報告:第258(17-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会 小西明
日時:平成29年08月09日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
演題:済生会が目指すソーシャル・インクルージョンの実現
~人々の「つながり」から学んだこと~
講師:小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室)
【講演要約】
1 はじめに
近年、国家財政の悪化を理由に医療費の患者負担の増額、介護や社会保険料の引き上げなどが行われ、国の医療や介護、福祉経費は抑制され厳しさを増している。一方で障害者だけでなく低所得世帯の子どもや高齢者、引きこもりなどによるニートやホームレスなど、さまざまな理由による生活困窮者がマスコミで取り上げられている。総じて行政は、法制度の枠組みの中でのサービス給付は得意だが、非定型なニーズに対して実効性のある支援は苦手と言われている。社会には「公共の手」からこぼれ落ちる人たちがいて、昨今は、そういう人たちが増えている。
2 ソーシャル・インクルージョン(social inclusion)
1950年代、デンマークのバンク・ミケルセンは第二次世界大戦後に、知的障害者を持つ親の会の運動に関わっていた。当時の知的障害者は、隔離された大規模施設に収容され、非人間的な扱いを受けていた。そのような状況下で、親が「親の会」を結成して組織的に反対運動を展開した。ミケルセンは「どのような障害があっても、一般の市民と同等の生活・権利が保障されなければならない。障害者を排除するのではなく、障害をもっていても健常者と均等に当たり前に生活できるような社会こそがノーマルな社会である。」とした、ノーマライゼーション(normalization)の理念を提唱した。
ソーシャル・インクルージョンは、ノーマライゼーションを発展的に捉え、障害者だけでなく「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念である。炭谷茂済生会理事長は、ソーシャル・インクルージョンを済生会の目指す地域サービスの基本と提言している。
3 済生会のあゆみ
済生会は明治44(1911)年2月、明治天皇が「恵まれない人々のために施薬救療による済生の道を広めるように」との済生勅語に添えて、150万円を下賜されたことが始まりである。時の総理大臣桂太郎は、この御下賜金を基金として全国の官民から寄付金を募り、同年5月30日恩賜財団済生会が設立された。以来、100年以上にわたり創立の精神を引き継ぎ、保健・医療・福祉の充実・発展に必要な諸事業に取り組んでいる。医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立した。100年以上にわたる活動をふまえ、現在では、日本最大の社会福祉法人として全職員約59,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開している。
4 済生会の事業
社会福祉法人済生会は、定款の第1条に「本会は 済生会創立の趣旨を承けて済生の実を挙げ、社会福祉の増進をはかることを目的として全国にわたり医療機関及びその他の社会福祉施設等を設置して次の社会福祉事業等を行う。」とある。全国に病院・診療所などの医療機関を中心に、児童福祉施設や障害者福祉施設、高齢者福祉施設や看護専門学校の事業を運営している。
5 済生会新潟第二病院の特長
当院は生活保護法患者の診療及び生計困難者のための無料又は低額診療等を実施している。減免相談対象者は、生活保護適用外の生計困難者(年金生活、不安定就労など)やDV被害者、人身取引被害者等の社会的援護を要する方々などである。加えて、昨今の社会経済情勢の中で、医療・福祉サービスにアクセスできない人々が増加しつつあることから、済生会創立の理念に立ち返り、福祉の増進を図るため済生会生活困窮者支援事業「なでしこプラン」を積極的に展開している。
事業は、①DV被害者支援 ②更生保護施設「新潟川岸寮」の医療支援・社会貢献活動・研修会 ③外国籍住民のための医療相談会 ④東日本大震災避難者支援である。
また当院眼科では、地域貢献活動として、どなたでも参加できる眼科勉強会・新潟ロービジョン研究会・市民公開講座が開催されている。地域連携福祉センターでは、市民向けおきがる座談会、事業所向け出前講座などを開催している。
6 展望
(1)障害者をはじめ、全ての人々にやさしい病院
障害者をはじめ、子どもや高齢者など社会的弱者に「医療関係事業者向けガイドライン」に基づいた合理的配慮の視点による、より「やさしい病院」を目指してほしい。
(2)医療と教育の連携
県内にこども病院、小児療育センター、児童発達支援センターの開設が望まれる。また、 特別支援学校生徒の当院院内実習を通して、障害者の自立や社会参加への支援、職員への理解啓発を図っている現状を報告した。
(3)ソーシャル・ファームの開設
通常の労働市場では就労の機会を得ることの困難な者に対して.通常のビジネス手法を基本にして仕事の場を創出する。主たる対象は障害者であるが、高齢者、母子家庭の母親ニート・引きこもりの若者、刑余者、ホームレスなどである。当院がリーダーシップを発揮し、ソーシャル・ファームが早期に開設されることを望む。
(4)知的障害者の福祉型大学
インクルーシブ教育システム推進の観点から、将来は知的障害者が高等教育機関で学ぶことができる課程の創設が望まれる。当面は高等部卒業後の進路選択肢の拡大を目指し、現状の福祉制度を活用した類似施設の開設が考えられる。
【略 歴】
1977年 新潟県立新潟盲学校教諭
1992年 新潟県立新潟養護学校はまぐみ分校教諭
1995年 新潟県立高田盲学校教頭
1997年 新潟県立教育センター教育相談・特殊教育課長
2002年 新潟県立高田盲学校校長
2006年 新潟県立新潟盲学校校長
2015年 済生会新潟第二病院医療福祉相談室勤務
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【後 記】
今回は、小西明先生にお話して頂きました。小西先生は、長い間新潟県の教育畑に在籍し、主に視覚障害児の教育に関わってこられました。高田盲学校・新潟盲学校の校長を歴任され、退職後当院にお呼び致しました。
当院では、医療福祉相談室に勤務され多くの方面で活躍されています。一口に医療と教育の連携と言いますが、こうした人的交流がひとつの突破口になるのではないかと思います。
医療の現場での常識は、必ずしも教育の現場での常識ではありません。その逆も真なりです。小西先生の院内での発言は私たちに大きな影響力を持ち始めています。
今後ますますの小西先生のご活躍を祈念しております。
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@過去、小西先生にお話して頂いた講演を列記致しました。多くはandonoburo.netに登録してございます。
参考まで
●『新潟ロービジョン研究会2016』 小西 明
演題:「新潟県の訓矇・盲唖学校設立に尽力した眼科医」
講師:小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)
日時:平成28年10月23日(日)
場所:有壬記念館(新潟大学医学部)
http://andonoburo.net/on/5217
●第242回(16-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会 小西 明
演題:盲学校理療教育の現状と課題~歴史から学び展望する~
講師:小西 明(済生会新潟第二病院 医療福祉相談室)
日時:平成28年04月13日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
http://andonoburo.net/on/4655
●第226回(14‐12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題:視覚障害児者の福祉・労働・文化活動への貢献 ~盲学校が果たした役割~
講師:小西 明(新潟県立新潟盲学校)
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
日時:平成26年12月10日(水)16:30~18:00
http://andonoburo.net/on/3381
●第207回(13‐05月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:「インクルーシブ教育システム構築と視覚障害教育~盲学校に求められるもの~」
講師:小西 明 (新潟県立新潟盲学校:校長)
日時:平成25年5月8日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/1946
●第191回(12‐01月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:「新潟盲学校の百年 ~学校要覧にみる変遷~」
講師:小西 明 (新潟県立新潟盲学校 校長)
日時:平成24年1月11日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/3324
●第130回(07‐1月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:『眼科医・大森隆碩の偉業』
講師:小西明(新潟県立新潟盲学校長)
日時:平成19年1月10日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/3488
●第69回(2002‐2月) 済生会新潟第二病院 勉強会
演題:「縦断資料からみた視覚障害児の運動発達」
講師:小西 明(新潟県立教育センター)
日時: 平成14年2月13日(水)16:00~17:30
場所: 済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演抄録】 視覚的なハンディキャップが、視覚障害児の体力や運動発達のどのような側面に影響を及ぼすかを調べ、指導上の基礎資料を得るために、新潟盲学校に保存されているスポーツテストの縦断資料を検討した。その結果、男子生徒の形態の発育水準は普通児と変わらないが、全身運動の発達は低水準にあることが分かった。
報告:第257回(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会 新潟盲学校
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会
日時:平成29年07月05日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
1.「一人で生きないで」 中3年 女子
2.「ブラインドサッカー」 高2年 男子
【講演要約】
1.「一人で生きないで」 中3年 女子
「あなたは一人で生きようとしていませんか?」
私にもそういう時期がありました。ですが、この間私はライブに行ってきて、その演出の中で、「あなたは一人じゃない」と言われました。その言葉を聞いて、今まで思っていた「一人で頑張ろう」とか、「誰にも頼らない」というような考えが消えて、「少しくらい人に頼ってみようと思うようになりました。
私は前まで「一人で何でもできる」と思っていました。きっとそれは何か私の中でプライドのようなものがあり、一人でやることが「カッコイイ」とでも思っていたのでしょう。ですが、「あなたは一人じゃない」というこの言葉を聞いて、今まで自分がとんだ勘違いをしていたことに気がつきました。一人でできると思っていたことも、誰かがいなければできないということ。そんなことに今気づく自分が恥ずかしいです。
私は、周りの人に助けられたおかげで、「一人でできることをたくさん経験しました。例えば身近なことでいうと、「学校に行く」ということがあります。私は毎日電車通学なので、毎日親に駅まで送ってもらいます。そして、電車に乗り、新潟駅まで着いたら、スクールバスで学校まで向かいます。単純なことのように見えますが、この三つの移動だけでも、親、電車の運転手さん、スクールバスの先生や運転手さんなど、たくさんの方から助けてもらっていることがわかります。
それに、私は視覚障害者なので、周囲の状況をつかみにくいため、いろいろな場面で助けが必要になります。この発表の最初にお伝えしたライブの時も、双眼鏡を落とし、かなり困ってしまいました。なかなか見つけられず、辺りを見回していると、周りの方が私に気づいて、ライブを見たいはずなのに、一緒に探してくれました。私は感謝の気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。そして、これからは困っている人を見かけたら、声をかけて助けてあげられる人になりたいと思いました。
私ができることは限られているかもしれません。ですが、その中でできることで人助けをしていきたいです。「私は一人じゃない。」これからは、困っている時はお互い様で助け合いながら、一人で頑張らずにみんなで支え合っていきたい。だから・・・、あなたも私も一人じゃない。
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2.「ブラインドサッカー」 高2年 男子
「ボイ」「ボイ」という選手たちの大きな声。シャカシャカと鳴るボール。指示を出すガイドや監督。壁にぶつかる音。ブラインドサッカーでは様々な音が響きあいます。ブラインドサッカーは、視覚障がい者のために考案されたサッカーです。
小4の総合学習で初めてブラインドサッカーを体験し、目が見えなくてもサッカーができることを知りました。「もっと知りたい。」「プレーしたい。」と思い、体験会に参加し、練習を見学しました。はじめはボールに触って練習するだけで楽しかったのですが、中学時代は「試合に出たい!!」と思うようになり、ブラインドサッカーに対する思いが強くなっていきました。
高1の6月に本格的にブラインドサッカーを始めました。選手はアイマスクをしているので、意思表示や自分の位置を把握するために、声でコミュニケーションをとります。危険な衝突を避けるため、ボールを奪いに行く際は必ず「ボイ」と大きな声を出します。スペイン語で「行くぞ」という意味です。審判にこの「ボイ」が聞こえないと「ノースピーキング」とみなされ、ファウルになってしまいます。私は、最初は大きな声が出ず、何度も注意されていたので、審判にも聞こえるよう、大きな声を出すことを意識しながら練習に励みました。
昨年7月には、日本選手権に初出場し、緊張と不安でボールの音に反応するので精一杯でしたが、もっと上手くなりたいという気持ちが出てきました。課題もたくさん見つかりました。その後の体験会や練習試合を通して、私の課題の一つであった「自分の位置を把握すること」ができるようになりました。少しずつ大きな声も出せるようになってきました。そして我が新潟チームは、北日本リーグを全勝で優勝し、クラブチーム選手権への出場権を得ました。この大会には招待チームで世界王者ブラジル代表が出場します。ブラジル代表と対戦し実力を知るためにも、私たちはたくさん練習しました。
大会はブラジル代表が優勝し、我がチームは6位に終わりました。残念ながらブラジル代表とは戦えませんでしたが、見学してみて、スピードや風格は別次元でも、細かい技術では日本のチームも負けていないと思いました。この大会で私は、フリーキックやトップのポジションなど初めての経験が多くありました。これからはいつどのポジションを任されても対応できるように、また、チームで2人目の日本代表に選ばれるように日々の練習を頑張っていきます。
以前は、やる前から自分にはできないと決めつけ、あきらめることが多かった私ですが、ブラインドサッカーの試合で活躍できるようになり、自信がつき積極的に行動するようになりました。自分がしなければいけないことを理解し、行動するようにもなったのです。まだ、直さなければいけないところが多くありますが、自分で見つけて直せるように努力していきます。人生へのチャレンジ、「ボイ!」
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【後 記】
7月の勉強会は毎年、新潟県立盲学校の生徒に来て頂き弁論大会を行っています。私達にとっては、盲学校の生徒さんの主張をお聞きするいい機会ですし、また生徒にとっては、多くの市民の方に聞いてもらえるチャンスです。
毎年感じるのですが、盲学校の生徒の弁論は感動です。真直ぐです。前向きです。新潟にいながら、日本を、世界を見ています。この子供たちが、このまま成長してくれたらと願います。
@新潟県立新潟盲学校
http://www.niigatamou.nein.ed.jp/
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【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年08月09日(水)16:30 ~ 18:00
第258回(17-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「済生会が目指すソーシャル・インクルージョンの実現
~人々の「つながり」から学んだこと」
小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室)
http://andonoburo.net/on/6078
平成29年09月02日(土) 開場13時半 研究会14時~17時50分
新潟ロービジョン研究会2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)
2階会議室
テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
http://andonoburo.net/on/6059
1)司会進行
加藤聡(東大眼科)
仲泊聡(理化学研究所)、
安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
特別コメンテーター
中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
大島光芳(新潟県上越市)
2)プログラム
「眼科医40年 患者さんに学んだケアマインド」
安藤伸朗
(済生会新潟第二病院眼科)
「私と視覚障害リハビリテーション」
山田 幸男
(新潟県保健衛生センター/信楽園病院/
NPO法人障害者支援センター「オアシス」)
「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」
清水朋美
(国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科)
「ロービジョンケアとの出会い」
高橋政代
(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
全体討論
平成29年09月13日(水)16:30 ~ 18:00
第259回(17-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
小田浩一 (東京女子大学教授)
平成29年10月18日(水)16:30 ~ 18:00
第260回(17-10)済生会新潟第二病院眼科勉強会
済生会新潟第二病院眼科「目の愛護デー講演会」
「90歳が究め続けた緑内障の素顔と人生と」
岩田和雄 (新潟大学名誉教授)
平成29年11月08日(水)16:30 ~ 18:00
第261回(17-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
仲泊 聡(理化学研究所 研究員;眼科医)
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
会場:済生会新潟第二病院 10階 多目的室
演題:「人生の手応えを共にさがし求めて〜死にゆく人たちと語り合った20年〜」
講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)
http://andonoburo.net/on/5831
平成29年12月13日(水)16:30 ~ 18:00
第262(17-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
関 恒子(長野県松本市)
平成30年01月10日(水)16:30 ~ 18:00
第263回(18-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「ロービジョンケアを始めて分かったこと」
加藤 聡(東京大学眼科准教授)
報告:第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会 渡辺哲也
演題:「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
講師: 渡辺哲也(新潟大学准教授:工学部 人間支援感性科学プログラム)
日時:平成29年06月14日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
視覚障害は情報障害である。携帯電話・スマートホンは晴眼者のみでなく、全盲を含めた視覚障害者にも今や生活必需品である。今回の講演は、視覚障害者におけるデジタルデバイス(スマートホン・タブレット端末機器)の使用状況についてのレポートであった。大いに関心を呼んだ。渡辺先生は、2013年にも同様な調査をしており、今回は2017年度版で前回との比較も示して下さった。わが国でこのような報告は他になく、貴重な報告であった。
【講演要約】
1. はじめに
厚生労働科研費を得て、視覚障害者のICT機器利用状況調査を実施した。今回の調査の主たる関心事は、スマートフォン・タブレットの利用率は上がったか、視覚障害者用のアプリはどのくらい使われているか、スマートフォン・タブレットにおける文字入力方法はどのようなものか、などである。
2. 調査の実施と回答状況
調査の実施は、中途視覚障害者の雇用継続を支援するNPO法人タートルに委託した。タートルは、視覚障害者が主に参加する約50のメーリングリストで回答者を募集した。調査期間は2017年2月20日からの1ヶ月である。
有効回答者は305人(男性192人、女性113人)、全員メールで回答をしており、情報機器を使い慣れている人たちである。障害等級は1級の人が最も多く208人(68.2%)、2級の人が69人(22.6%)だった。視覚的な文字の読み書きができるかどうかという質問に「できる」と答えた人をロービジョン、「できない」と答えた人を全盲とすると、ロービジョンの回答者が90人(全回答者の29.5%)、全盲の回答者が215人(同70.5%)だった。
3. ICT機器の利用率
携帯電話(いわゆるガラケー)の利用率は全盲の人で60.9%、ロービジョンの人で54.4%だった。スマートフォンの利用率は全盲の人で52.1%、ロービジョンの人で55.6%だった。タブレットの利用率は全盲の人で14.4%、ロービジョンの人で38.9%だった。
2013年に同様な調査をしたときの結果と比べると、全盲の人、ロービジョンの人ともに、スマートフォンの利用率が倍増した。タブレットの利用率はロービジョンの人では約2倍まで伸びたが、全盲の人では伸び率は1.5倍程度であった。他方で携帯電話の利用率は、2013年のとき全盲の人で85.8%、ロービジョンの人で73.7%だったのに比べると20%程度低下した。
年齢別にスマートフォンと携帯電話の利用率を見ると、全盲の人、ロービジョンの人ともに、年代が下がるほどスマートフォンの利用率が高く、携帯電話の利用率が低い傾向が見られた。
スマートフォンやタブレットを使い始めた理由としては、様々なアプリが使えて便利と、読み上げ機能が標準で付いていることが上位の回答となった。 逆にこれらの機器を使わない理由としては、現状の機器で十分と、タッチ操作ができない、難しそうという回答が多かった。
4. 機種
スマートフォン利用者157人(全盲の人107人、ロービジョンの人50人)に利用している機種を尋ねた。全盲の人、ロービジョンの人とも最も利用者が多かった機種はiPhoneで、全盲者の91.1%、ロービジョン者の80.0%が利用していた。Android端末の利用者数は全盲者で7人(16.3%)、ロービジョン者で9人(18.0%)と少なかった。全盲のらくらくスマートフォン利用者の数は4人(3.6%)に留まった。ロービジョン者でらくらくスマートフォンを利用する人はいなかった。2017年3月時点で、日本におけるiPhone利用率が45%であることと比較すると、視覚障害者のiPhone利用率は非常に高い。
5. アプリ
スマートフォンで利用しているアプリを、全盲の人とロービジョンの人の回答を足し併せて多いものから並べると、通話、メール、時計、アドレス帳、電卓、歩数計、ブラウザ、スケジュール、写真を撮る、という順序になった。スマートフォンで使えるようになった便利な機能として、画像認識、光検出、GPS/地図/ナビゲーションなどがあるが, GPS/地図/ナビゲーションの利用者は全盲の人で20人足らずであり、利用者が多いとは言えなかった。
6. 文字入力
スマートフォンにおける文字入力方法を詳細に尋ねた。文字入力手段としてソフトウェアキーボードの利用者数が、全盲の人とロービジョンの人の両方で最も多かった。全盲の人では、音声入力とハードウェアキーボードの利用者も多かった。
ソフトウェアキーボードの種類としては日本語テンキー、ローマ字キーボード、50音キーボードがある。全盲の人ではローマ字キーボードと日本語テンキーの利用者が多く、それぞれの利用率は61.1%と55.8%であった。ロービジョンの人では日本語テンキーの利用者が最も多く、利用率は76.1%、
ローマ字キーボードの利用率は大きく下がり39.1%だった。
音声読み上げ(iPhoneではVoiceOver)をオンにすると、日本語テンキーにおける文字の選択・確定方法が変わり、ダブルタップ&フリック、ダブルタップ、スプリットタップなどのジェスチャが利用できるようになる。このうち、利用者が多かったのはスプリットタップとダブルタップであった。
7. 今後の仕事
スマートフォン・タブレットの利用状況の詳細のほかに、携帯電話・パソコンの利用状況についても、今後データを整理し、公表していく。
【略 歴】
1993年 北海道大学大学院工学研究科生体工学専攻修了
1994年から2001年 日本障害者雇用促進協会 障害者職業総合センター(Windows用スクリーンリーダ95Readerの開発ほかに従事)
2001年から2009年 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所(漢字の詳細読み「田町読み」の開発ほかに従事)
2001年から現在 国立大学法人 新潟大学工学部(触地図作成システムtmacsの開発ほかに従事)
併任で、筑波技術大学 非常勤講師、国立障害者リハビリテーションセンター学院非常勤講師、NHK放送技術研究所 客員研究員
【渡辺哲也先生の講演歴】
渡辺先生には、これまで本勉強会で2度、第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会で一度講演して頂いています。以下に、講演要約を記します。
1)第167回(10‐01月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題: 「視覚障害者と漢字」
講師: 渡辺 哲也(新潟大学 工学部 福祉人間工学科)
日時:平成22年1月13日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5940
2)第205回(13‐03月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:「視覚障害者とスマートフォン」
講師:渡辺 哲也 (新潟大学 工学部 福祉人間工学科)
日時:平成25年3月13日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5947
3)第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
特別企画『視覚障害者とスマートフォン』
講師:渡辺 哲也 (新潟大学工学部 福祉人間工学科)
日時:平成25年6月22日(土)
場所:チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間
http://andonoburo.net/on/2218
【参考資料】
・新潟大学 工学部 福祉人間工学科渡辺研究室新潟大学 ホームページ
http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/
・視覚障害者のパソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査2007
http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/PCUserSurvey/Survey2007/Survey2007Jp.html
・視覚障害者の携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコン利用状況調査2013
http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/handle/10191/27807
【後 記】
視覚障害は情報障害である。携帯電話・スマートホンは、全盲を含めた視覚障害者にも今や生活必需品である。今回の講演は、視覚障害者におけるデジタルデバイス(スマートホン・タブレット端末機器)の使用状況についてであった。大いに関心を呼んだ。渡辺先生は、2013年にも同様な調査をしており、今回は2017年度版で前回との比較も示して下さった。わが国でこのような報告は他になく、貴重な報告であった。
・視覚障害者(全盲の人、ロービジョンの人ともに)は、スマートフォンの利用率が2013年と比較して倍増した。一方で携帯電話の利用率は低下した。
・視覚障害者のスマートホン利用率は、地域に指導者がいるかどうかに大いに左右されるというコメントにも説得力を感じた。
・画像認識やGPSが活用されているかと思いきや、実際はメール・ブラウザ・歩数計等の方が利用率が高かった。
工学の成果を視覚障害者の情報に役立てようとしている渡辺研究室の研究を応援したい。そして目の不自由な方にとって便利で使いやすい情報機器がもっと発展することを願う。
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年07月05日(水)16:30 ~ 18:00 @第一週です
第257回(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会
http://andonoburo.net/on/5932
平成29年08月09日(水)16:30 ~ 18:00
第258回(17-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「済生会が目指すソーシャル・インクルージョンの実現
~人々の「つながり」から学んだこと」
小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室)
平成29年09月02日(土) 開場13時半 研究会14時~18時
新潟ロービジョン研究会2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)
2階会議室
テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
1)司会進行
加藤聡(東大眼科)
仲泊聡(理化学研究所)
安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
特別コメンテーター
中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
大島光芳(新潟県上越市)
2)プログラム
1.「ロービジョンケアとの出会い」
高橋政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
2.「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」
清水朋美(国立障害者リハセンター病院)
3.「私と視覚障害リハビリテーション」
山田幸男(NPOオアシス)
4.「眼科医療におけるキュアとケア」
安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
全体討論
http://andonoburo.net/on/5956
平成29年09月13日(水)16:30 ~ 18:00
第259回(17-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
小田浩一 (東京女子大学教授)
平成29年10月18日(水)16:30 ~ 18:00
第259回(17-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
済生会新潟第二病院眼科「目の愛護デー講演会」
演題未定
岩田和雄 (新潟大学名誉教授)
平成29年11月08日(水)16:30 ~ 18:00
第261回(17-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
仲泊 聡(理化学研究所 研究員;眼科医)
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
会場:済生会新潟第二病院 10階 多目的室
演題:「人生の手応えを共にさがし求めて〜死にゆく人たちと語り合った20年〜」
講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)
http://andonoburo.net/on/5831
平成29年12月13日(水)16:30 ~ 18:00
第262(17-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
関 恒子(長野県松本市)
平成30年01月10日(水)16:30 ~ 18:00
第263回(18-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
加藤 聡(東京大学眼科准教授)
報告:第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会 斎川克之
演題:地域包括ケアシステムってなに?−新潟市における医療と介護の連携から−
講師:斎川 克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター副センター長
新潟市医師会在宅医療推進室室長)
日時:平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要約】
■新潟市の概況
政令指定都市新潟市の概況は、以下のとおりです。人口80万、65歳以上の高齢者27.5%、75歳以上の後期高齢者13.6% 地域包括支援センター27カ所、要介護者数40,000人。急速に高齢化が加速している状況であり、2025年には、人口約76万人、65歳以上の高齢者30.3%、75歳以上の後期高齢者17.2%と試算されています。
■医療機関について
地域包括ケアシステムにおける医療の役割は極めて重要です。地域住民にとって最も身近で日々の健康相談含めたプライマリケアを担当してくださるのがクリニック・診療所です。初期診断と治療、そして場合によっては適切な病院への紹介など豊富な経験で地域の住民のかかりつけ医として機能を発揮します。また、関係機関にとっても地域住民にとっても圧倒的な信頼感と安心をあたえることのできる存在、それが病院です。病院にもいろいろな種別が存在します。大きくは4種類あり、高度急性期、急性期、回復期、慢性期です。それぞれの病院が機能と役割を果たしています。
■当院の概況
当院は、新潟市西部にある425床の地域医療支援病院です。当院がある新潟市内は、高度急性期や専門性の高い医療を担う医療機関が集中している地区です。その中にあり、当院の強みはまさに地域からの信頼の指標である「連携」です。医療連携を柱としながらも、近年は地域の多職種連携を含む地域連携に対する取り組みを積極的に行ってきました。その最前線で機能を発揮する部署が、地域医療連携室・医療福祉相談室・がん相談支援室・訪問看護ステーションの4部署から成る地域連携福祉センターです。
■医療福祉相談について
地域の方々にとって、最も知っていたきたい病院の窓口、それが医療福祉相談室、そして医療ソーシャルワーカーです。医療ソーシャルワーカーは、患者さんの病気の回復を妨げている色々な問題・悩みについて、本人(ご家族)と共に、主体的に解決していけるように相談に応じています。特に近年の急速な超高齢社会においては、退院支援の相談が最も多く、在宅での療養生活を見据えた丁寧な援助を行っています。
■地域の連携が強まるように
他の医療機関から、いかにスムーズに紹介患者を受け、またその後に地域に帰すか。そこには地域からの強い信頼関係を基盤とした連携の仕組みがあればこそであり、院内だけの取り組みだけでは不十分です。自院だけでなく「地域力」をいかに高めることができるか、地域の全体最適を考える必要があります。地域の各医療機関が持つ医療資源やマンパワーを合わせて、最大限に個々のパフォーマンスを発揮できるようにするための「接着剤」が地域医療連携室の役割だと考えます。新潟市では、市内8区に在宅における多職種が連携を深める会である「在宅医療ネットワーク」が20団体あり、各職種の相互理解、課題解決へのアプローチなどそれぞれの取り組みを積極的に行っています。当院は、西区を対象に「にいがた西区地域連携ネットワーク」の事務局を担い、会の企画運営などを行っています。
一方、介護保険法の地域支援事業には在宅医療・介護連携推進が大きく謳われております。そしてその推進の指標として(ア)から(ク)の項目を平成29年度中に実施すべきとされています。その中の1項目に「多職種連携の構築支援、関係機関からの相談窓口」があります。これを新潟市は、先に述べた在宅医療ネットワークの事務局を担ってきた病院の連携室に業務を委託する形をとり、名称を「新潟市在宅医療・介護連携ステーション」(以下連携ステーション)としました。またその連携ステーション11か所を束ねる役割として「新潟市在宅医療・介護連携センター」を新潟市医師会に委託しました。いわゆる在宅医療介護連携のノウハウを持ち合わせた病院の連携室に、この事業の最前線を委ねた結果となりました。地域住民の相談窓口である地域包括支援センターと連携ステーションの両輪が機能を発揮しているところが新潟市の大きな特徴です。
■地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステム構築の取り組みにおいて、近年、医療介護分野では目まぐるしく制度の変革が行われてきました。現在、全国の各市町村は主体的に、この地域包括ケアシステムの構築を進めています。これまで述べてきたように、新潟市においては、病院や診療所などの医療機関と介護・福祉の事業所などとの協力体制を強めてまいりました。今一度、地域包括ケアシステムとは何か。正直に言って「これ」と指を指せるものはありません。言葉で表現するならば、「地域のみなさんが、健康な時も、病気になった時も、どんな時も、今まで住み慣れた地域で安心して暮らすことのできるまちづくり・地域づくり」を根底とし、市区町村が中心となり、「住まい」を中心に「医療」「介護」「生活支援・介護予防」を包括的に体制整備していくこと。その実現のためには、医療と介護、そして福祉の途切れのない連携体制はもちろんのこと、ヘルスケアに関連するさまざなまな領域の方々、そしてもっとも主役となる地域の住民の方々との広い連携、そして参加できる場が最も重要となります。
【略 歴】斎川 克之(さいかわ かつゆき)
・社会福祉法人恩賜財団済生会 済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
・一般社団法人 新潟市医師会 在宅医療推進室 室長
職種:社会福祉士、医療ソーシャルワーカー、医療福祉連携士
平成 7年/新潟県厚生連・在宅介護支援センター栃尾郷病院SWとして就職
平成 9年/済生会新潟第二病院に医療社会事業課MSWとして就職
平成22年/地域医療連携室 室長
平成27年/地域連携福祉センター 副センター長
平成27年/新潟市医師会在宅医療推進室長 併任
【後 記】
斎川氏は当院ばかりでなく全国でも活躍している医療福祉支援の専門家。流石に非常にわかりやすく、しかも丁寧なお話でした。参加者の関心も高く、盛り上がった勉強会になりました。
講演後のフリートークでは、「包括さん」には大変お世話になったなどの好意的な発言もありましたが、容赦のない発言・質問も炸裂。
・「自分ファースト」の時代に共生社会を作ろうというのは、「絵に描いた餅」ではないか?
・医療介護連携の区割りが、病院ベースだ。町内会や小学校校区ベースがしっくりする。
・学生からは、学生実習で南魚沼に行ってきたが、4世代家族の奥さんは生き生きしていた。新潟との違いを感じたとのコメントもありました。
なんといっても印象的だったのは、斎川さんの非常に真摯な姿勢でした。ICTが流行っている世の中ですが、こうした人と人の触れ合いが物事を進めていくのだと、斎川さんを見て学びました。
議論百出で終わりそうにない勉強会でしたが、こんなコメントで締めくくりました。
「自分の健康や親の介護を人任せではなく、先ずは自分で考え、こういう包括システムを学ぼうということが大事ではないか。かつては「長男の嫁」が親の介護を担ってきた。しかし世界にも稀な長寿国となると、それも難しくなってきた。今、国は大きく体制を変えようとしているが、その実態は地方自治体に任されている。そんな状況下で、なんとか皆が上手く生きていこうという社会を作るために、多くの困難に立ち向かっている斎川さん達の活動を、私たちが支援したい。」
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年06月14日(水)16:30 ~ 18:00
第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部工学科人間支援感性科学プログラム)
平成29年07月05日(水)16:30 ~ 18:00 @第一週です
第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会
平成29年08月09日(水)16:30 ~ 18:00
第258(17-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「済生会が目指すソーシャル・インクルージョンの実現
~人々の「つながり」から学んだこと」
小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室)
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平成29年09月02日(土)
新潟ロービジョン研究会2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)
2階会議室
時間:開場13時半 開始14時~終了18時
テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
1)司会進行
加藤聡(東大眼科)
仲泊聡(理化学研究所)
安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
特別コメンテーター
中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
大島光芳(新潟県上越市)
2)プログラム
1.「ロービジョンケアとの出会い」
高橋政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
2.「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」
清水朋美(国立障害者リハセンター病院)
3.「私と視覚障害リハビリテーション」
山田幸男(NPOオアシス)
4.「眼科医療におけるキュアとケア」
安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
全体討論
http://andonoburo.net/on/5818
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平成29年09月13日(水)16:30 ~ 18:00
第259(17-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
小田浩一 (東京女子大学教授)
平成29年10月18日(水)16:30 ~ 18:00 @第3週です
第259(17-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会
済生会新潟第二病院眼科「目の愛護デー講演会」
演題未定
岩田和雄 (新潟大学名誉教授)
平成29年11月08日(水)16:30 ~ 18:00
第261(17-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
仲泊 聡(理化学研究所 研究員;眼科医)
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平成29年11月18日(土)
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
会場:済生会新潟第二病院 10階 多目的室
日時:平成29年11月18日(土)午後
演題:「人生の手応えを共にさがし求めて〜死にゆく人たちと語り合った20年〜」
講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)
http://andonoburo.net/on/5831
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平成29年12月13日(水)16:30 ~ 18:00
第262(17-012)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
関 恒子(長野県松本市)
報告:第254回(17‐04月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 小島紀代子 他
演題:「私たちの出前授業45×2
~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」
講師:小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
日 時:平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
場 所:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要旨】
平成10年、「総合学習」が創設。地域の多様な立場の人と交流・体験を通し、「思いやりの心、生きる力」を育てる学びの場が地域に拓かれました。平成9年、オアシス主催「第1回学生、子どもたちのためのサマースクール」が、「目の不自由な人をもっと知ってもらうために」「誰もが誘導歩行できる社会に」を目指し開催、昨年20回を迎えました。
1.出前授業の変遷
「見えない人の体験談・誘導歩行」の依頼を受け、双方が戸惑いながらの始まりでした。体育館で当事者が一人で語り、そのあと二人一組になり「誘導歩行体験」。子どもたちは、「見えないと怖~い。大変。だから道で会ったら助けようと思います。」の感想が大半でした。
私たちは、「総合学習」のあり方に疑問を感じ検討しました。・アイマスク体験は、怖い思いと「かわいそう」だけが残り、逆効果の恐れ。・ひとり語りは、特別な人に感じられ真の姿が届きにくい。そこで、① 視覚障害者の全体像を伝えるために、「言葉」だけでなく「映像の力」を。② 体験談は、一人語りからインタビュー形式に。③ 体験学習はグループ別に分けて行う 「誘導」、「機器や道具」、「弱視メガネ・白杖」。④ 障害者の差別偏見と「今」の子どもたちの問題から、『感じ・考える』授業に。
2.小学校4年生の最近の授業風景
1) ~スライドを映しながら~
・視覚障害者の全体像(全盲・ロービジョン・中途・先天盲。見え方のいろいろ)。・オアシス物語(一人の自殺者と内科医師の取組み)。・目のリハビリテーション(こころのケア・歩行・調理・化粧・パソコン・機器・道具の訓練)。・オアシスの特徴(次の人のために教え合い、支え合う教室)
~目をつむっての体験~~
Q.もし君たちが見えなくなったらどんな気持ち?
A.隣の人がみえない、いやな気持ち。 どこにいるかわからない、不安になる。
Q.見えなくなったら、何もできなくなるのかな?
・「みかんや物を触ってもらう」・・・他の感覚を使う。
・「自分の名前を書いてもらう」・・今までの経験の力を使う。
2) ~インタビュー形式の語り~
当事者の以前の職業などを映し、子どもたちからスライドを説明してもらう。当事者の心の内をカミングアウトする。
Q. 見えなくなって困ることは?
A. 死にたくなった、つらかった、白杖が持てない、好きなこともある。元気になれたのはネ。
Q. 見えなくなって、よかったことは?
A. 「よいことなんか、ひとつもないけど、君たちに会えた」「小さいことにも感謝できる」「本当の仲間に出会えた」「パソコンができた」
@悲しみ・苦しみから、楽しみ、喜びなど、ありのままを真剣に語る当事者と聞く子どもたち。
3) ~「パソコン・iPad・機器・道具」の紹介~
@子どもたちは、驚き、それを使い生活する当事者へ尊敬のまなざし。
4) ~『考える』授業~
Q1.「もし、君たちのお父さん、お母さんが見えなくなって、白杖が持てないと言ったら?」
A.・僕が誘導するからいい。 危ないから家族を説得する。 オアシスに相談する。
・お父さんの誕生日に盲導犬をプレゼントする、それまでは仕方ない。
Q2.「もし君たちが見えなくなったら、白杖持てますか?」
A.(持ちたくないと答えた子) ・だって見下されるから ・恥ずかしいから ・もちたくないから
(持つと答えた子) ・仕方ないじゃん、生きていかなければならないから。
Q3.白杖と盲導犬だったら、どっち?
A.ひとりで歩くと淋しい、不安だから盲導犬を持つ ・僕は白杖も盲導犬も持つ。
Q4.「点字ブロックは、車椅子の人には迷惑、視覚障害者には必要。どうしたらいいかな?」
A.「簡単じゃん・・・片方は車いす用に、もう片方は、点字ブロックを敷く。」
3.中学校 「いじめ」問題を意識しての授業
重複障害で重い障害のAさんは、周囲に助けを求め仕事を継続。軽い障害のBさんは、周囲に助けを求めず隠していたため孤立化し仕事を辞めた。Aさんは「反対の立場だったら私も隠した」と。Bさんは、淡々と苦しみを語り、中学生も先生も共感!感じてもらえた授業。
4. 最近の子どもたちの感想文
・白杖を持ちたくない気持ちが、すごーくわかりました。・目の不自由な人は、かわいそうではありません。普通の人と同じことができて凄い。・「目のリハビリ」があることにびっくりした。(多くの子どもたちからも)・調理したり、パソコン、アイパッド、携帯電話が使える。拡大読書器もすごいです。・目が不自由でも、楽しいことがあるということ。仲間が増え、パソコンができること。・ぼくは、差別しないと決めました。なんでもない人でも困っていたら、「どうしましたか?」って聞いて助けてあげます。・仕事のこと、いやな思い、見えなくなった時のショックなど、悲しい気持ちで聞きました。・話したくないことを話してくれた。感謝しています。強い人でした。・目の不自由な人が次の人に教えてあげる。気持の分かる人が教えるのはいいことです。
5・まとめ
最後に、見えない人のハーモニカで力強く歌い、「ありがとう」と握手する子どもたち。まっすぐな心で感じ、聴いてくれた子どもたちが教えてくれました。
「仕方ないじゃない・・生きていかなければだめだから」「僕は白杖も盲導犬も持つ」「私はデイズニーランドのキャスターになりたい。もし働くことになったら、不自由な人のために、いっぱいアイディアをだしたい」 (4年女子)
「出前授業45×2」は、私たちに「生きる勇気」を、未来に「希望」を感じさせる時間でした。
【メンバー紹介】
小島紀代子(事務局・相談員・視覚障害リハビリテーション外来)
小菅茂 (福祉機器普及員・テープ起こしワーク員)
入山豊次 (福祉機器普及員・グループセラピー・テープ起こしワーク員)
吉井美恵子(パソコン指導員・同行援護養成講座指導員・盲ろう者通訳介助員)
三留五百枝(フットケア&健康相談員・テープ起こしワーク員・看護師)
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NPO法人障害者自立支援センターオアシスの紹介
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1.「視覚障害リハビリ外来」1994年開設(月2回)
中央から視覚リハ専門の先生お2人と眼科医・内科医による、「就労・進学などの悩み相談」「移動・歩行のリハビリテーション」「拡大鏡・遮光眼鏡の選択、指導」「パソコン・iPad・拡大読書器」「日常生活用具」「福祉制度」の紹介と使い方指導等。
2.「日常生活訓練指導」~リハビリ外来と連携~(週4回)
「パソコン・機器の使い方指導」「調理・化粧教室」「転倒予防運動」等。
3.「こころのケア」
外来の先生方によるカウンセリング、「グループセラピー」「昼食会・カフェ」ほか。お茶やお話を楽しむ方、いろんな方たちとの交流の場を提供。
4.「地域社会貢献~地域の人と共に~」
「白杖・誘導歩行・転倒予防講習会」「サマースクール」「看護学生実習施設」「同行援護従業者養成講座」「出前授業」等。スタッフは眼科医・内科医、日常生活訓練士、元盲学校の先生、栄養士、看護師、保健師、MSW、機能訓練士他さまざまな職種の方、視覚障害者、その家族、ボランティア。
*「獲った魚を与えるよりも、魚の獲り方を教えよ」の精神で自立支援を行い23年。就労者の増加、「今」を受け止め明るく暮らす方たちが「希望」です。
http://userweb.www.fsinet.or.jp/aisuisin/
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【追 記】
オアシスグループの見事なステージでした。小菅さんを中心に練りに練ったスタイルで、小島さんのナレーション、入山さんの語り、吉井さんと三留さんのプレゼンと時間いっぱいに使ったショー形式の講演でした。
子どもたちに目の不自由な人の生活を教えるだけでなく、感じてもらう、考えてもらう工夫が溢れていました。私たちは時々参加しながら、なるほどなるほど、ほーそうだったのか、と感心しながら拝見していました。まさに「子供は未来」と感じました。そして子供と接することで、関わった大人達も生き生きしてくることが良く判りました。
オアシスの皆さん、ありがとうございました。
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「地域包括ケアシステムってなに?−新潟市における医療と介護の連携から−」
斎川克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
新潟市医師会在宅医療推進室室長)
平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム)
平成29年07月
第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
平成29年08月09日(水)16:30 ~ 18:00
第258(17-08)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
小西 明(済生会新潟第二病院医療福祉相談室、前新潟盲学校長)
平成29年09月02日(土)午後
新潟ロービジョン研究会2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)
2階会議室
テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
1)司会進行
加藤聡(東大眼科)、仲泊聡(理化学研究所)、
安藤伸朗(済生会新潟第二病院)
特別コメンテーター
中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
大島光芳(新潟県上越市)
2)プログラム
1.「ロービジョンケアとの出会い」
高橋政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
2.「眼科医オールジャパンでできるロービジョンケアを考える」
清水朋美(国立障害者リハセンター病院)
3.「私と視覚障害リハビリテーション」
山田幸男(NPOオアシス)
4.「眼科医療におけるキュアとケア」
安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
全体討論
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
会場:済生会新潟第二病院 10階 多目的室
日時:平成29年11月18日(土)午後
演題:「人生の手応えを共にさがし求めて〜死にゆく人たちと語り合った20年〜」
講師:細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)
報告:第252回(17‐02月)済生会新潟第二病院眼科勉強会 宮坂道夫
演題:「物語としての病い」
講師:宮坂道夫(新潟大学医学部教授)
日時:平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要約】
21世紀の医療には、あまり目立ちはしないが「物語論」という静かな潮流がずっと流れ続けている。日本語の「物語」は、英語のstoryやnarrativeに対応している。このうちnarrativeという英語が、最近の医療ではカタカナでそのまま使われることが増えている。物語論の考え方を応用した様々な実践がなされていて、これを一括りにして「ナラティヴ・アプローチ」とか「ナラティヴ実践」と呼んでいる。
ナラティヴ・アプローチにはきわめて多様なものが含まれるが、「物語への向き合い方」という視点で捉えれば、3つの系統に分類できる。まず、医療者が患者という「他者」の経験を、当人の文脈のなかで理解しようとする実践群がある(これを仮に「現象学的実践」と呼んでおく)。
1990年代末に、「エビデンス・ベイスト・メディスン evidence-based medicine」(文献的根拠に照らして最善の治療法を選択しようという考え方)の行き過ぎを憂慮した医師たちが提唱したのが「ナラティヴ・ベイスト・メディスンnarrative-based medicine」であったが、そこには、「医療者は専門性の枠組みの中で病気を捉えるが、病気を抱えているのは患者であり、その経験は医療者にとって容易に理解できるものではない」という問題意識があり、治療方針の選択については「疾患が患者にもたらす影響は、その当人の人生史や価値観によって左右されるのだから、医療者は文献上のデータではなく、個々の患者の人生の文脈において最善と評価できる治療・ケアを選択すべきだ」という発想の転換があった。
第2の系統は、「物語」をケアとして用いる実践群である(仮に「ケア的実践」と呼んでおく)。 これは、1970年代に心理療法の中から誕生したナラティヴ・セラピーと呼ばれる一群の実践に端を発している。そこでは、患者の「自己物語」と「認知・経験」とが矛盾することで心理的問題が生じると見なされ、治療者が患者に「自己物語の書き換え」を促すことが、ケアの目標となる。ナラティヴ・セラピーは、気分障害、発達障害、トラウマ、アディクション、摂食障害、DV等々の多岐にわたる「心の病」を抱える人たちのためのものであるが、そこに散りばめられていた斬新なアイデアは、もっと広い範囲の対象に適用できるのではないかという期待を強く抱かせた。
講演では、食事を取ったことを忘れてしまった認知症患者への声かけを考えた。認知症患者の脳は、認知機能は低下するが情動機能は維持されているとされる。そのため、食事をしたことを思い出させようとするあまり、相手の自尊感情を損なうようなコミュニケーションは望ましくない。「食事を取らなければいけない」という患者の「自己物語」を他人が無理に変更させることで、患者の脳では「否定された」という情動が働いてしまう。むしろ、「わかりました。ご飯の準備をしておきますね」等と、自尊感情に配慮した声かけをすることで、「認知・経験」との矛盾を拡大させずに、「食事を取らなければいけない」という気持ちがやわらぐのを待つ方がよい。
第3の系統が、筆者が専門的に取り組んできた、医療倫理の方法論としてのナラティヴ実践である。そこでは「倫理的問題は当事者の物語の不調和で生じる」と見なして、「対立し合う物語の調停」を試みる(仮に「調停的実践」と呼んでおく)。
講演では、意識回復が望めない脳梗塞患者に胃瘻を造設するか否かが問題になった事例を考えた。妻は「本人は延命治療をしないでほしいと言っていた」と反対し、息子は「このまま死なせるのは忍びない。打てる手があるならお願いしたい」と実施を求めた。ここにあるのは、患者との関わりや、歩んできた道のりの違いに根ざす「思い」のズレであり、このズレを「妻の物語と息子の物語の不調和」と捉えることで、それを解消するためにどんな対話をこの2人としていけばよいのかを考える道が開けてくる。例えば、妻は患者の気持ちを代弁しているように思えるが、自分自身の気持ちはどうなのかを聞いてみてはどうだろうか。息子が抱いている父親への思いには大いに共感できるが、胃瘻の効果を医学的に考えてみると、この状態の患者に「胃瘻を作らない」ことが、必ずしも「何も手を打たないこと」とは言えないように思えることを伝えてみてはどうか。
以上が講演の概略であるが、これらが眼科領域にどのように適用できるのかは、これまでほとんど考えたことがなかった。特に、ナラティヴ実践の中には視覚的なもの(紙芝居や絵本を作ったり、写真やビデオを用いたりする実践など)もあるが、これらはそのままでは適用することができない。しかし、講演後に視覚障害を持つ方から出された感想や意見をうかがうと、彼らが私の話を細部に至るまで丁寧に聞いてくれており、しかも自分の経験に照らして様々な発想を展開していることに驚かされた。視覚障害者にとっての「物語」の豊かさを感じたとともに、彼らとともに様々なナラティヴ・アプローチを試みることも、眼科の医療にとって意味があることのように思えた。
【略 歴】
1965年長野県松本市生まれ。
早稲田大学教育学部理学科生物学専修卒業、大阪大学大学院医学研究科修士課程修了、東京大学大学院医学系研究科博士課程単位取得、博士(医学、東大)。専門は医療倫理、ナラティヴ・アプローチ(医療における物語論)など。
2011年より新潟大学医学部保健学科教授。
著書に『医療倫理学の方法 - 原則, 手順, ナラティヴ』(医学書院)、『ハンセン病 重監房の記録』(集英社)、『専門家をめざす人のための緩和医療学』(共著、南江堂)、『ナラティヴ・アプローチ』(共著、勁草書房)など。
宮坂道夫研究室ホームページ
http://www.clg.niigata-u.ac.jp/~miyasaka/
【後 記】
宮坂道夫先生は、全国区で活躍している生命倫理の大家です。眼科領域でも臨床眼科学会で講演して頂いたり、「日本の眼科」に投稿して頂いています。
今回のお話は、「病いの物語」という演題でお話して頂きました。EBM(evidence-based medicine,根拠に基づく医療)が大流行りの今日、NBM(Narrative Based Medicine)をテーマとしたお話です。
私が理解した先生のお話は、、、、、物語(ナラティブ)に基づいた医療。物語とは何か?アリストテレス(BC384年 – 322年)によると、物語は「再現・シークエンス(展開)・登場人物・感情を揺さぶる」と集約できる。 NBMでは、傾聴・関係性・ケアが基本。一言でいうと、医師は医療の標準化を求めEBMに精を出す。一方、NBMは患者目線での個別化医療。以下の言葉が、印象に残りました。他者理解のNBMとケアの実践のNBM、「無知のアプローチ」、「スニーキー・プー」、問題の外在化、「人生紙芝居」
今回も、色々な角度から物事の本質を見つめる宮坂先生の世界を知り、大変勉強になりました。
宮坂先生の益々のご活躍を祈念致します。
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
栗原 隆(新潟大学人文学部教授)
http://andonoburo.net/on/5636
平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「私たちの出前授業 45×2
~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」
小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「地域包括ケアシステムってなに?−新潟市における医療と介護の連携から−」
斎川克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
新潟市医師会在宅医療推進室室長)
平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
4月から(新潟大学 准教授:工学部工学科人間支援感性科学プログラム)
平成29年07月
第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
平成29年09月02日(土)午後
新潟ロービジョン研究会2017 予定
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)
2階会議室
テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
1)司会進行
加藤聡(東京大学眼科)、仲泊聡(理化学研究所)
2)演者
高橋政代(理化学研究所)
清水朋美(国立障害者リハセンター病院)
山田幸男(NPOオアシス)
安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
3)特別コメンテーター
中村 透(川崎市視覚障害者情報文化センター)
大島光芳(新潟県上越市)
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)
報告:第251回(17‐01月)済生会新潟第二病院眼科勉強会 大石華法
演題:「ブラインドメイクは、世界へ
-視覚障害者である前に一人の女性として-」
講師:大石 華法(一般社団法人日本ケアメイク協会)
日時:平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要約】
視覚に障害がある女性を対象に,自分自身で鏡を使わずにフルメーキャップができる化粧技法「ブラインドメイク」を考案したことをきっかけとして,2010年10月10日よりケアメイク活動をスタートし,6年間の活動を経て,2016年12月5日に一般社団法人日本ケアメイク協会を発足しました.
今,「ブラインドメイク」は,日本の視覚障害女性の笑顔支援に留まることなく,世界の視覚障害女性の笑顔支援につながっています.
1.視覚障害者に化粧は不要か?
「視覚障害者に化粧のニーズがあるのか?」「化粧をしても目が見えないのに,化粧する意味があるのか?」「目が見えないのに,化粧をさせるとは無茶なことだ」「そもそも彼女たちに化粧の話をすることは(出来ないのに)失礼なことだ」など意見が飛び交うなか,視覚障害の女性は,視覚に障害があるけれども「女性」であることに晴眼者の女性たちと何ら変わりはない.女性は死んでも死化粧をする.そこまで化粧は女性にとって重要なものとして扱われている.化粧は女性の尊厳を支えるアイテムであると言っても過言ではないと考えました.そのため,視覚に障害があることで,本当に化粧を諦めてもいいのだろうか?しなくていいのだろうか?それが本当に彼女たちの望んでいることなのだろうか?いや,そんなはずはない.私と同じ「女性」なのだから.と自問自答を繰り返す日々が続いていました.
2.視覚障害者理解不足が「障害」に?!
ある日,一人の視覚に障害のある女性が「私はいつか目が見える時がきたら,化粧をしたいの・・・」と言って,1本の口紅を鞄の中に入れて持ち続けている女性の姿を見て,視覚障害の女性は目に障害があっても「女性だ!」と強く認識しました.
それからは,視覚障害の女性と出会っても,同じ「女性」のスタンスで接することで,「目が見えない人」ということが気にならなくなりました.それどころか,一緒に“女子トーク”を楽しみ,“視覚障害者のアルアル話”を彼女たちとするようにまでなりました.
ここで分かったことは,視覚障害者は,確かに身体の目の部分に「障害」はあるけれども,晴眼者側に視覚障害者理解が足りておらず,その理解不足の部分が,各自の思い込みや先入観(私はこのことを晴眼者側の「障害」と呼んでいます)を作りだしているのではないかということでした.
3.女性の「美しくなりたい」という気持ちに寄り添う
ブラインドメイクを指導する化粧訓練士の研修生たちに「視覚障害者と同行している時に,目の前に階段とエレベーターとエスカレーターがあれば,援護者はどうしますか?」と質問します.そうすると,「エレベーター」「エスカレーター」と,身体に負担が少ない,あるいは,容易に行く方法を考えます.しかし,答えは「本人に尋ねる」がよいことを話します.そして,目の前に「階段」「エレベーター」「エスカレーター」があるという情報を提供することの大切さを教えています.この回答を述べると,皆が「そっか!」と認識します.つまり,どうするかは援護者側が勝手に良かれと思ったことを実行するのではなく,本人にまず情報提供をして,本人が決めるという自己決定を尊重することの意味を話します.
そして,次の質問では「視覚障害の女性はお化粧するしないは誰が決めるのでしょうか?」それは「本人」が決めることで,周囲が勝手に視覚障害者は化粧を「する」「しない」「できる」「できない」を決めるのではないことの理解を深めていただいています.
最後に,「よく『当事者の気持ちに寄り添うことが大切だ』と言われていますが,視覚障害の女性の気持ちに寄り添えることは何でしょう?」という部分に触れます.回答は,「視覚に障害がある前に,その人を一人の『女性』であるということ.女性であるならば『美しくなりたい』という気持ちがあることを,認識して理解すること」と述べています.これらの回答は,ブラインドメイクができるようになった視覚障害の女性たちが,ケアメイク女子会で述べていたことを参考にしました.
4.「ブラインドメイク」は世界へ
「ブラインドメイクは我々医療では手の届かない患者さんを笑顔にする不思議な力を持っている」と、安藤伸朗先生(済生会新潟第二病院)は仰ってくださっています.ブランドメイクは,単に視覚障害者が鏡を見ないで,綺麗にフルメーキャップすることができる化粧技法のみではなく,“笑顔”につながっています.その笑顔は,見ている晴眼者の顔にも“笑顔”にする力があります.ブラインドメイクは「笑顔支援」だと言っていますが,その笑顔支援は今や国境を越えて世界へ広がっています.
それはなぜでしょう?世界にいる視覚に障害のある女性たちも,障害がある前に,一人の「女性」だということです.
大石華法 プロフィール
大阪府生まれ。日本福祉大学大学院福祉社会開発研究科社会福祉学専攻博士課程。高齢者・認知症患者・視覚障害者・精神障害者を対象とした、化粧の有用性に関する研究を行っている。主な研究論文に「ロービジョン検査判断材料としてのブラインドメイクの検討」「Family Support for Self-realization of the Visually Impaired Woman with Hereditary Blindness in a “Blind Makeup Lesson Program”」など。
一般社団法人日本ケアメイク協会理事長。
日本ケアメイク協会:http://www.caremake.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/caremake
活動履歴 http://www.caremake.jp/?page_id=42
@本勉強会で「ブラインドメイク」の講演は3年連続
2年前この勉強会で、大石華法さんにブラインドメイクの講演をして頂き、昨年は岩崎さん・若槻さんが講演。今回の大石さんの講演で3年連続になります。下記ご参照ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
報告:第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:「視覚障害者の化粧技法について~ブラインドメイク・プログラム~」
講師:大石華法(日本ケアメイク協会)
日時:平成27年02月4(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/3418
報告:第240回(16-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会 若槻/岩崎
演題:「ブラインドメイク 実践と体験」
講師:岩崎 深雪(新潟市;盲導犬ユーザー)
若槻 裕子(新潟市:化粧訓練士)
日時:平成28年02月17日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
http://andonoburo.net/on/4538
【後 記】
新潟で行われた勉強会にもかかわらず、わざわざ大阪と神戸から2名の参加があり、地元新潟の化粧訓練士・訓練生・視覚障害者を加えた5名が会場前方で揃ってブラインドメイクの実演、まさに壮観でした。
講演もパワフルで大石節全開でした。今回の講演で、ブラインドメイクのことを「たかがお化粧」などと言ってはならないことを再度確認できました。それまで家にこもりがちだった視覚障害の方が、お化粧することで生き生きとしてきて、本人が変わるだけでなく、家庭も地域も明るく変えるのです。また認知症の方へのメイクが効果あるというお話も新鮮でした。ケアメイクをするようになって娘さんと女子トークが出来るようになったというお話にも感動しました。これは実際にそういう方を見てみないと分からないのですが。私自身、新潟の視覚障害をお持ちの女性が、ブラインドメイクのお蔭で、どんどん見違えるように活発になっていくさまを目の当りにして、感動しました。
まさに医療ではできない笑顔を取り戻すことを可能にする魔法だと思いました。大石さんの、一般社団法人日本ケアメイク協会のブラインドメイク、ますますの発展を応援したいと思います。
PS:大石先生から下記伝言がありました。
「書籍出版のご支援をお願いします」
現在、ブラインドメイクをマスターした視覚障害の女性たち10名に「ブラインドメイク物語,それぞれの想い」を執筆してもらってます.
・「目が見えなくても化粧ができた!」彼女たちの想いを本にしたい!
(執筆:大石華法・「ブラインドメイク」体験者10名 136ページ予定
価格:3,240円(税込)判型:A5判 株式会社メディカ出版 fanfare企画)
300冊購入支援者がいれば,書籍になるそうです.
何冊でも結構ですので,ご支援お願い致します.
下記URLから支援登録が出来ます。
https://fanfare.medica.co.jp/book/projects/ohishi/
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「物語としての病い」
宮坂 道夫(新潟大学医学部教授)
http://andonoburo.net/on/5482
平成29年02月25日(土)15時~18時
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
パネリスト
・平形 明人(杏林アイセンター 主任教授)
「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
http://andonoburo.net/on/5303
・高橋 政代(理化学研究所 プロジェクトリーダー)
「網膜再生医療とアイセンター」
http://andonoburo.net/on/5331
・清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
http://andonoburo.net/on/5336
オーガナイザー
安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
栗原 隆(新潟大学人文学部教授)
平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「私たちの出前授業 45×2
~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」
小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「地域包括ケアシステムってなに?−新潟市における医療と介護の連携から−」
斎川克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
新潟市医師会在宅医療推進室室長)
平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
4月から(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム)
平成29年07月
第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
平成29年09月02日(土)午後
新潟ロービジョン研究会2017 予定
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
テーマ:「私と視覚リハビリテーション」
詳細未定
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長;滋賀県近江八幡市)
報告:第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (清水美知子)
演題:杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
講師:清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
日時:平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
【講演要約】
1. 歩行手段として
視覚障害がある人が街を歩く場合、杖、犬、人の三つの手段があり、外出ごとに行き先、距離、交通機関などを考慮して、一つまたは複数の手段を選択して歩いている。
1)杖(ロングケイン)
物と当たったり段差(例:縁石、階段)を踏み外したりしないよう、杖を身体の前で左右に振り、物や段差を検知して歩くための杖を「ロングケイン(long cane)」と呼ぶ。ほとんどが白色であるため「白杖」と呼ばれることが多い。白杖には他に、ガイドと歩くときに携行するためのガイドケイン、周囲に視覚障害があることを示すためのシンボルケイン(またはIDケイン)、身体を支えるためのサポートケインがある。
杖の場合、杖を持った手より上、すなわち頭部を含む上半身は防御できない。また使用者は進路上の物を検知すべく杖を左右に振るが、進路上に杖で検知し残した区域ができ、この区域に入った交通標識のポールや電柱などが身体に接触する。
2)盲導犬
盲導犬は使用者の「パートナー」などと呼ばれる存在で、使用者の指揮のもと使用者と一体となって障害物を回避し段差や角で停止する。使用者はハーネスを介して知る犬の動きに追随して歩く。盲導犬の場合、前方の障害物を犬が眼で認識し、接触することなく回避ルートを歩くので、歩行は安定的に進行する。
盲導犬との歩行の特徴の一つに「風をきる」ような速い歩行速度が挙げられるが、これは遅い速度で歩くことが苦手ということでもあり、盲導犬使用者にはある程度以上の速度で歩く能力が求められる。また、犬の世話及び健康管理、犬の基本誘導行動の確認と維持は使用者の責任であり、それが行われてはじめて外出時の安全な歩行が確保できる。
3)人
人はガイド(街の人、ボランティア、移動支援従業者、同行援護従業者など)である。人と歩くのも盲導犬とほぼ同じで、人の腕を掴んだり肩に手を置くなどの方法で追随して歩く。盲導犬と歩く時のように人に道順などを指示する。
杖は単なる道具であるが、盲導犬と人は意思と感情を持つ生きた存在である。使用者と盲導犬または人との関係は歩行の安全性や効率性に大きく影響する。特にガイドと歩く場合は互いへの気遣いが必要であるが、使用者の主体性が尊重されなければならない。
2.社会との相互作用への影響
1)杖使用者と盲導犬使用者
外を歩けば、社会との相互作用が生じる。その主な状況が「援助依頼」である。方向を失った時や初めての交差点を横断する時などに街の人に「すみません」「手を貸してください」などと声をかけ、援助を依頼する。近くを通る人がそれに応えるが、時にそれに気づかない、あるいは気づいても応えないこともある。
援助依頼の際、杖使用者より盲導犬使用者の方が、援助が得やすいと言われる。今回参加した盲導犬使用者からも杖を使って歩いている時より盲導犬と歩いているときの方がより頻回に声をかけられるとの体験談が聞かれた。盲導犬は周囲の注意を引き、その場の雰囲気を和ませ、会話のきっかけとなるなど使用者と社会との相互作用を促し促進する存在であると言われている。街の人は一般的に障害者との接触体験が少なく援助の要請にどう応えたらいいのか迷い、対応を躊躇してしまいがちである。そのような状況で、盲導犬は街の人の心理的な抵抗感やぎこちなさを軽減するための緩衝材あるいは潤滑油のような役割を果たすのかもしれない。
参加者の一人は、盲導犬と社会へ出ていく時の気持ちを妊娠している女性に例え、独りでは街の中に出ていく決断ができなかったが盲導犬の存在が自分を強くしたと語った。また、街で人に声をかけられることを避けていたけれども盲導犬と外出することで人との接触に積極的になった等、同様の体験談が聞かれた。
2)人
人と歩く状況で、一般的なのは同行援護サービスを利用した外出である。同行援護サービスには移動支援以外に、代筆代読支援、摂食や排泄の介護なども含まれている。同行援護従業者は、外出中常に傍にいて視覚障害により生じる情報障害を補償し、視覚障害がある人と社会との相互作用を支援する存在である。
視覚障害がある人の「常に近くにいる専属の支援者」という存在は、安全が確保される一方、時に障害者と社会の間に見えない垣根を立ててしまう危険を含んでいる。つまり障害者と社会の間で双方から依頼を受け、仲介行為をすることにより障害者と社会との直接的な接触がなくなり、相互理解のための機会が失われてしまうのである。今回、参加者のほぼ全員が、「コンビニが混んでいる時には同行援護従業者に買い物の支払いを頼んでしまう」と話した。社会の側も同行援護従業者に任せ、自分が直接視覚障害がある人と関わらない状況を生みやすい。
視覚障害がある人の外出手段としての杖、盲導犬及び人について話し、参加者と意見を交わした。外出の手段としてそれぞれに一長一短があるが、視覚障害がある人の安全な街歩きのためには、当事者も支援者も、そして社会も、相互作用によって互いの理解が深まることを忘れてはならないであろう。
【略 歴】
1979年~2002年 視覚障害者更生訓練施設に勤務、
その後在宅視覚障害者の訪問訓練事業に関わる
1988年~新潟市社会事業協会「信楽園病院」にて、視覚障害リハビリテーション外来担当
2002年~フリーランスの歩行訓練士
【後 記】
流石の清水節でした。改めて、杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くことを考えた時間でした。Shared identity という単語も新鮮でした。「白杖」を知らない人が多いことにもビックリでした。
「杖の場合、頭部を含む上半身は防御できない」「盲導犬の世話及び健康管理、犬の基本誘導行動の確認と維持は使用者の責任」「ガイドと歩く場合は互いへの気遣いが必要であるが、障害者の主体性が尊重されなければならない」「援助依頼の際、杖使用者より盲導犬使用者の方が、援助が得やすいと言われる」、、、ほんとそうですね。特に「常に近くにいる専属の支援者という存在は、安全が確保される一方、時に障害者と社会の間に見えない垣根を立ててしまう危険を含んでいる」という指摘は重いと思いました。
「歩く」ということが障がい者自身の生活に必要な行動であるだけでなく、ある意味カミング・アウトであり、自己表現だと改めて感じました。毎回清水さんから教わることは多いです。益々のご活躍を祈念致します。
(参考まで)清水さんは済生会新潟第二病院眼科勉強会で過去9回講演しています。それらの講演要約はandonoburo.netに掲載しています。以下に、それらをまとめて列記します。
==============================
●第235回(15-09)済生会新潟第二病院眼科勉強会 清水美知子
日時:平成27年9月9日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:街歩きを通して考える社会の視覚障害者観と当事者の心理
講師:清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
http://andonoburo.net/on/4065
●第204回(13‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
日時:平成25年2月13日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「歩行訓練40余年を振り返る」
講師:清水 美知子 (フリーランスの歩行訓練士;埼玉県)
http://andonoburo.net/on/1751
●第183回(11‐05月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
日時:平成23年5月18日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「初めての道を歩く」
講師:清水美知子 (歩行訓練士;埼玉県)
http://andonoburo.net/on/4545
●第160回(09‐06月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
日時:平成21年6月10日 (水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「杖に関する質問にお答えします」
講師:清水 美知子(歩行訓練士;埼玉県)
http://andonoburo.net/on/4550
●第143回(08‐01月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
日時:平成20年1月9日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:『歩行訓練士は何を教えるのか
ー自分の歩行訓練プログラムを考えるために』
講師:清水美知子(歩行訓練士;埼玉県)
http://andonoburo.net/on/4553
●第122回(06‐5月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
日時:平成18年5月10日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:『カタカナ語で見る視覚障害者のリハビリテーション』
講師:清水美知子(歩行訓練士)
http://andonoburo.net/on/4557
●第102回(2004‐9月)済生会新潟第二病院眼科勉強会
日時:平成16年9月8日 (水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「視覚障害者の歩行を分析する」
講師:清水美知子(歩行訓練士)
http://andonoburo.net/on/4561
●第87回済生会新潟第二病院眼科勉強会 清水美知子
日時:2003年8月20日(水) 16:30~18:00
場所: 済生会新潟第二病院 眼科外来
演題 「Coming-out Part 2 家族、身近な無理解者」
演者 清水美知子(歩行訓練士)
http://andonoburo.net/on/4030
●第76回(2002‐9月)済生会新潟第二病院眼科勉強会 清水美知子
日時:2002年9月11日(水)16:00~17:30
場所: 済生会新潟第二病院 眼科外来
演題:「Coming out –人目にさらす」
講師:清水美知子 (信楽園病院視覚障害リハビリ外来担当)
http://andonoburo.net/on/4023
================================
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「物語としての病い」
宮坂 道夫(新潟大学医学部教授)
平成29年02月25日(土)15時~18時
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
オーガナイザー
安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
パネリスト
・平形 明人(杏林アイセンター 主任教授)
「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
http://andonoburo.net/on/5303
・高橋 政代(理化学研究所 プロジェクトリーダー)
「演題:「網膜再生医療とアイセンター」
http://andonoburo.net/on/5331
・清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
http://andonoburo.net/on/5336
平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
栗原 隆(新潟大学人文学部教授)
平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
斎川克之(済生会新潟第二病院 地域医療連携室長)
平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
4月から(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム)
平成29年07月
第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
平成29年09月02日(土)午後
新潟ロービジョン研究会2017 予定
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
詳細未定
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長)
報告:第249回(16-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (青木 学)
演題:「視覚障がい者議員としての歩み
~社会の変化に手ごたえを感じながら~」
講師:青木 学(新潟市市議会議員)
日時:平成28年11月09日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要約】
Ⅰ.議会での活動
私は1995年4月に行われた新潟市議会議員選挙に「バリアフリー社会実現」を掲げ立候補し、初当選を果たした。以来6期20年余、多くの市民の皆さんのご支援をいただき、また協働して様々な課題に取り組んでくることができた。当選後、まず最初に私が行ったことは、議会での活動がスムーズにできるよう、議会内の環境整備についての要望書の提出であった。 主な要望項目は①議案や資料など、点字や音声録音による提供、②議会内の各室への点字標記の設置、③課長以上の職員の点字名簿の提供であった。
これらの要望に対しては、執行部側も議会事務局も前向きに対応してくれた。ただ、議案などの点訳については、私にとって最も重要なことであったが、当然市の職員には点字に詳しいものがおらず、点字返還ソフトを駆使しながら、変換ミスも多かったが最低限の資料を用意するという状況だった。その後、職員も点字変換に慣れてきて、審査に関わるものは、図や表以外は相当程度点字で用意されるようになった。またパソコンの活用が進む中で、審査に関わるもの以外のものを含め、様々な資料を電子データとして提供してもらうことが日常的になり、瞬時に情報を得ることができるようになった。行政側からの情報提供だけでなく、私自身、インターネットを通じて、新聞記事や、その他の多くの情報を得ることができるようになり、IT技術の進歩によって、他の議員との情報格差も格段に縮小されてきたと感じている。
周囲の議員との関係については、私が所属した会派のメンバーは、私の立場をよく理解してくれ、環境整備に関する要望書も私個人ではなく、会派として提出してくれた。また他の会派の議員からは、最初のころは、私が一人で廊下を歩いているのを見て、「青木君、一人で歩けるんだね」と感心したように声をかけてくれる先輩議員もいたが、時間が経つにつれ、ごく自然に接してくれるようになった。
2000年に常任委員会の委員長に就任することになったが、前の年に候補として名前が挙がった時、「他の会派の議員から「青木さん、委員会の運営は大丈夫か」との声があり、一度見送ったという経緯がある。この年については、同じ会派の議員がしっかりと支え、事務局ともしっかり打ち合わせをし準備して臨むということを私からも表明し、委員長就任が承認された。実際の委員会運営では、各委員が発言にあたって挙手をする際、自分の名前を名乗り、執行部側の課長なども同じように対応してくれ、関係者の様々な協力を得て、1年間の任務を終えることができた。
2011年から13年にかけては、副議長を務めさせていただいた。議長、副議長の選任にあたっては、それぞれ初心表明をし、選挙によって選ばれる。これまで議会改革などに一緒に取り組んできた仲間の議員たちから、選挙への立候補を勧められた。そのことはありがたく感じたが、議会全体の運営や対外的な場への参加など、私に十分熟すことができるだろうかという不安が正直頭を過った。私に話を勧めてくれた議員たちから、「自分たちもサポートするから」という言葉をもらい決心した。本会議は、全議員そして市長はじめ、各部長が揃って質疑などを行う場である。ここでも各出席者が発言をする時は、名前を名乗って発言するというルールが確立された。このように、周囲の議員そして執行部の職員などから様々な形で協力してもらいながら、これまで議会活動を続けてくることができている。
Ⅱ.市民との協力によって進めることができた事業について
ここからは、視覚障がい議員として、多くの関係者と協議、協力しながら取り組んできた主なものを紹介する。
1)情報提供の充実
20年前は「市報にいがた」が週2回ダイジェスト版として発行されていたが、一般のものと同様、毎週の発行となった。現在は点字版、音声版、デイジー版の3種が発行されている。この他にも議会だよりや市の事業に関する資料などが点字などで市民に提供されるようになった。
2)まちづくりにおけるハード、ソフトの整備の推進
点字ブロックの整備はもちろん、超低床ノンステップバスの導入、街中に補助犬用トイレの設置、中央図書館に視覚障がい者のための対面朗読室や音声読み取り装置の設置、そして公共施設の整備にあたっては、その過程で障がい者の意見を聞くことが当たり前のこととして取り組まれるようになった。
3)同行援護と移動支援について
同行援護については、全国的に利用時間や利用目的について一定の制限を課しているところが多いようだが、新潟市においては、ギャンブルなどは目的から除外されているが、基本的に本人の活動の状況に応じて利用時間を設定しており、一律な基準は設けていない。また通所、通学についても、移動支援で週3回まで対応することとしており、これも全国的には希な取り組みである。
4)障がい者ITサポートセンター事業について
政令市としてこのセンターを設置しているところは、新潟市のみであり、新潟大学の林先生のご協力によって、ITの利活用の支援が進んでいる。
5)市職員採用試験における点字受験の実施
これについては2007年度から実施されることになったが、その後、受験者は現れなかった。しかし2013年度に初めて全盲の女性が点字による受験をし、合格した。現在はパソコンなどを駆使しながら、業務に当たっている。
6)「障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例」の制定
国連で障害者の権利条約が採択されたことを受け、市としてもその理念を生かした独自の条例をつくるべきとの議論が始まり、丁寧な検討を経て、昨年10月に成立、本年4月より施行となった。同月に施行となった「障害者差別解消法」と一体となって効果を表すことが期待される面と同時に、法律の弱点を補完するものになっている。
Ⅲ.終わりに
国際社会としても、国としても、そして市としても、条約や法律、条例が整備されてきたように、着実に社会も、市民も、障がい者の存在を認識し、当事者の声を大切にしようとする空気が大きく広がってきたと思う。
これからも、障がいのある人もない人も、一人ひとりが大切にされ、共に生きる社会を目指して、多くの皆さんと協力し行動していきたい。
【略 歴】
小学6年の時、網膜色素変性症のため視力を失う
新潟盲学校中学・高等部、京都府立盲学校を経て、京都外国語大学英米語学科進学
1991年 同大学卒業。米国セントラルワシントン大学大学院に留学
1993年 同大学院終了。帰国後、通訳や家庭教師を務めながら市民活動に参加
1995年 「バリアフリー社会の実現」を掲げ、市議選に立候補し初当選を果たす
現在に至る
議員活動の他、現在社会福祉法人自立生活福祉会理事長、新潟市視覚障害者福祉協会会長、新潟県立大学非常勤講師を務める
「青木まなぶとあゆむ虹の会」
http://www.aokimanabu.com/index.html
【後記】
前回は小学6年生の頃に網膜色素変性と診断され、盲学校、京都外国語大学、米国セントラルワシントン大学大学院留学から、新潟市会議員に当選するまでのお話でした。
今回は、新潟市市会議員として21年間の経験と成果についてのお話でした。大変興味深く拝聴しました。色々とご苦労があったと思いますが、サラッと何でもなかったかのようにお話される様に心動かされました。
青木先生には、今後も障がい者を代表して議会で活躍して頂きたいと思います。応援します。
@参考
青木さんには、昨年は市会議員になるまでのお話して頂きました。
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報告:第227回(15‐01月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 青木学
「視覚障がい者としての歩み~自分と向き合いながら、社会と向き合いながら」
青木 学(新潟市市会議員)
日時:平成27年01月14(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/3401
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【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「ブラインドメイク」は、世界へー視覚障害者である前に一人の女性としてー
大石 華法(日本ケアメイク協会)
http://andonoburo.net/on/5276
平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「物語としての病い」
宮坂 道夫(新潟大学医学部教授)
平成29年02月25日(土)15時~18時
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座2017
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
テーマ:「眼科及び視覚リハビリの現状と将来を語る」
オーガナイザー
安藤 伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
パネリスト
・平形 明人(杏林アイセンター 主任教授)
「杏林アイセンターのロービジョン外来を振り返って」
http://andonoburo.net/on/5303
・高橋 政代(理化学研究所 プロジェクトリーダー)
「演題:「網膜再生医療とアイセンター」
http://andonoburo.net/on/5331
・清水美知子(フリーランスの歩行訓練士)
「視覚障害リハビリテーションのこれまでとこれから」
http://andonoburo.net/on/5336
平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「私たちは生まれてくる子に何を望むのか」
栗原 隆(新潟大学人文学部教授)
平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
第254回(17-04)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
斎川克之(済生会新潟第二病院 地域医療連携室長)
平成29年06月07日(水)16:30 ~ 18:00
第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
渡辺哲也(新潟大学 准教授:工学部 福祉人間工学科)
4月から(新潟大学 准教授:工学部 工学科 人間支援感性科学プログラム)
平成29年07月
第257(17-07)済生会新潟第二病院眼科勉強会
新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)
平成29年09月02日(土)午後
新潟ロービジョン研究会2017 予定
会場:新潟大学医学部有壬記念館(ゆうじんきねんかん)2階会議室
詳細未定
平成29年11月18日(土)午後
済生会新潟第二病院眼科-市民公開講座
細井順(ヴォーリズ記念病院ホスピス長)
報告:第248回(16-10)済生会新潟第二病院眼科勉強会 (大野建治)
(目の愛護デー講演会2016)
演題:「2020年に向けて、視覚障がい者スポーツを応援しよう」
講師:大野 建治(上野原市立病院;山梨県、眼科医)
日時:平成28年10月12日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
【講演要約】
Ⅰ.はじめに
今年2016年、ブラジルのリオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催された。今やパラリンピックはオリンピック、サッカーワールドカップに次いで、三番目に大きな国際スポーツイベントになっている。そして、2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが行われるために、各所、各分野でスポーツに対する関心が高まっている。
Ⅱ.障がい者スポーツの特徴である「クラス分け」
障がい者スポーツには、「クラス分け」というシステムがある。障がい者と一言でいっても、障害が軽い選手から重い選手までいるので、競技をすれば、障がいが軽い選手が有利になるのは当然である。そこで、障がいの種類や程度によってグループを分けて、同程度の障がいの選手同士で競技を行う。この障がい者スポーツに特徴的なシステムが「クラス分け」である。
国際試合に出場する選手は、国際試合の前に国際クラス分けを受ける必要がある。クラス分けの判定で、選手各人に対してのクラスとステータスを決定する。
1)クラス
視覚障がい者スポーツでは視力と視野をもとに、クラスを全盲から弱視まで、B1、B2、B3と3つに分類する。それに該当しない視覚障害選手は競技に参加する資格はなく、NE=不適格となる。
・B1…光覚なし~光がわかる程度まで
・B2…手の形が認識できるから、0.03まで、視野は半径5度以内
・B3…0.04から0.1まで、視野半径20度以内
・NE…クラス不適格で競技に参加できない
2)ステータス
ステータスにはNew, Confirmed, Reviewの3つがある。
・New…国際クラス分けを未受験の選手
・Confirmed…クラスが将来的に変わる可能性がない選手。原則として、その後にクラス分けを受ける必要はない。たとえば、眼球摘出などをして義眼で視力0の選手に何度もクラス分けを受ける必要はないので、そのような場合はConfirmedとなる。
・Review…視力、視野が今後、変動する可能性がある選手。たとえば、病状が悪化あるいは、改善する可能性があり、将来的にクラスが変わる可能性がある選手はReviewとなる。
Ⅲ.障がい者スポーツの分類
大きく分けて、リハビリテーションスポーツ、市民スポーツ、競技スポーツの3つに分けられる。この3つはそれぞれ大切な役割を担っている。
・リハビリテーションスポーツ~病院で病状回復などを目的に身体機能の維持、向上をめざして行うものである。
・市民スポーツ~生涯スポーツで、自分の好きなスポーツを趣味として行い、健康維持、レクリエーションなどを目的に行う。共通のスポーツの趣味をもつ仲間、友人との交友も楽しみの一つとなる。
・競技スポーツ~パラリンピックを頂点として、国際国内で競技を追及し、勝負を目的にしている。
Ⅳ.障がい者スポーツの種目
競技スポーツをメインに、市民スポーツも少し紹介した。
1)パラリンピックの競技種目である、ゴールボール、陸上、水泳、柔道、ブラインドサッカー
・ゴールボール~3人対3人で、目隠しをしながら、鈴が入った音の鳴るボールを転がし、相手コートのゴールにボールを入れることで、得点を競うスポーツである。
・陸上競技~視覚障害の重いクラスでは伴走者とロープをつないで一緒に走る。選手と伴走者の息の合った動きが必要となる。
・水泳~B1の選手はターンのときとゴールのときに、スタート台付近のプールサイドにいるコーチが長い棒を使って選手の頭を叩き、ターンやゴールのタイミングを選手に教える。このタッピングの良し悪しで大きくタイムが変わるのが見もの。
・視覚障がい者柔道~基本的に通常の柔道とルールは同じであるが、最初から組んだ状態で試合を始める。
・ブラインドサッカー~一般的なフットサルのルールに加えて、特別なルールがある。4名のフィールドプレーヤーはアイマスクをつけてプレイし、ゴールキーパーは晴眼者か弱視者が行う。
どのスポーツもルールと注目すべきポイントを知ると、観戦の楽しみが増す。2020東京パラリンピックに向けて、視覚障がい者スポーツの認知度がますます高まっていくことが望まれる。
2)盲学校の授業などで行われ、日本で全国競技大会も行われている、サウンドテーブルテニス、グランドソフトボール、フロアバレーボール。
3)市民スポーツとしてはボーリング、クライミング、ブラインドヨガ。
障がい者のスポーツは、ルールなどを工夫して、障がいがあっても楽しんだり、競ったりできるようになっていて、健常者のスポーツと同様にあらゆる分野のスポーツ種目がある。障がい者自身が興味のもてるスポーツは必ず見つかるはずである。スポーツを通じて健康増進をしながら、仲間を作ったり、生きがいにしたり、ぜひ楽しんでいただきたい。
Ⅴ.さいごに
2020年のパラリンピックが東京で開催されることで、多くの人が「障がい」というものに関心を寄せるきっかけになってほしい。まず、「障がい」とはどんなことなのか知り、障がいがあろうがなかろうが、皆同じひとりの人間であることを相互に理解し、多様性を認め合えれば、本当の意味でみんなが暮らしやすい社会が実現していくことになるのではないだろうか。
【略 歴】
平成4年 東京慈恵会医科大学卒業
平成6年 東京慈恵会医科大学眼科
平成9年 ミネソタ州MAYO CLINIC 角膜リサーチ、2年間留学
平成21年 視覚障害者用補装具適合判定医
平成24年 障がい者スポーツ医
平成27年 International Visual Impairment Classifier
平成28年 上野原市立病院常勤
【肩 書】
上野原市立病院眼科
東京慈恵会医科大学眼科
【後 記】
248回を重ねるこの勉強会ですが、障がい者スポーツの話題は初めてでした。今回も素晴らしい世界を覗くことができました。障がい者スポーツの歴史や紹介ばかりでなく「目の見えない世界とは?」)等々、深い話題にも考えさせられました。
動画を含めた障がい者スポーツの紹介は、大変楽しく拝聴しました。講演終了後の参加者お話コーナーで、皆で講師の大野先生との会話を楽しみました。
大野先生は、翌日は診療に間に合うため、朝一の新幹線で新潟を発ちました。大変お忙しいところ新潟まで来て頂き、素晴らしい講演をありがとうございました。益々のご発展を祈念しております。
【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】
平成28年11月09日(水)16:30 ~ 18:00
第249回(16-11)済生会新潟第二病院眼科勉強会
視覚障がい者議員としての歩み
~社会の変化に手ごたえを感じながら~
青木 学(新潟市市会議員)
http://andonoburo.net/on/5146
平成28年12月14日(水)16:30 ~ 18:00
第250回(16-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会
杖で歩くこと、犬と歩くこと、人と歩くこと
清水 美知子(フリーランスの歩行訓練士)
平成29年01月11日(水)16:30 ~ 18:00
第251回(17-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会
「ブラインドメイク」は、世界へー視覚障害者である前に一人の女性としてー
大石 華法(日本ケアメイク協会)
平成29年02月08日(水)16:30 ~ 18:00
第252回(17-02)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
宮坂 道夫(新潟大学医学部教授)
平成29年02月25日 午後
済生会新潟第二病院眼科 市民公開講座2017
会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
オーガナイザー 安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
講師:高橋政代(神戸理化学研究所)
平形明人(杏林大学眼科教授)
清水美知子(フリーランス歩行訓練士)
平成29年03月08日(水)16:30 ~ 18:00
第253回(17-03)済生会新潟第二病院眼科勉強会
演題未定
栗原 隆(新潟大学人文学部教授)
平成29年09月02日 午後
新潟ロービジョン研究会2017
会場:済生会新潟第二病院 10階会議室