市、看護師)
 2)情報障害に情報保障の光を、患者に学ぶビジョンケア
   三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員;眼科医)
 3)視覚障害者のための転倒予防・体力増進教室
   ○山田 幸男 田村 瑞穂 嶋田 美恵子  久保 尚人
   (新潟県視覚障害者のリハビリテーションを推進する会;NPOオアシス)
2.【第2部 眼科医療と視覚リハビリ】
 1)最大のロービジョン対策は予防と治療:私の緑内障との闘い
   岩瀬 愛子(たじみ岩瀬眼科;岐阜県多治見市、眼科医)
 2)新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医
   小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)
 3)我が国初の眼科リハビリテーションクリニック(順天堂大学)
   ー開設当時を振り返ってー
   佐渡 一成(さど眼科;仙台市、眼科医)
 4)眼科医・原田政美の障害者福祉理念と功績
   香川 スミ子(元 浦和大学)
3. 【第3部 熊本地震を考える】
  「熊本地震と災害時視覚障害者支援」
   出田 隆一 (出田眼科院長;熊本)
4. おわりに  
   仲泊 聡(神戸理化学研究所;眼科医)

2016年11月2日

【ご案内】済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017
 済生会新潟第二病院眼科では、どなたでも参加できる公開講座を開催しています。来年2月、下記のように予定致しました。今のうちにカレンダーにチェックをお願い致します。 

『済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017』
  日時:2017年02月25日(土) 午後
  会場:未定
  どなたでも参加できます
 
 事前登録/参加無料 

テーマ:「眼科と視覚リハビリの現状と将来を語る」
 オーガナイザー:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
 パネリスト
 1.高橋 政代(理化学研究所CDB プロジェクトリーダー)
   再生医療の臨床応用で世界をリードしている研究者であり臨床医。研究成果を報告し、かつNext Visionという眼科臨床・科学技術の発達そして視覚障害者の福祉に寄与する新しい医療を語る。
 2.平形 明人(杏林大学眼科教授)
   第一級の眼科サージャンであり、眼科臨床で最高レベルの大学眼科の主任教授。ロービジョンケアでも最先端を走る。我が国の眼科医療の現状を分析し、我が国がこれから展開しようとしている医療を語る。
 3.清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
   歩行訓練士としての視覚障害者と長く深い付き合いの中から、視覚障害者の置かれた状況や心理を深く洞察する語りには定評がある。現在の我が国の視覚リハビリの問題点を解き明かし、将来を語る。 

 本講座では、講演を拝聴するだけでなく、パネリスト間のディスカッションに期待します。

2016年10月31日

報告:第248回(16-10)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (大野建治)
 (目の愛護デー講演会2016)
 演題:「2020年に向けて、視覚障がい者スポーツを応援しよう」
 講師:大野 建治(上野原市立病院;山梨県、眼科医)
  日時:平成28年10月12日(水)16:30 ~ 18:00
  会場:済生会新潟第二病院 眼科外来 

【講演要約】
Ⅰ.はじめに
  今年2016年、ブラジルのリオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催された。今やパラリンピックはオリンピック、サッカーワールドカップに次いで、三番目に大きな国際スポーツイベントになっている。そして、2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが行われるために、各所、各分野でスポーツに対する関心が高まっている。 

Ⅱ.障がい者スポーツの特徴である「クラス分け」
 障がい者スポーツには、「クラス分け」というシステムがある。障がい者と一言でいっても、障害が軽い選手から重い選手までいるので、競技をすれば、障がいが軽い選手が有利になるのは当然である。そこで、障がいの種類や程度によってグループを分けて、同程度の障がいの選手同士で競技を行う。この障がい者スポーツに特徴的なシステムが「クラス分け」である。
 国際試合に出場する選手は、国際試合の前に国際クラス分けを受ける必要がある。クラス分けの判定で、選手各人に対してのクラスとステータスを決定する。 

1)クラス
 視覚障がい者スポーツでは視力と視野をもとに、クラスを全盲から弱視まで、B1、B2、B3と3つに分類する。それに該当しない視覚障害選手は競技に参加する資格はなく、NE=不適格となる。
・B1…光覚なし~光がわかる程度まで
・B2…手の形が認識できるから、0.03まで、視野は半径5度以内
・B3…0.04から0.1まで、視野半径20度以内
・NE…クラス不適格で競技に参加できない 

2)ステータス
 ステータスにはNew, Confirmed, Reviewの3つがある。
・New…国際クラス分けを未受験の選手
・Confirmed…クラスが将来的に変わる可能性がない選手。原則として、その後にクラス分けを受ける必要はない。たとえば、眼球摘出などをして義眼で視力0の選手に何度もクラス分けを受ける必要はないので、そのような場合はConfirmedとなる。
・Review…視力、視野が今後、変動する可能性がある選手。たとえば、病状が悪化あるいは、改善する可能性があり、将来的にクラスが変わる可能性がある選手はReviewとなる。 

Ⅲ.障がい者スポーツの分類
 大きく分けて、リハビリテーションスポーツ、市民スポーツ、競技スポーツの3つに分けられる。この3つはそれぞれ大切な役割を担っている。
・リハビリテーションスポーツ~病院で病状回復などを目的に身体機能の維持、向上をめざして行うものである。
・市民スポーツ~生涯スポーツで、自分の好きなスポーツを趣味として行い、健康維持、レクリエーションなどを目的に行う。共通のスポーツの趣味をもつ仲間、友人との交友も楽しみの一つとなる。
・競技スポーツ~パラリンピックを頂点として、国際国内で競技を追及し、勝負を目的にしている。 

Ⅳ.障がい者スポーツの種目
 競技スポーツをメインに、市民スポーツも少し紹介した。
1)パラリンピックの競技種目である、ゴールボール、陸上、水泳、柔道、ブラインドサッカー
・ゴールボール~3人対3人で、目隠しをしながら、鈴が入った音の鳴るボールを転がし、相手コートのゴールにボールを入れることで、得点を競うスポーツである。
・陸上競技~視覚障害の重いクラスでは伴走者とロープをつないで一緒に走る。選手と伴走者の息の合った動きが必要となる。
・水泳~B1の選手はターンのときとゴールのときに、スタート台付近のプールサイドにいるコーチが長い棒を使って選手の頭を叩き、ターンやゴールのタイミングを選手に教える。このタッピングの良し悪しで大きくタイムが変わるのが見もの。
・視覚障がい者柔道~基本的に通常の柔道とルールは同じであるが、最初から組んだ状態で試合を始める。
・ブラインドサッカー~一般的なフットサルのルールに加えて、特別なルールがある。4名のフィールドプレーヤーはアイマスクをつけてプレイし、ゴールキーパーは晴眼者か弱視者が行う。
 どのスポーツもルールと注目すべきポイントを知ると、観戦の楽しみが増す。2020東京パラリンピックに向けて、視覚障がい者スポーツの認知度がますます高まっていくことが望まれる。 

2)盲学校の授業などで行われ、日本で全国競技大会も行われている、サウンドテーブルテニス、グランドソフトボール、フロアバレーボール。

3)市民スポーツとしてはボーリング、クライミング、ブラインドヨガ。 

 障がい者のスポーツは、ルールなどを工夫して、障がいがあっても楽しんだり、競ったりできるようになっていて、健常者のスポーツと同様にあらゆる分野のスポーツ種目がある。障がい者自身が興味のもてるスポーツは必ず見つかるはずである。スポーツを通じて健康増進をしながら、仲間を作ったり、生きがいにしたり、ぜひ楽しんでいただきたい。 

Ⅴ.さいごに
 2020年のパラリンピックが東京で開催されることで、多くの人が「障がい」というものに関心を寄せるきっかけになってほしい。まず、「障がい」とはどんなことなのか知り、障がいがあろうがなかろうが、皆同じひとりの人間であることを相互に理解し、多様性を認め合えれば、本当の意味でみんなが暮らしやすい社会が実現していくことになるのではないだろうか。 

【略 歴】
 平成4年 東京慈恵会医科大学卒業
 平成6年 東京慈恵会医科大学眼科
 平成9年 ミネソタ州MAYO CLINIC 角膜リサーチ、2年間留学
 平成21年 視覚障害者用補装具適合判定医
 平成24年 障がい者スポーツ医
 平成27年 International Visual Impairment Classifier
 平成28年 上野原市立病院常勤
【肩 書】
 上野原市立病院眼科
 東京慈恵会医科大学眼科 

【後 記】
 248回を重ねるこの勉強会ですが、障がい者スポーツの話題は初めてでした。今回も素晴らしい世界を覗くことができました。障がい者スポーツの歴史や紹介ばかりでなく「目の見えない世界とは?」)等々、深い話題にも考えさせられました。
 動画を含めた障がい者スポーツの紹介は、大変楽しく拝聴しました。講演終了後の参加者お話コーナーで、皆で講師の大野先生との会話を楽しみました。
 大野先生は、翌日は診療に間に合うため、朝一の新幹線で新潟を発ちました。大変お忙しいところ新潟まで来て頂き、素晴らしい講演をありがとうございました。益々のご発展を祈念しております。
 

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成28年11月09日(水)16:30 ~ 18:00
 第249回(16-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  視覚障がい者議員としての歩み
   ~社会の変化に手ごたえを感じながら~
  青木 学(新潟市市会議員)
 http://andonoburo.net/on/5146 

平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
 第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
  清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士) 

平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
 第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「ブラインドメイク」は、世界へー視覚障害者である前に一人の女性としてー
  大石 華法(日本ケアメイク協会) 

平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  宮坂 道夫(新潟大学医学部教授) 

平成29年02月25日 午後
 済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
  オーガナイザー 安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
   講師:高橋政代(神戸理化学研究所)
      平形明人(杏林大学眼科教授)
      清水美知子(フリーランス歩行訓練士) 

平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  栗原 隆(新潟大学人文学部教授)

平成29年09月02日 午後
 新潟ロービジョン研究会2017
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室

2016年10月29日

案内:第249回(16-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (青木 学)
 済生会新潟第二病院眼科で、平成8年6月から毎月行なっている勉強会。どなたでも大歓迎です(参加無料、事前登録なし、保険証不要)。ただし、お茶等のサービスもありません。悪しからず。 

 演題:「視覚障がい者議員としての歩み
      ~社会の変化に手ごたえを感じながら~」
 講師:青木 学(新潟市市会議員)
  日時:平成28年11月09日(水)16:30 ~ 18:00
  会場:済生会新潟第二病院 眼科外来  

【抄 録】
 私は1995年4月に行われた新潟市議会議員選挙に「バリアフリー社会の実現」を掲げ立候補し、初当選を果たしました。以来6期20年余、多くの市民の皆さんのご支援をいただき、また協働して様々な課題に取り組んでくることができました。 

 当選後、まず最初に私が活動できるように議会内の環境を整備することを求めました。執行部から提出される資料の点訳や各室への点字表示の設置など、特に最近では点訳される資料の範囲も増え、それに加え、パソコンの活用も進み、資料をデータでもらうなど、議員活動の基礎となる情報の入手という点では、議員になった当初と今では格段の差があります。 

 またこの間、常任委員会や特別委員会の委員長、議員連盟の会長そして前任期においては2年間副議長を務めさせていただきました。これらの職責は事務局のサポートはもちろん、執行部側と各議員の協力があって務められるものであり、その意味では周囲の皆さんの視覚障がいに対する理解が広まった一つの証でもあるととてもありがたく感じています。 

 また多くの関係者と協力して取り組み、成果があがっているものとして、視覚障がい者への情報提供の充実、バリアフリーのまちづくりに向けたハード、ソフトの整備、「障がい者ITサポートセンター」の設置、点字による市職員採用試験の実施、「障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例」の制定などがあります。 

 今後とも多くの皆さんと協力し、障がい者の立場から、一人ひとりの人権が尊重され、安心して暮らせる市政を目指して活動を進めていきます。 

【略 歴】
 小学6年の時、網膜色素変性症のため視力を失う
 新潟盲学校中学部、高等部、京都府立盲学校を経て、京都外国語大学英米語学科に進学
 1991年 同大学卒業。米国セントラルワシントン大学大学院に留学
 1993年 同大学院終了。帰国後、通訳や家庭教師を務めながら市民活動に参加
 1995年 「バリアフリー社会の実現」を掲げ、市議選に立候補し初当選を果たす
  現在に至る 

 議員活動の他、現在社会福祉法人自立生活福祉会理事長、新潟市視覚障害者福祉協会会長、新潟県立大学非常勤講師を務める 

 「青木まなぶとあゆむ虹の会」
 http://www.aokimanabu.com/index.html

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「新潟大学工学部渡辺研究室」と「新潟市障がい者ITサポートセンター」のご協力により実況ネット配信致します。以下のURLにアクセスして下さい。
  http://www.ustream.tv/channel/niigata-saiseikai
 当日の視聴のみ可能です。当方では録画はしておりません。録画することは禁じておりませんが、個人的な使用のみにお願いします。
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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
 1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。話題は眼科のことに限らず、何でもありです。参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があります。
 日時:毎月第2水曜日16:30~18:00(原則として)
 場所:済生会新潟第二病院眼科外来     

*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
 1)ホームページ「すずらん」
  新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している音声パソコン教室ホームページ
 http://occhie3.sakura.ne.jp/suzuran/
 2)済生会新潟第二病院 ホームページ
  http://www.ngt.saiseikai.or.jp/section/ophthalmology/study.html
 3)安藤 伸朗 ホームページ
  http://andonoburo.net/ 

 


【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
 第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
  清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士) 

平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
 第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  「ブラインドメイク」は、世界へー視覚障害者である前に一人の女性としてー
  大石 華法(日本ケアメイク協会) 

平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  宮坂 道夫(新潟大学医学部教授) 

平成29年02月25日 午後
 済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
 オーガナイザー 安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
  講師:高橋政代(神戸理化学研究所)
     平形明人(杏林大学眼科教授)
     清水美知子(フリーランス歩行訓練士) 

平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  栗原 隆(新潟大学人文学部教授) 

平成29年09月02日 午後
 新潟ロービジョン研究会2017
 会場:済生会新潟第二病院 10階会議室

2016年10月26日

報告:第247回(16-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (林 豊彦)
 演題:新潟市障がい者ITサポートセンターの8年間の挑戦
    〜障がい者・高齢者の技術支援の社会資源化をめざして〜
 講師:林 豊彦(新潟大学工学部教授/新潟市障がい者ITサポートセンター長)
  日時:平成28年09月14日(水)16:30 ~ 18:00
  場所:済生会新潟第二病院眼科外来 

【講演要約】
1.支援技術との出会い
 平成10年(1998年)4月、新潟大学工学部に「福祉人間工学科」が新設された。日本社会の急速な高齢化により高齢化率が20%目前となり、高齢者に対する社会保障制度の大きな変革に迫られていた時期であった。2年後の平成12年度には介護保険制度がスタートした。物つくりの面からもそれに対応すべく、文部科学省でも「福祉」がキーワードとなり、多くの福祉関係の大学・学部・学科が相次いで新設された。工学部にも福祉工学の学科がいくつか新設された。

 私はそれまで医用生体工学が専門であり、福祉に関してはまったくの素人だった。そこで、白書や専門書を読んで猛勉強した。さらに、ロサンゼルスで毎年開催されている「テクノロジーと障害者国際会議」に参加して、電子情報系の支援機器を実際に見て、教育セッション、講演、研究発表にも出席した。驚いたことは,日本では滅多に見ない多くの機器が市販され,学校や家庭でも使われていたことだった。展示会場には、コミュにケーションエンドを付けた電動車椅子で走り回っている肢体不自由者がなん人もいた。町中には,高齢者・障害者が支援機器を使うことを支援するNPOもあった。多民族国家であるアメリカ合衆国は、障害者に対しても懐が深い社会であることに感銘をうけた。 

2.アメリカと日本の法制度の違い
 支援技術に関する日米間の違いの原因は何だろう?それが私の素朴な疑問だった。が、大きな要因のひとつは法制度違いであった。その裏には、そのような法律を必要とするアメリカの社会的・文化的背景があった。

 私がまだ子どもだった1950年代、アメリカは、南北戦争から100年も経ったにもかかわらず、いまだ人種差別の国であった。第二次大戦後、差別禁止を訴える公民権運動が高まり、1964年についに公民権法(Civil Rights Act)が制定され、法律上では人種差別が解消された。しかし、障がい者の差別の解消には、さらに30年近くの歳月が必要であった。1990年、障がいをもつアメリカ人法(Americans with Disability Act, ADA)が制定され、ついに障がい者の権利が法律で認められた。例えば、公共交通機関はバリアフリー化が進められた。公共交通機関を自由に使えることが障がい者の「権利」として認められたからである。1997年、個別障害児教育法(Individuals with Disabilities Education Act, IDEA)が改訂され、障がい児が能力に応じて等しく教育を受けるための方法論に明文化された。2003年には、リハビリテーション法第508条が改正され、連邦政府が電子機器・ソフトウェアを調達するとき、できるだけ障がい者も利用できることが条件となった。私が視察に行ったとき、アメリカはそのような状況にあった。残念ながら日本には、IEDAやリハビリテーション法第508条に対応する法律はない。 

3.新潟市障がい者ITサポートセンターの活動
 日本では支援機器、特に電子情報系の支援機器の普及が進んでいない現状を打破するためには、普及を支援する社会資源を作るしかない。そんな思いから、障がい者団体や自立生活センターと一緒に新潟市障がい福祉課に対して「障がい者ITサポート事業」の予算化を陳情した。足掛け2年の交渉の末、平成20年度に新潟大学自然科学系附置・人間支援科学教育研究センターに事業が委託され、同年10月、ついに悲願の新潟市障がい者ITサポートセンターがオープンした。

 最初に行ったのが支援機器の利用調査だったが、結果は散々なものだった。代表的な電子情報系の支援機器を80%以上の障がい者が知ってすらいなかった。そこで戦略として、障がい者が必ず関わる学校と病院を中心に積極的に介入することにした。要するに営業である。その甲斐あって、初年度は半年で83件しかなかった支援件数が翌年度は289件に増加した。その後も毎年増え続け、平成27年度、ついに年間1,000件を超えた。講演会・講座・研修の開催件数も40件以上になった。もはや関連する病院や学校で本センターを知らないところはなくなり、定期的に支援会議を開いている学校もいくつかできた。新潟大学医歯学総合病院のロービジョン外来でも毎月支援を行っている。

 現在の体制は、センター長の私を除き、支援員1人(常勤)、事務補助1人(非常勤)、作業療法士(非常勤)の計3人である。本センターのポリシーは、単独では活動せず、「コメディカル(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など)、社会福祉士、教師、保護者などの中間ユーザと協働で、利用者にとって最適な支援を目指す」ことである。支援件数を毎年増やすことができた理由は、このような協働によって、確実に成功事例を積み重ねてきたことにあると考えている。 

4.ITサポート機能の社会資源化
 支援員1人の現状では、支援件数1,000件/年および講演会等の開催40件以上/年という実績はほとんど限界である。しかし、潜在的な利用者はその何倍、何十倍もいると考えられる。新潟市障がい者ITサポートセンターの8年間の活動は、その社会的機能の必要性を広く世に知らしめることができたが、残念ながら今の事業規模では、その機能を十分には果たせないことも顕在化してしまった。

 そこで第3期(平成26年度〜28年度)では、ITサポート機能を社会に分散させることを目標とした。具体的には、保護者、教員およびコメディカルに対して支援技術教育を行うことにより、実質的な支援件数を増やすことを試みた。平成27年度、学校・病院において単発で実施した研修・講座は21回に上った。連続講座としては、新潟病院でミニ研修会を全5回、市立西特別支援学校で保護者向けiPad講習を全12回実施した。新潟県作業療法士会・言語聴覚士会との共催で、IT活用サポーター養成講座を全5回(1回3時間)実施し、多くの受講生が福祉情報技術コーディネーター認定試験にも合格した。この講座は平成26年度から毎年実施している。開催場所は、受講生が全県から参加しやすいように、新潟市、燕市、長岡市と毎年変えている。障がい者ITサポート機能は、新潟県では新潟市が突出している状態であるが、この教育活動を通じて県内にも広めていきたいと考えている。夢は新潟県内の何箇所かに障がい者ITサポートセンターを設置し、連携して活動することである。
 

【略 歴】
 長岡市出身。
 1977年(S52)新潟大学工学部・電子工学科卒、1979年(S54)同大院・工学研究科修士課程了、同年同大歯学部・助手、1986年(S61)歯学博士(新潟大)、1987(S62)同大歯学部附属病院・講師、1989年(S64)工学博士(東京工業大)、1991年(H3)同大工学部情報工学科・助教授、1996年(H8)米国Johns Hopkins大・客員研究員、1998年(H10)同大工学部福祉人間工学科・教授、2008年(H20)新潟市障がい者ITサポートセンター長(兼任)、2016年(H28)同大地域創生再生機構・副機構長(兼任)。
 2017年(H29)同大工学部工学科・人間支援感性科学プログラム・教授(予定)
 専門は生体医工学、支援技術、人間工学。
 

【後 記】
 視覚障がい者や支援者の前で、自ら立ち上げた「新潟市障がい者ITサポートセンター」のこれまでの8年間の歩みをお話をして頂きました。日本人の資質や能力の高さを讃えながらも、法整備が欧米に比較すると遅れていることを指摘し、障がいを持っている人の人権は守らなければならないと力説されました。素晴らしい講演でした。林先生の益々のご活躍を祈念しております。 

【参 考】
思えば、林先生とは永いお付き合いで、12年前にもこの勉強会で、「生活支援工学」のお話をして頂いています。
第104回(2004‐11月)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (林 豊彦)
 日時:2004年(平成16年)11月10日(水)16時30分~18時
 場所: 済生会新潟第二病院 眼科外来
  演題:『障害者の自立を支える生活支援工学‐視覚障害者のための支援技術を中心に‐』
  講師: 林 豊彦 (新潟大学工学部福祉人間工学科福祉生体工学講座教授)
 http://andonoburo.net/on/5048 

3年前には私が主催させて頂いた視覚リハビリテーション大会では、高橋政代先生などとともに特別講演をして頂きました。
第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
  大会期間:2013年6月22日(土)~6月23日(日)
  大会会場:チサンホテル&コンファレンスセンター新潟
  大 会 長:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院 眼科)
【特別講演】
 「視覚障がい者はどうして支援機器を使わないのか?」
  林 豊彦(新潟大学教授 工学部福祉人間工学科)
  http://andonoburo.net/on/2144 

新潟市障がい者ITサポートセンターの活動については、2011年12月に山口俊光先生(新潟市障がい者ITサポートセンター)に4年間の中間報告をして頂きました。
第190回(11‐12月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 
  演題:「新潟市障がい者ITサポートセンター4年間の活動報告」
  講師:山口 俊光 (新潟市障がい者ITサポートセンター)
 日時:平成23年12月14日(水)16:30 ~ 18:00 
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
 http://andonoburo.net/on/5060

【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成28年11月09日(水)16:30 ~ 18:00
 第249回(16-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  視覚障がい者議員としての歩み
  ~社会の変化に手ごたえを感じながら~
  青木 学(新潟市市会議員) 

平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
 第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
  清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士) 

平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
 第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
 「ブラインドメイク」は、世界へー視覚障害者である前に一人の女性としてー
  大石 華法(日本ケアメイク協会) 

平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
  宮坂 道夫(新潟大学医学部教授) 

平成29年02月25日 午後
 済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
   オーガナイザー 安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
   講師:高橋政代(神戸理化学研究所)
      平形明人(杏林大学眼科教授)
      清水美知子(フリーランス歩行訓練士) 

平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
 第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
  演題未定
   栗原 隆(新潟大学人文学部教授)  

 

平成29年09月02日 午後
 新潟ロービジョン研究会2017
  会場:済生会新潟第二病院 10階会議室