2013年10月14日

報告:第212回(13‐10月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「眼科医として私だからできること」
 講師:西田 朋美
             (国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部 眼科医長)

  日時:平成25年10月9日(水)16:30 ~ 18:00
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来  

【講演要旨】
 私が眼科医を目指した動機は、父の病である。父は、私が生まれる前にベーチェット病が原因で失明しており、私は見えている時代の父を知らない。父が見えないことに気付いたのは就学前で、どうして見えないのか?と母にたずねた。母がその時に教えてくれた「ベーチェット病」という言葉は強く心に残り、私にとっては父から視力を奪った憎むべき敵であった。この敵に立ち向かうには、眼科医になって戦うしかないと幼い私は真剣に考えていた。 

 その後、幼い頃からの願いが実現し、私は本当に眼科医になった。しかも、ベーチェット病研究の第一人者の先生が率いる教室で学ばせていただけるという、とても恵まれた環境に身を置くことができた。新しい門出に意気揚々する反面、どうして医療の現場では福祉のことを学ぶことがないのだろう?と思うことも増えてきた。幼い頃から、盲学校や視力障害センターで勤務していた父を通して、数多くの視覚障害者の方々と交流する機会があった私にとっては、医療と福祉はとても密接したものという印象があった。しかし、実際には決してそうではない。その疑問は自分の臨床経験が増えるにつれ、ますます大きくなってきた。そして、多くの眼科医が視覚障害の患者さんに対して声をかける内容は、「見えなくなったら、エライことですからね、大変ですからね・・・」であり、それに対する視覚障害の患者さんの発言は、「見えなくなったら、何もできないし、死んだほうがまし、他がどんなに悪くなっても、目だけは見えていたい・・・」といった種類の言葉が大半だった。毎度その言葉を臨床の場で耳にするたびに、私には何か違うのでは?と思うことばかりだった。いろいろと自分なりに考えてみたが、一般社会にも眼科医にも視覚障害者の日常が単に知られていないのだという結論に至った。 

 振り返れば、私は幼少時から明るく楽しい視覚障害者と触れる機会が多く、視覚障害だからという理由で打ちひしがれている印象がほとんどなかったこともあり、逆に少々ショックだった。今はカリキュラムが違っているかもしれないが、思えば、私の医学部時代には障害者や福祉、診断書の書き方ひとつまともに習ったことがない。少しは患者さんに対してポジティブな発言ができるように、これからは医学部の学生や研修医の期間に、障害者や福祉に関しての知識が得られるようになるとよいと思う。 

 私が医者になって、20年が過ぎた。一般の眼科業務に加えて、私がぜひ継続して活動したいと思うことがいくつかある。一つ目は、視覚障害に関して、一般に正しく知ってもらうこと、二つ目は、ロービジョンケアと視覚障害スポーツに関して啓発していくこと、三つ目は、私がこの道にいる原点ともいえるベーチェット病に関して学び続けること、つまり、ベーチェット病研究班の会議を傍聴していくことである。2000年に第一回国際シルクロード病(ベーチェット病)患者の集いを通して、諸外国のベーチェット病患者さんが治療薬を手に入れるためにいかにご苦労されているのかを思い知った。それを機に、父が2001年にNPO法人眼炎症スタディーグループを立ち上げ、いくつかの国にコルヒチンを寄贈してきた。しかし、度重なる世情不安の中で継続困難となり、その後に法人名を海外たすけあいロービジョンネットワークと変えて、ロービジョンエイドを必要な諸外国に寄贈する活動を行っている。今年はそのために9月にモンゴルへ出向き、モンゴル眼科医会に拡大読書器、拡大鏡などを実際に運び、現地のニーズや活用状況を視察してきた。この手の活動もぜひ継続していきたい。 

 「失明を 幸に変えよと言いし母 臨終の日にも 我に念押す」は父が詠んだ短歌である。父がいよいよ見えなくなってきた時、医師に事実上の失明宣告を受けた。その直後、父の母は父に対して、「失明は誰でも経験できることではない。これを貴重な経験と思い、これを生かした仕事をしてはどうか?それがたとえどんなに小さな仕事でも、ひとつの社会貢献になるのではないか?」と語った。父もその言葉をすぐには受け入れることはできなかったようだが、失明して50年以上経過した今でも、父の座右の銘となり、これまで父は自分と同じ中途視覚障害の教え子さんたちにもこの言葉を語り続けてきたそうだ。私が思うに、この言葉は私にそのままあてはまる。眼科医の私にとって、生まれた時から視覚障害の父がいるということは、これ以上ない貴重な経験である。私の勤務先には、多くの視覚障害の患者さんがいらっしゃる。その方々を拝見する中で、私がこの半生で父を通して経験したことが実に役立つ。 

 こんな私なので、一般的な眼科医の仕事だけをしていたのでは、眼科医になった意味がない。あと何年眼科医ができるかわからないが、自分のミッションだと思って、今後私だからやれる仕事を眼科医の立場からできる限りやっていきたいと願っている。 

【略歴】
 1991年 愛媛大学医学部卒業
 1995年 横浜市立大学大学院医学研究科修了
 1996年 ハーバード大学医学部スケペンス眼研究所留学
 2001年 横浜市立大学医学部眼科学講座助手
 2005年 聖隷横浜病院眼科主任医長
 2009年 国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二診療部 眼科医長 
  現在に至る 

【後記】
 『眼科医として私だからこそできること』西田先生の力強い言葉が会場に響きました、、、、「私が生まれた時には、父は目が見えなかった」「父を目を見えないようにしたベ-チェット病は敵だった」「医師になって、やっと念願のベ-チェット病の研究に専念することが出来た」「医者は、障害者や福祉のことを知らな過ぎる」、、、参加者は、皆、感銘を受けました。
 「私だからできる仕事」ナンバーワンではなく、オンリーワンを目指すとも聞こえました。自分にとってオンリーワンの仕事は何だろうと、講演を聞きながら自問自答しました。

 

2013年10月5日

『第14回 越後眼科研究会』  案内
  日時:平成25年10月19日(土)17:00~19:30

  場所:チサンホテル&コンファランスセンター(越後東の間)
     新潟市中央区笹口 1-1 ℡:025-240-1111(代表)
  会費:1,000円

  新潟県の眼科勤務医が中心となって「越後眼科研究会」を、平成19年5月に立ち上げ、年に2回開催しています。日頃抱えている問題や症例を話し合い、また全国で活躍している先生をお呼びして最新・最前線のお話を伺っています。 

 今回は、極小切開である27G硝子体手術の開発者で、国内はおろか海外でも難治な症例を手術している超多忙な大島佑介先生(西葛西 井上眼科病院)をお招きして、開催致します。最新の硝子体手術関係のテクニックを拝見できるものと期待しています。一般演題も新潟県内から4題集まりました。どの演題も熱い討論が期待できます。 

 病院勤務医のみならず、開業医、大学勤務医、研修医、視能訓練士、看護師など多くの方々に参加して頂きたいと存じます。フランクな会でありますので、万障お繰り合わせの上、お気軽にお出かけ下されば幸いと存じます。

 

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 『第14回 越後眼科研究会』 プログラム 

17:00~ 一般演題     座長:橋本 薫(長岡赤十字病院眼科)
                  (講演10分.質疑5分)

1)アイファガン点眼液0.1%について
  ○千寿製薬株式会社 

2) 術中に腫瘍だと判明した急性涙嚢炎の1例
  ○橋本 薫、田中 玲子、武田 啓治(長岡赤十字病院眼科)
 症例は79歳女性。近医で急性涙嚢炎として複数回排膿処置を施行されていた。手術目的に当科紹介受診され、涙嚢摘出術を施行した。切開直後に充実性の組織を認め、腫瘍除去術を施行した。術後の病理検査で上顎洞癌由来のSCCと診断された。急性涙嚢炎でも術前のCT検査は必要であると思われた。

3) 網膜色素変性症のOCT所見
  ○安藤伸朗、大矢佳美、中村裕介(済生会新潟第二病院)
 網膜色素変性の治療については、人工網膜や再生医療、遺伝子治療などが話題になっているが実用化には、まだ数年あるいは数十年かかりそうである。現在臨床の現場では、白内障手術や黄斑浮腫など克服できる課題がある。今回は特にOCT所見を中心に臨床現場での問題を掘り下げる。 

4) 硝子体手術に至った網膜血管腫の1例
  ○ 村上健治(新潟市民病院)
 症例は15歳女性、網膜血管腫を伴う網膜剥離の診断で当科を紹介されて受診した。流入血管および血管腫本体に光凝固を施行し病勢は鎮静化したが徐々に黄斑上膜が出現し再び視力低下を来したため硝子体手術を施行し た。黄斑上膜が出現した場合は早期の硝子体手術が望ましい。 

5) 白内障手術術後合併症に対する網膜硝子体治療
  ○吉澤豊久(三条眼科)
 白内障手術には術中の核落下、眼内レンズ破損などに加えて、術後黄斑浮腫などの合併症がある。今回、術後に増悪したMPPE、網膜硝子体牽引症候 群により黄斑浮腫が悪化した2例を経験したので報告する。MPPEに対しては ranibizumabの硝子体注射、硝子体網膜牽引に対しては硝子体手術により視機能を改善させた。術後合 併症の原因・発症機序を見極め、それに応じた対処法を行うことが重要である。 

 (コーヒーブレーク) 

18:30~ 特別講演  座長:安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)

 『重症増殖糖尿病網膜症に対する外科的治療のアップデート:小切開硝子体手術の進化と補助薬剤ベバシズマブの功罪』
  大島 佑介(西葛西 井上眼科病院)

 

尚、講演会終了後、19:30より情報交換会を予定しております。

 

【越後眼科研究会世話人】
 安藤 伸朗(済生会新潟第二病院:当番幹事) 村上 健治(新潟市民病院) 
 鈴木 恵子(新潟県立吉田病院) 橋本 薫(長岡赤十字病院)
 福島 淳志(長岡中央綜合病院)

 

【共催】 越後眼科研究会  千寿製薬株式会社

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【特別講演 抄録】

『重症増殖糖尿病網膜症に対する外科的治療のアップデート:小切開硝子体手術の進化と補助薬剤ベバシズマブの功罪』

 大島佑介(西葛西・井上眼科病院) 

 血管内皮増殖因子(VEGF)は増殖糖尿病網膜症などの虚血性網膜疾患における病態進行(眼内血管新生ならびに血管透過性亢進)にかかわる重要な生理活性タンパクであることが1994年にAielloらのグループによって初めて報告されて以来、眼内血管新生に対する種々の分子標的治療(抗VEGF療法)が考案され、今や実際の日常臨床の場において様々な疾患でその効果が試みられている。

 とりわけ、増殖糖尿病網膜症に合併するもっとも重篤な病態である血管新生緑内障(NVG)ならびに牽引性網膜剥離(TRD)に対する抗VEGF抗体(bevacizumab)の硝子体内投与(IVB)は、虹彩や網膜の新生血管の退縮や黄斑浮腫の軽減に著効を示し、しかも即効性であることが最大の魅力であり、まるで魔法の治療法が如く期待されていた。

 しかし、虚血性変化によるVEGFの分泌亢進を根本的に断ち切らない限り、IVB単独だけではNVGの病態進行や再燃を免れることはできないことが次第にわかってきた。さらにはTRDに対する手術の補助薬剤として用いるIVBであっても、これまで経験しないような合併症を経験することが新たに確認された。IVBは従来の網膜光凝固や手術治療とうまく組み合わせることで、より低侵襲な治療を実現できる可能性がある一方で、眼科領域においての使用がoff-labelであるだけに、生理活性として神経保護作用も有するVEGFに対する過剰抑制がもたらす危険性も十分に認識する必要性があると考えられる。 

 本口演では、NVGならびにTRDに対するIVB併用療法の利点と注意点を解説し、IVB前後の前房水VEGFの濃度変化に基づいて考察したbevacizumabの適正投与について私見を述べたい。さらにはTRDに対する治療の基本である硝子体手術における結膜を温存する小切開手術システムの意義とその開発の最先端について紹介したい。 

【略歴】
 1992 大阪大学医学部・卒業  大阪大学医学部眼科学教室・入局
 1993 多根記念眼科病院
 1995 淀川キリスト教病院眼科
 1997 大阪労災病院眼科
 1999 大阪大学大学院医学系研究科臓器制御学専攻(博士課程)
 2003 大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室・助手
 2010 大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室・講師
 2012 中国南開大学医学院・客員教授
 2013 西葛西井上眼科病院・副院長
    京都府立医科大学および近畿大学医学部眼科・客員講師 

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 *越後眼科研究会事務局**************
 950-1104 新潟市西区寺地280-7
 済生会新潟第二病院眼科
  安藤 伸朗  Noburo Ando,MD
    phone 025-233-6161
    Fax  025-233-6220
   e-mail gankando@sweet.ocn.ne.jp
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2013年10月4日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
 特別企画  『盲学校での中途視覚障害者支援』
  司会:小西 明(新潟県立新潟盲学校 校長)
  話題提供:中村 信弘(秋田県立盲学校 校長)
  情報提供:田邊 佳実
   (日本ライトハウス/視覚障害生活訓練指導者養成課程研修生)

 平成25年6月22日(土)
 チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間

【講演要旨】
1 中途視覚障害者のニーズ
 平成25年度の新潟県内の視覚障害1・2級の身体障害者手帳取得人数は、3,770人である。このうち、18歳以上が3,708人で全体の98.4%を占める。障害者手帳(視覚)を取得した方の支援組織として、県内では新潟盲学校、新潟大学ロービジョン外来、視覚障害者福祉協会、NPO法人等がある。しかし、地方には一人一人のニーズに応じ総合的に支援するライトハウスやリハビリテーションセンター、盲導犬協会等の生活訓練を行う専門機関はない。

  また、最近の新潟盲学校の教育相談における18歳以上の主訴を分析すると、理療による職業自立を希望する傾向から、視覚障害に起因する現状改善のための方法を身に付けたいと望んでいる傾向がある。具体的には視能訓練や歩行訓練、パソコン操作などの情報処理、点字の読み書き、補助機器の使い方等の希望である。成人の中途視覚障害者の多くが、高等部理療科の学習以前に、生活の不自由や不便さの解消を求めている。これらのことから、成人の中途視覚障害者のニーズは、日常生活の技能や趣味、理療による職業自立の基盤としての生活技能の習得であることがうかがえる。

 

2  秋田県立盲学校の取組
 秋田県には中途視覚障害者のための、視覚障害者更生施設や身体障害者更生施設等でサービスを提供している例はなく、最も近い施設として仙台に「日本盲導犬協会」があるだけである。こうした現状にあって、地方在住の中途視覚障害者のニーズに応えるモデルとして、秋田県立盲学校では高等部専攻科に生活情報科を設置し成果を上げている。

 秋田県立盲学校は「視覚に障害があったとしても、障害を乗り越えて、社会で積極的に生きる力をつける」を学校目標に、①早期教育 ②普通教育 ③重複障害教育  ④QOLを目指す教育(生活情報科) ⑤職業教育  に力を注いでいる。盲学校に生活情報科を設置する意義として、①視覚に障害のある方のために存在する特別支援学校で「自立」を目指している。②「就学奨励費」の対象となり、在学中の費用はほとんどかからず、負担が少ない。をあげている。

  生活情報科では、一人一人のニーズに合わせてカリキュラムを作成し、学習を進めている。主な学習内容は、①障害理解 ②白杖を使用した歩行指導 ③音声パソコンの活用 ④日常生活に必要な機器等の活用 ⑤学習活動に必要な拡大読書器やディジー等の活用 ⑥社会経験の拡充 ⑦福祉制度や関係機関の活用方法 ⑧余暇の活用  等である。

  担当教員は、日本ライトハウスで歩行指導員の研修を受けた教諭4人と視能訓練士(非常勤)1人が配置されている。更に、平成25年度には日本ライトハウス「生活訓練等指導者養成課程」へ教員1人が派遣され、指導内容・方法の一層の充実が期待されている。               

3  生活訓練等指導者養成課程
 盲学校(特別支援学校)には、特別に設けられた指導領域である「自立活動」がある。 
 自立活動は、個々の幼児児童生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養うことをねらいとしている。視覚障害者の自立活動の内容として、日常生活動作、コミュニーション、歩行などがあり、指導者には専門的な知識と技術が求められる。専門性を身に付けた盲学校教員を育成するため、日本ライトハウス「生活訓練等指導者養成課程」へ職員が派遣されている。高い専門性を身に付け、中途視覚障害者の自立活動の指導に当たることの意義は大きい。 

4  盲学校の資源を生かす
 盲学校に自立活動を指導の中核にした学科を設置することにより、0歳から高齢者まで、視覚に障害のある方々のトータルサポートセンターとしての機能を果たすことが可能となる。現状の高等部専攻科理療科は、理療科目の履修でほぼ授業日が埋まり、並行して自立活動を履修することは困難である。そのため、中途視覚障害者においては理療科をはじめとする職業リハビリテーション開始前に、日常の困り感を解消したり学習を効率的に行う方法を学ぶ必要がある。

 視覚障害リハビリテーション施設が設置されていない地域では、秋田県立盲学校のように学校体制を工夫することでこれを補うことができる。見えない、見えづらいといった困り感のある視覚障害者のために、どこがやるかでなく、「やれるところがやる」姿勢が求められている。

 

2013年10月2日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
 特別企画『視覚障害者とスマートフォン』
  渡辺 哲也 (新潟大学工学部 福祉人間工学科)
   平成25年6月22日(土)
      チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間 

【講演要旨】
1.はじめに
 昨今、タッチパネル操作が主体のスマートフォンとタブレット端末の広まりが目覚ましい。ロービジョンの人たちにとってこれらの機器は、画面拡大操作がしやすい、拡大読書器の代わりに使える、持ち運びに便利、そして格好いい、など利点が多い。他方で、全盲の人たちにとっては、たとえ音声出力があっても、触覚的手がかりのないタッチパネル操作は難しいのではないかと思われる。そこで、全盲の人たちがスマートフォンやタブレットを利用する利点と問題点について調査を始めた。Webを使った文献調査、利用者への聞き取り調査、音声によるタッチパネル操作実験などを通してわかったことを報告する。

2.操作方法
2.1.スクリーンリーダ
 Apple社のスマートフォンiPhoneやタブレットiPadには、スクリーンリーダVoiceOverが標準装備されている。Apple社以外のスマートフォンやタブレットのほとんどにはGoogle社のAndroid OSが搭載されている。このAndroidにも、スクリーンリーダTalkBackが標準装備されている。ただし、日本語出力のために音声合成ソフトを別途インストールする必要がある。

2.2.アイコン等の選択
 アイコン等の選択操作には2通りの方式がある。直接指示方式では、触れた位置にあるアイコンなどが選択され、読み上げが行われる。続けてダブルタップすると選択決定となる。画面構成を覚えておけば操作は容易だが、画面構成が分からないと目標項目を探すのは困難である。

 順次選択方式では、画面上でスワイプ(フリックともいう)することで、前後の項目へ移動し、これを読み上げる。項目間を確実に移動できるが、目標項目に到達するまで時間がかかることが多い。

2.3.文字入力
 テンキー画面によるフリック入力やマルチタップ入力(同じキーを押すたびに、あ、い、う、と変化)、50音キーボード画面やQWERTYキーボード画面が音声読み上げされる。漢字の詳細読み機能もある(iPhone, iPadの詳細読みは渡辺らが開発したものである)。いずれの方式も、個々のキーが小さいため、入力が不正確になりがちである。この問題を解決するため、iPhoneには自動修正機能が装備されている(英語版のみ)。ジョージア工科大学で開発されたBrailleTouchというアプリでは、タッチ画面を点字タイプライタの入力部に見立てて6点入力をする。

3.様々な便利アプリ
 光認識、色認識、紙幣認識、拡大機能、読み上げなど、単体の機械や従来型の携帯電話で実現されてきた機能が、スマートフォンやタブレットへアプリをインストールだけで利用可能になった。インターネットとの常時接続やGPSによる位置の推定など、スマートフォンの特徴的な機能を応用した新しいアプリとしては、物体認識、屋外のナビゲーションなどがある。
 ・Fleksy:打ち間違えても、「正しい」候補を賢く表示
 ・Light Detector:光量を音の高低で表示
 ・マネーリーダー:紙幣の額面金額を読み上げ
  日本でも同種のソフトを財務省、日本銀行、国立印刷局が開発中。2013年のうちにiOS用アプリとして無償公開される予定
 ・明るく大きく, VividCam:コントラスト改善、拡大
 ・TapTapSee, CamFind:視覚障害者向け画像認識
 ・Ariadne GPS, ドキュメントトーカボイスナビ:現在地・周囲情報・経路案内 

4.まとめ
 音声支援により全盲の人もタッチパネルを操作できる。しかし、アイコン等の選択や文字入力が効率的に行えるとは言いがたい。お札や色の判別などのアプリは従来の携帯電話でも利用できたが、これらを簡単にインストールできる点は利点であろう。スマートフォンで新たに実用可能になった物体認識やナビゲーション機能の実用性の検証とその発展が今後期待される。

 

2013年9月30日

第14回 日本ロービジョン学会学術総会
シンポジウム2「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
  ■登壇日時:2013年10月12日(土) 16:20~17:50

  ■会  場:第1会場(倉敷市芸文館 1F ホール)
  ■司  会:安藤 伸朗   済生会新潟第二病院
        佐藤 美保   浜松医大
  ■演  者: 門之園 一明   横浜市大医療センター
         佐藤 美保   浜松医大
         若倉 雅登   井上眼科
         根岸 一乃   慶應義塾大学医学部 眼科学教室
         栗本 康夫   神戸市民中央病院
         安藤 伸朗   済生会新潟第二病院                       

 【オーガナイザー挨拶】
                
安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院)
     佐藤 美保 (浜松医科大学医学部病院教授
 近年の眼科医療の進展は著しいものがある。今、必要とされている知識や技術は、3年と持たない。ロービジョンケアはもちろん、患者の望むこと・患者のニーズに沿うことが基本であるが、新しい医療の要求に応える(対応する)ことも求められる。こうした視点から、今回の「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」は、各専門分野のトップランナーが、疾患別にロービジョンケアを語ることを意図したシンポジウムである。 

 各分野のリーダーに、眼疾患を治療する場合の最新の知見を述べて頂き、かつ各演者がロービジョンケアに期待することを語って頂く予定である。

 ロービジョンケアは必要だとは認めるが、なんとなく敷居が高いと思っている眼科医が多いのではないだろうか?ロービジョンケアは、決して一部の眼科医のみが関わる特殊な領域ではない。予定していた治療効果が得られない場合や、患者が期待していた視機能が得られない場合、治療に携わるすべての眼科医が関わる分野である。

 今回のシンポジストは、これまでロービジョン学会にあまり参加していない、多士済々な顔ぶれである(以下、敬称略)。網膜硝子体は、門之園 一明(横浜市大医療センター)、 小児眼科は、佐藤 美保(浜松医大)、神経眼科は、若倉 雅登(井上眼科)、白内障・屈折は、根岸 一乃(慶応大学)、再生医療は、栗本 康夫(神戸市民中央病院)、精神的サポートは、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)。本学会では新鮮な、そして通常ではありえない面々のコラボである。

 各分野の専門家に「疾患ごとに求められるロービジョンケアのあるべき姿」を語って頂き、近い将来に必要となる新たなロービジョンケアの方向を模索してみたい。トップランナーが何を語るか?どんなシンポジウムになるか?今から楽しみである。多くの方々の参加を期待している。

 

1)網膜硝子体とロービジョン 
  
門之園 一明 (横浜市立大学医療センター 眼科教授)
 
網膜硝子体手術は近年急速に進歩し、多くの疾患の視機能を救うことができるようになった。いうまでもなく、現在では、視機能障害を改善することのできる重要な治療手段のひとつである。一般に網膜硝子体手術には術前後を含めて多くの時間を労力を費やすため、術者は網膜の形態学的な改善と視力の向上を以って、治療の成功を決める傾向が強い。


 しかし、重度な増殖硝子体網膜症を仮に首尾よく治療できたとして、患者にとってその視機能が満足の行くものでなければ、治療は術者の満足のみに陥ることになるだろう。患者と医師の間に治療の理解と満足度の隔たりのある限り、なかなか本来の治療は生まれないであろうし、少なくとも我々はその溝を少なくする必要がある。また、これは、広い意味で周術期管理といえる。

 網膜硝子体術者は、難しい疾患と向き合う頻度が高く、いつもこの課題を背負っているため、精神的なストレスの多い仕事である。このため、多くの術者はこれまで、自分なりのやり方でそれなり対応をするか、あまり術後のフォローに関心を示さないように演じて来ることで、対応してきたのではないであろうか。

 ロービジョン学は、近年非常に進歩し低視力患者に貢献している。現在では、術後の患者の抱える問題点を解決する唯一の手段をなっているにもかかわらず、残念ながらロービジョンを理解し、これを応用する網膜硝子体術者は少ない。具体的な視機能向上のための装具や治療器具を含め、心理的なサポートの方法など、ロービジョン治療学の中には、網膜疾患患者へ応用できる知識が多く含まれている。

 これからの網膜硝子体術者は、その手術技量を向上させるだけでなく、術後に否応なく訪れる可能性のある不完全な視機能に対して、ロービジョンを手術後管理に積極的に取り入れる傾向が強くなるであろう。また、これは中枢神経組織を扱う網膜外科の本来の健全なあり方である。

【略歴】
 1988年 横浜市立大学医学部卒業

 2000年 横浜市立大学医学部眼科講師
 2005年 横浜市立大学市民総合医療センター眼科准教授
 2007年 横浜市立大学市民総合医療センター眼科教授
  現在に至る

 

2)小児眼科
 
 佐藤美保(浜松医科大学医学部病院教授)

小児眼科外来は、小児の良好な視力発達を目標として治療を行っているが、重度の先天性眼疾患をもって生まれた児や、未熟児網膜症などで、改善の期待できない重度の視覚障害をもつ児に対して、その家族も含めたロービジョンケアを行うことは重要な役目である。

 浜松医科大学付属病院では視覚障害のある小児を対象とした療育相談を行っている。そのなかでも3歳以下を早期療育相談として、視覚支援校と早期に繋がりをもたせる試みを行っている。早期療育相談の流れは、重篤な視力障害を持つ乳幼児が受診した場合に、院内早期療育相談の存在を養育者に伝える。養育者が相談を希望した場合には、ロービジョン外来担当の視能訓練士が窓口となって、視覚支援校の乳幼児発達支援指導員と連絡をとる。
 

 院内早期療育相談は、視覚支援校の教員が大学病院の外来を訪問する。初めに眼科医、視能訓練士が同席して、病状を保護者と教員に説明するとともに児の眼症状をいっしょに確認する。その後、教員が乳幼児の行動を観察しながら、育児支援、発達支援、情報提供などを保護者に対して行う。院内早期療育相談終了後、保護者からの希望があれば視覚支援校を訪問しての教育相談に繋げていく。

 低視力の原因は、黄斑低形成、未熟児網膜症、第一次硝子体過形成遺残、眼白子症、先天白内障 先天小瞳孔、視神経異常、網膜色素変性症、緑内障 強角膜症などである。視力は0.1以上のものもいたが、ほとんどは0.1以下であった。そして、相談を受けた養育者の多くは、引き続き視覚支援校との連絡をとり視覚支援校幼稚部への進学を選択するものが多くみられた。

 生まれてきたばかりの赤ちゃんが、生涯視力に問題を抱えていきていくという事実を受けいれることは容易なことではない。医師の役目は正しい診断をくだし、治療可能なものにたいしては全力で治療にあたるが、そうでない場合には予後を判断したうえで正直に事実を伝えることである。予後の判断が即座にできない疾患に関しては継続的なフォローをしながら必要な情報を提供していく。ときには悲観的な説明ばかりではなく、児が成人となる20年後の未来の医療への希望へとつなぐ説明を行うことも必要である。養育者は子育てに悩みながら相談できる場所をさがしているため、早期療育相談を通して医療と教育、福祉をうまくつないでいくことが重要と考える。

【略歴】
 1986年              名古屋大学医学部卒業

 1992年              名古屋大学医学部大学院外科系眼科学満了
 1992年              学位取得
 1993年              名古屋大学眼科学助手
 1993年9月-  米国Indiana 大学小児眼科斜視部門留学
  1995年3月 
 1997年7月        名古屋大学眼科学講師
 2002年7月  浜松医科大学医学部眼科学助教授(准教授)  
 2011年1月1日 浜松医科大学医学部病院教授
   現在に至る

 

3)神経眼科より        
  
若倉 雅登 (済安堂 井上眼科病院 名誉院長)

 神経眼科の臨床においては、視神経症やさまざまな中枢性疾患により、不可逆的に視覚が障害されたり、視覚が快適に利用できない状態に対して、医療者としてどのように対応すべきかは残された大きな問題である。これまでの日本の臨床医学は診断、治療までが医師の業務で、その先に存在すべきマネージメント、医療ケアを行うマインドに欠けていた。臨床に時間的、経済的制約があるとはいえ、卒然卒後教育にそのような視点がなかったことがその要因であろう。

 神経眼科領域に限ったことではないが、眼科臨床においては、慢性進行性疾患はもとより、急性疾患でも不可逆的変化が生じ、視覚障害や不都合が生涯残る症例に少なからず遭遇する。こうした場合のケアとしては、患者の不都合や不満を実感的に十分傾聴し、それを理解し、障害を抱えた状態で生きる患者の今後に、何らかの指針を与えられるのが理想ではある。しかし、そこまで医師に心理学者、哲学者、宗教家であることを求めるのは無理がある。

 眼科学的に今の障害の状態がどうして生じているのか、丁寧に平易な言葉で説明することが、眼科医としてできるすべてではないかと私は考える。その上で、精神医学の手法を応用して、認知行動療法を試みることで、患者自身が現状把握、受け入れ、前進という過程を踏むことができる場合がある。これは、心療眼科の大事な役割のひとつである。

 以上の過程を円滑に進めるために、同症者とその家族で構成する「患者友の会」はしばしば非常に有効な手段になる。私は、「眼瞼・顔面痙攣患者友の会」や「レーベル病患者友の会」、また当院の視覚障害者の十数人で構成される「ボネの会」の設立を支援してきた。ここでは、患者同士が自身の不都合や体験を遠慮なく口にできる(一般社会で彼らがそれを口にすることは非常に少ない、一般に家族にはうるさがられ、社会では無視や差別の原因になるからである)。同症者の状況を知ることで、孤独感、特殊感の軽減、解消にも役立つ。さらに、互いに情報交換することの意義もある。私が関わったこうした患者友の会の状況について、設立に至る経緯と、実際の成果についても時間があれば報告したい。

【略歴】
 1976年3月 北里大医学部卒
 1980年3月 同 大学院博士課程終了
 1986年2月 グラスゴー大学シニア研究員
 1991年1月 北里大医学部助教授
 1999年1月 医)済安堂 井上眼科病院 副院長
 2002年1月 医)済安堂 井上眼科病院 院長
 2010年11月 北里大学医学部 客員教授 (現在に至る)
 2012年4月 医)済安堂 井上眼科病院 名誉院長 

 

4)白内障・屈折  
    根岸 一乃 (慶應義塾大学医学部眼科学教室)

 一般に白内障および屈折矯正手術は、視力の改善が期待できるものに行われ、それ以外は適応外であるとされる。ロービジョン患者に関しては、患者が手術を希望しても「適応なし」として放置される場合もしばしばであり、これは「視力予後」という観点から見れば正しい判断だといえる。

 しかしながら、近年、白内障および屈折矯正手術は患者のQuality of Life(QOL)に大きく関与することがわかってきている。たとえば、白内障手術を行うと歩行速度が速くなり、睡眠の質が改善し、ひいては寿命の延長につながる可能性もある。

 本講演では、主として白内障手術が患者のQOLに及ぼす影響について自験例のデータを示し、ロービジョン患者における白内障および屈折矯正の治療の意義について検討する。

【利益相反公表基準:該当】無
【略歴】
 1988年 慶應義塾大学医学部卒業・同眼科学教室入局
 1995年 国立埼玉病院眼科医長
 1998年 東京電力病院眼科科長
 1999年 慶應義塾大学眼科学教室講師(兼任)
 2001年 慶應義塾大学眼科学教室専任講師
 2007年 慶應義塾大学眼科学教室准教授、
    現在に至る。 

 

5)iPS細胞がもたらす網膜・視神経の再生医療とロービジョンケア
  
栗本康夫(神戸市立医療センター中央市民病院、先端医療センター)

 長年にわたって、成熟した哺乳類の中枢神経はひとたび細胞死や軸索の切断をきたすと再生することはないと信じられてきた。眼科領域においても、中枢神経系に属する網膜および視神経は再生しないと信じられ、再生医療は夢の話であった。しかし、近年の神経科学および幹細胞研究の長足の進歩により、中枢神経の再生医療が現実のものになろうとしている。

 人工多能性幹(iPS)細胞研究で世界をリードする我が国は網膜再生医療で世界の先陣を切って臨床応用が進む可能性があり、既に我々は滲出型加齢黄斑変性に対するiPS 細胞由来の網膜色素上皮シートの臨床研究の実施を開始した。

 網膜の再生医療はロービジョンケアにも大きな変革をもたらす可能性がある。従来、ロービジョンケアとは、著しく障害された視機能が医学生理学的に回復を見込めない患者に対して行われるケアであり、基本的には患者の視機能は良くても現状維持、しばしば低下していくことを念頭におかねばならなかった。ところが、網膜の再生医療を施行された患者では、治療により視機能の改善も期待できる。

 残された視機能をいかに活用して生活機能を向上させるかがロービジョンケアであったのが、残された視機能そのものが向上していく可能性があるわけである。これはロービジョンケアのパラダイムチェンジと言えるかもしれないし、新たな視能訓練分野の創成に繫がるのかもしれない。ただし、網膜再生医療はまだこれから第一歩を踏み出すところであり、当初はめざましい視機能の改善を期待できるものではない。本講演では、黎明期にある網膜再生医療とロービジョンケアの近未来の展望について考えたい。

【略 歴】
 1986年 京都大学医学部卒業、同眼科学教室入局
 1988年 京都大学大学院医学研究科
 1992年 国立京都病院眼科医師
 1993年 神戸市立中央市民病院眼科副医長
 1997年 信州大学医学部眼科講師
 2000年 ハーバード大学博士研究員
 2002年 信州大学医学部眼科助教授
 2003年 神戸市立中央市民病院眼科部長代行、
     先端医療センター視覚機能再生研究チームディレクター (兼任)
 2006年 神戸市立医療センター中央市民病院眼科部長、京都大学臨床教授(兼任)
 2008年 先端医療センター病院眼科客員部長(兼任)
 2011年 先端医療センター病院眼科統括部長(兼任)
 2013年 神戸大学臨床教授(兼任)

 

 患者・家族の精神的サポート
   安藤 伸朗 (済生会新潟第二病院)

 医者は「治す」ことを目指し、患者は「治る」ことを期待する。しかしすべての医師が「ブラックジャック」ではない。眼科医は、患者が治療後に視機能が回復している時は、喜びを共有できる至福な時を享受するが(日常的になり過ぎて麻痺している場合もある)、一方で重篤な症例の場合は、なかなか視機能が向上せず、忸怩たる思いで悩む。

 最大限の治療をしても結果が伴わないとき(患者が望む結果でなかった場合)、最も必要なのは精神的サポート(こころのケア)である。患者のみならず、家族に対するケアも大事である。よく医師と患者は、「疾病」という共通の敵に対して立ち向かうパートナーだと言われるが、それは治療が上手く行った時には当てはまるが、そうでない場合は、ともに「敗者」となってしまい、いい関係を保つことは困難となる場合が多い。

「治療」は医師の誇らしい仕事、「ロービジョンケア」は敗戦処理なのだろうか?私は、すべての眼科医にとってロービジョンケアの理解と精神的サポートが必要だと言いたい。最大限治療しても患者が満足できない視機能に留まった時は、ロービジョンケアの専門医に、その後の対応を委ねよう。保有視機能を活用することにより、患者の生活の質を向上させることが出来る可能性があるからである。

「医学的に良いこと」(網膜剥離が復位する、視力がよくなる、眼圧が下がる、視野が回復する、、、など)を目指して、眼科医は頑張る。ただ、医学的に良くなることが、患者本人が最も望むものであるとは限らない。患者は疾患を持っているが、それ以上に一人のヒトとして生きている。

 病気が深刻であればあるほど患者は医師を頼り、医師は必然的に患者の人生に深い関わりを持つようになる。患者の不安を取り除くことができるのは、医師のメスばかりではない。医師が、患者の心理や問題点を認識し理解することが、患者側と医療者側のより良い関係を築く礎になる。そのためにも私たちは、患者との心のこもった会話を欠かすことはできない。

【略 歴】 安藤 伸朗(あんどう のぶろう)
 1977年3月 新潟大学医学部卒業
 1979年1月 浜松聖隷病院勤務(1年6ヶ月)
 1987年2月 新潟大学医学部講師
 1991年7月 米国Duke大学留学(1年間)
 1992年7月 新潟大学医学部講師(復職)
 1996年2月 済生会新潟第二病院眼科部長
 2004年4月 済生会新潟第二病院第4診療部長
  現在に至る

 2011年12月 第17回日本糖尿病眼学会総会(東京国際フォーラム) 会長
 2013年  6月 第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会(新潟)大会長

 

報告:第211回(13‐09月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「言葉 ~伝える道具~」
 講師:多和田 悟 (公益財団法人日本盲導犬協会 訓練技術担当理事)
  日時:平成25年9月11日(水)16:30 ~ 18:00
  場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

【講演要旨】
 一つの言葉で救われたり、一つの言葉で奈落の底に落ちたり、言葉は時として人の人生を左右する。言葉の専門家に「言葉は感情を伝える道具である」と教えていただいたことがある。言葉に込められた感情が時として言葉より先により力強く相手に伝わる。 

 「そんなつもりじゃなかったんだ」「そんなことで傷つくとは思わなかった」言葉は口から出てしまったらそれを受け取った相手次第に料理される。判断するのは話し手ではなく聞き手なのである。当日の勉強会の参加者に「救われた言葉」「傷ついた言葉」をそれぞれに準備して最後に発表していただいた。傷ついた言葉に今も心が癒えていなくて思い出すのがつらい、と発表された方がおられた。その人にとってはその時に聞いた言葉が今も現在進行形でその人に「傷ついた言葉」として残っていることを知らされた。ある方は身内の言葉に救われた、と言われた。同じ言葉を同じときに聞いても人はそれぞれに感じ方が違う。「かわいそうに」という言葉で外に出られなくなったという人を何人か知っている。心を込めた同情の言葉もその当事者には「傷ついた言葉」になってしまった例である。

  私は盲導犬を通して目の見えない人、見えにくい人たちに安全に歩行する方法を教えることを仕事としている。言葉を選びNon Visual Communicationの成立を目指している。しかし振り返れば私自身が私が向き合った多くの目の見えない人見えにくい人たちに「傷ついた言葉」を発してしまい傷つけてしまったに違いないことを反省している。そんな私が、ただ相手の寛大な心によって赦されて今もこの仕事を続けられていることを感謝する。

 私が白杖の歩行指導員の養成講習を受けた時に紹介されたトーマス キャロルの“失明”から多くを学んだ。その後、友人の約一年をかけた死をすべて見る中で「視力ある人の失明は死を意味する」が実感を持って迫ってきた。私の友人は最善の医療を受けたにもかかわらずその死から逃れることは出来なかった。Cure(治療)には限界がある。しかしCare(ケア)には限界はないのではないだろうか?視覚障がいリハビリテーションはターミナルケアであると思った。自分の視覚機能を使って情報を集めて行動をしていた自分がそれ以外の方法を受け入れそれを使って行動する。方法は違うが同じ結果に向かって進むことに違いはないはずである。

 受容とあきらめは受容が希望をもって将来を向いているのに対してあきらめは希望を見つけられず過去を向いているのではないだろうか。その原因はどれだけ多くの「救われた言葉」に出会うか、だと思う。

 相手を傷つけるかもしれないから何も言わない、のではなく相手を傷つけないように伝えたい。それでも相手が傷ついてしまったら「ごめんなさい」と言い、ひたすら相手の赦しを乞うしかない。同じように逆の立場の場合私も相手を赦す努力をしなければならない。私が6年間を過ごした異文化であるオーストラリアでの生活で日本人である私に新たな異文化思考を教えてくれた言葉は 「私はあなたを許します。しかしこの出来事は忘れません」(I forgive you but never forget)である。つらい出来事から解放される方法は忘れることだと思っていた私の日本人思考が変えられた言葉であった。赦さないと赦せない自分がつらくなるのである。

 無言でいることでNon Visual Communicationは成立しない。Non Verbal communication はそれなりの関係の上に立って成立し言語より雄弁に相手に伝える。

  変わるものを変えようとする勇気
  変わらないものを受け入れる寛容さ
    そしてその二つを取り違えない叡智
 (「ニーバーの祈り」ラインホールド・ニーバーより引用) http://home.interlink.or.jp/~suno/yoshi/poetry/p_niebuhr.htm 

 
 この言葉を受け入れるとき「健全なあきらめ」が導かれ新たな「希望」へと続くと思う。

 

【略歴】
 1974年 青山学院大学文学部神学科中退
     財団法人日本盲導犬協会の小金井訓練所に入る。
 1982年 財団法人関西盲導犬協会設立時に訓練部長として参加。
 1994年 国際盲導犬連盟のアセッサー(査察員)に任命
    (日本人では唯一人;現在に至る)
 1995年 クイーンズランド盲導犬協会(オーストラリア)
     シニア・コーディネーターとして招聘。後に繁殖・訓練部長に就任。
 2001年 帰国。財団法人関西盲導犬協会のシニア・コーディネーターに就任
 2004年2月 財団法人関西盲導犬協会のシニア・コーディネーター退職。
    3月 盲導犬訓練士学校、財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校
       教務長(日本初)
    4月 財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校開校
 2009年4月 財団法人日本盲導犬協会事業本部
      学校・訓練事業統括ゼネラルマネージャー
 2012年6月 公益財団法人日本盲導犬協会 訓練技術・訓練士学校 担当常勤理事 

*盲導犬クイールを育てた訓練士として有名
 著書:「犬と話をつけるには」(文藝春秋)、
    「クイールを育てた訓練士」(文藝春秋、共著)等

 

【後記】
  さすがに多和田さんの講演です。会場には盲導犬が7頭も勢揃いしました。
 多和田さんの口調は穏やかで、まるで讃美歌を聞いているような講演でした。そして幾つかの気づきがありました。
 言葉は怖い。「そんなことで傷つけとは思わなかった」 とよく言うが、判断するのは話した本人ではなく、聞いた側の人。どんなに気を付けても人を傷つけることはあるが、そのために言わないというのは如何なものか?
 トーマス・キャロルの「失明」に、視力のある人の失明は、死を意味すると記されている。その意味で、視覚リハはターミナルケアではないのだろうか?失明と同時に、新しい自分に乗り換えるということ。
 「受け入れる」と「諦める」は違う。諦めるは、過去を断ち切ること。受け入れるは、将来を見ることだ。cureには限界があるが、careには限界がない(で欲しい)。
 人間はそもそも充分なものではあり得ない。過ちを犯す存在だ。赦されて生きている。では、あなたは他人を許せるか?、、、、、、
 多くのことを感じ、今後自分はどうしたらいいのかを問われた講演でした。

 

2013年9月28日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨   
    ランチョンセミナー(共催:新潟ロービジョン研究会)
『医療のなかでのロービジョンケアの役割』   
  新井 千賀子(視能訓練士:杏林大学)    
    平成25年6月22日(土)     
    チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間

【講演要旨】
■ はじめに  
 病気が診断され治療されている医療機関は、ロービジョンになって視覚リハを必要とする人たちが最も多く存在する場所でもある。そういう場所ではロービジョンケアは視覚リハの最も近い入口であり、患者と視覚リハの関係の鍵を握る重要な存在である。その大事なポイントで視覚リハの関係者である我々はいったい何をしたらいいのか?を今回は考えてみた。

■ 診療報酬改定とロービジョンケア  
 昨年(2012年)、診療報酬の改訂でロービジョン検査判断料が導入された。そこには 『患者の保有視機能を評価し、それに応じた適切な視覚補助具の選定と生活訓練・職業訓練を行っている施設等との連携』と書かれている。”検査や治療をして検討した結果、ロービジョンと判断されたら、治療だけでなく生活を含めて包括的な視覚リハを紹介しましょう” ということである。従って、医療機関でロービジョンケアを提供する場合には、見やすさを改善する道具や眼鏡などの光学的な補助具を処方するだけでなく、包括的に視覚リハの入口として機能することが診療報酬に認められたことでよりいっそう求められることになったのである。

■ ロービジョンと診断された患者が抱える3つのリスク
 私は学生時代にとある人から、人は「仲間とお金と希望」を一度になくすと人は自らの命を顧みない危機的な状況になると言われたことがある。その後、リハビリテーションの講義のなかでも同じ様な話を聞いた。実際に仕事をしてみると、ロービジョンと診断された直後の患者さんが視覚リハやロービジョンケアの存在を知らない場合、この3つの要素を同時になくすリスクが高いことを実感した。

 視機能低下を自覚した場合にはどの人もまず最初に病院に治療を受けに行く。しかし、その病気は治療がかなり困難で現状を維持する治療や経過をみることを告げられ、以前のような視機能を再獲得するのが難しいと診断されたらどうだろうか?こんな治療が難しい病気にかかったのは自分だけで、今の心境や見え方を共有できる人たちがいるとは思えず孤立感を深めるだろう。また、視機能の低下によって仕事の能率が低下したり同じ作業をしても疲労感が強くなり、就労の継続が難しいと感じ将来の経済的な基盤がなくなる心配をし始める。そして、回復が難しい病気を考えると将来への希望を持てなくなる。こうして、仲間、経済、希望の3つを同時に喪失するというリスクが高くなる。

 このような状況が潜在的に存在することは、実は医療関係者にとっても患者に病状を伝えたり相談に乗るときに心理的な負担が生じる。従って、このような危機的な状況の回避は患者だけでなく医療関係者にも大切な事である。

■ リスクの回避方法として、ロービジョンケアの導入を提案
 医療機関でロービジョンケアを導入することは、結果的にこのような危機的な状況を可能な限り回避することを可能にする。ロービジョンケアで十分に視機能のアセスメントをして適切な光学的補助具が提供された場合、現在の視機能を活用して今の生活を継続してつづけられるかもしれないと希望を持つ事が可能になる。福祉制度(障害者手帳・年金、職業訓練等)などの支援を受けることで経済的な見通しを持つ事が可能になる。ロービジョンケアを通して、院外に様々な支援機関がありそこには多くの人たちが支援を提供していること、また、自分と同じように視機能が低下してリハビリテーションを受けている人が沢山いることを知って、新たに自分の思いを共有できる仲間を得る可能性がある。

 このように医療機関でロービジョンケアが提供されることは危機的な状況をできるだけ早期に回避して視覚リハに導入できるのである。そのためには光学的補助具や視機能を補うエイドの紹介だけでなく、その他の問題への対応も含めて3つの問題に対処する事が必要である。そのプロセスには視覚活用のゴールの設定とゴール達成のに必要な視機能と自分自身の視機能とのギャップを小さする作業が含まれる。具体的には屈折矯正などによって視機能を十分に引き出したり、適切な倍率の拡大を拡大鏡や拡大読書器などの補助具で提供する、作業内容によっては視機能の活用ではなく、他の感覚(聴覚、触覚など)を併用する、社会資源の活用をするなどこれらを複数組み合わせてギャップを埋めてゴールにできるだけ近づける努力をする。

 ゴールは人それぞれによって異なり、活用できる視機能も異なる。そのため十分なカスタマイズのプロセスが必要である。カスタマイズの作業が終わったところで、視機能を活用して活動し続けながらより充実させるためにどのような支援機関とつながることが有効かを検討する。

■ 連携は双方向に  
 ロービジョンケアの考え方が導入されるまでは、視機能低下が非常に重度になり日常生活に大きく影響するまで視覚リハの導入がされないことが多かった。しかし、視機能低下がごく軽度から重度まで幅広い範囲を含むロービジョンは視機能の状態に応じてニーズや解決のために必要な資源が変化する。また、慢性疾患が多いロービジョンは治療と平行してロービジョンケアやリハの提供を必要とする。従って、医療機関と院外の支援機関の関係はよりいっそう重要になり双方向であることが求められる。

■ 医療機関でのロービジョンケアの役割   
 医療機関で提供されるロービジョンケアは包括的な視覚リハの入り口として機能することである。そのためには1)リスクを抱えるまえにゴールを設定し、視覚活用の希望を提供するための包括的なニーズの把握と具体的な活用方法の提供、2)一緒に病気と向き合って生きていく支援者や仲間の提供のための治療と平行した包括的な視覚リハとの連携、3)経済的基盤を支える制度や資源の情報提供、この3点はロービジョンケが医療機関で行われるからこそ効果的であり求められるものである。

 こうした包括的なロービジョンケアの提供は、単一の専門職では困難である。視覚リハの入口としてロービジョンケアを医療機関で提供するには複数の専門職がかかわるチームでの取り組みが必要になり、よりいっそう異なる専門領域の協力と連携が必要になるだろう。

 

【略歴】  
 1992年 筑波大学大学院教育研究科修士課程障害児教育専攻 卒業 修士(教育)  
 1996年 国立小児病院付属視能訓練士学院 卒業  
 1997年 国立特殊教育総合研究所(現:国立特別支援教育総合研究所)研究員  
 2000年 Light House International Arlrene R.Gordon 研究所 文部科学省在外研究員  
 2001年 国立特殊教育総合研究所(現:国立特別支援教育総合研究所)研究員  
 2005年 杏林アイセンター ロービジョンルーム 
 現在に至る

 

2013年9月27日

第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
  ランチョンセミナー(共催:新潟ロービジョン研究会)
「ここまで進化している!眼科の検査と治療の最前線」
 長谷部 日(新潟大学医学部講師:眼科)
  平成25年6月22日(土) 
  チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間 

【講演要旨】
 眼科は様々なテクノロジーの応用が早く、進化の目覚ましい分野である。21世紀に入りそのスピードはさらに加速している。 

 従来の眼底検査では、眼底鏡を用い眼底を直接観察するか、眼底カメラで眼底を撮影する方法がとられてきた。いずれも眼底を主に平面的に捉える方法である。眼底、特に網膜の厚みや内部構造の変化といった三次元的な所見は非常に重要であるが、実際には非常に薄く透明な組織である網膜を立体的かつ詳細に観察するのは極めて難しい。しかし近年光干渉断層計(OCT)が登場し眼底の観察方法は一変した。 

 OCTは簡単な操作で眼底の任意の断層像を取得することが可能である。初期のOCTはごく大まかな断層像を得られるのみであったが、それでも従来苦慮していた診断の精度を飛躍的に高める画期的な技術であった。その後OCTは年々解像度、画質が向上し、現在の最新型のOCTで得られる断層像は眼底の組織顕微鏡写真に匹敵するものである。OCTによって様々な疾患における眼底の微細な構造変化が明らかとなり、病態の解明や治療の影響を詳細に評価することが可能となった。眼底疾患の診断技術と治療技術に大きな進化をもたらしたOCTは、現代の眼科診療において欠かす事のできない存在となっている。 

 眼底観察方法の進化はOCTだけに留まらない。現代の宇宙観測を支える技術の一つである「補償光学」を応用した眼底撮影装置では、視細胞の一粒一粒までもが観察可能となっている。眼底疾患は、今や細胞レベルで診断を行う時代を迎えようとしているのかもしれない。 

 このように診断技術が進化し疾患の核心の部分が絞り込まれていくにつれ、治療もその疾患の本態をピンポイントで攻めていく方式に変わってきた。現代の眼底疾患の手術は極小の時代である。細い注射針ほどの太さの手術器具を用い、眼底の極めて小さな部分、極めて薄い部分を治療することが日常的となっている。この結果、眼組織に対する手術侵襲は最小限に抑えられるようになってきた。 

 手術に頼らない眼底疾患の治療方法も登場し発達してきた。加齢黄斑変性(AMD)に対する抗血管新生剤(抗VEGF剤:血管内皮増殖因子VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)の眼内注入がその代表であろう。AMDは高齢者の1%に発症する疾患であるが、かつては有効かつ安全な方法がなかった。しかし数年前に登場した抗VEGF剤は、AMD眼にごく微量を注入するだけで急速に改善を得ることができる驚くべき治療方法である。現在ではAMD治療の第一選択であることは言うまでもない。また最近では硝子体を手術で切除するのではなく、薬剤で融解させることによって様々な眼底疾患を治療する方法も実用化が進みつつある。 

 iPS細胞(人工多能性幹細胞 induced pluripotent stem cells)の話題からも目を離すことができない。胎児の胚細胞と同様に全身のあらゆる組織、臓器に分化していく能力を持つのがiPS細胞である。これを受精卵や胎児から取り出すのではなく、成育した生体から作り出す技術を発見した山中伸弥教授にノーベル賞が授与されたのは記憶に新しい。このiPS細胞から作成した細胞(網膜色素上皮)をAMDに罹患した自分の目の眼底に移植する世界初の治療が間もなく日本で始まろうとしている。まだ治験の段階ではあるが、夢の治療技術が現実となる瞬間に世界が注目している。iPS細胞は他の眼疾患の治療にも応用が期待されている。決して遠くない将来の眼科では、今では想像もつかないような治療が行われているに違いない。

 眼科の進化はまだ当分その歩みを緩めそうにない。我々眼科医の手がける未来の医療に期待をこめ、いつまでも注目し続けていただきたい。

 

【略歴】 長谷部 日 (はせべ ひるま)
 1992年(平成4)新潟大学医学部卒業
          新潟大学眼科学教室 入局
 1994年(平成6)~ 新潟大学医学部大学院
 1998年(平成10) 医学博士取得
 1999年(平成11)~燕労災病院眼科(1年)
 2001年(平成13)~聖隷浜松病院眼科(1年)
 2007年(平成19)~新潟大学医歯学総合病院 助教
 2013年(平成25)~新潟大学医学部 講師

2013年9月25日

シンポジウム「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」
 日時:2013年10月12日(土)16:20~17:50     
 会場:第1会場(倉敷市芸文館 メインホール)
 オーガナイザー: 安藤伸朗(済生会新潟第二病院) 佐藤美保(浜松医大)
1)網膜硝子体とロービジョン 門之園一明(横浜市大医療センター)  
2)小児眼科            佐藤美保 (浜松医科大学)  
3)神経眼科より           若倉雅登 (井上眼科)  
4)白内障・屈折             根岸一乃 (慶応大学)  
5)iPS細胞がもたらす網膜・視神経の再生医療とロービジョンケア
                  栗本康夫 (神戸市民中央病院)  
6)患者・家族の精神的サポート 安藤伸朗(済生会新潟第二病院)

 10月11日-13日倉敷で行われる第14回日本ロービジョン学会にて、眼科各分野のエキスパートが集い、それぞれの立場でロービジョンケアを語るシンポジウム『サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望』を開催します。  
 本シンポジウムで、各演者が何を語るのか、どんなことが話題になり議論されるか、期待してご参集下さい。    

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 近年の眼科医療の進展は著しいものがある。今、必要とされている知識や技術は、3年と持たない。ロービジョンケアはもちろん、患者の望むこと・患者のニーズに沿うことが基本であるが、新しい医療の要求に応える(対応する)ことも求められる。こうした視点から、今回の「サブスペシャリティーからのロービジョンケアの展望」は、各専門分野のトップランナーが、疾患別にロービジョンケアを語ることを意図したシンポジウムである。 

 各分野のリーダーに、眼疾患を治療する場合の最新の知見を述べて頂き、かつ各演者がロービジョンケアに期待することを語って頂く予定である。

 ロービジョンケアは必要だとは認めるが、なんとなく敷居が高いと思っている眼科医が多いのではないだろうか?ロービジョンケアは、決して一部の眼科医のみが関わる特殊な領域ではない。予定していた治療効果が得られない場合や、患者が期待していた視機能が得られない場合、治療に携わるすべての眼科医が関わる分野である。

 今回のシンポジストは、これまでロービジョン学会にあまり参加していない、多士済々な顔ぶれである(以下、敬称略)。網膜硝子体は、門之園 一明(横浜市大医療センター)、 小児眼科は、佐藤 美保(浜松医大)、神経眼科は、若倉 雅登(井上眼科)、白内障・屈折は、根岸 一乃(慶応大学)、再生医療は、栗本 康夫(神戸市民中央病院)、精神的サポートは、安藤 伸朗(済生会新潟第二病院)、、、、、本学会では新鮮な、そして通常ではありえない面々のコラボである。

 各分野の専門家に「疾患ごとに求められるロービジョンケアのあるべき姿」を語って頂き、近い将来に必要となる新たなロービジョンケアの方向を模索してみたい。トップランナーが何を語るか?どんなシンポジウムになるか?今から楽しみである。多くの方々の参加を期待している。
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  第14回日本ロービジョン学会学術総会
  http://kurashiki.jslrr.org/     
 会期 2013年10月11日(金)~13日(日)     
 会場 倉敷市芸文館(〒700-0046 岡山県倉敷市中央1-18-1)     
 会長 田淵昭雄(川崎医療福祉大学 医療技術学部 感覚矯正学科 教授)

(文責:安藤伸朗)

 

案内:第212回(13‐10月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
 演題:「眼科医として私だからできること」
 講師:西田 朋美
          (国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部 眼科医長)
 日時:平成25年10月9日(水)16:30 ~ 18:00
 場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 

【抄録】
 私の父は、私が生まれる前にベーチェット病が原因で失明しており、おかげさまで、私は父を通して多くの視覚障害の方々と触れ合う時間があった。今思えば、ほぼ全員中途視覚障害の方々だったが、視覚障害で打ちひしがれているというよりは、むしろ明るく楽しい人たちが大半だった。 

 もともと、私は父が見えないことを知った幼少時から、どうして父は原因もわからない病気に視力を奪われたのだろう?という疑問と、父から視覚を奪った病気に対する悔しさもあり、就学前から、「大きくなったら目のお医者さんになる!」と周囲に公言していたほどだった。 

 そんな私が医者になって、今年は23年目である。眼科医として様々なことを経験させていただいたが、今の職場では、視覚障害、ロービジョンをテーマにした領域をメインに取り組んでいる。ときどき、患者さんを拝見しながら、自分の原点に引き戻されたような不思議な感覚に自分でも可笑しくなることがある。この領域にいると、私のこれまでの半生で経験したことが実に役立つ。 

 先日、退官した恩師よりお便りを頂戴し、そのなかで「いつの間にか先生の国立リハでの勤務年数も多くなったのですね。先生にとてもふさわしいお仕事ですので、今後とも一層ご活躍くださいますよう、大いにご期待申し上げます。」と書かれていた。 

 これからも初心を忘れず、使命感を持って、この領域で私だからできることを眼科医としてやっていきたいと思っている。

 

【略歴】
 1991年 愛媛大学医学部卒業
 1995年 横浜市立大学大学院医学研究科修了
 1996年 ハーバード大学医学部スケペンス眼研究所留学
 2001年 横浜市立大学医学部眼科学講座助手
 2005年 聖隷横浜病院眼科主任医長
 2009年 国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二診療部 眼科医長
  現在に至る 

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 興味があって参加可能な方は、遠慮なくご参加下さい。どなたでも大歓迎です(参加無料、事前登録なし、保険証不要)。
 ただし、お茶等のサービスもありません。悪しからず。

 今回の勉強会の一部は、「新潟大学工学部渡辺研究室」と「新潟市障がい者ITサポートセンター」のご協力によりネット配信致します。以下のURLにアクセスして下さい。下記のいずれでも視聴できます。
   http://www.ustream.tv/channel/niigata-saiseikai 
   http://nitsc.eng.niigata-u.ac.jp/saiseikai/ 
 録画はしておりません。当日の視聴のみ可能です。

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『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』
 1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。話題は眼科のことに限らず、何でもありです。
 参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。
 眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があります。

   日時:毎月第2水曜日16:30~18:00(原則として)

   場所:済生会新潟第二病院眼科外来 

*勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。
 1)ホームページ「すずらん」
  新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している音声パソコン教室ホームページ
  http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html

 2)済生会新潟第二病院 ホームページ
  http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html

 3)安藤 伸朗 ホームページ
  http://andonoburo.net/

 

【次回以降の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】

 平成25年11月13日(水)16:30~18:00
  「夢について」 
    櫻井 浩治 (精神科医、新潟市)

 平成25年12月11日(水)16:30~18:00
  「見えない・見えにくいという現実とのつきあい方」
    稲垣 吉彦 (有限会社アットイーズ;取締役社長) 

 平成26年01月8日(水)16:30~18:00
   演題未定
    加藤俊和(京都市)

 平成26年02月12日(水)16:30~18:00
   演題未定
    関 恒子 (松本市)

 平成26年03月12(水)16:30 ~ 18:00 
   「私はなぜ“健康ファイル”を勧めるのか」
     吉嶺 文俊( 新潟大学大学院 医歯学総合研究科総合地域医療学講座 特任准教授)